連載『中国医学情報』180 谷田伸治
2020.03.10
☆前立腺肥大症50例に次髎・中髎穴の鍼通電―刺鍼深度をランダム化比較
北京中医薬大学東直門病院・兪立豊らは、前立腺肥大症患者で鍼通電の刺鍼深度をランダム化比較(鍼灸臨床雑誌、19年11期)。
対象=50例をランダムに試験群(深刺)・対照群(浅刺)各25例に分けた(脱落者が試験群2例・対照群3例)。試験群:平均(64.74±9.75)歳・平均罹患期間(8.63±3.42)年、対照群:平均(66.05±5.67)歳・平均罹患期間(9.28±2.91)年、両群に有意差なし。
治療法=取穴―次髎・中髎穴。操作―試験群:0.30×75mmの鍼で斜刺(60~75mm)、提挿捻転し得気後、局部にだるく腫れた感覚、鍼感を持続させ前陰部に放散させてから通電(連続波・20Hz)30分。対照群:0.25×40mmの鍼で直刺(25~40mm)、捻転法で局部にだるく腫れた感覚の出現のみ、通電は試験群に同じ。両群とも週3回、計4週間治療。
観察指標=IPSS(国際前立腺症状スコア)、QOL(生活の質)、Qmax(最大尿流量)、PVR(残尿量)。
結果=試験群(23例):著効13例・有効8例・無効2例・総有効率91.30%、対照群(22例):著効4例・有効14例・無効4例・総有効率81.82%。
☆慢性前立腺炎60例で現代薬単独と八髎穴刺鍼併用とをランダム化比較
浙江省寧波市中医院・兪静玉らは、非細菌性の慢性前立腺炎患者で現代薬単独、八髎穴刺鍼(深刺)併用2群をランダム化比較(上海鍼灸雑誌、19年12期)。
対象=60例、これをランダムに単独群・併用群各30例に分けた。単独群:平均(55±9)歳・平均罹患期間(12.53±4.00)カ月、併用群:平均(54±8)歳・平均罹患期間(14.27±4.35)カ月。
治療法=両群ともレボフロキサシンとタムスロシン塩酸塩を毎日1回服用、計2カ月。
<併用群>取穴―上髎・次髎・中髎・下髎穴。配穴―「湿熱下注証」(尿道灼熱・陰嚢湿潤・舌紅苔黄膩ほか):行間・豊隆・陰陵泉、「気滞血瘀証」(会陰部や下腹部などに腫れや痛み・尿刺痛・舌の紫暗や瘀斑ほか):血海・太衝・期門、「肝腎陰虚証」(腰膝だるく力ない・手足のほてり・めまい・遺精や早漏・舌紅少苔ほか):太渓・肝兪・腎兪、「腎陽不足証」(寒がり・手足冷たい・腰膝だるく痛む・インポテンツや早漏・舌淡苔薄白ほか):関元・気海・腎兪。操作―0.30×40/70mmの鍼。70mmの鍼で上髎・次髎・中髎には内下方に斜刺、下髎には直刺、深度各穴50~60mm、ゆっくりと小幅に提挿捻転し前陰部と肛門部に鍼感を放散。配穴は、40mmの鍼で15~30mm刺入、柔和な提挿捻転手法。各穴手法2~3分、置鍼30分(行鍼2回)。2日1回、計2カ月治療。
観察指標=米国国立衛生研究所慢性前立腺症状スコア(NIH-CPSI)・前立腺触感スコア・前立腺周囲組織圧痛スコア・前立腺圧出液。
結果=臨床効果は、単独群:回復(NIH-CPSI減少90%以上)1例・著効(同60~89%)6例・有効(同30~59%)15例・無効(同30%未満)8例・総有効率73.3%、併用群:回復4例・著効16例・有効9例・無効1例・総有効率96.7%。また、前立腺液の検査の結果、局部炎症の要因となるIL-8とTNF-αの値は、併用群が単独群より有意に低下していた。
☆疲労型の未病47例に吸い玉治療
広西中医薬大学・栄亮均らは、未病(原文「亜健康」)の患者への吸い玉治療を報告(中国鍼灸、19年11期)。
対象=同大付属第一病院推拿科外来の47例(男22例・女28例、脱落3例)、年齢22~40歳・平均(33±6)歳、疲労状態持続期間3~15カ月・平均(9.3±2.9)カ月。いずれも、疲労型未病の診断基準(肉体的/精神的疲労の持続期間3カ月以上、明確な原因が不明、明確な疾病診断ができない、ほか)に符合。
治療法=週1回、合計4回治療。
背部循経走缶法―背部の督脈・膀胱経にワセリンを塗布し、最初に膀胱経、最後に督脈で、吸い玉を上下に往復して走缶法を行う。皮膚に紅潮あるいは瘀斑ができるのを限度とする。毎回10~15分間。
観察指標=①肉体的/精神的疲労、②思考力/記憶力低下、③意欲低下、④睡眠不良、⑤食欲不振、以上5つの主要症状をVASで10段階評価。
結果=臨床効果は、著効(症状改善率70%以上)24例・有効(同30~69%)20例・無効(同30%未満)3例。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。