連載『中国医学情報』205 慢性皮膚掻痒症の鍼通電には高Hz―ランダム化比較の結果ほか
2022.04.10
1166号(2022年4月10日号)、中国医学情報、紙面記事、
今回の内容
・慢性皮膚掻痒症の鍼通電には高Hz―ランダム化比較の結果(鍼灸臨床雑誌、2021年6期)
・膝内側側副靭帯損傷の反対側への鍼治療―教科書の鍼法とのランダム化比較(鍼灸臨床雑誌、2021年12期)
☆慢性皮膚掻痒症の鍼通電には高Hz―ランダム化比較の結果
武漢科技大学付属武漢市漢陽病院・李凌霄らは、慢性皮膚掻痒症患者で異なる鍼通電Hz数の治療効果をランダム化比較(鍼灸臨床雑誌、2021年6期)。
対象=慢性皮膚掻痒症患者37例、平均50歳強(17~79歳)・平均罹患期間約3.5年(10週間~10年)。ランダムに高Hz群14例・低Hz群12例・薬物群11例の3群に分けた。4例が脱落し、最終的に高Hz群13例(男6例・女7例)・低Hz群10例(男4例・女6例)・薬物群10例(男5例・女5例)。
治療法=1クール連続7日で2クール。
<鍼通電>①取穴―上肢:曲池・合谷、下肢:血海・陰陵泉。②操作―0.25×50mmの鍼で垂直刺30mm前後、得気後に直流で高Hz群100Hz/低Hz群2Hz、連続波30分間。
<薬物>セチリジン塩酸塩(Cetirizine Hydrochloride)錠剤、1日1回10mg。
観察指標=①NRS(Numerical Rating Scale:0が痒みなし、10が想像できる最大の痒みとして、 11段階で程度を示す)。②ISS(The Itch Severity Scale:痒み重症度尺度で0点が痒みなし、1~7点が軽度、8~14点が中等度、15~21点が重度)。③バイオマーカー:血清中のIL-6とIP-10。
結果=臨床的効果は、高Hz群:著効10例・有効3例・無効0例・総有効率100%、低Hz群:著効5例・有効2例・無効3例・総有効率70%、薬物群:著効3例・有効3例・無効4例・総有効率60%。
観察指標(治療前→後)でも、高Hz群が他の2群より有意に良かった(P<0.05)。
①NRS―高Hz群:7.620±0.331→2.150±0.373。低Hz群:6.500±0.563→5.500±0.563。薬物群:6.800±0.467→4.300±0.396。
②ISS―高Hz群:10.150±0.355→4.850±0.355。低Hz群:10.100±0.605→7.700±0.716。薬物群:9.400±0.427→6.800±0.593。
③IL-6―高Hz群:4.460±0.606→1.950±0.371。低Hz群:4.300±0.651→3.100±0.348。薬物群:5.000±0.816→3.500±0.428。
③IP-10―高Hz群:537.769±26.367→777.938±29.913。低Hz群:558.130±39.471→660.600±32.004。薬物群:557.068±36.675→671.100±32.910。
☆膝内側側副靭帯損傷の反対側への鍼治療―教科書の鍼法とのランダム化比較
黒竜江中医薬大学・孫冬頴らは、スポーツ選手に多い膝内側側副靭帯損傷について、教科書の常軌鍼法と巨刺繆刺鍼法(症状のある反対側を刺す方法で、邪気が巨刺では経に、繆刺では絡にあるとする)を比較(鍼灸臨床雑誌、2021年12期)。
対象=外来の60例(男27例・女33例)、平均約26.25歳、平均罹患期間約25.16日。これをランダムに、常軌群・巨繆群各30例に分けた。
治療法=週4回、連続2週間。
<常軌群>梁繁栄主編『針灸学』。①取穴―内膝眼・外膝眼・陰陵泉・足三里。②操作―0.30×50mmの毫鍼で、内膝眼は後外方向に斜刺、外膝眼は後内方向に斜刺、他は直刺、深度は膝眼が20~30mm、他は40~45mm。平補平瀉、置鍼30分間。
<巨繆群>巨刺:①取穴―健側の合谷・太衝。②操作―同上鍼で、合谷は直刺40~45mm、太衝は直刺30~40mm。得気後に運動鍼法(耐えられるのを限度に患側の膝をゆっくり屈伸)、同時に捻転瀉法、これを3回行って鍼孔を按圧し抜鍼。
繆刺:①取穴―内膝眼・膝内側で痛点を探す。通常は健側の尺沢・曲沢。②操作―同上鍼で、尺沢・曲沢に直刺30~40mm、得気後に捻転瀉法と同時に運動鍼法、その後は同上。
観察指標=①主観的評価:VAS。②総合評価:リスホルム膝評価法(Lysholm Knee Scale:LKS、中国では跛行・関節不安定・腫脹・階段昇降・しゃがみこみの5項目を100点満点で評価。付記参照)。③バイオマーカー:血清中のIL-1・IL-6・IL-8。
効果判定基準=著効:LKS30点以上改善、有効:同上11~29点改善、進歩:同上6~10点改善、無効:同上5点以下。
結果=臨床的効果は、巨繆群:著効7例・有効14例・進歩8例・無効1例・総有効率96.67%、常軌群:著効3例・有効8例・進歩14例・無効5例・総有効率83.33%。
観察指標でも、巨繆群が常軌群と比べ有意差あり(P<0.05)。以下IL-6のみ紹介。
③IL-6―巨繆群:25.47±2.82→6.82±1.72。常軌群:26.46±2.48→11.59±1.29。
<付記>「その評価において,疼痛と不安定性に特に比重をおいて点数計算がされるが,その異なる比重点数を用いた換算法を裏付ける理論的な根拠は見出されておらず,多分に恣意的な側面を持っている」―吉田裕梨ら:患者主導的膝機能評価表The Knee Outcome Surveyの日本語版試作. 理学療法科学25(5):811–819,2010。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。