連載『中国医学情報』161 谷田伸治
2018.08.10
☆頭蓋脳外傷患者の去痰促進に天突穴按摩
杭州市の浙江省中医病院・呉小飛らは、頭蓋脳外傷患者の去痰促進には天突穴按摩が良いと報告した(上海鍼灸雑誌、18年02期)。
対象=同院ICUで頭蓋脳外傷治療を受けている50例(男35例・女15例)、平均年齢約53歳(31~72歳)。いずれも意識障害の分類GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)のスコアは8点未満、積極的外科処置で病状は安定、CT再検査では活動性の出血はなく原出血巣は吸収されており、気管挿管のチューブは抜去されている。これをランダムに常軌群・按摩群各25例に分けた。
治療法=両群とも現代医学の常軌治療・看護。噴霧療法後に背中を強く叩打し、去痰を促す。毎日2回の口腔ケア。
<按摩法>噴霧療法後、気管挿管のチューブを抜去し、吸気が終わる頃に拇指か示指で天突穴を按摩する。同時に横向きに滑らせる。力は軽から強へ、咳反射を誘発するのを適量とする。按圧3~5回を1治療とし、毎日朝昼晩の3治療。連続3日治療。
観察指標=連続3日間、毎日朝昼晩3回の治療前後の動脈血酸素飽和度(SpO2)と、無気肺(肺拡張不全)・不整脈の発生状況。気管挿管の再挿管率。連続3日間、毎日3回治療後の咳反射・去痰の誘発状況。
結果=いずれの指標も、按摩群が良好。
1.SpO2―①常軌群:治療前平均92.96%→治療後平均94.12%、②按摩群:93.52%→97.16%。
2.無気肺・不整脈の発生状況―①常軌群:無気肺6例・不整脈8例、②按摩群:無気肺1例・不整脈2例。
3.再挿管率―①常軌群:4例(16%)、②按摩群:0例。
4.咳反射・去痰の誘発状況(総治療回数各群225回)―①常軌群:有効回数143回・有効率63.6%、②按摩群:有効回数212回・有効率(94.2%)。
☆ドライアイ患者に円皮鍼併用治療
成都中医薬大学・馬宏傑らは、ドライアイ患者で点眼薬(0.1%ヒアルロン酸ナトリウム)単独と円皮鍼併用治療とを比べた(中国鍼灸、18年03期)。
対象=患者80例160眼(男43例・女37例)、平均年齢約42.5歳、平均罹患期間約10.5週。これをランダムに薬物群・併用群各40例に分けた。
治療法=両群とも2週間治療。
<円皮鍼治療>①取穴―A)攅竹・糸竹空・四白、B)印堂(眉間中点)・魚腰(眉毛中点)・太陽(眉毛外端と目尻との中点のやや後方)。②操作法―毎週1回。ABを毎回交互に使用。置鍼期間2~3日、毎日3~4回(4時間間隔)指圧1分間。
観察指標=主観症状評価スケール、BUT(涙液層破壊時間)検査、シルマーテスト(5分間の涙分泌量測定)、CFS(フルオレセイン角膜染色)スケール。
結果=薬物群―著効18例・有効16例・無効6例・総有効率85.0%。併用群―著効29例・有効7例・無効4例・総有効率90.0%。
☆女性のうつ病に対する鍼併用治療-シャム鍼併用治療との比較
広州の広東省中医病院婦人科・劉建らは、うつ病の女性患者に対して抗うつ薬治療を行い、鍼併用治療の効果を、シャム(擬似の意)鍼併用治療と比べた(中国鍼灸、18年04期)。
対象=患者42例、平均年齢約43歳、平均罹患期間約35カ月。いずれも2011年の国際疾病分類(ICD-11)で診断され、最近1カ月以内に抗うつ薬の薬物治療なし。これをランダムにシャム群・併用群各21例に分けた。
治療法=両群とも塩酸フルオキセチンを毎日1回20mg服用で8週間治療。
<鍼治療>①取穴―中脘・下脘・気海・関元・商曲。②操作―患者は仰臥位。プラスチック製鍼管つきの鍼(0.22×40mm)で直刺(15~20mm)し置鍼20分(置鍼中は腹部にプラスチック製のかごを置き布団をかける)、最初の3日間は毎日1回、その後は3日1回、計8週間。
<シャム鍼治療>同上のツボへ、鍼は使用せず鍼管での叩打刺激のみ。他は鍼治療に同じ。
観察指標=SDS(うつ病自己評価尺度:本人が20の質問に答える心理検査)、MADRS(Montgomery Asbergうつ病評価尺度:10項目の診断用の質問票)。
結果=①SDS:シャム群―著効0例・進歩8例・無効13例・総有効率38.1%。併用群―著効4例・進歩14例・無効3例・総有効率85.7%。②MADRS:シャム群―著効4例・進歩8例・無効9例・総有効率57.1%。併用群―著効10例・進歩9例・無効2例・総有効率90.5%。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。