『医療は国民のために』238 柔整業界はビジョンを明確にしなければ保険者の理解は得られない
2017.12.25
1063号(2017年12月25日号)、医療は国民のために、
保険者経験の長い私には保険者の友人も多く、総合健保組合の集まり等にも呼ばれることがある。その際、柔整療養費が話題に上ると、決まって私に向けた攻撃的意見が相次ぐ。せっかくの和気あいあいの雰囲気も一変してしまう彼らの指摘というのが、
①現在、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの発生機序が明らかな負傷は外科・整形外科が担当するので、柔整師はお呼びでない
②高齢者や認知症対応の者はデイサービスを主体にして介護保険を利用できる環境が整っているので、整骨院には行かない
③機能訓練や機能回復に当たっては理学療法士や作業療法士が保険医療機関内で対応し、そのリハビリ実施の結果、疼痛除去や機能障害の改善に効果があるので理学療法士と作業療法士がいれば外傷性の事後処理は問題なく対処できる
といった具合に手厳しい。柔整師はもはや「終わった資格」ととらえられ、療養費での保険給付としての活躍の場は一切無いと言われているようで、議論の応酬となってしまう。
柔整業界は「保険を守る」というが、何をどう守るのか。また、「柔整の業務・業権拡大」についても、どの分野でどの業務を勝ち取っていくのかもはっきりしないのが実情だ。
保険財源がますます厳しくなる中、保険者は、柔整業界側が「単に保険適用を慢性疾患に広げる」とか、「外傷性にとらわれない保険範囲の拡大」と言っても取り合わないだろう。可能であれば「本来の健康保険法第87条が求めている原則論」、すなわち、①被保険者証を提示できなかったことから後日、償還払いで請求すること、②治療を受けた所が保険医でなかったことから後日、償還払いで請求すること、の2点に限局したいのではないか。しかも、保険者は、「本来の柔整師が診るべき患者はもう整骨院には行かない」との認識の下、徹底的に患者調査をすれば、必ず患者から「私は外傷性の負傷ではありません」という言葉を引き出せると考えているらしい。
今、3,800億円の柔整療養費を医科に移行する考えがひそかに進行している。その証拠として、療養費検討専門委員会で療養費のあり方が議論されればされるほど厳しさが増している。そんな中、柔整師のうち、わずか0・1%程度しか取り扱われていない骨折や脱臼を専門学校等の養成施設で熱心に勉強している点や、学術レベルを高め、柔整の運動療法を確立すべき大学が何をやっているのかといった点に対する指摘や疑問が保険者から聞かれたりする。整骨院への来院者ニーズと柔整師の技能・能力の関係、保険請求の実態の不整合性、そして学術的な制度設計――これらを解決できなければ、柔整業界の先行きは自ずと知れたものになるだろう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。