Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
2020.02.25
Q.
往療専門のあマ指師です。今後、往療料が距離に関係なく定額化されるとか、施術料と統合して新たに「訪問施術料」が設定されると聞きました。
A.
近々、あはき療養費検討専門委員会の議論が再開されますね。6月には2年に1回の料金改定が実施予定なので、 (さらに…)
Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
2020.02.25
Q.
往療専門のあマ指師です。今後、往療料が距離に関係なく定額化されるとか、施術料と統合して新たに「訪問施術料」が設定されると聞きました。
A.
近々、あはき療養費検討専門委員会の議論が再開されますね。6月には2年に1回の料金改定が実施予定なので、 (さらに…)
連載『食養生の物語』81 新型コロナウイルス感染症とその対策
連載『食養生の物語』81 新型コロナウイルス感染症とその対策
2020.02.25
新型コロナウイルスによる感染症が、深刻な広がりを見せています。WHO(世界保健機関)は2月11日、「COVID-19(コビッド・ナインティーン)」と名付けたと発表しました。COは「コロナ(Corona)」、VIは「ウイルス(Virus)」、Dは「疾患(Disease)」、発生が確認された2019年の「19」が続くとされています。
現時点では重症化して死に至る致命率、感染力(基本再生産数)ともに、2009年に新型インフルエンザとして流行したH1N1亜型ウイルスや、SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスによる感染症などと比較すれば低いと推定されています。新型のウイルス性感染症では、インフルエンザに対するタミフルのような治療薬や、予防のためのワクチンが存在しないために不安が強まってしまうのでしょう。だからこそ自己の持つ免疫力(自然治癒力)を高めることが必要といえます。免疫力を高めることは、例えばタミフルのように特定の疾患に対してだけではなく、あらゆる病気に対して有効であり、最高の対策とも言えそうです。
風邪など感染症の流行りやすい冬には、梅肉エキスを日頃から摂取しておくことがオススメです。 (さらに…)
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』16 「太陽と月で決めた暦」
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』16 「太陽と月で決めた暦」
2020.02.25
旧暦は、太陽と月を観察した天文学から作られています。一年は、太陽が南にある時に出来る影が一番長くなる冬至の日を始まりの子(ね)の月としましたが、 (さらに…)
『ちょっと、おじゃまします』 ~柔整・鍼灸の二本柱で幅広く~ 大阪府豊中市〈小林整骨院〉
『ちょっと、おじゃまします』 ~柔整・鍼灸の二本柱で幅広く~ 大阪府豊中市〈小林整骨院〉
2020.02.25
ケガが治って痛みが取れると体の健康が気になり始め、心の健康やさらには「美」にも興味が湧いてくる――。柔整師で鍼灸師の小林先生は、昨今の患者さんの傾向をそう見ています。柔整師として十数年のキャリアがあり、はり師・きゅう師免許も昨年取得しました。柔整・鍼灸の二本柱で、ケガから「美容鍼」まで施術の幅が広がったといいます。 (さらに…)
今日の一冊 介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント
今日の一冊 介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント
2020.02.25
介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント
藤原るか 著
幻冬舎新書 858円
昨年夏、介護ヘルパーの女性に利用者がわいせつ目的で睡眠導入剤を飲ませたことがきっかけで交通事故が発生し、話題となった。本書は事件発覚に先駆けて発行され、介護ヘルパーが直面する数多くのハラスメントの実態に警鐘を鳴らす一冊。ヘルパーをベッドに誘う老人、全裸で立ちふさがる青年、トイレ介助で性器を顔に押し付けてくる利用者……生々しい事例の数々はセクハラにどとまらず、それ以上に多いというパワハラ、ペット関係の問題にも及ぶ。筆者らが行う、介護従事者の権利を守るための取り組みも紹介。
『医療は国民のために』288 「保険者の裁量拡大」の風潮に思う
『医療は国民のために』288 「保険者の裁量拡大」の風潮に思う
2020.02.10
最近の柔整療養費の傾向として、支給決定に際し、ことさら「保険者判断」が強調されるようになってきた。この傾向はあはき療養費にも見られ、施術者団体として納得できない旨を保険者に伝えても、「療養費だから支給するもしないも保険者の勝手である」などと高圧的な言葉が返ってくる。しかも、行政に至っては「療養費なので最終的には保険者判断ですから」と何とも頼りない回答しかしてくれない。当然、療養費なので保険者が認めた場合が支給対象となる原則は理解している。が、何でもかんでも保険者の自由裁量によるものではないだろうと疑念を抱いてしまう。
療養費の支給条件を見てみると、「緊急其ノ他已ムヲ得ザル場合ニ於テ……保険者ガ必要アリト認メタルトキ」とされていた条文が、昭和55年の健康保険法改正の際に「緊急」の文言を削除した。この改正の趣旨は、できる限り客観的に療養費が支給されるよう、保険者による裁量の余地を狭めることによって、被保険者の便益と負担の軽減を図ることが狙いであった。その結果、個別具体的に支給の可否を判断することになり、療養費の取り扱いは広まっていったのだ。
しかし、最近の国の通知・事務連絡は、明らかに保険者による裁量の余地を広めることを目指し、さらに、被保険者に施術を受けさせることを抑制するかのような内容だ。これらは冒頭に挙げた保険者や行政側の態度から見て取れる。この最たるものが、昨年1月より開始されたあはき療養費の受領委任だ。受領委任を導入するかしないかの判断が保険者の自由であるため、いまだに多くの国保は実施しておらず、健保組合においてはむしろ償還払いへの移行が進んでしまった。
また、健保連からは、同じ療養費の柔整の取り扱いでも保険者の自由裁量を認めるべきだとの意見も出されている。健保連は今後、この柔整療養費への保険者裁量の導入を果たす前段階として、まずあはきの受領委任において、保険者自らの判断の下、特定の患者(被保険者)について受領委任を認めず償還払いに戻せる仕組みの導入を声高に主張してくるだろう。もしこれが実現するようなことになれば、保険者の指導に従わない者や多頻回・長期受療の者などを受領委任の取り扱いからピンポイントで退場させることが可能になる。柔整療養費にまでも適用されれば、償還払いへの移行が「加速度的」に進行してしまうだろう。
保険者、特に健保組合は、厳しい保険財源を前に支給の抑制しか考えてはおらず、40年前の法改正で被保険者の便益と負担の軽減を図ったことなど知ったことではない。私としては、法改正の趣旨や意図が消え失せてしまい残念だが、その原因の全てが不正請求の実態による信頼関係の喪失・欠落ということであれば、仕方のないことかもしれない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』22 着床
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』22 着床
2020.02.10
この連載もネタがどれだけ続くかと思いきや、毎月色んなことが起こります。ある医師から当会、一般社団法人JISRAM事務局長の徐大兼先生に「鍼による着床改善」というテーマで執筆依頼が来ました。そして徐先生から「一緒に書こうよ」と言われて「もちろんいいよ」と安請け合い。でもちょっと待てよ、日本中の産婦人科医が目を通すこの本に説得力を持って書けるのか、と不安に駆られました。五里霧中とはまさにこの事。鍼灸の作用機序が現代医学的に見ても着床に影響することを説明し、かつそれに見合ったデータを提示できるか。つまり理論、基礎研究、臨床データの三位一体の完成度が高くなくてはなりません。未完成ですが、執筆の導入部分をかいつまんで以下に紹介します。
――鍼及び灸はホリスティックな医療だと言われるが、分析すると①自律神経に関する作用②免疫に関する作用③局所血流に関する作用③精神的充足に及ぼす作用の四つに集約されると考える。様々な基礎研究がなされているものの、着床に及ぼす作用についてはほとんど未解明である。そこで本稿では特に①~③について基本的な概念、それぞれに対する鍼の作用、期待される効果、現段階で蓄積されたデータを提示し、鍼の着床に対する作用を論じる。自律神経はサーカディアンリズム(日内変動)によってコントロールされているが、昨今、交感神経、副交感神経それぞれが優位な状態において、免疫細胞の体内循環、組織滞在、二次リンパ組織へのホーミングに影響を与えていることが分かってきた。特に交感神経優位な状態では、骨髄系の好中球や単球(組織に移動する時にマクロファージなどに変化する)は末梢組織に、リンパ系細胞群はリンパ節に集積し抗原提示を受ける準備をして、外敵の侵入に備えている。免疫系は、約6億年前に生物に自然免疫が誕生。そこから約2億年遅れ、脊椎動物が誕生して獲得免疫が始まった。さらに遅れて今から1.5億年前に胎生生物が出現したが、子宮の中に存在する免疫細胞は自然免疫担当細胞であるNK細胞とマクロファージがその大部分を占めており、初動免疫の急先鋒である好中球が存在しないことなど、勉強すればするほど極めて理にかなっている。子宮内には、その部位や時期で差はあるものの、およそ約70%のNK細胞、次いでマクロファージやT細胞、わずかな樹状細胞が存在すると言われている。そこで、鍼灸と関連が深いものとして、NK細胞(脱落膜NK細胞:decidual NK細胞)について言及する。dNK細胞は末梢血中のものと異なり、表面に独自の膜タンパクを発現し細胞傷害性を持たず、サイトカインの分泌などで妊娠の維持に働くと言われている。NK細胞はリンパ系共通前駆細胞より分化し、T細胞とは兄弟の関係である。そしてdNK細胞は、胎児のMHCクラスⅠとの相互作用を持っている。胎児栄養膜細胞の一部はHLAの独特な形を持っており、dNK細胞はそれを認識する抑制系受容体を持ち、アロ反応を抑制している。一時期、子宮内のNK細胞が多いと良くないと言われたが、dNK細胞が末梢血中のNK細胞とは似て非なるものであるのは周知の事実となった。非自己を全て食い殺す「生来の殺し屋(Natural Killer)」とはもはや別物である――。
医師向けなので少し難しいでしょうか。ちょうど当会の今年の公開講座が『免疫を学んで着床を知る!』というテーマで、着床に対する鍼灸の効果を探っていく予定です。しかし1月20日に一般参加募集を開始してたったの5日で、100名の定員で残席は20余り。この紙面をご覧になる頃に空きはあるのでしょうか。参加ご希望の方は、とりあえずメールしてみて下さい(hari9@pearl.ocn.ne.jp)。上記の書籍の発刊については、またお知らせします。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』132 今一度、スタンダードプレコーションを
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』132 今一度、スタンダードプレコーションを
2020.02.10
2月1日、新型コロナウイルスによる肺炎などが『新型コロナウイルス感染症』として、指定感染症及び検疫感染症に指定されました。日本での感染者が拡大する中、「ヒト―ヒト」感染が確定し、非顕性感染(非症候性保有者)も確認され、検査体制や受け入れ態勢もままならない状況下で、行政による指定がなされました。報道も過熱し、薬局やコンビニの陳列棚からマスクが消え、混乱の様相を呈してきました。
また、中国政府の公式発表に加え、SNSなどからうかがい知れる武漢の医療機関の混乱ぶりと疲弊……果たしてこれら中国発の情報が正確なのかという疑問もあります。おまけに、未確認ながらも生物兵器の漏洩による陰謀論まで登場している始末。私たちはより一層、情報の真偽に慎重になり、同時に迅速に取り扱っていく必要があります。
そして、今一度、スタンダードプレコーション(標準感染予防策)を意識してください。
基本は、感染者が同一空間にいるかいないかを問わず、体が直接触れ得る全ての物・場所(机や壁、ドアノブ、さらに自分の衣服も含め)に「絵の具がべったり付いている」と考えてください。そして、絵の具は24時間は乾かないと思ってください。今回のコロナウイルスは皮膚から感染せず、必ず上気道の粘膜を介して感染します。よって「絵の具」が手や体に付いただけでは感染しませんので、口や鼻の粘膜に付かないようにするにはどうしたらよいかを意識してください。
また、マスクは全く無意味だとは言いません。「絵の具の付いた手」で不用意に口に触れないための効果があり、自分が感染源という可能性を考えると、飛沫を飛ばさないためにも有効です。報道後、ホテルや遊園地などのホスピタリティーが求められる業種でも従業員が希望すれば、マスク着用が認められるようになったと聞きます。「健康な非感染者に対する感染予防の効果」は、多くの人が持つイメージとは異なり、非常に限定的です。もちろん、マスクは使い捨てにして口側に触れないことです。
さらに言えば、たとえ口にウイルスが付いたとしても、必ずしも感染するとは限りません。まずは、うがい。水道水で十分で、市販のうがい薬などは正常な粘膜を洗い流してしまい、ウイルスへの免疫機構を阻害することにもなりかねません。ポイントは、口をすすぐのではなく、喉の奥まで洗い流すようにうがいをしましょう。手洗いもアルコールなどの手指消毒より圧倒的に流水のほうが有効です。
医療の臨床現場では、免疫抑制状態の患者さんも少なくないので、スタンダードプレコーションをより意識する必要がありますね。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『中国医学情報』179 谷田伸治
連載『中国医学情報』179 谷田伸治
2020.02.10
☆痔核手術PPH法後の肛門の腫れに鍼通電
南京中医薬大学第二臨床医学院・宋揚揚らは、日本で厚労省が「先進医療」として承認している痔核手術PPH法(イタリアで開発された新しい自動縫合器による手術法)による、術後重度肛門の腫れ30例での鍼通電治療を報告(中国鍼灸、19年9期)。
対象=30例(男20例・女10例)、平均(34±9)歳、混合痔罹患期間1~10年。術後症状出現期間:平均(3±1)日、重度の腫れに、渋り腹(排便少量すぐに便意)・頻繁な便意・排便不暢などを伴う。
治療法=取穴―八髎穴。操作―0.30×75mmの毫鍼で斜刺:約60°で肛門方向に40~70mm、提挿捻転法、平補平瀉法、鍼感を肛門部に伝導、得気後に左右の次髎(+極)・下髎(-極)に通電(疎密波2Hz/15Hz)、置鍼30分。毎日1回、刺鍼24時間後に効果判定、症状消失後全患者を1カ月追跡調査(再発患者は消失まで刺鍼)。
結果=第1回治療後(30例):消失7例・著効15例・有効6例・無効2例、第2回後(23例):消失10例・著効8例・有効5例・無効0例、第3回後(13例):消失8例・著効5例、第4回後(5例):消失5例。1カ月の追跡調査での再発者なし。
☆COPD(慢性閉塞性肺疾患)急性増悪90例で灸頭鍼併用を現代薬とランダム化比較
四川省南充市中医院・謝芳らは、COPD急性増悪(AECOPD)患者で灸頭鍼併用、現代薬、シャム鍼(sham:偽物の意)併用3群をランダム化比較(中国鍼灸、19年9期)。
対象=入院中の90例(男43例・女47例)、平均年齢約63.7歳(52~79歳)、平均罹患期間約16年、病期分類:Ⅱ期66例・Ⅲ期24例。これらをランダムに各30例に分けた。
治療法=3群とも国際治療ガイドライン(GOLD)治療。
<灸頭鍼群>取穴―豊隆・肺兪・太淵・足三里・中府・陰陵泉。操作―0.25×40mmのディスポ鍼で、太淵には直刺3~5mm、肺兪には脊柱方向に斜刺12~15mm、足三里・陰陵泉・豊隆には直刺12~15mm。提挿捻転し得気後、長さ1cmの棒灸を豊隆・肺兪・足三里・陰陵泉の鍼柄に着け点火(ツボの皮膚面に厚紙を敷く)、置鍼30分。毎日1回、計14日。
<シャム鍼群>取穴―同上のツボからそれぞれ2.5cmの部位。操作―直刺1~3mm、手技せず得気なし、灸なし。毎日1回、計14日。
観察指標=①呼吸機能検査(スパイログラム)―FEV1(努力肺活量の測定における最初の1秒間の努力呼気量)・FVC(努力肺活量:最大吸気を行った後に強制的に呼出する空気の最大量)・FEV1/ FVC(1秒率)。②咳と痰の評価―喀痰喀出障害質問票(CASA-Q)。③患者自己評価―COPDアセスメントテスト(CAT)。④中医証候評価。
結果=治療後3群とも、①の各項は治療前より有意に上昇(群間に有意差なし)、②③④も有意に軽減した。灸頭鍼群は、治療前後の各項の差が他2群より有意に大きかった。
☆小児の眼瞼痙攣60例に按摩と耳穴貼圧
陝西省西安市第四病院中医リハビリ科・張英英らは、小児の眼瞼痙攣に按摩と耳穴貼圧が効果的と報告(中国鍼灸、19年9期)。
対象=同院(西安交通大学付属広仁病院)小児眼科外来などの60例(男40例・女20例)、平均(6±2)歳(3~9歳)、平均罹患期間(5.5±3.7)カ月。いずれも両目あるいは片目に頻繁な不随意的まばたきがあり、結膜炎や眼精疲労の既往歴を有し、「単純眼性眼瞼痙攣」と診断された。
治療法=治療期間:12日。
<按摩点穴>取穴―攅竹・魚腰・陽白・糸竹空・太陽・百会・四神聡・顴髎。もし鼻部・口角筋の痙攣を伴う時は迎香・地倉・下関を追加。操作―拇・示・中指で毎穴点按・点揉1~2分間。終了後、両拇指腹で眉間から神庭まで推法(押し動かす)5回、眉間から太陽まで推法5回、大魚際(拇指の中手骨掌側)で太陽から陽白を経て印堂まで揉法2回。毎回計15分間、毎日1回。
<耳穴貼圧>取穴―耳尖・風渓・神門・心・肝・脾・脳幹・内分泌・皮質下。操作―生薬の王不留行の種子を6×6mmの絆創膏で貼り(片側のみ)、毎日何度か毎穴5回按圧させる。2日1回左右交替。
結果=治癒19例・著効30例・有効8例・無効3例。眼の乾き・痒み・充血などの状況も明らかに好転した。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。
Q&A『上田がお答えいたします』 これまでの「整骨院」は認めるがこれからの「整骨院」は認めない
Q&A『上田がお答えいたします』 これまでの「整骨院」は認めるがこれからの「整骨院」は認めない
2020.02.10
Q.
広告規制のガイドラインはいつまでたっても出ませんね。広告の検討会での議論のポイントだけでも教えてください。
A.
厚労省が事務局となって議論を進めてきた広告の検討会も8回目でほぼ問題点が出尽くした感があります。今後は早急にガイドラインのとりまとめに着手していくでしょう。私が着目しているのは以下の4点です。
まず、「『治療院』という表記を認めない」。私たち治療家は患者さんの疼痛を取り除き治癒に導く施術を提供しています。これは治療ですが、広告検討会では「治療」の表記を認めないといいます。だから「治療院」は広告できなくなります。
次に「『鍼灸整骨院』を認めない」。鍼灸と柔整は法律が異なり専用の施術室も異なるのだから、併記してはダメだというのです。
3点目は「『整骨院』も認めない」。厚労大臣告示によれば「ほねつぎ又は接骨」とあるのだから接骨院はよいが整骨院はいけないというのです。
そして、「ガイドライン発出後から適用して従前の届出済みの施術所には遡及しない」ということになっているのですが、そうなると将来長きにわたって整骨院と接骨院が混在し続けることになり、ダブルスタンダードができてしまいます。法令用語で「当分の間」とは実質的に永久を指すようにも思われますが、それなら全て認めるということでいいではありませんか。こんな表記にこだわって認めないなどと何の意味があるのでしょうか。患者さんが医師と施術者を間違えたり、治療院と医療機関を混同したりすることなどあるでしょうか。表記や広告の問題は全て、あはき・柔整が医業ではなく医業類似行為とされてしまったことが原因です。あはき法の規定の解釈どおり、あはき・柔整が医業の一部であると認識できれば、議論の問題点はおおむね解決できるのに、そうはなっていません。
広告のガイドラインは3月までに策定され、1年間の周知期間を設けて、令和3年度の実施となるようタイムスケジュールが組まれそうですが、詳細はまさにこれからというところです。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『汗とウンコとオシッコと…』186 それぞれの春
連載『汗とウンコとオシッコと…』186 それぞれの春
2020.02.10
今年の冬は暖かい。大寒で梅のつぼみが付き、立春に至り早い所では咲きかけている。雪は少なく、北海道の雪祭りは前倒し。関西のスキー場は営業できず、日本海側でさえ、除雪車が待機しているものの動きが無い。この暖かさのために通常なら3月後半にかけて現れる、血管弛緩による血圧低下傾向の病が目立つ。例えば片頭痛や動悸や筋力低下による関節深部の痛みなどで、膝痛や仙腸関節痛が多い。血圧が下がれば具合が悪いので過食して調整するスタイルの人は、頸部痛や眼の疾患、口腔疾患などが現れやすい。まるでもう春のようだ。悪いことばかりではなく、心臓疾患のある冷え傾向の人は助かってはいるのだが……。
沢村某という、色白の貧血傾向で低血圧、40代前半の女性が来院している。既往歴にキアリ奇形がある。脳室の水が溢れかえり、水頭症や呼吸障害を引き起こすものだ。溢れた水を腸管に管を入れて溜まらないようにする術式で症状が抑えられるが、尿が少なくなると眩暈などが現れる。横転先生の所で常に利尿形態の治療を行うことで緩和していたが……。
「あれ? 何や、今回の眩暈は? 尿は出てるやないか」
と軽くお腹を触り横転先生が言う。
「そうなんです。今回はいつもの、キアリから来るような眩暈の感じではなくて……あまりに具合が悪いので胃カメラで検査もしてもらったんです。そうしたら逆流性食道炎で、キアリから来る後遺症じゃないって……。でも、薬をもらってもあまり良くならなくて……食事をするとしばらくして気持ちが悪くなって、頭痛や動悸も出てくるんですよ。右肩もだるくて、右膝も具合が悪いんです。特に3日くらい前から急にひどくなって」
と沢村さんが答えた。不定愁訴をそのほかにも語ってはいたが、聞き流すように横転先生が、ぱっと脉を診ると、
「これ、仕事で何かあったんか? 精神的なところからおかしくなる反応があるぞ。ほとんどそこからやな……」
「えっ? そ、そうです……人間関係がこじれて、そういえばその頃から……」
「それだけやないな。胃酸の抑制剤が効きすぎてるのもあるんやが……これ、排卵期に差し掛かったくらいやろ」
「えっ、ちょっと待ってください……そういえばそうですわ、日数的に」
「それで余計にひどくなってる。これな、更年期もかかっとるわ。排卵期はな、内膜の増殖に血が子宮に取られてやな、胃に流れ込む血や食ったもの分解する肝臓の血が少なくなるんや。それで、今みたいな感じを助長する。まあ、血液の流れ方を調整したら、不定愁訴は緩和するわ。ただし、月経前と、次の次の月経が終わった時の排卵前は必ず来といてくれ。崩れるから……」
「次の次の?」
「卵巣は月経ごとに左右で動きが違う。今月右、来月左って感じでな。調子が悪くなる前に整える。それと人間関係はワシは解決できん。人の営みの中ではイロイロあるさかいな」
「ええ、分かりました。身体がましになれば……」
「そう、前向きになる」
と言う横転先生だ。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。
連載『医療再考』12 ICTで鍼灸治療における情報の活用が変わる
連載『医療再考』12 ICTで鍼灸治療における情報の活用が変わる
2020.02.10
ICT環境の整備や、第5世代移動通信システム(5th Generation:5G)の出現に伴い、どんどん個人の情報がリアルタイムで集められるようになっていきます。そのため、これからの医療は病院の検査などで分かる一時的な情報(検査ログ)と、個人のウエアラブルデバイスから取得される長期的な情報(生活ログ)の二つを軸に、患者の解析をすることになっていくでしょう。特にウエアラブルデバイスの進化は目覚ましく、腕時計などから心拍数、歩行数(活動量)、睡眠状態など、さらに海外では体温や発汗量、血糖値まで記録することが可能となっています。また、計測の形も腕時計だけでなく、服の中にセンサーを埋め込むことで、患者に負担なく、色々な情報を集めることができるようになっています。このように、個人の情報は簡単に取得可能となっており、これらの生活ログを医療に生かす動きはますます加速するでしょう。
このことは、鍼灸をはじめとした東洋医学でも同様です。しかし、生活ログを取得できたとしても、それだけでは活用の幅は狭く、その情報と何を結び付けるのかが重要となります。そこで情報を集約するツールとして注目されるのが、電子カルテです。日常生活の情報である生活ログと治療院が持つ患者のデータを結び付けることができれば、診察や治療の補助になるのはもちろん、日常生活のパターンから体調が悪化しそうなタイミングまで分かるようになり、患者を管理できるようになるのです。鍼灸師は、単に治療する治療者から、患者の体調を管理する管理者へと領域を広げていくことができるでしょう。
情報の探し方にも変化があります。従来は、患者本人が必要だと思う情報を自ら検索することが一般的であり、差別化には、同じカテゴリーの検索結果の中で上位に紹介されることが重要でした。そのために重視されているのが、検索エンジン最適化(Search Engine Optimization:SEO)対策ですね。しかし、これからは顧客(患者)情報に生活ログが紐付けられるため、その人の体調や生活に合った最適情報が見つけやすくなります。そうなれば、自分自身で検索して自己流で選ぶよりも、自分の生活パターンからお勧めのライフスタイルや治療スタイルを推薦(リコメンド)してもらい、その推薦により製品や治療を選ぶという時代になると考えられます。ユーザー心理からすれば、その方がトライ&エラーをせず最適な製品や治療スタイルに辿り着けるため、安全かつ効率的なのです。
ただし、我々の持っている情報はまだ紙ベースであるため、このままでは環境やデバイスがいくら発展・進化しても、鍼灸を第一にリコメンドしてくれるプラットフォームなど生まれようがないということも理解しないといけません。世間では、医療や健康に関する情報コミュニティーはもう完成間近と言われています。さあ、このような変革期に鍼灸業界は何に一番投資しなければいけないのでしょうか。真剣に考える時期に来ています。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。
『ちょっと、おじゃまします』 ~「一番健康になれる場所」へ~ 大阪市生野区・樋口亮太先生
『ちょっと、おじゃまします』 ~「一番健康になれる場所」へ~ 大阪市生野区・樋口亮太先生
2020.02.10
樋口亮太先生が柔整師を目指したのは、高校2年生の頃。部活のバスケットボールに打ち込む中で腰痛に苦しみ、複数の整骨院を回る中で、一番親身になり、何よりも他の院と違ってきちんと症状の説明をしてくれた先生の姿に、「こんな先生になりたい」と感じたといいます。専門学校のオープンキャンパスに申し込んだ時は、記念品でもらった下敷きにズラリと書かれた骨や筋肉の名前に「全部覚えないといけないのか」と不安になったものの、進路を決断。入学後は、整骨院でアルバイトを始めました。もちろん治療には携わっていませんが、自信がなかった患者さんとのコミュニケーションを現場で見て、経験を積めたのは大きな財産になったとか。しかも、柔整の勉強は案外楽しく、「骨と筋肉も、すぐに勝手に覚えました」と笑って当時を振り返ります。
免許取得後、一時は交通事故を熱心に扱う院に就職するも、保険の取り扱い方に疑問を感じて数カ月で退職。再就職先で出会ったオステオパシーに、「身体全体をホリスティックに診られる治療」として可能性と魅力を感じ、数年の経験を積んで独立しました。現在は自費専門で施術を行っており、最も得意とするのは子供の姿勢改善。ビフォー・アフターで姿勢の写真を撮って比較するのが常で、数日の施術で驚くほどの差が出ると言います。持論は「高齢化が進む中、子どもがしっかりしていないと高齢者を支えることはできない」。また、付き添いの母親の痛みや不定愁訴の相談に乗ることも多いとか。実は先生自身、母子家庭で苦労する母の背中を見て育ったそうで、シングルマザーで頑張るお母さんたちの力になりたい思いが強いと語ってくれました。
将来の夢は、治療だけでなく、予防・健康促進・フィットネス・食事指導など全てをこなせる複合ビルを建てること。「一番健康になれる場所」を作りたい、と話します。
樋口亮太先生
平成23年4月、関西健康科学専門学校卒業。同年、柔整師免許取得。28歳
今日の一冊 幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神 晃
今日の一冊 幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神 晃
2020.02.10
幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神 晃
仙川 環 作
講談社文庫 704円
曙医科大学が開発した認知症治療薬「DB―1」は、臨床研究で画期的な成果を上げた。重症患者たちが、ほぼ完全に脳の機能を取り戻したのだ。国際的製薬企業のサニーがいち早く権利獲得に乗り出すが、1人の医師の自殺から浮かび上がったのは恐るべき計画だった。研究費不正受給を告発して曙医科大を放逐され、貧乏病院で老医師の代替医として勤める「医者探偵」宇賀神晃がその謎に挑む――。医療問題を中心に社会性と娯楽性を兼ね備えた作品を発表している著者による、本格医療ミステリー小説。
『医療は国民のために』287 広告ガイドラインの周知徹底は社団らが他団体と連携できるかがカギ!
『医療は国民のために』287 広告ガイドラインの周知徹底は社団らが他団体と連携できるかがカギ!
2020.01.24
「あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会」の開催も既に8回を数え、広告適正化に向けた指導等の指針となる「ガイドライン案」も厚労省から提示され、ようやくまとまりつつあるようだ。今回は、施術者の多くがその行方に着目している、ホームページの規制に関する取り扱いに触れてみたい。
ご存じの通り、今やインターネット上での情報発信は、最も効果的な広告戦略といえる。しかも、ホームページの情報は、患者が自分で情報を求めて検索すると位置付けられており、「広告の定義」の3要素の一つである「認知性」に触れない。すなわち、単なる情報提供とみなされるので、法令上は「広告に当たらない」と整理できる。よって、あはき・柔整の施術所を広告規制の対象にするにも、法律改正を行わなければ、施術所のウェブサイト等は広告に該当しない。しかし、広告検討会では、医科の取り扱いと同様にウェブサイト等の表示内容にも切り込んでいかなければならないのは、言うまでもない。そこで、規制の対象外としつつも、法改正が行われるまでの当分の間(3年後となるか、5年となるか?)、「業界内の関係団体による自主的な取組みを促す」という形で、ガイドライン上で仕切ろうとしている。厚労省としてもこうするほか無いのであろう。
私が注目したいのは、昨年11月14日の第8回検討会の議論で、出席した構成員の一人が「関係団体等とは、どこを指しているのか。今日来ている団体を指しているのか?」と質問したところ、事務局を務める厚労省医政局が「“業界全体”でまず自主的な取り組みを行ってほしい」と回答した点だ。
現在、検討会に構成員を出している施術者団体は「日本柔道整復師会・日本鍼灸師会・全日本鍼灸マッサージ師会・日本視覚障害者団体連合」のわずか4団体である。ここは、それら以外の団体にも幅広く働きかけ、実効性の伴う自主的な取り組みをしていかねば、とてもではないがガイドラインの周知などできない。今後、これらの4団体は「我々はきちんと取り組んでいるが、他団体が何もやらないし、やってくれない」と主張するのではなく、むしろ率先して他団体に働きかけていくことが求められるし、厚労省もそれを期待しているのではなかろうか。もしそうでなければ、先の質問に対し、厚労省は「関係団体とは本日、検討会に出席しておられる皆さんの団体です」と即答できたはずである。
またガイドライン案では、無資格者(非医業類似行為?)に関しても、「関係団体等による自主的な取組みを促す」と示されており、検討会に出席の4団体が、他団体との調整や団体に属さない者への対応という点で重要になってくるのは間違いない。相も変わらず、「他の団体や個人施術者のことなど知ったことではない。何か言いたいなら社団会員になればいい」との考えのままであれば、業界全体への周知徹底など全く期待できない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『先人に学ぶ柔道整復』十九 アンブロアズ・パレ(後編)
連載『先人に学ぶ柔道整復』十九 アンブロアズ・パレ(後編)
2020.01.24
―日本で浸透した「肩関節脱臼の整復法」―
パレが生涯書きためた論文を「パレ全集」として出版したのは、晩年の1575年でした。これが伝わった当時の日本はキリシタン禁制が敷かれていて、スペインやポルトガルは追放され、キリスト教布教を目的としないオランダのみが長崎への出入りを許されていました。オランダ語に翻訳された全集を、まず日本の通詞(通訳)たちが、同書に関するオランダ人外科医の解説を聞き、外科絵図を見つつ抄訳。これが日本で最初の西洋臨床医学書となっていきました。
パレの日本での影響を示す上で注目したいのが、全集の挿図として描かれていた「肩関節脱臼整復で使用されている棒」(図1)です。立った患者の脇に差し入れた「曲がった形の棒」。当時西洋で使われていた天秤棒で、特別な医療器具ではありませんが、整復時には棒を上下逆さに使用していました。腋窩に触れる部分に丸い球を付けたのはパレ独自の工夫ですが、実は図1の下部にある棒の詳細な形状を示すスケッチは、日本に渡ってきた当時の全集には見られませんでした。
さて、1735年に全集を翻訳した西玄哲による『金瘡跌撲療治之書』では、この「曲がった棒」を用いた整復法が描かれています。パレの挿図と比較すると簡略化されていますが、人物の配置からパレ由来であると分かります。次に、1767年に刊行された『外科訓蒙図彙』(伊良子光顕)では、人物の頭髪は西洋風なのに、服装が中国風。ただ、この挿図でも「曲がった棒」が使用されています。
少し時代を下って、日本を代表する外科医の一人、吉雄耕牛の場合です。耕牛が弟子に与えた免許皆伝書(1790年)の中に、パレの脱臼整復法が載っています。西洋風の人物たちが「曲がった棒」を使い、治療する類似の絵が描かれています。
華岡青洲にも、弟子らの筆記した華岡流整骨術の絵図の中に、脱臼整復法を伝えるものが残っています。二人の助手が患者の腋窩に棒を入れ、担ぎ上げ、術者が腕を引っ張りながら整復しています。青洲の使用した棒は「まっすぐ」ですが、患者の膝を曲げ、これを縛れば、背の低い助手でも患者を吊り上げられます。これは青洲の工夫です。ここまで肩関節脱臼の整復図にスポットを当てて見てきましたが、パレの挿図が少しずつ変形していたのが分かります。
その後、耕牛の弟子である二宮彦可が『正骨範』を著するなど、日本独自の整骨術が花開きますが、江戸期に日本文化に同化していったパレの整復法が、起点になっていたのは言うまでもありません。
【連載執筆者】
湯浅有希子(ゆあさ・ゆきこ)
帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科助教
柔整師
帝京医学技術専門学校(現帝京短期大学)を卒業し、大同病院で勤務。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程を修了(博士、スポーツ科学)。柔道整復史や武道論などを研究対象としている。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』131 新型コロナウイルス
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』131 新型コロナウイルス
2020.01.24
昨年末から、新型コロナウイルスの話題がメディアをにぎわせていますね。17~18年以上前のSARS、新型肺炎パンデミックを思い出します。
コロナウイルスは、ヒトや動物の間で感染症を引き起こすウイルスです。風邪症状を引き起こすHCoV-229E・HCoV-OC43・HCoV-NL63・HCoV-HKU1の4種類、深刻な呼吸器疾患SARSを引き起こすSARS-CoVとこれも重篤な呼吸器感染症であるMERS(中東呼吸器症候群)を引き起こすMERS-CoVの2種類と、これまで計6種類が知られていましたが、昨年12月以降、中国湖北省武漢市に居住する者を中心に新型コロナウイルス(nCoV)の患者が断続的に報告されて、7種類目のコロナウイルスとなりました。このウイルスの全塩基配列は既に、中国からWHOに提供されており、検査体制も整備されつつあります。先日、中国より「ヒトからヒトへの感染が確認された」という報告もありましたが、感染ルートの詳細はまだはっきりしていません。テレビのワイドショーなどでもこの話題が扱われていますので、不正確な情報や誤解が広がることも心配されます。鍼灸・柔整の臨床で、もしこのウイルスについて患者さんから聞かれることがあったなら、できるだけ正確な情報の提供に努めていただきたいと思います。国立国際医療研究センター国際感染症センターからのオフィシャルな情報が参考になるでしょう(http://dcc.ncgm.go.jp/)。
ところで、SARSのパンデミックの際には致死率が全体の9・6%、65歳以上で50%以上であったことを考えると、nCoVによる肺炎はこの原稿の執筆時点で3名の死亡者が出ているものの、どうやらSARSほどの致死率ではなさそうです。それでも、日本での流行が懸念されます。予防方法は他の風邪予防と同様で、手洗い、うがい、咳エチケットなど。特に不特定多数の患者さんと接する機会の多い方は、スタンダードプレコーション(標準感染予防策)に努めてください。スタンダードプレコーションとは、全ての人が伝播する病原体を保有していると考えて行動することで、具体的には、①手洗い ②手袋 ③マスク・ゴーグルの着用 ④ガウンの着用 ⑤器具の洗浄等 ⑥リネンの洗浄等が挙げられます。これら全てを実行するのは難しいかもしれませんが、「全ての人が感染源であり得る」という意識は、臨床家として普段から持っていていただきたいものです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』178 足関節損傷時の超音波画像観察について
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』178 足関節損傷時の超音波画像観察について
2020.01.24
鈴木 孝行(筋・骨格画像研究会)
30代の男性。柔道の練習中、畳に足をとられて右足関節が外返しになり受傷、その直後から足関節内側部に痛みが出現したため来院した。患部を診察したところ、自発痛、運動痛はもちろんのこと、内果部の腫脹や三角靭帯付近の圧痛が確認でき、外返しのストレステストで疼痛が増強、患側での荷重負荷も困難で、跛行が見られた。これらを踏まえると「三角靭帯損傷」と「脛骨下端部骨折」の二つの損傷の可能性が考えられたので、その判断のため、超音波画像観察装置で患部を観察することにした。
まず、健側(左足)画像中の組織の位置を確認する【画像①】。①は「脛骨下端部」、②の高エコーラインは「距骨」、③の帯状のラインが「三角靭帯」である。全体的に組織間の境界が明確になっている。患側(右足)の画像と健側の画像を比較するとまず確認できるのが、患側の脛骨下端部の黄色い線で囲んでいる箇所の不整画像である【画像②】。健側では、脛骨の高エコーラインが鮮明に描出されていたが、患側では骨折があるため、高エコーラインに侵入像が見られ、さらにその周囲には出血や炎症物質が滲出して、低エコー領域が増加しているのが認められた。また、三角靭帯の観察においては、健側と比較すると、高エコーのラインに低エコーが入り込んでいる不整画像が確認できた。これは、骨折における内出血として捉えられるが、靭帯損傷の疑いも考えられるので見極めが難しい所見である。
今回のような足関節周辺の損傷では、下端部骨折や靭帯損傷など判断に迷う症例が多々存在するので、見逃さぬようにしなければならない。多くの情報が得られる超音波画像観察装置を使用して健側と患側とを比較観察し、患者にも画像を確認してもらえれば、患部の客観的な説明が可能になる。これによってインフォームドコンセントをより明確に行うことができるので、骨折および軟部組織損傷に対する超音波画像観察の必要性は今後も高いと考えられる。
Q&A『上田がお答えいたします』 支給済み療養費の返納事務について思うこと
Q&A『上田がお答えいたします』 支給済み療養費の返納事務について思うこと
2020.01.24
Q.
療養費の請求業務も行う施術者団体の者です。先日、支給済みの療養費について、保険者から返納を求める文書が届きました。これには応じなければならないのでしょうか。
A.
最近、支給されてから相当の時間が経過した後になって「療養費を返納してほしい」と求められるケースが多くなってきましたね。まずは、その理由が正当なのかを確認する必要があります。それが妥当であるならば、求めに応じなければならないでしょう。不正請求が判明したのであれば、単に返納に応じるだけでは済まされません。個別指導や監査に発展し、最悪の場合、療養費の受領委任取扱いの中止措置を受けることになります。例えば自主返納を含めた監査の結果によっては、当局から施術管理者に直接返納の指導があるでしょう。また、単なる事務処理の誤りや勘違いの場合であれば、「実際に振り込んだ先が貴団体の口座なのだからそちらに返納を求める」と保険者が言うのは筋が通っています。一方で、保険者が「支給すべきではなかった」とした理由に会員及び施術者団体が納得できないのであれば、被保険者に相談した上で審査請求をすることができます。審査請求書の提出先は、協会けんぽや健保組合ならば管轄の地方厚生局に置かれる社会保険審査官、国保の場合は都道府県国民健康保険審査会、後期高齢者医療広域連合であれば都道府県後期高齢者医療審査会が審査請求担当窓口となります。
保険者は支給決定を行っており、これを「原処分」といいます。これを取り消すには、不支給決定通知書を発出する場合と同様に、その理由を明らかにした「支給済療養費取消決定通知書」を発出し、被保険者に対し、その旨を通知するべきです。またこの通知書では、これも不支給決定通知書と同じように、処分に不服がある場合には3カ月以内に審査請求ができる旨の「教示」をしなければならないでしょう。単なる返納を求める「ご案内」だけでは原処分に対する取消決定がなされていないことから、応じることは法的にできないと主張できるでしょう。そもそも、支給済療養費取消決定がなされたということは、療養費不支給決定という処分が必要となるのではないかとも思われますが、受領委任の取扱規程には支給済みの療養費の返納に係る具体的事務処理方法は明記されていません。また、求められた金額の全てを返納しなければならないのかどうかは、保険者と議論や交渉を重ねた方がよい場合があります。例えば、「保険者が長期間にわたり何の調査も確認も行わずただ支給を続けていた場合、本来支給すべきではなかったものを支払い続けてきたことに落ち度はないのか」「問題を放置した責任による按分負担や返納額の減額措置及び分割納付の考えはないのか」といった観点から、当然のことながら交渉の余地があると言えます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『食養生の物語』80 始まりと、終わり
連載『食養生の物語』80 始まりと、終わり
2020.01.24
あけましておめでとうございます。令和最初の新年を迎えましたね。いま一度、私なりに「令和」を解釈してみると、「れい」(数字のゼロ)の「わ」(足し算)。ゼロをどれだけ足しても変わらないように、表面を取り繕ってみても本質が明らかになってしまう時代になると言えそうです。
そして今年の干支は、庚子(かのえ・ね)です。「子」という字は、終わりを意味する「了」に、始まりの「一」と書きます。大きな流れでは、時代の終わりから始まりへの切り替わりであり、小さなところでは一日一日の始まりと終わりを意識すると良いように感じます。
食事でいえば、「いただきます」に始まり「ごちそうさま」で終わる。ちょっとした習慣ではありますが、日常の中で忘れがちかもしれません。日々の忙しさにかまけて、「エネルギー補給できれば」とか「お腹にさえ入れば」といった習慣が根付き、もはや食事が“食餌”と化しつつある人も少なくない中で、きちんとした食事を大切にしたいところです。「健康のことを考えれば、食事はよく噛むのが良い」といったことを、知識として知ってはいても、なかなか実践できていない人も多いのではないでしょうか。まずは「いただきます」と手を合わせ、最初の一口を口にしたら、一旦は箸を置いて味わう。その最初の一口が食事のリズムをつくるので、二口目以降も噛むことを意識できるようになります。
食養生といえば、とかく「何を食べるか」といった話題になりがちですが、このようにきちんとした食事法があっての養生です。食事の前に手を合わせ合掌することは、食べるものと自分自身とが合わさって一つになる行為を表わします。そうして栄養やエネルギーが身につくことを意識してみると、「ごちそうさまでした」と感謝の気持ちも沸いてきます。そして決まった時間に食事をすることで、一日のリズムも整ってくるようになります。
治療に際しても、「なかなかお通じがないから」と聞いていきなり便秘症を疑う前に、患者さんの生活リズムを尋ねてみる。適当なものを食べて済ませているのと、きちんと食事をしているのとで排泄のリズムが同じであるはずがありません。そこを抜きにして同じ治療をしても、それで同じ結果が出る方が、むしろ不自然であると言えます。
なにをどうやるかという方法論の前に、人としてどうあるかという姿勢を改めてみる。一日の始まりには、丁寧にお茶を入れて味わってみる。食事のときには始まりと終わりに手を合わせる。小さな習慣の積み重ねで、常に心を安定させていきたいところですね。今年も一年、よろしくお願いいたします。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。