連載『医療再考』8 これからの医療・健康は検索から始まる~情報コミュニティーで検索されるには~
2019.10.10
1106号(2019年10月10日号)、医療再考、
医療や健康に関する情報や商品は、かつて「簡単に入手できない、難しいもの」であり、「医師などの専門家から提供されるもの」でした。そのため、病院や治療院が、病気や健康の相談をする場として大きな役割を果たしてきたのです。
しかし、数十年前からテレビの健康番組や雑誌の特集、書籍などのマスメディアによる情報の拡散が主流になり、誰でも簡単に情報や、商品そのものを入手できるようになりました。健康番組や雑誌で取り上げられるたびに、その商品が飛ぶように売れ、品薄になってしまうような事態も珍しくありません。しかし、そうした情報は病気や健康の一部の側面を捉えているだけで必ずしも個々のニーズに合っていないことも多いため、逆に、より強く自分に合った情報が求められるようになりました。そんな時に役に立つのがインターネットによる情報検索です。インターネットから得られる情報はバリエーションに富み、個々のニーズに合った情報を簡単に入手できることから、健康に限らず、情報収集や商品選定の主流となっています。今や、健康や病気に関する情報集めは、病院で話を聞くことからではなく、インターネットの検索から始まるのです。
しかし、そこには二つの問題があります。一つ目は情報の信憑性です。メディアやインターネットから発信される情報は必ずしも正しいものではなく、誤りや作為的な情報も含まれています。誤った情報を拡散してしまった場合には、その責任を取ってテレビ番組が打ち切りになったり、医療サイトが閉鎖に追い込まれるなどという事態も起きています。特に、我々鍼灸師や柔整師は、インターネットを介して情報を発信する側にいるため、情報発信のあり方や情報の信憑性の担保には細心の注意が必要です。最悪の場合、情報コミュニティーから我々が締め出されてしまう可能性もあるでしょう。情報コミュニティーに我々が加わり、選択肢の一つになるためには、「へルスリテラシー」を強く意識しなければならないのです。
二つ目は、検索の結果から、どのようにして医療・健康行動に導くかという問題です。情報を得ただけでは問題は解決せず、その後にどうすればよいのかという行動が必ず伴います。ICT環境下で様々な情報をつなぎ合わせることで解決に導く情報コミュニティーが求められているのは、そのためでもあります。情報コミュニティーと強いつながりを持つ情報、言い換えればそこで必要とされる情報を提供しなければ、検索しても我々の情報が選ばれることはありません。情報は持っているだけでは意味がなく、その情報を基軸に「どのようなつながりを作れるのか」こそが、インターネット検索から始まる医療において中心にいるためのポイントなのです。情報の質や量だけが物を言う時代はもう終わりです。他の情報とのつながりを意識した情報ネットワークの構築こそが、これからの鍼灸・柔整業界が勝ち残るためのカギとなっていくでしょう。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。