連載『柔道整復と超音波画像観察装置』159 腓腹筋損傷の観察
2018.06.25
鈴木 孝行(筋・骨格画像研究会)
患者は60代の男性。凍結した道を歩行中、足を滑らせてバランスを崩して転倒しそうになったという。体勢を立て直そうと左足で踏ん張った際、左下腿部に痛みが出現したとのことで来院した。患部を診察したところ骨折などは確認されなかったが、左下腿部に皮下出血斑と腓腹筋内側頭筋腱移行部に腫脹と圧痛があり、足関節の底屈時に痛みが増強するため、左腓腹筋内側等の筋損傷と判断。下腿内部の損傷状態を客観的に把握するため、超音波画像観察装置(エコー)の長軸走査による観察を行った。
健側の画像の①の箇所は腓腹筋内側頭で、②の矢印が指し示す高エコーラインは腓腹筋内側頭とヒラメ筋の境界(深筋膜組織)、③はヒラメ筋である。健側では筋線維やヒラメ筋との境界部が明確に描出されているが、患側の画像では腓腹筋内側頭の筋腱移行部に不整(白線で囲んでいる箇所)が認められる。筋組織が損傷して出血や炎症物質が滲出しているため低エコー領域が増加しているということが確認できた。
このように、健側と患側とをエコーで比較観察することで、患側の損傷の程度や軟部組織の病態変化を画像で確認でき、治療のための多くの情報を得られる。また患者にも画像を確認してもらうことで、客観的な患部の説明が可能となり、インフォームドコンセントをより明確に行うことができる。軟部組織損傷に対するエコーの必要性は高いと考えられる。