連載『柔道整復と超音波画像観察装置』187 診察における超音波(エコー)検査の位置付け
2020.10.23
後藤陽正(筋・骨格画像研究会)
足関節捻挫の症状は様々である。靱帯の単独損傷や腓骨先端の裂離骨折の合併、内反強制により脛骨と距骨とが衝突して起こる骨挫傷など、骨折も視野に入れて慎重に診察する外傷である。大抵は足関節外果前下方から下方の強い腫脹や前距腓靱帯部の圧痛など靱帯損傷特有の症状である。診察の際に不安要素が除去できない場合は整形外科への紹介が必須と考える。今回の症例は骨折所見も乏しく典型的な捻挫と判断したが、腓骨先端部の疼痛を訴えたので確認のためにエコー検査を実施した。
エコーで受傷箇所の前距腓靱帯上を観察した【画像①】。凹凸が激しい外果像と角状の距骨像が出現し、前距腓靱帯を同定することが困難であった。通常は半円の外果像と平坦な距骨頚部像の間に縞模様の前距腓靱帯像が映し出される。次にピボット操作(外果を中心に下方へ扇状に走査)に切り換え、観察を行った【画像②】。しかし平坦な距骨頚部像を映し出すことは一向に困難で、観察中、外果、距骨の構造は不整を呈し、正しい位置関係ではなかった。
外果の観察【画像③】では骨の分離像が明確に映し出され、分離像近くに骨折を示唆する血腫像(低エコー像)はなく、外果表層の組織上に捻挫による血腫が低エコーに確認された。骨折を示唆する所見は乏しかったが、エコー検査にて分離像が確認されたことから、念のために整形外科へ紹介。レントゲン撮影【画像④】及びエコー検査の結果、分離像は昔の裂離骨折が陳旧性となったもので、明らかな骨折はなく、靱帯損傷のみとの診断であった。
今回の症例では、エコー検査の前の念入りな問診、視診、触診など柔整師が行う診察が非常に重要であると痛感した。もしエコー検査を最初に行っていたら、「分離像=骨折」と大誤診を招く可能性があった。患者からの聴取、患部状態の時系列、長年の経験などから足し算・引き算ではないが、靱帯損傷所見と骨折所見どちらのウエートが高いかなど、多角的にそして慎重に診察を進めなければならない。その中で、必要があればエコー検査を行い、自分の判断とエコー画像は合致しているのか否かを確認すればよいと考える。エコー検査が絶対ではないが、自分の見立てを後押ししてくれるツールでもある。今回はそのことを再確認した。