『医療は国民のために』305 青森国保連の療養費支給申請書紛失で思うこと
2020.10.23
9月上旬、青森県国民健康保険団体連合会で柔整療養費の支給申請書を紛失するという事故があった。紛失したのは8月請求分の9件で、職員が誤ってシュレッダーで破棄した可能性が高いという。青森国保連は、9月4日時点で申請書に関する問い合わせはなく、個人情報の流出はないとしており、事故後の対応については「請求代行機関に対して事故状況の報告と謝罪を行った」との発表を行った。 (さらに…)
『医療は国民のために』305 青森国保連の療養費支給申請書紛失で思うこと
『医療は国民のために』305 青森国保連の療養費支給申請書紛失で思うこと
2020.10.23
9月上旬、青森県国民健康保険団体連合会で柔整療養費の支給申請書を紛失するという事故があった。紛失したのは8月請求分の9件で、職員が誤ってシュレッダーで破棄した可能性が高いという。青森国保連は、9月4日時点で申請書に関する問い合わせはなく、個人情報の流出はないとしており、事故後の対応については「請求代行機関に対して事故状況の報告と謝罪を行った」との発表を行った。 (さらに…)
『医療は国民のために』304 健保組合のための「議連」が自民党に立ち上がった
『医療は国民のために』304 健保組合のための「議連」が自民党に立ち上がった
2020.10.09
先日、自民党内に「国民皆保険を守る国会議員連盟」という名称の議連が8月下旬に設立されていると聞いて、耳を疑った。なんと健保組合を支援する議連だという。8月27日に自民党本部で設立総会が開かれたようで、国会議員のほか、健保連本部・都道府県連合会など健保組合関係者も多数出席したようだ。設立趣意書には「支える側の現役世代の負担に配慮した高齢者医療費の負担構造改革が急務である」と明記されており、健保連議連あるいは健保組合議連と呼べるだろう。そして、会長には東京13区(足立区)を基盤とする鴨下一郎衆議院議員が就任し、「健保組合をしっかりと支えて、現役世代を応援する」と挨拶したという。 (さらに…)
『医療は国民のために』303 施術管理者研修の収益を保険者との信頼構築のために使っては?
『医療は国民のために』303 施術管理者研修の収益を保険者との信頼構築のために使っては?
2020.09.25
9月よりあはき療養費の受領委任でも施術管理者研修の申し込みがスタートするなど、柔整同様の適正化方策が着実に進捗している。同研修は、あはきが東洋療法研修試験財団、柔整が柔道整復研修試験財団と、ともに公益財団法人が「研修実施機関」となり、研修を主催している。 (さらに…)
『医療は国民のために』302 柔整・あはき業界も「マイナポータル参入」を考えてみては
『医療は国民のために』302 柔整・あはき業界も「マイナポータル参入」を考えてみては
2020.09.10
厚労省の柔整療養費検討専門委員会で、「電子請求」の議題が持ち上がって久しい。数年以上も議論を続けているが、実質何も進んでいないのは明らかで、いまだにモデル事業の実施に向けた準備を話し合っている状況だ。いつまで「ルール作り」に時間をかけるのか、不思議でならない。少なくとも、電子請求が「オンライン請求」のことを指しているのか、といった程度は明言してもらいたい。仮に、オンライン請求であるとすれば、内閣府が推し進めている「マイナポータル」への参入を議論しなればならないからだ。 (さらに…)
『医療は国民のために』301 あはきの令和2年度料金改定はどこへやら?
『医療は国民のために』301 あはきの令和2年度料金改定はどこへやら?
2020.08.25
今年度は、2年に1度の療養費の料金改定が実施される年だ。改定率は慣例的に「医科の半分」とされることで「プラス0・27%」と決まり、柔整療養費は6月1日より新料金で運用されている。あはき療養費も、じきに改定される……と思っていたが、一向に行われる気配がない。なぜなのか。
直近で開かれたあはき療養費の検討専門委員会は昨年9月だが、厚労省は今春の4月8日に開催を予定し、ホームページ上でも公式に発表していた。しかし、直前になって中止となった。「諸般の事情を鑑み開催を中止することとした」との理由で、世の中の状況からしても「コロナの影響か」と私を含めて多くの関係者も察したと思うが
(さらに…)
『医療は国民のために』300 あはき師の携帯用「免許保有証」を皆さん、知っていますか?
『医療は国民のために』300 あはき師の携帯用「免許保有証」を皆さん、知っていますか?
2020.08.07
あはき師の国家資格を保有していることを周囲に示す、顔写真付きの携帯用カード『厚生労働大臣免許保有証』の本年度の交付申請の受付が行われている。8月末までの締め切りのようだが、ご存じだろうか? 往療で患家を訪ねた際などには役に立つものと思うが、施術所においては免許証を掲示しておけば事足りると考えている私からすれば、その必要性をあまり感じず、交付手数料に4,000円もかかると知って、果たして入手するだけの価値があるのか、やや否定的な見解を持っている。 (さらに…)
『医療は国民のために』299 コロナ禍で自治体がリラク大手と手を組んだ!
『医療は国民のために』299 コロナ禍で自治体がリラク大手と手を組んだ!
2020.07.22
7月上旬、横浜市が新型コロナウイルス感染症に対応した医療従事者に向けて、「無償」でリラクゼーションサービスの提供を始めた。この取り組みに、リラクゼーション大手が協力していると知り、少々情けない気持ちになった。
コロナ患者の治療に携わる医療従事者への精神的・肉体的なケアに当たるなら、まさに鍼灸やあん摩・マッサージの施術はうってつけといえる。また横浜市は、「株式会社りらく」が運営する店舗『りらくる』のセラピストを派遣するそうだが、これはあはき業界が忌み嫌う「無資格者」そのものであり、有資格者として医業の一部を提供する立場から健康被害の危険性など含め否定的に捉えてきた経緯もある。
とはいえ、 (さらに…)
『医療は国民のために』298 骨格矯正や美容を謳う宣伝が柔整業界を滅ぼす
『医療は国民のために』298 骨格矯正や美容を謳う宣伝が柔整業界を滅ぼす
2020.07.10
柔道整復術は「美」を追求するものではない。何を今さら、の感もあるが、依然として巷で「柔整(接骨)理論を基に開発された美容のための骨格矯正技術です」といった宣伝文句を目にする。呆れるばかりだ。
そもそも柔整技術には「骨の矯正」という概念は無い。また、医師の領域でも、「骨の矯正」はあくまで観血的外科的手術によるもので、外部からの刺激で行うものなど存在しない。 (さらに…)
『医療は国民のために』297 柔整療養費の受領委任から健保組合が消える!?
『医療は国民のために』297 柔整療養費の受領委任から健保組合が消える!?
2020.06.25
コロナ禍の4月下旬に開かれた柔整療養費の第17回検討専門委員会で、健康保険組合連合会(健保連)の委員が、柔整療養費でも償還払いに移す行動を起こすとのショッキングな発言をした。一般傍聴無しのオンライン会議だったため、広く知れ渡ってないようだが、冗談ではなくなってきている。
健保連の発言には、▽昨年末に柔整団体が受領委任のルールを一方的に押し付ける文書を送り付けてきたことで、協定・契約の信頼関係が崩れ、今後の不正対策も改善する見通しが見いだせない、▽公的保険財政が崩壊の危機を迎える中、療養費の不正をこれ以上放置できず、保険者自らの機能で対策強化を図るしかない、などの理由・背景があり、今後、償還払いへの変更を希望する健保組合がいた場合、その意思を認めるというものだ。
(さらに…)
『医療は国民のために』296 柔整業界側が送り付けていた医科併給に関する「問題文書」の顛末に思う
『医療は国民のために』296 柔整業界側が送り付けていた医科併給に関する「問題文書」の顛末に思う
2020.06.10
柔整団体、主に日本柔道整復師会(日整)と健康保険組合連合会(健保連)との間でトラブルが発生している。原因は、以前に本欄で取り上げた「日整が保険者や行政に送った医科との併給に関する文書」だ。この文書で日整が主張したのは、①厚労省通知で示された様式例や国会答弁には法的拘束力はない、②留意事項(医療課長通知)に併給を制限する規定が存在しない、の2点の根拠を基に「併給は認められる」というもの。そして、この主張が誤りであったことは既に解説済みなので割愛し、ここでは「文書をめぐる事の経緯」に触れたい。
まず昨年のうちに、文書は日整から傘下の47都道府県柔整社団の会長宛てに送られ、周知されたようだ。次に、これを原案にし、昨年12月10日付で、日整と全国柔道整復師連合会(全整連)の会長連名で健保連の都道府県連合会長宛てに送付され、その後、東京の健保連本部にその内容が伝わった。最後に、今年2月20日付の文書が日整の保険部長の名で、地方厚生(支)局指導総括管理官宛てに発出された。二つ目の文書は第16回柔整療養費検討専門委員会に、三つ目の文書は第17回同委員会にそれぞれ保険者側から提出資料として出され、表沙汰になった。
(さらに…)
『医療は国民のために』295 柔整療養費の受領委任における「復委任」に思う
『医療は国民のために』295 柔整療養費の受領委任における「復委任」に思う
2020.05.25
昨年末、大阪の整骨院グループが、事実と異なる柔整療養費の請求を組織的に行っていたとの疑惑が報じられ、業界外でも大きな話題となった。このグループ内の整骨院の請求が関連の請求代行会社で一括提出されていたことから、2月に開かれた厚労省の柔整療養費検討専門委員会で「復委任」が俎上に載せられ、今後議論が展開される見通しだ。
そもそも、この「復委任問題」とは何なのか。まず確認したいのが、受領委任の取り扱いとは、療養費の申請権者である被保険者(国保の場合は世帯主)に支給される療養費を柔整師(協定及び契約上では「施術管理者」)が受け取ることを認めた事務処理である。そして、被保険者等が柔整師に療養費の受け取りを委任し、これを受けてさらに施術管理者が自分の属する団体の長に委任することを「復委任」と言っている。
ここで留意すべきなのは、被保険者が窓口では3割しか支払っていない事実と、一部負担金相当額である3割を控除した7割が保険者から支払われることから、柔整師にしてみれば患者に残りの7割の施術料を請求できる債権(残金請求権)がある一方、支給された療養費はあくまで被保険者に帰属するものだから患者に返さなければならない(受領金返還債務)が、この債権と債務が同額であることに鑑みて、柔整師の手元において相殺することで、結果的に療養費が被保険者等に支払われたとする事務取扱いなのである。厚労省の通知によれば、施術管理者の元で相殺処理が完結しているが、実際は、療養費の取り扱いを団体の会長宛てに施術管理者がさらに委任しているのが一般的である。
そんな中、保険者が「団体の長(会長とか理事長とか)が受領することは、国の通知では全く触れていない」ので、冒頭のような不始末が起きたと決め込み、「国の通知どおりに施術管理者の受け取りのみを認め、復委任に基づく組織団体への入金を阻止すべし」と、専門委員会の議論の場で主張し出したのだ。確かに施術管理者が所属団体の長へ受り取りを再度委任することは、厚労省通知のあずかり知らないところで、あくまでも民法の規定に基づくものということになるだろう。協定や契約の当事者として、地方厚生局長や都道府県知事が復委任を認めないと言えるのかどうか、ここは民法上の解釈の問題であることから、法令解釈上許容されるのかどうかが今後議論されることになろう。
とはいえ、「協定」に論拠を置く「包括としての復委任」として、「契約」とは異なることを理由に、協定だけが引き続き各都道府県柔道整復師会(社団)の会長やその傘下に位置付けられる協同組合理事長宛てに療養費の送金を認められるとなれば、同一資格・同一免許にもかかわらず、国が「ダブルスタンダード」を認容することにもなりかねない。このような判断をしないとは思うが、通知に何の規定もない復委任を、この際、明確にしておく必要はあるものと考える。
ちなみに、保険者が「認めない」と豪語しているが、保険者は協定や契約の当事者ではないのだ。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
『医療は国民のために』294 厚労省が柔整の請求代行団体を「ファクタリング」と認めないのはヘン
『医療は国民のために』294 厚労省が柔整の請求代行団体を「ファクタリング」と認めないのはヘン
2020.05.10
一般に「ファクタリング」とは、他人が有する売掛債権を買い取って、その債権の回収を行うサービスを指す。医科などの診療報酬明細書では、保険請求する債権が保険医療機関の「お金」であるから、入金前に現金化する債権譲渡、いわゆるファクタリングは日常的にも行われ、また、これを専門に取り扱う金融商品も出回っている。 (さらに…)
『医療は国民のために』292 療養費改定率で実施される「医科の半分」に思う
『医療は国民のために』292 療養費改定率で実施される「医科の半分」に思う
2020.04.10
あはき・柔整療養費の次期料金改定が迫っている。2年前の前回(平成30年度)改定では、プラス改定となった。療養費の改定率については、20年も前から続いている「医科の2分の1(半分)」というルールが存在していることは、周知の通りだろう。ちなみに、大昔にはなぜか「歯科の半分」ということもあったと記憶しているが、それはともかく、現在、この「2分の1ルール」(実際はルールというほどのものではなく、単なる申し送りに過ぎないが……)に対し、支払い側の保険者はもちろん、施術者側である業界も否定的な見解を示している。 (さらに…)
『医療は国民のために』291 団体所属の柔整師に直接返戻するのは姑息な手段だ
『医療は国民のために』291 団体所属の柔整師に直接返戻するのは姑息な手段だ
2020.03.25
施術者団体を介さず、柔整師に直接返戻をする保険者・審査会がいまだに散見されるが、これについて反論したい。当方はもちろん、施術者団体は会員である柔整師の保険請求の後方支援として、療養費支給申請書の再申請等を手がけており、返戻された際には制度・政策的な観点や医科学的な要素を踏まえて堂々と反論書を提出している。
また被保険者(患者)から、団体会長が受領委任に係る受取代理人に選任された上で復委任の選任も許諾を許されており、あくまで受領委任の当事者であることから第三者ではない。そもそも商取引上の常識からも、まず提出者に返戻するのが通常の事務処理であるのはいうまでもないだろう。
ところが、「上田が反論文書を作り、何度も何度も再申請してくるので、直接施術管理者宛てに返戻だ!」として、当方団体を無視するケースが生じており、極めて遺憾である。おまけに「直接返戻」によって、団体として入金状況の確認が把握できず、所属会員との間で無用なトラブルが発生する始末だ。 (さらに…)
『医療は国民のために』290 広告規制の行方について、「皆さん、本当にこれでいいんですか?」
『医療は国民のために』290 広告規制の行方について、「皆さん、本当にこれでいいんですか?」
2020.03.10
平成30年春から始まった『あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会』も既に8回もの会議を重ね、そろそろガイドライン(指針)が決定されようとしている。この機に再度、念押ししたい。業界関係者の皆さん、本当にこれでいいんですか? 中でも、あらゆる場面で「治療」という言葉が使用禁止にされ、施術所名に「整骨院」の名称が使用できなくなるといった理不尽な内容が最近示されたガイドライン案に盛り込まれているという点を、どのように受け止めているのだろうか。
柔整・あはき業界では、このように何かが「決まる、決まった」という際、自らの無能さをごまかすため、「悪いのは厚労省だ」と国のせいにすることがよくある。が、今回の医政局医事課の対応は、そうとばかりはいえない。できれば業界側からの要望を一つでも通そうとの配慮もうかがえる。例えば、あはきの施術所名に「業態名+治療院」を認めるとした原案を厚労省は提示した。ただ、医師会、保険者、自治体、そして患者団体からなる構成員の合意を得なければ、この配慮も意味をなさないのはいうまでもない。
厳しい現状において、残すところは「座長との高度な政治的判断」によるペンディングの箇所であり、この点をいかに業界寄りに仕切れるかどうかだ。「業態名+治療院」はここまでの議論で完全否定されているが、それでも「マッサージ治療院」、「はり治療院」といった名称は、政治的判断によるものであるから今後どうなるか分からない。国はあくまで公平・公正な見地から議論をテーブルに乗せており、敵ではないのは明らかで、決まるのは検討会の席上で顔を合わせている構成員の議論次第だ。
とはいえ、ガイドライン案では単に「治療院」とした施術所名などは認められないとし、「整骨院」もダメというのが基本路線となってしまっている。加えて「鍼灸整骨院」も広告不可。ガイドライン適用後の保健所による指導業務の煩雑さなどの実効性を鑑みて、「遡及適用しない」とは言うが、果たしてこの内容を本当に許していいのか? そもそも「治療」の文言を認めたくないとする理由も、医科・医師との混同により「医業」と紛らわしく、誤解を生じるからだという。残念ながら、本来あはき・柔整は医業の一部にもかかわらず、「医業類似行為」におとしめられているのが現状だ。また、「整骨」という表現も、これだけ認知されているのだから大臣告示に加えるだけで事足りるはずなのに……。不毛ともいえる議論を8回も続けてきた上で、なぜ結局認めないとの結論になるのか、疑問でならない。
それでも、今後ガイドラインは医政局長通知で示され、それ以降は広告に関する指導マニュアルとして浸透していくこととなろう。しつこいと嫌われるのを覚悟でもう一度言おう。「皆さん、治療院・整骨院・鍼灸整骨院が使えなくなっても、本当にいいんですか」。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
『医療は国民のために』289 柔整療養費と医科の「併給問題」が最近、にわかに騒がしい
『医療は国民のために』289 柔整療養費と医科の「併給問題」が最近、にわかに騒がしい
2020.02.25
1月の下旬以降、私宛てに柔整療養費と医科の「併給」に関する問い合わせが急増している。これについては、私が関わった審査請求でも棄却されており、鍼灸療養費と同様に困難であると、否定的見解を持っている。
そもそも、従来の厚生省保険局保険課課長補佐による平成11年10月20日付の内翰で「保険医療機関で治療を受けていながら、並行的に同じ傷病について、柔道整復師の施術を受けることは認められない」と明記されており、さらに、平成15年9月2日付の内閣総理大臣答弁書で「健康保険法においては…(略)…現に医師が治療を継続している疾患に対してはり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師又は柔道整復師が施術を行ったとしても、療養費を支給することは認められていない」との政府見解も出されている。
なぜ今になってこの種の質問が多数寄せられているのか。
実は、日頃より懇意にしている業界関係者から聞いたところ、「最近、日本柔道整復師会(日整)から併給は認められるとの考えが書面で示された」というのだ。 (さらに…)
『医療は国民のために』288 「保険者の裁量拡大」の風潮に思う
『医療は国民のために』288 「保険者の裁量拡大」の風潮に思う
2020.02.10
最近の柔整療養費の傾向として、支給決定に際し、ことさら「保険者判断」が強調されるようになってきた。この傾向はあはき療養費にも見られ、施術者団体として納得できない旨を保険者に伝えても、「療養費だから支給するもしないも保険者の勝手である」などと高圧的な言葉が返ってくる。しかも、行政に至っては「療養費なので最終的には保険者判断ですから」と何とも頼りない回答しかしてくれない。当然、療養費なので保険者が認めた場合が支給対象となる原則は理解している。が、何でもかんでも保険者の自由裁量によるものではないだろうと疑念を抱いてしまう。
療養費の支給条件を見てみると、「緊急其ノ他已ムヲ得ザル場合ニ於テ……保険者ガ必要アリト認メタルトキ」とされていた条文が、昭和55年の健康保険法改正の際に「緊急」の文言を削除した。この改正の趣旨は、できる限り客観的に療養費が支給されるよう、保険者による裁量の余地を狭めることによって、被保険者の便益と負担の軽減を図ることが狙いであった。その結果、個別具体的に支給の可否を判断することになり、療養費の取り扱いは広まっていったのだ。
しかし、最近の国の通知・事務連絡は、明らかに保険者による裁量の余地を広めることを目指し、さらに、被保険者に施術を受けさせることを抑制するかのような内容だ。これらは冒頭に挙げた保険者や行政側の態度から見て取れる。この最たるものが、昨年1月より開始されたあはき療養費の受領委任だ。受領委任を導入するかしないかの判断が保険者の自由であるため、いまだに多くの国保は実施しておらず、健保組合においてはむしろ償還払いへの移行が進んでしまった。
また、健保連からは、同じ療養費の柔整の取り扱いでも保険者の自由裁量を認めるべきだとの意見も出されている。健保連は今後、この柔整療養費への保険者裁量の導入を果たす前段階として、まずあはきの受領委任において、保険者自らの判断の下、特定の患者(被保険者)について受領委任を認めず償還払いに戻せる仕組みの導入を声高に主張してくるだろう。もしこれが実現するようなことになれば、保険者の指導に従わない者や多頻回・長期受療の者などを受領委任の取り扱いからピンポイントで退場させることが可能になる。柔整療養費にまでも適用されれば、償還払いへの移行が「加速度的」に進行してしまうだろう。
保険者、特に健保組合は、厳しい保険財源を前に支給の抑制しか考えてはおらず、40年前の法改正で被保険者の便益と負担の軽減を図ったことなど知ったことではない。私としては、法改正の趣旨や意図が消え失せてしまい残念だが、その原因の全てが不正請求の実態による信頼関係の喪失・欠落ということであれば、仕方のないことかもしれない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
『医療は国民のために』287 広告ガイドラインの周知徹底は社団らが他団体と連携できるかがカギ!
『医療は国民のために』287 広告ガイドラインの周知徹底は社団らが他団体と連携できるかがカギ!
2020.01.24
「あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会」の開催も既に8回を数え、広告適正化に向けた指導等の指針となる「ガイドライン案」も厚労省から提示され、ようやくまとまりつつあるようだ。今回は、施術者の多くがその行方に着目している、ホームページの規制に関する取り扱いに触れてみたい。
ご存じの通り、今やインターネット上での情報発信は、最も効果的な広告戦略といえる。しかも、ホームページの情報は、患者が自分で情報を求めて検索すると位置付けられており、「広告の定義」の3要素の一つである「認知性」に触れない。すなわち、単なる情報提供とみなされるので、法令上は「広告に当たらない」と整理できる。よって、あはき・柔整の施術所を広告規制の対象にするにも、法律改正を行わなければ、施術所のウェブサイト等は広告に該当しない。しかし、広告検討会では、医科の取り扱いと同様にウェブサイト等の表示内容にも切り込んでいかなければならないのは、言うまでもない。そこで、規制の対象外としつつも、法改正が行われるまでの当分の間(3年後となるか、5年となるか?)、「業界内の関係団体による自主的な取組みを促す」という形で、ガイドライン上で仕切ろうとしている。厚労省としてもこうするほか無いのであろう。
私が注目したいのは、昨年11月14日の第8回検討会の議論で、出席した構成員の一人が「関係団体等とは、どこを指しているのか。今日来ている団体を指しているのか?」と質問したところ、事務局を務める厚労省医政局が「“業界全体”でまず自主的な取り組みを行ってほしい」と回答した点だ。
現在、検討会に構成員を出している施術者団体は「日本柔道整復師会・日本鍼灸師会・全日本鍼灸マッサージ師会・日本視覚障害者団体連合」のわずか4団体である。ここは、それら以外の団体にも幅広く働きかけ、実効性の伴う自主的な取り組みをしていかねば、とてもではないがガイドラインの周知などできない。今後、これらの4団体は「我々はきちんと取り組んでいるが、他団体が何もやらないし、やってくれない」と主張するのではなく、むしろ率先して他団体に働きかけていくことが求められるし、厚労省もそれを期待しているのではなかろうか。もしそうでなければ、先の質問に対し、厚労省は「関係団体とは本日、検討会に出席しておられる皆さんの団体です」と即答できたはずである。
またガイドライン案では、無資格者(非医業類似行為?)に関しても、「関係団体等による自主的な取組みを促す」と示されており、検討会に出席の4団体が、他団体との調整や団体に属さない者への対応という点で重要になってくるのは間違いない。相も変わらず、「他の団体や個人施術者のことなど知ったことではない。何か言いたいなら社団会員になればいい」との考えのままであれば、業界全体への周知徹底など全く期待できない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
『医療は国民のために』286 柔整・あはきが生き残るには「助産師にならえ」
『医療は国民のために』286 柔整・あはきが生き残るには「助産師にならえ」
2020.01.10
私の周囲には「治せる柔整師・あはき師」が大勢いるが、その施術者の療養費申請でさえなかなか支給されなかったり、整形外科からもバッシングを受けたりと、療養費に対する風当たりが一層厳しくなってきている。食べていけないから、業界を去る者も当然続出する。一方、治療技能に本当に秀でた者は、保険医療機関にその活躍の場を広げていけるのではと私は考えている。なぜなら、助産師がそのような過去を通ってきたからだ。
かつて、戦前はもちろん、戦後の一時期まで大いに活躍したのが「産婆さん」だ。独立開業で院を構え、出産時の取り上げや出産前後における妊産婦のあらゆるお世話をした。ただ、産科婦人科学の発展とともに戦後はその姿が消え、代わって助産師が国家資格として誕生した。産科において、プロフェッショナルの専門職として助産師は生まれ、現在では開業もできるが、その多くは保険医療機関における助産行為に限局したパラメディカルスタッフとして、産科医の信頼に応えながら業務に就いている。看護師よりも上級の資格と位置付けられていることから、看護師が併せて助産師の資格を取得するのもうなずける。そもそも、柔整師やあはき師が行う施術が治療行為というのであれば、医療機関で行われてはいけないはずがない。むしろ、積極的に医療機関内で行われるべきだと考える。かつて、鍼灸施術は医療機関で行われるものではないとされ、もし行われたなら罰するとか、治療費を有料で徴収したなら罰するとか言われてきた。しかし、時代は既に大学病院の付属医療機関で、医師の指示の下、何のおとがめもなく施術することができ、しかも混合診療禁止の概念に捉われることなく、有料で施術を行える医療機関が20以上も存在しているのだ。
そう考えると、今後、保険医療機関内で柔整師とあはき師は正々堂々と自らの免許資格をもって、医師の指示の下に施術を行い、その対価として病院から給与をもらうことを目指すべきだ。さらには、保険医療機関が柔整・あはきの施術メニューで診療報酬明細書を請求する。言い換えれば、使い勝手の悪い療養費からの脱却であり、診療報酬に正当に組み込まれた柔整・あはきの施術料の獲得である。これが新たな保険請求枠の拡大ということになろう。
今やコンビニよりも多いと揶揄される鍼灸整骨院だが、養成施設の定員問題も含め、やがて常識の範囲内の数に落ち着く日がやって来る。療養費でまだ何とか食いつないでいける現状において、いち早く助産師のたどった道に学び、医療機関内で堂々と働ける環境づくりに着手すべきである。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
『医療は国民のために』285 「非医業類似行為」を持ち出して、何がしたい?
『医療は国民のために』285 「非医業類似行為」を持ち出して、何がしたい?
2019.12.25
11月に広告ガイドライン案が厚労省から提示され、今年度末のガイドライン策定に向け、「あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会」もいよいよ詰めの作業といったところだろうか。ここまで、施術者側と医師会・保険者側の言い分は相容れず、電話相談で日々患者の苦情等に接している患者団体からは柔整・あはき業界に否定的な発言も飛び出している。多少は致し方ないのかもしれないが、ガイドライン案で急に持ち出された「非医業類似行為」だけは絶対に許してはならないと警告しておきたい。
厚労省の考えでは、「非医業類似行為」でアロマテラピー、リフレクソロジー、整体、カイロプラクティック等を一括りにし、無資格者もガイドラインに適用して、決して放置などしていないと主張したいのだろう。そして、もう一つの狙いとして、あはき・柔整こそが「本当の医業類似行為」であると特定したいのだろう。
だが、私が過去に何度も述べてきたように、医業類似行為とは「よく分からない温熱療法や電気的物理療法」などを指し、「インチキ療法やペテン、まがいもの」といった侮蔑的といえる意味合いが強いものだ。少なくとも国家資格者の業務を指す訳がない。
しかも、本来あはきと柔道整復は「医業の一部」であって、医師法上は医師が行う医業において、柔整師やあはき師がその本来業務を行うに当たっては「限定解除」されているのである。さらに言えば、整体やカイロプラクティックは、法令上は「あん摩・マッサージ・指圧」の「指圧業務」であり、整体師やカイロプラクターがあん摩マッサージ指圧師の免許を取得しさえすれば、何の問題もなく施術行為ができるのだ(免許を持たず、整体・カイロを行うことを正しくは「無資格施術」という)。
ところが、整体師やカイロプラクターは免許を取りたがらず、国も野放しにしてきたことで、無資格問題が大きくなり、ここにきて、今度は「非医業類似行為」を定義したいという。広告検討会は歴史的な沿革を何も知らない方々の集まりなのであろうか。
ちなみに、「医業類似行為」と似たような用語で「医療類似行為」がある。こちらは医療を行うのは「医師のみ」であるが、医師が全てを行うのは事実上困難であることから、国家資格を得たそれぞれの専門職スタッフがパラメディカルとして医師を支え、医師の指導監督の下、医療を提供するとの考えに基づき定義されている。あはき・柔整は、独立開業資格であって、医師の指導監督を受けないということが前提だが、「医療類似行為」とされることはあろう。
しかしながら、本当に「非医業類似行為」という造語を定義するのであろうか。「末代までの恥」となってしまうことを案じてやまない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。