連載『食養生の物語』60 踏まれてもオオバコ
2018.05.25
春から夏にかけてはダイエットが話題になりやすいシーズン。たまには、流行りのダイエット法を話題に取り上げてみましょう。今のトレンドは、糖の吸収を抑えることでしょう。水溶性食物繊維が糖をコーティングし、糖の吸収を穏やかにする役割があるとして、オオバコダイエットが注目されています。主にオオバコの茎や葉をお茶にして飲用するか、全草をパウダーにしたものを水に溶いたとろみのある状態で飲むようです。豊富な食物繊維をうまく活かしたダイエット法と言えそうですね。
「オオバコ」の名は、葉が広く大きいことから「大葉子」と名付けられたとされています。生命力が強く全国に広く分布し、地方によってさまざまな呼び名があります。カエルッパ(蛙っ葉)、カエル葉などという名前も。オオバコの葉は火で炙ると膨らむのですが、その姿がカエルの腹に似ていることから付けられたと言われています。花を咲かせるのは4月から9月頃にかけて。水を吸収することで糊のような粘液を含んでおり、踏みつけられると出てくるこの粘液が種子を守り、動物や人間の足を介して運ばれていくという生態があり、登山道など人が多く歩く場所によく自生しています。漢方ではオオバコの全草を「車前草」、種子を「車前子」と呼びますが、これも牛車や馬車が多く通る轍(わだち)によく生えることから付いた名だとされています。
オオバコ特有の粘液には人の粘膜を修復する働きがあり、気道の粘膜、のどの調子を整え、咳を鎮める効果があります。水溶性と不溶性の食物繊維がともに豊富なので、腸内環境を整え、便秘や下痢への効果も期待できます。便秘への効能については、厚生労働省の「特定保健用食品」として認可を受けているものもありますね。腸内環境が整うことでお肌の状態も整えるので、吹き出物やアトピー肌にも有効です。また、冒頭で取り上げたように糖の吸収を穏やかにすることから、コレステロール値や血糖値の降下作用など生活習慣病予防も期待できます。また、種子である車前子は、生薬としては、腎炎などで尿が出にくいときの利尿作用や、浮腫みの改善、下痢止めとして用いられています。
春から葉を大きく成長させるという点で、陰陽論では陰性のもの、漢方薬としても同様に体を冷やす「寒」の性質のものとして分類されています。ですので、冷え体質の人や妊婦は避けるほうが良いでしょう。また、摂り過ぎるとお腹が張り、便が緩くなって下痢気味になりかねませんので、注意が必要です。
体に良いものでも摂り過ぎて、自分のお腹がカエルのようにならないようにしたいですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。