連載『食養生の物語』82 花粉症対策の奥義
2020.03.25
新型コロナウイルスの影響によるマスク不足で花粉症対策に困るとの声を聞きますが、花粉症対策はマスクだけではありません。私の治療院では、2月初旬から花粉症患者さんの来院が続きます。春になる前に治療を受けておくことでシーズンになっても症状が軽く済むのです。症状が出てくれば、軽いうちだと足湯などでしっかりと下半身を温めて、それでも症状が強くなるようだと再来院という流れになっています。 (さらに…)
連載『食養生の物語』82 花粉症対策の奥義
連載『食養生の物語』82 花粉症対策の奥義
2020.03.25
新型コロナウイルスの影響によるマスク不足で花粉症対策に困るとの声を聞きますが、花粉症対策はマスクだけではありません。私の治療院では、2月初旬から花粉症患者さんの来院が続きます。春になる前に治療を受けておくことでシーズンになっても症状が軽く済むのです。症状が出てくれば、軽いうちだと足湯などでしっかりと下半身を温めて、それでも症状が強くなるようだと再来院という流れになっています。 (さらに…)
連載『食養生の物語』81 新型コロナウイルス感染症とその対策
連載『食養生の物語』81 新型コロナウイルス感染症とその対策
2020.02.25
新型コロナウイルスによる感染症が、深刻な広がりを見せています。WHO(世界保健機関)は2月11日、「COVID-19(コビッド・ナインティーン)」と名付けたと発表しました。COは「コロナ(Corona)」、VIは「ウイルス(Virus)」、Dは「疾患(Disease)」、発生が確認された2019年の「19」が続くとされています。
現時点では重症化して死に至る致命率、感染力(基本再生産数)ともに、2009年に新型インフルエンザとして流行したH1N1亜型ウイルスや、SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスによる感染症などと比較すれば低いと推定されています。新型のウイルス性感染症では、インフルエンザに対するタミフルのような治療薬や、予防のためのワクチンが存在しないために不安が強まってしまうのでしょう。だからこそ自己の持つ免疫力(自然治癒力)を高めることが必要といえます。免疫力を高めることは、例えばタミフルのように特定の疾患に対してだけではなく、あらゆる病気に対して有効であり、最高の対策とも言えそうです。
風邪など感染症の流行りやすい冬には、梅肉エキスを日頃から摂取しておくことがオススメです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』80 始まりと、終わり
連載『食養生の物語』80 始まりと、終わり
2020.01.24
あけましておめでとうございます。令和最初の新年を迎えましたね。いま一度、私なりに「令和」を解釈してみると、「れい」(数字のゼロ)の「わ」(足し算)。ゼロをどれだけ足しても変わらないように、表面を取り繕ってみても本質が明らかになってしまう時代になると言えそうです。
そして今年の干支は、庚子(かのえ・ね)です。「子」という字は、終わりを意味する「了」に、始まりの「一」と書きます。大きな流れでは、時代の終わりから始まりへの切り替わりであり、小さなところでは一日一日の始まりと終わりを意識すると良いように感じます。
食事でいえば、「いただきます」に始まり「ごちそうさま」で終わる。ちょっとした習慣ではありますが、日常の中で忘れがちかもしれません。日々の忙しさにかまけて、「エネルギー補給できれば」とか「お腹にさえ入れば」といった習慣が根付き、もはや食事が“食餌”と化しつつある人も少なくない中で、きちんとした食事を大切にしたいところです。「健康のことを考えれば、食事はよく噛むのが良い」といったことを、知識として知ってはいても、なかなか実践できていない人も多いのではないでしょうか。まずは「いただきます」と手を合わせ、最初の一口を口にしたら、一旦は箸を置いて味わう。その最初の一口が食事のリズムをつくるので、二口目以降も噛むことを意識できるようになります。
食養生といえば、とかく「何を食べるか」といった話題になりがちですが、このようにきちんとした食事法があっての養生です。食事の前に手を合わせ合掌することは、食べるものと自分自身とが合わさって一つになる行為を表わします。そうして栄養やエネルギーが身につくことを意識してみると、「ごちそうさまでした」と感謝の気持ちも沸いてきます。そして決まった時間に食事をすることで、一日のリズムも整ってくるようになります。
治療に際しても、「なかなかお通じがないから」と聞いていきなり便秘症を疑う前に、患者さんの生活リズムを尋ねてみる。適当なものを食べて済ませているのと、きちんと食事をしているのとで排泄のリズムが同じであるはずがありません。そこを抜きにして同じ治療をしても、それで同じ結果が出る方が、むしろ不自然であると言えます。
なにをどうやるかという方法論の前に、人としてどうあるかという姿勢を改めてみる。一日の始まりには、丁寧にお茶を入れて味わってみる。食事のときには始まりと終わりに手を合わせる。小さな習慣の積み重ねで、常に心を安定させていきたいところですね。今年も一年、よろしくお願いいたします。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』79 餅は餅屋
連載『食養生の物語』79 餅は餅屋
2019.12.25
いよいよ年の瀬ですね。来年の話をすると鬼が笑うと言いますが、新年の縁起物といえばお餅。お餅のように寿命も長く伸び、切れにくくなるようにとの願いが込められています。もっとも、最近の餅は米粉から生産されるようになり、さほど伸びないものも。かつては、もち米を蒸してからついてできたものが餅、米粉に水を加えて練って作ったものは団子と区別していました。餅は粘りがありくっつきやすいので、きな粉や餡で外側を包むようにし、団子はくっつきにくいので餡を具として内側に包んでいたとも言われます。
新年に神仏に供える「鏡餅」は平安時代から存在していたようですが、現在のように、床の間など玄関から離れた部屋に飾るようになったのは室町時代頃からのようです。鏡餅の名は、昔の鏡の形に似ていることから。また、二段に重ねるのは、陰と陽を意味するとの説が有力です。「医は仁術」という言葉の「仁」の字は、人が陰と陽の二物に寄り添う姿と言われていることと併せて理解しておきたいところです。飾り始める時期に決まりはありませんが、一般に末広がりを意味する「八」の縁起が良く、12月28日が最適といわれます。「苦」を連想する「九」の意味で29日を避けるところがある一方、29を「福」と読んで歓迎する地方もあるようです。
地域差では、西の丸餅と東の角餅(切餅)。境界はちょうど岐阜県の関ケ原辺りのようです。関西では、丸く円満に、カドが立たないようにと縁起を担ぐ一方、角餅は「のし餅」とも呼ばれることから、相手を倒す(のす)という願掛けで関ヶ原の東軍に歓迎されたとの逸話も。ただ、実際のところは、人口が増えた江戸では一つひとつ丸めるよりも大きな餅を切ってしまう方が量産しやすかったというのが真相のようです。最近、角餅が主流になってきていることからもうなずけますね。
餅を平らに伸ばして焼いたものが煎餅(せんべい)の始まりと言われています。現代では「米菓」に分類され、米粉のほかにもデンプン粉が使われ、味付けをしたものが多くなっています。ちなみに「サラダせんべい」とは焼いた後にサラダ油を絡めているもので、生野菜の成分は入っていないので間違わないようにしましょう。
毎年正月には、餅を喉に詰まらせる事故のニュースを聞きます。それでも、こんにゃくゼリーのように警告表示が義務化されたり、流通を規制されたりはしていません。餅の窒息リスクが既に広く認知されていることもありますが、それだけ愛され、伝統食として残されていく餅の偉大さとも言えますね。
来院した患者さんに、「餅は餅屋やからねぇ」なんて言うことがあります。長引く痛みに耐え、自分でなんとかしようとしたけど諦めて来院。あっさりと楽になり、「早く来れば良かった」なんて会話の中で出てきます。どんな分野でもその道の専門家に頼るのが良いという例えですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』78 おもてなしの神髄
連載『食養生の物語』78 おもてなしの神髄
2019.11.25
ラグビーワールドカップが盛況のうちに閉幕しました。振り返ってみれば日本代表チームの躍進はもちろん、大会運営のスムーズさや観客のマナーなども含め、あらゆる意味で日本が世界から高い評価を受けた大会だったと言えるでしょう。開催前には「外国人頼みの日本代表」といった批判的な声も聞かれましたが、海外出身の日本代表選手たちが試合開始前には涙を浮かべながら「君が代」を斉唱するなど、日本代表としての誇りを持って戦う姿が知られていくにつれて段々と受け入れられていき、応援も盛り上がりを見せました。また、海外代表チームの選手たちが、試合終了後には一列に並んで観客にお辞儀をし、ロッカールームを掃除してからスタジアムを去るなど、「日本人らしく」振る舞うようになっていったことも興味深いですね。
さて、選手のインタビューでは「ラーメンが好き」「昨夜は寿司を食べた」などと、日本食の話題に触れられることも多くありました。来日した海外からのメディアや関係者たちも、各地を訪れ、日本の文化を楽しんだようです。元イングランド代表選手が回転寿司店での自動運搬レーンのことをツイートするや、「スシトレイン?」などと絶賛の声とともに拡散されたといったエピソードも。ヘルシーで美味しいイメージのあった日本食に、スピーディーさとエンターテインメント性が加わったように見えて話題を呼んだのでしょう。取材に来た各国記者たちには、片手で食べられるおにぎりやサンドイッチが、味はもちろん、種類の豊富さでも好評だったようです。
大会が、日本の良さ、日本人らしさを広めるための良い機会となったことは疑いようがありません。また、もう一つ評価したいのが、こうして評価されたものの多くが、私たちにとっては日常にあるものであり、日頃から当たり前にやっていることであるというところです。来年開催されるオリンピック・パラリンピックを東京に招致する際のキーワードは「おもてなし」でしたね。おもてなしとは、文字通りに「オモテがないこと」であるとも言えます。表がなければ裏もありません。特別な何かをすることではなく、ありのままの姿でいることこそが、本当の「おもてなし」ということです。そういった意味で、今回のラグビーワールドカップで評価されたことの多くが日常的なものであったのは、意味のあることではないでしょうか。
ラグビーワールドカップ2019がラグビー1競技、参加20カ国であったのに対して、2020東京オリンピック・パラリンピックは33競技339種目、参加する国と地域は205が見込まれています。当然、選手や関係者、メディアや観客も含めて、さらに多くの人たちが日本を訪れることになるでしょう。多様性の中で日本人らしく振る舞うこと、おもてなしの神髄が問われますね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』77 そばのオキテ
連載『食養生の物語』77 そばのオキテ
2019.10.25
新そばの季節ですね。そばの収穫は10月から11月なので、新そばは10月末頃から。旨味が強くコクがあり、香りや喉越しを楽しむために塩だけで食べることもあるほどです。一部には夏頃から出回る新そばがありますが、これは早い時期に種を蒔いて7月に収穫する「夏新」と呼ばれるものです。江戸時代には「夏そばは犬も食わぬ」と言われるほどマズかったようですが、保存技術の発達した現代では、夏そばの方がさっぱりとした味わいで好きという人も多いですね。ちなみに新そばと呼ばれるのはその年いっぱい。年越しそばが最後ということになります。
そばは寿司や天ぷらと並んで代表的な日本料理の一つ。香りを大事にする食べ物で、そのために音を立ててすすっても良い、世界でも珍しいマナーがあります。弥生時代にはもう食べられていたという説もあり、少なくとも奈良時代よりも前から食されていたことは間違いなさそうです。ただし、当初はそばの実を粒のまま粥として食べるもの。次第に、それを粉にしたものを水で練って蕎麦掻き、蕎麦焼きとして食べるようになっていき、麺状になったのは江戸時代の初期だそうです。蕎麦切りと呼ばれ、茹でたそばのぬめりを取って皿に盛り、つゆをつけて食べるのが一般的だったようです。その後、つゆを直接かける「ぶっかけそば」「かけそば」が流行ったことから、区別のため「もりそば」と呼ぶように。さらに、名店で竹ざるに盛ったそばに焼き海苔を散らし、つゆにわさびを入れた「ざるそば」が提供され繁盛したことから、現在のように広まっていったようです。そば粉のみを原料とするものを「十割そば」と言います。そばだけでは切れやすいので、つなぎとして蕎麦粉8・小麦粉2の割合で小麦粉を混ぜたことから「二八そば」と呼ぶようになりました。蕎麦粉の比率が高いほど高級品とされ、立ち食いそば屋などは「逆二八そば」と揶揄されることもあるとか。
栄養成分としてはポリフェノールの一種、ルチンがあり、抗酸化作用が強く、動脈硬化の予防や血圧を下げる効果があることが分かっています。ただ、ルチンは水溶性ビタミンで、茹でる際に出てしまいます。そばの茹で汁である蕎麦湯を締めにいただくのは理に適っているのです。このほか、良質なタンパク質の中でも成長ホルモンを合成するリジンが、植物性としては珍しいほど多く含まれており、ビタミンB?も豊富なため疲労回復効果が期待できます。
関西では「きつね」とは油揚げの乗ったうどん、「たぬき」は油揚げの乗ったそばのこと。一方、関東の「たぬき」は天かすを乗せた「たぬきそば」。衣(天ぷら)は見えるがタネ(具)はない「タネ抜き」がなまったとか、天ぷらに見せかける意味から化かす動物の狸と呼ばれたとか、由来は諸説あります。関西で天かすの乗ったそばは「ハイカラそば」、あるいは単に「天かすそば」。東西の違いが面白いですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』76 次世代のカレー
連載『食養生の物語』76 次世代のカレー
2019.09.25
「陰性な辛さの中に陽性な辛さも感じるね」。もう十数年も前のこと、ネパール料理店でカレーを食べながら、友人とそんな会話をした記憶があります。香辛料の辛みが強く発汗して体を冷やすインド料理のカレーに対して、標高が高く気温が低いネパールでは塩辛さを利かせているという印象だったのでしょう。
最近、市販のルウに頼らず自分でスパイスをブレンドして「スパイスカレー」を家庭で作るのがブームのようです。ベースの旨味を昆布出汁にしたり、サバの缶詰を具材にするなど、日本流にアレンジしたレシピも人気なのだとか。スパイスとは、植物の葉・種子・根茎・果実・つぼみ・樹皮などを乾燥させて、料理の香り・色・風味付けをするもので、特に辛味を付けたり、旨味を引き出すように幅広く用いられるようになったものです。薬効があり、インドやネパールなどの南アジアでは各家庭で調合されていて、中医学の薬膳と同様に医食同源に通ずる食養生でもあります。カレーのスパイスで有名な効能としては、黄色いカレーに欠かせないターメリックは、肝機能をはじめ内臓の調子を整え、血流を改善し、体のメンテナンスにも欠かせない存在。辛味の中心、レッドチリペッパーは食欲増進、消化促進、新陳代謝を良くすると言われています。刺激的な香りのコリアンダーは消化促進、消化不良の改善、頭痛の緩和などがあり、スパイス同士の調和を図るのにも欠かせない存在で、紀元前の医学書にも載っているほど。カレーらしい香ばしさのクミンは下痢、消化不良を改善するとされています。こうしたスパイス類はホールのもので開封後6カ月、パウダーでは3カ月が賞味期間の目安とされていますので、せっかくブレンドしたのに風味がなくなってしまうことのないよう、早めに使い切りたいところです。
日本では「手前味噌」といって、各家庭で仕込む味噌が実はそれぞれの家庭ごとの労働量に応じた塩分濃度であり、誰もが「自分の家のが一番うまい」と自慢し合うという話がありますが、カレーも同じなのでしょう。スパイスの配合や具材の工夫で、季節ごとやその日の体調に合わせて仕上げることもできます。そう考えると、スパイスカレーのブームも身体にとって必要なことなのかも知れません。
従来のカレーライスは、イギリスの植民地であったインドから、イギリス本国を経由して、日本には明治時代に伝わってきたと言われています。明治40年代に入ってから、イギリス海軍のカレーを参考に、日本海軍でカレーを採用し日本のお米に合うようにアレンジしていったものが、兵士たちを通じて各家庭へと拡がっていったようです。気候や風土に合わせ、好みに合わせ、時代の流れに合わせて変化していく料理の性質を考えれば、そこから100年以上が経ってのスパイスカレーのブームは、カレーの第二世代ともいえるかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』75 何はなくとも素麺
連載『食養生の物語』75 何はなくとも素麺
2019.08.25
子どもたちの夏休みも終盤ですね。夏休みの終わりと言えば、宿題に追われながら昼食に素麺を食べていた記憶があります。めんつゆにつけて食べる「冷やし素麺」は日本の夏の料理の代表格。「冷やし中華」のように、季節のキュウリ・ナス・トマトや、錦糸卵・蒲鉾などと食べることもあれば、野菜が主役の「素麺サラダ」やアウトドアの「流し素麺」も。熱いつゆをかけたり、出汁、味噌汁などで煮込んで蕎麦・うどんのように食べる「にゅうめん」もあり、夏だけの物でもないようです。栄養成分は主に炭水化物。ダイエットの敵と見なされがちですが、生命活動に欠かすことのできない栄養です。タンパク質と食物繊維も豊富に含まれるほか、必須ミネラルの一つで体内の有毒物質を体外に排出する働きのあるセレン、鉄分の働きを促して貧血を予防・改善するモリブデンも含まれ、夏バテ予防には格好の食べ物です。
「イカそうめん」のように、細いものの代名詞ともなっている素麺ですが、室町時代には既に現在のような細い麺として食されていた記述があります。発祥は奈良県桜井市三輪地区とされ、三輪素麺はブランド。平成12年に「三輪素麺」の多くが実は長崎県島原産のものである産地偽装問題が発覚するまでこの傾向が続きました。兵庫県民の筆者に馴染みがあるのは「播州手延べそうめん」で、播州地方は日本国内1位の生産量を誇ります。播州平野の小麦、赤穂の塩、揖保川の清流が合わさり素麺産地となったようです。手延べ素麺とは、小麦粉に食塩と水を混ぜてよく練って太い綱状にしたものに、綿実油などの食用油を塗ってから、ヨリをかけながら引き延ばして作られたもの。播州地方では10月から翌年5月にかけて外気に当てて乾燥、熟成させるので、気候にも恵まれたのでしょう。また、手延べ素麺で、棒で延ばす時に棒にかかる曲線部分を切り落としたのが「素麺節」。三味線のバチに似た形から、バチとも呼ばれます。兵庫県内では、お吸い物にバチをいれた「バチ汁」が給食に出るほどですが、他の地方では通じないことも多いようですね。
素麺の製法は日本農林規格(JAS)で「手延べ素麺」と「機械素麺」に分類されています。機械麺の場合、乾麺では素麺の太さは直径1.3mm未満。ちなみに1.3mm以上1.7mm未満はひやむぎ、1.7mm以上はうどんです。手延べの工程では、生地を一定方向に引っ張って延ばしていくため小麦グルテンの組織が同じ方向へと形成され、ヨリをかけることから縄状の構造になるため、茹で伸びしにくくコシが強くなるのが特徴。綱状の生地から一万倍にまで延ばすと言われるほどです。一方、機械素麺では延ばしが少なく、細く切って機械乾燥させるために、食味は劣るようです。
平成5年からは、「手延製麺技能士」が国家資格である技能検定制度として始まりました。技術を継承し遺していくための業界団体の熱意を感じますね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』74 うなぎのぼりにあやかる
連載『食養生の物語』74 うなぎのぼりにあやかる
2019.07.25
土用の丑の日といえば、鰻ですね。実はこの習慣が生まれたのは江戸時代後半あたりで、それほど歴史があるわけではないようです。発案したのは学者で発明家でもある平賀源内だという説が有力です。そもそも土用とは、季節の分かれ目である立春・立夏・立秋・立冬の前日までの約18日間のことを指し、それぞれの季節の準備期間として、体を休めて滋養を取ると良いとされてきた時期。その中で、日にちに当てはめられた十二支で「丑」に当たる日が土用の丑の日です。特に夏の土用の丑には、古くから「う」のつくものを食べると夏負けしないと考えられていました。例えば瓜、うどん、梅干、馬、牛、兎……。商売が芳しくない知り合いの鰻屋から相談を受けた源内が、鰻もそこに加えたらどうかと提案したことから、「本日、土用の丑の日」と書いて店先に貼ったところ、その鰻屋は繁盛し、他の鰻屋もそれを真似るようになっていったという話です。源内は、今風に言えば優秀な経営コンサルタントといったところですね。鰻に豊富なビタミンA・B群は、夏バテや食欲減退防止の効果が期待できます。ただ、常日頃から栄養のあるものを食べている現代においては、土用だからと滋養をつけるよりも、むしろ少食にして胃腸を休ませるくらいの方が良いのかもしれません。
源内の知人に限らず鰻屋の商売が夏場に良くなかったのは、暑い時期に鰻を食べる習慣がそれまでなかったから。実のところ天然物の鰻は、秋から冬が旬。水温が上がり発生したプランクトンを食べて身を太らせ、秋以降に身に脂が乗ってくるのです。もっとも、最近では養殖物がほとんどのため、売れるシーズンに向けて成育されるので旬はなくなりつつあるようです。鰻に限ったことではありませんが、養殖物の方が脂の乗り具合や味も含め品質が安定しているとの理由から、天然物よりも高値で取引されることも増えてきました。また、産地表示が義務化されるようになって、「国産が良いに決まってる。台湾産はまだ食べられるけど、中国産は……」という声を耳にすることもありますが、養殖ウナギは国産と台湾産では同じアンギラ・ジャポニカ種が多く、中国産はアンギラ・アンギラ種という違いがあり、食感や味が異なるようです。安全性の問題とは混同しないようにしたいところですね。
物事の件数が急激に増えたり、評価や人気が急上昇することを「うなぎのぼり」と言います。鰻をつかもうとすると手から滑り抜けて上へのぼろうとする勢いのことや、または水の少ない場所や急流など悪条件の川でもさかのぼっていき困難を乗り越えていく姿からそう言うようになったようです。鰻にあやかって、うなぎのぼりの人気を得たいものですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』73 豆腐か、豆富か
連載『食養生の物語』73 豆腐か、豆富か
2019.06.25
「豆腐が体にエエってテレビでやってたから、毎日3丁食べてます」という患者さん。そんなに食べたら体が冷えるからほどほどにしときましょか、と返すと、「そやから湯豆腐で食べてますねん」と返ってきました。さて、湯豆腐だと冷えないものでしょうか。大豆は収穫時期としては秋ですが、枝豆として知られるように夏に大きく成長する作物。ですから体を冷やす作用のある陰性な作物と考えられます。すなわち大豆を主原料とする豆腐もまた体を冷やす性質のある食べ物です。口にするときの状態は温められていても、元の性質は変わりません。ましてや3丁ともなるとさすがに体が冷えてしまいます。健康に良さそうだからと豆乳をたくさん飲む人も、同じ理由で注意が必要です。食養生のお手当てには、解熱の特効薬として「豆腐パスター(豆腐湿布)」というものがあります。家族が脳出血で倒れた際に救急車が到着するまでの間、咄嗟に豆腐を潰してガーゼで包んだものを後頭部に当てていたら軽度で済んだという話を聞いたことがあります。虫垂炎でも豆腐湿布で激痛が和らぎ熱が下がって自分で病院まで歩いて行き、手術せずに帰ってきたとか、驚くような話も。こうした逸話からも、熱を下げる働きがあることが分かりますね。
歴史的には、豆腐は鎌倉時代から室町時代頃に中国から日本に伝わりましたが、大陸のものよりも日本の豆腐の方が食感は柔らかいようです。大豆を水に浸してからすり潰し、さらに水を加えて煮詰めたものが、呉(ご)。呉を濾して絞ったものが豆乳。絞った残りの固形分がおから。豆乳を加熱した時に上澄みの固まってくるものが湯葉です。豆腐は豆乳ににがりを加えて固めたもの。そのまま固めて作ったものが「絹ごし豆腐」、固まりかけたものを崩し、型に木綿の布を敷いたところに入れて成型し、圧力をかけて水分を絞ったものが「木綿豆腐」となっていきます。国産大豆と海水にがりだけで作られた豆腐はそのままでも美味しく、塩をひとつまみかけると大豆の甘みが引き立ちます。店頭では、凝固剤として塩化マグネシウム含有物や硫酸カルシウム、消泡剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いたものも見かけますが、大豆の旨味が感じにくくなるため、醤油をたくさんかけたくなりがちです。また、「凍み豆腐」「高野豆腐」と呼ばれる、冬の冷気で水分を飛ばして乾燥させたものは身体を冷やす作用が弱まります。良質な植物性たんぱくとして積極的に摂りたいもの。ただし、工場で乾燥させて製造されたものは避けたいところです。
ところで、東洋医学では「腐熟」という、食物を消化する時に脾胃(消化器)でドロドロにした状態を指す言葉がありますね。実はこれが豆腐の名前の由来。固まる前の豆腐がそう見えたことから「腐」の字が当てられたもので、腐っているわけではないのです。このことから「豆富」と表記するところもあるようです。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』72 茶は養生の仙薬
連載『食養生の物語』72 茶は養生の仙薬
2019.05.25
「夏も近づく八十八夜」と唄われる茶摘みの季節。立春から八十八日目、ゴールデンウイーク頃に茂ってきた茶葉を摘み取ったものが、柔らかく甘味があって上質な「一番茶」。期間とともに出てくる新たな芽を摘み取る度に、二番茶・三番茶と、だんだんと品質は下がるとされています。特に高級とされる「玉露」は、一番茶を収穫する前に覆い、一定期間日光を遮断してから摘み取ります。日を遮ると、アミノ酸の一種のテアニンが豊富でうま味の強いお茶になるのです。日光を遮断せず、光合成が進めば、渋み成分であるカテキンが増加していき、スッキリとした味わいの「煎茶」として出回ります。収穫時期が夏から秋へと遅くまで成長した茶葉から製茶されるものは「晩茶」「番茶」と呼ぶようになっていったようです。摘まれた茶葉は、蒸した後、揉んで針の様な形に整えて乾燥させます。その後に焙煎したものが「ほうじ茶(焙じ茶)」。元は一部の地域で「ほうじ茶」を「番茶」と呼んでいたのが広まっていき、最近では「番茶」と「焙じ茶」は同一視されることが多いようです。食養生では「三年番茶」といって、収穫時期を遅らせ秋以降まで育成した茎を刈り取り、ゆっくりと時間をかけて焙じた後、倉庫で熟成させたお茶を飲用することを勧めています。足掛け三年にわたる時間と丁寧な製法とで独特の甘みと味わいがあり、体を冷やさないお茶でもあります。
紅茶や烏龍茶も緑茶と同じツバキ科のチャノキ(学名カメリアシネンシス)から作られ、違いは発酵の度合いです。茶葉には酵素があり、手を加えなければ発酵は進んでいきます。最も発酵を促進させるのが紅茶。茶葉を揉み込んでから十分に発酵させ、乾燥させたものです。インドやスリランカといった、気温が高く発酵を促しやすい国が産地なのも納得です。烏龍茶はこの酵素の働きを途中で止めた半発酵状態のもの。竹などでできた特有の筒状の入れ物に茶葉を入れて回転させ葉に傷をつけて発酵を促します。発酵の度合いをみて、炒って酵素の働きを止め、製茶します。その土地の料理に合うよう、それぞれの食文化と結びついてきた歴史があるのですね。
茶の渋み成分カテキンは、1980年代後半から、殺菌、抗ウイルス、抗酸化、血圧上昇抑制、血中コレステロール調節、血糖値調節、免疫増強など多くの作用が確認されてきました。病原性大腸菌O-157を通常飲まれる濃度の緑茶エキスに加えたら3時間後には千分の1に減少、5時間後には完全に死滅したとの報告もあります。カテキンだけに「勝て菌」とも言えそうです。近年では「体脂肪が気になる方に」という茶カテキンを有効成分とした特定保健用食品まで販売されています。茶を日本に広めた鎌倉時代の禅僧・栄西禅師は『喫茶養生記』で、「茶は養生の仙薬なり」と著しています。ここまで健康に良いと評価されることを8百年も前に見抜いていたのでしょうか。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』71 海苔と環境
連載『食養生の物語』71 海苔と環境
2019.04.25
前回、海外でも人気の高まる巻き寿司と、海苔を内側に巻く「裏巻き」について触れました。欧米では黒いもので巻かれた姿がグロテスクだからと嫌われたり、ラッピングの“黒い紙”と勘違いされたり……けれど日本人にとって、おにぎり、ご飯のお供として欠かせないのが海苔です。
海苔は、奈良時代の書物に登場するほど古くから食されてきました。江戸時代には養殖が始まり、和紙の製紙技術を応用して現在の形に近い板海苔が作られていました。ただ、まだ生態がハッキリしておらず、生産は不安定であったようです。戦後になって、海苔の糸状体の発見をきっかけに海苔のライフサイクルが解明され、人工採苗が実用化されたことで養殖が拡大していきました。それでも養殖中の海苔に病気が発生したりと、生産量はまだ不安定でした。そこで、「酸処理」という方法が広まったのが昭和60年頃。海苔の胞子が付着した網を酸処理剤(主にクエン酸・コハク酸などの酸性液)に浸し、病原菌を殺菌して再び海に戻す作業を繰り返す手法です。海苔の病気を予防する意味で「海苔の農薬」とも言われ、生産量も品質も安定して向上するようになりました。こうして生産量が一気に増えたのと時を同じくして、コンビニのおにぎりが広がっていきます。もう少し後、節分の「恵方巻き」をコンビニが仕掛け、全国に広がったこともあり、海苔の消費量は一気に増えていきました。まさに需要と供給のバランスですね。
ところで酸処理に関連して、数年前、国内の海苔の生産量第一位である佐賀県で、漁業関係者が国を相手に訴訟を起こしました。有明海で続く魚介類の不漁は海苔の養殖で使われる殺菌用の酸処理剤が原因だとして、これを禁止しない国を訴えたのです。有明海といえば諫早湾の干拓事業による漁業被害が大きく、海苔の養殖も打撃を受けていたのですが、拡大する不漁の中で海苔養殖業者と他の漁業者との紛争にまで発展したようです。一方、生産量第二位の兵庫県では、主産地である播磨灘に流れ込む一級河川・加古川に大堰が出来てから、海苔の生育不良が起こるようになり、色落ちなどの被害が出ています。瀬戸内海で水質浄化を進めた結果、海水中のミネラル分が不足し栄養分が乏しくなったことも一因だと指摘されているほか、瀬戸内の春の風物詩であるイカナゴの不漁にも影響しているとの声もあります。いずれのケースも、人間の都合による殺菌は生態系のバランスを崩してしまうこと、環境整備が環境破壊につながることがあると教えてくれている気がします。
海苔に含まれる多糖類を分解する酵素を日本人の多くは持っていますが、欧米人は持たないことが分かってきています。体内環境が、外なる自然環境の影響を受ける好例でしょう。行き過ぎた清潔志向、殺菌剤や抗生剤の多用などで、体内環境まで壊してしまうことのないようにしたいものです。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』70 フィットする巻き寿司
連載『食養生の物語』70 フィットする巻き寿司
2019.03.25
今年の節分シーズン、「恵方巻き」に関する兵庫県の食品スーパーの広告が話題になりました。季節商品である恵方巻きを、昨年実績の数量しか作らず、売れ行きに応じて数を増やすことはしないと宣言したものです。毎年過熱する販売競争の陰で、その日が過ぎれば大量廃棄されてしまっている実態を憂い、流通業者が大量生産・大量販売にストップをかけたということで、評価する声がSNSなどで拡散されました。
恵方巻きに限らず、昨今の「巻き寿司」は種類が豊富です。「サラダ巻き」のような、伝統の視点からはご法度とされそうな、一昔前までは考えられなかったようなものが主流になりつつあります。いわば「巻き寿司」というフォーマットがあることで、バリエーションが拡がっていったとも考えられます。
巻き寿司は「sushi rolls」と呼ばれ、今、海外でも人気が高まっています。中でも有名なのが、元はロサンゼルスの和食レストランで供されていたという、カニの脚身とアボカドのマヨネーズ和えを巻いた「カリフォルニアロール」ですね。これが日本に逆輸入され、後にサラダ巻きの原型になったとも言われています。カリフォルニアロールの特徴は“裏巻き”といって、日本の一般的な海苔巻きとは異なり、海苔が内側で酢飯が外側に巻かれていること。海苔を内側に巻くのは、米国人が黒い見た目を嫌い、海苔を外して食べている姿を見た職人が「もったいない」と考案したものだそうです。カリフォルニアロールの他にも、「アラスカロール」「ラスベガスロール」など、各地で具材や味付けに変化・工夫されたものが拡がっています。
具材は現地で調達するものなので、日本での作り方にこだわるだけではバリエーションに乏しくなりかねません。それに加え、食文化の違いを越えて受け入れられるための工夫を凝らしたものが、こうした「ロール」なのでしょう。伝統にこだわりすぎず、受け入れられるよう発想を変えてみることの大切さが伝わってきます。とはいえこれも、元々の“型”を残したままで、型にはまりきらずに具材や巻き方を応用できる、巻き寿司ならではの自由度があってこそと言えそうです。
ところで、巻き寿司の中でも単一の具材のみで巻かれるものを「細巻き」と言います。細巻きの中でも定番なのが、マグロの切身を巻いた「鉄火巻き」。名前の由来は「鉄が火で熱せられたときのような色を連想するから」という説が一般的ですが、「鉄火場(博打を打つ賭場のこと)で食べられていたから」という説も。サンドイッチの由来は「トランプゲームをしながら食べられる料理として、イギリスのサンドイッチ伯爵が考えたから」という逸話は有名ですが、とても近しい発想ですね。こうしたところからも、食は、人の工夫で場にフィットするよう発展していくものなのだと分かります。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』69 時代をまたぐミソ
連載『食養生の物語』69 時代をまたぐミソ
2019.02.25
最近、患者さんから立て続けに「味噌づくり教室に参加してきた」という話を聞きました。味噌は「買うもの」だったのが、自分で「つくるもの」に移りつつあります。健康への意識が高まり手づくりゆえの安心感、食べられるように熟成するまで待つ時間も楽しみのようです。加えて今年は、平成最後の仕込みになることもあってチャレンジしてみようという気持ちを後押ししているようにも感じられます。
寒仕込みといって、味噌を仕込むのは1月から3月にかけての頃が良いとされています。大きな理由としては、気温が高いと発酵が急激に進んでしまうためです。まずは寒い時期にゆっくりと、やがて夏に向かって気温の上昇とともに発酵が進み、そこから秋に気温が下がってくるまでの過程を経ることで味が馴染んでくるとされています。大豆を洗った後、半日以上浸漬した後に柔らかくなるまで煮てから潰し、冷まして麹菌と塩を混ぜ合わせるまでが仕込み。容器で密閉し重石をして、10カ月後からが食べ頃になってきます。長期熟成すれば旨味が強くなります。旨味は大豆たんぱくが分解してできるアミノ酸に影響されるので、熟成が進むほど分解度が高くなるため。2年以上熟成させると色が濃く、香りも強い味噌になっていきます。熟成が進むということは、発酵が止まっていないということ。味噌は生きているわけですから、乳酸菌や酵母も生きたままでいただくことになります。整腸作用や美肌効果にも期待ができますね。
過去に、大豆アレルギーがある何人もの患者さんから、3年以上熟成させた味噌でつくる味噌汁ではアレルギー反応が出ないという話を聞いたことがあります。先の発酵過程からすれば、おそらく、アミノ酸レベルに分解されることでたんぱく質に反応しないのではないかと考えています。ただ、これを記した文献に出逢ったことがないため、推測の域を出るものではありません。
ところで、家庭で味噌を仕込むようになると、スーパーなどで売っている味噌の価格が、原料である国産大豆よりも安いことに疑問を持つようになります。主な理由は、そうした製品の味噌の原料が輸入大豆であること、「速醸」といって3カ月ほどの短期間だけの熟成であることなどにあります。ただ、それでは旨味が出ないので、化学調味料が添加されているのです。また、原材料欄に「酒精」「アルコール」といった表記がある場合は発酵を止めていることになりますから、味噌の効用は期待できません。体験を通して知ることは、まさに食育ですね。
時代は「モノ消費からコト消費へ」と言われています。これまでは買っていたモノから、自分でつくる体験をするコトへ。モノからコトへのシフトがまさに「ミソ」です。体験こそ、次の時代に引き継がれていく秘訣なのかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』68 そうだ、お粥を食べよう
連載『食養生の物語』68 そうだ、お粥を食べよう
2019.01.25
「今日は出掛けず、お粥さんでも食べてゆっくり休んでね」。風邪の治療の後は、ほぼ必ず、そう伝えるようにしています。体が弱っているときにお粥が良いと言われるのは、あっさりと食べやすく、消化が良くて胃腸に負担をかけないので体にやさしいから。また、湯気が立つほど熱々でいただくので、ゆっくりと食べることになりますよね。そうすることで満腹中枢を刺激し、自然と食べ過ぎを防ぐことができるのも理由の一つだとされています。
小豆とお米を一緒に炊く「小豆粥」、サツマイモやジャガイモ、山芋などと「芋粥」、アワやヒエと「雑穀粥」、またはお茶(番茶か緑茶)で炊く「茶粥」など、バリエーションをつけられるのも良いところ。カロリーは低く、体が温まることで代謝が上がることも期待できそうです。「七草粥」に代表されるように、冬にご馳走をいただいた後に弱りがちな胃腸を整え、体を温かくする習慣があるのも納得できます。
禅寺では、現在でも朝食は毎日お粥のみというところもあるようです。修行中の禅僧は、お肉やお魚のない精進料理でも、肌がつややかなイメージがあります。曹洞宗の開祖である道元禅師が、食事をいただく際の心構えを記したとされる『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』には、「粥有十利(しゅうゆうじり)」として、お粥の効能が述べられています。色(肌の色つやをよくする)、力(気力が増す)、寿(寿命が延びる)、楽(食べ過ぎず、体が楽になる)、詞清辯(血流がよくなり頭が冴え、言葉もなめらかになる)、宿食除(食あたりを除き、胸やけしない)、風除(風邪を引かなくなる)、飢消(飢えをなくす)、渇消(喉の渇きを潤す)、大小便調適(便通がよくなる)、以上の10の効能が挙げられています。体にやさしいだけでなく美容にも良いのです。
ところでお粥と雑炊との違いですが、炊きあがった“ご飯”にダシ汁や具を入れて煮込むものが雑炊です。お鍋料理の締めで残り汁を使って作るのも、“ご飯”を入れるわけですから、同じ雑炊です。対してお粥は、お米から水の分量を多くして炊いていくもので、お米の分量に対して5倍の水で炊く「全粥」から、水が多くなるほど「七分粥」「五分粥」「三分粥」となっていきます。
食養生の観点からお勧めするのは、「玄米粥」です。玄米を弱火で時間をかけて炒り、それから水を加えてゆっくりと炊いていきます。この手間を掛けることで、より消化吸収が良くなると考えられています。
「粥」という漢字は、「米」がまるで「弱」の字のように並ぶ二つの「弓」に挟まれているように見えますが、そもそもの由来として、「弓」の字は、お米を炊くときの湯気が立ち上る姿を現す象形文字だったようです。「人は待たしても粥は待たすな」とも言われるほどのお粥、弱ってなくても熱々をいただきたいですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』67 平成最後のお節に
連載『食養生の物語』67 平成最後のお節に
2018.12.25
もうすぐ、平成最後の年末年始ですね。来年2019年にはラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピック・パラリンピック。2021年にはワールドマスターズゲームズin関西、そして2025年には大阪での万国博覧会と、多くの国際イベントが予定されています。こうした中で、今後ますます日本文化が注目されていき、歴史上でも転換点を迎えることとなりそうです。
アメリカの生物学者ジャレド・ダイアモンドは『文明崩壊』(草思社文庫)の中で、文明が崩壊する原因は、歴史のターニングポイントで「引き継ぐべき価値観」と「捨て去るべき価値観」の見極めにあると述べています。まさに今の日本は価値観の見極めを問われているとも言えそうです。
2013年にユネスコ無形文化遺産に「和食―日本人の伝統的な食文化」が登録された理由の一つに「正月などの年中行事との密接な関わり」があります。食の時間を共にすることで家族や地域の絆を深めてきたことが評価に影響したのです。季節の行事と食の関わりについて、私たち一人ひとりがきちんと理解しておくことが大切です。知識として知っているだけなのか、経験としてやったことがあるのか、日常的にやっていることなのか、私たちが食文化をどのくらい大事にしてきたかどうかも問われるところでしょう。
関西では、里芋の煮物のことを「小芋のたいたん」と言います。里芋のことを小芋(子芋)と呼ぶのには意味があります。里芋は種子を蒔くのではなく〝子芋〟を植えて栽培し、それが〝親芋〟となって周囲に〝子芋〟〝孫芋〟と育っていく。その姿が親・子・孫と世代間を越えて仲良くする様子に見えるという意味や、子宝に恵まれる象徴として子孫繁栄を願う意味もあって、お節料理に「小芋のたいたん」が定番になってきたようです。
他にも、お節料理には様々な意味が込められています。黒豆は、厄払いに「魔」を「滅」するという語呂遊びに加えて、真っ黒に日焼けするほどマメに働けるようにという健康祈願。昆布は関西弁で「こぶ」と発音されることから、「よろこぶ」につながる縁起物。田作りは「ごまめ」と呼ばれ、「五万米」に通じて五穀豊穣を願うもの。数の子はそのまま子孫繁栄。鰤は魚偏に師と書くほどに賢い魚といわれ、出世魚でもあることから立身出世を願うとか。海老は長いひげを生やし腰が曲がるまで長生きすることを願って。鯛は「めでたい」の語呂合わせで、恵比寿様が持っているようにハレの日の食卓に上るものです。そしてお重に詰めるのは「めでたさを重ねる」意味があります。
こうした文化は、世代の壁を越えて受け継がれてきたもの。こうした一つひとつの意味を語り合うことも、受け継ぐ価値観になるでしょう。平成最後の年末、おばあちゃんから教わりながらお節料理を一緒に作ってみるのもいいかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』66 自炊は活躍の種
連載『食養生の物語』66 自炊は活躍の種
2018.11.25
「カチカチッ」。テレビの中継でアスリートの勝利者インタビューを聞いていると、新しいペットボトルの開封音が聞こえることがありますね。選手にとって、自分が口にするものが誰も手をつけていないものであることを確認するのは大事な習慣。それは、ドーピングから身を守る最善の方法だからです。
前回まで、ドーピングに関するリスクの話として、サプリメント・風邪薬・漢方薬に触れてきました。正直なところ、何が安全とは言い切れなくなってきている面があり、こうなってくると自炊・自家製に勝るものはないと言えそうです。年始には学生スポーツの花形・箱根駅伝がありますが、強豪チームの多くは寮生活を送っています。規則正しい生活を送り、特に食事面では寮で出されるものが基本。外食やコンビニなど、外部で調理されたものを極力減らすためです。また、差し入れや届け物についても、チームの方針として全て寮宛てで送ってもらうこととなっているのが一般的だそうです。チームの公式SNSなどでお礼をするためといった事情もありますが、最大の理由は監督やスタッフの目が届くようにするためでしょう。いくら善意の頂き物であっても、口にしてドーピング検査に引っかかれば選手本人の責任、ひいてはチームの責任となるのですから、当然と言えます。
実は、中高生からトップレベルまで、「試合当日には『おにぎり』が欠かせない」という選手が多いのはご存知でしょうか。自分の出場する時間から逆算し、何時間前に何個食べるといった調整がしやすいこともあり、海外遠征では炊飯器を持参する選手もいるほどです。中高生であれば親に用意してもらうのが良いでしょうが、大学を出た社会人であれば自分で握って持参する自炊が基本です。添加物の心配のあるコンビニのおにぎりなどは避けた方が良いでしょう。自炊についても徹底している選手もいます。だしの素や化学調味料は使わず、サラダにしても殺菌剤や漂白剤の心配があるカット野菜は使わず、自分で野菜に包丁を入れる。自炊ならぬ〝他炊〟や〝外注品〟に頼るかぎり、ミネラル不足・添加物の不安は拭えないのです。
サプリメントとは、栄養補助食品。そもそもなぜ栄養分を補助する必要があるのかを考えれば、日々の食事で不足しがちだから。自炊を徹底し、食事できちんと栄養を摂取すれば必要ないはずのものです。〝外〟のものに頼れば頼るほど、万全とは言えなくなる。自衛のための自炊だということを、トップアスリートはよく知っています。
「活躍したから自炊を始めた」のではなく、「自炊するから活躍できるようになる」。その姿勢を見習うことで、私たちも活躍できる場があるかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』65 なにも足さない、なにも引かない
連載『食養生の物語』65 なにも足さない、なにも引かない
2018.10.25
ドーピングはインターハイなど高い競技レベルでの問題かと言えば、実はそうではありません。陸上や水泳といった記録を争う競技の場合、市民大会レベルでも条件が揃って日本記録に相当する記録が出る可能性はあります。その場合、24時間以内にドーピング検査を受ける義務があり、それをクリアして初めて日本新記録として公認されます。その意味では、全ての競技者が対象となり得ると言えるでしょう。
前回までは、サプリメント、市販の風邪薬、漢方薬について触れてきました。これから風邪がはやる季節になってくると、のど飴の出番が増えることでしょう。のど飴にも、禁止物質ヒゲナミンを含む生薬・南天実(ナンテンジツ)を配合したものがあり、注意が必要です。ヒゲナミンは、漢方では他に附子(ブシ)、丁子(チョウジ)、細辛(サイシン)、呉茱萸(ゴシュユ)といった生薬に含まれており、ハーブから抽出される物質です。気管支を拡げる作用があり、呼吸を楽にすることからドーピング禁止物質に指定されています。医薬品としては喘息や心不全などの治療に用いられるβ(ベータ)2作用薬に分類されています。選手が喘息の治療のためにβ2作用薬を服用していても、ドーピング違反になる可能性があります。
違反とならないためには、TUE申請が必要となります。TUEとは、Therapeutic Use Exemption の略で、治療使用特例と訳されます。治療をする上で、使用しないと健康に重大な影響を及ぼすことが予想される場合に限り、事前に申請した内容が適切であると認められれば特例として禁止物質の使用が可能となる制度です。TUE事前申請が必要な競技大会は競技団体ごとに発表されているので参考にするといいでしょう。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のホームページからでも確認することができます。
選手たちには、医療機関を受診する際に「自分はアスリートである」ことを伝えるようアドバイスしています。ルールは毎年のように少しずつ変わるもので、全ての医師がその情報をアップデートできているわけではありません。最終的に自分を守れるのは自分しかいません。疑問があれば、安易なクスリの処方に「待った」をかける勇気も必要です。スポーツファーマシストという、JADAからアンチ・ドーピングの知識を持っていると認定された薬剤師を頼るという方法もあります。
食養生の観点からは、季節の旬の食べ物を食べ、季節に沿った体づくりをしていくことが大切です。特定の成分だけを抽出して用いる方法にはリスクが伴うことを知っておくべきでしょう。また、治療家としては身体の外から摂り入れるものより、身体の内側を活性化させることに注力するのも大事。ウイスキーのCMではありませんが「なにも足さない、なにも引かない」という気持ちも忘れてはいけませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』64 うっかりドーピングと麻黄湯
連載『食養生の物語』64 うっかりドーピングと麻黄湯
2018.09.25
前回、サプリメントがドーピング検査に引っかかる危険性についてお話しましたが、「市販の風邪薬でドーピング違反」という事例も、何度か報告されています。咳・鼻水・発熱など、いわゆる「風邪」の症状で市販の「総合感冒薬」を服用する人は多いでしょう。これらの薬には、ドーピング規定での禁止物質、「興奮薬」に分類されるエフェドリン類が含まれるものが存在します。エフェドリン類は、中枢神経系を刺激することで集中力や敏捷性を高めたり、血流を増加させることで競技能力を向上させるといった効果を生む可能性があるとして、ドーピングの禁止物質となっているのです。こうした本人の意図しない「うっかりドーピング」を防ぐためには、禁止物質についての知識が必要です。総合感冒薬は、風邪の諸症状に効果があるように何種類もの薬物が含まれますが、成分は必ず表示されていますから、きちんとチェックすることができます。
漢方薬なら自然由来で身体への効果も穏やかだから問題ない……かと思いきや、ことドーピングの観点からは安易には使用できません。代表的なものとして「麻黄(マオウ)」にはエフェドリン類の成分が含まれています。また、自然由来ゆえに含有量が一定でないため、競技中の服用は禁止されています。生薬としての麻黄は、発汗・鎮咳・鎮痛・抗炎症作用が期待され、多くの漢方薬に配合されています。代表的な例を挙げれば、頭痛・悪寒・発熱・咳・喘息などの症状から、初期のインフルエンザや気管支炎・気管支喘息の発作期などにまで用いられる「麻黄湯」。風邪の初期の寒気から、肩こり・頭痛、鼻水、鼻詰まりなどの症状や神経痛、血行障害などに用いられる「葛根湯」。気管支喘息、鼻炎、気管支炎などに用いられる「小青竜湯」――いずれも、競技会前の服用は避けるに越したことはないでしょう。
市民マラソンのような一般的なスポーツの大会では、こうした厳しい規定はありません。例えば市民ランナーが寒い日の競技で体温の低下を心配し、体を温める効果があるからと葛根湯を用いることもあるようです。けれど、日本陸上競技連盟(JAAF)公認のレースでは御法度。もし仮に日本新記録が出たとしても、ドーピング検査で陽性反応と出れば記録も成績も取り消され、選手としての資格停止処分を受けることになってしまいます。選手と関わる場合、こうした事態に備える意味も兼ねて、練習日誌をつけるよう指導していくといいでしょう。練習(試合)内容、その日の体調、口にしたもの(クスリ・サプリメント、食事・おやつ)を記録していく。冒頭のような市販薬のケースでも、こうした記録と薬の購入履歴が残っていれば、故意ではないと認められ、数カ月の資格停止期間に低減されるかもしれません。
もちろん、日頃からきちんとした食生活をして、風邪をひかないコンディショニングを心掛けるのが一番です。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『食養生の物語』63 梅肉エキスとドーピング
連載『食養生の物語』63 梅肉エキスとドーピング
2018.08.25
記録的な猛暑の続く今年の夏、私を支えてくれているものの一つが「梅肉エキス」。梅肉エキスとは、青梅を濃縮したエキスのこと。梅干に向くほど黄色く熟する前に収穫した青梅の果肉を磨り潰し、絞った果汁を、元の青梅1kgから20gほどになるまで煮詰めたものです。非常に酸味が強く、クエン酸・リンゴ酸・コハク酸などの有機酸が豊富。疲労回復や血流改善、下痢・便秘、免疫細胞の活性化、静菌作用、食中毒予防・インフルエンザの予防、抗酸化作用など、効能を挙げればキリがありません。夏バテに対しても、クエン酸の作用が体内で生じる疲労物質の乳酸を分解し、基礎代謝を活性化することから、疲労からの早期回復が見込めます。梅肉エキスが知られるようになったのは、平成11年に特有の成分ムメフラールが発見されてから。ムメフラールは梅肉エキスの製造過程で生成されるもので、生梅や梅干には含まれません。テレビの健康番組で「血液サラサラ」が話題となったこともあって、一躍有名になりました。一時はドラッグストアや自然食品店の棚から梅肉エキスがなくなるほどでした。
ところで最近、某メーカーの梅肉エキスから、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める禁止物質「ボルジオン」(たんぱく同化ステロイド)が検出されるということがありました。これは自然界にも普通に存在するもので、含有量も極微量。実際にドーピングで効果を上げるほど摂取するには1日当たり2トン以上の梅肉エキスを飲まないといけない計算で、現実的ではありません。しかし、ドーピング検査の焦点は効果の有無ではなく、あくまでも「陽性反応の有無」。当該メーカーも「梅肉エキス中のボルジオンからの副作用、健康被害は存在しないと考えています」としつつ、「アスリート(競技者)の方は、ご使用を中止してください」とのコメントを発表しました。ドーピング検査の検体である尿から検出されれば引っかかってしまう可能性があるので、注意が必要だということです。
平成16年に国際オリンピック委員会(IOC)が実施した調査では、欧米で販売されているサプリメントのうち14.8%にたんぱく同化ホルモンが含まれていることが判明しています。こうしたことから、世界アンチ・ドーピング機構や国際陸上競技連盟(IAAF)は、 サプリメントの安易な使用はしないようにという声明を出しています。また、日本陸上競技連盟(JAAF)からは、「日ごろからバランスのよい食事を摂取するように心がけ、 良好な食習慣を身につけてください。そうすれば、必要な栄養素は食事から安全に摂取することができるのです」との見解を出しています。
治療者としてトップ・アスリートの治療・サポートにも関わることを考えるのであれば、日頃からこうした情報にも気を配っておきたいところです。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。