第14回社会鍼灸学研究会 戦後、あん摩分離した法案が存在
2019.09.10
第14回社会鍼灸学研究会が8月3日、4日、筑波技術大学春日キャンパス(茨城県つくば市)で開催された。『これからの社会と新たな日本鍼灸の形を求めて』をテーマに、現代社会との関わりや歴史などの視点から発表が行われた。
奥津貴子氏(呉竹鍼灸柔整専門学校教員)は、戦後のGHQによる占領統治下で国会提出まで至らず、幻の法案となった『あん摩術営業法(案)』について発表。法案制定の動きは、戦後に制定された『あん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法』の最初の改正前(昭和26年前)に起こり、鍼灸師初の国会議員・小林勝馬が議員立法として提案した。内容は鍼、灸、柔整から「按摩」を分離させて単行法とするもので、さらに、マッサージは疾病治療といった「治療目的」、按摩は疲労回復といった「慰安目的」との考えの下、按摩を医療的施術から除外し、病人を対象としないとした。奥津氏は、古来より按摩を生業としていた視力障害者の生活保障のほか、終戦を機に自らの社会的地位向上を図ろうとした業界の思惑が背景にあったと推察した。意外にもGHQからは承認を得ていたが、業界内部であん摩師の粗製濫造を招くなどの反対意見が多く、最終的に国会への提出は見送られたと説明。法制化されなかったため、出来事として教科書等に載っていないが、今も抱えている業界の課題と相通じるものがあり、重要な「歴史的事実」だと説いた。
前述の小林勝馬については、森一也氏(京都仏眼鍼灸理療専門学校教員)が発表テーマに取り上げ、参議員在職中(昭和22年から約3年間)に国会等で「あはき」に関する質疑(発言)をどの程度行っていたのかの調査結果を報告した。全199の発言のうち、あはき関連は7件で、▽生活保護法案の医療給付の医療扶助に対する質問、▽あはき柔整等営業法に関する特例案の趣旨説明、▽業界団体からの要望、等の案件であったと説明。ただ、約4割に当たる発言が逓信関連であり、あはき業界団体の支援を受けつつも、議員としてのライフワークは別にあったのではと推察した。
西洋医学と融合か、独自性追求か
模索続ける日本鍼灸
同研究会代表の形井秀一氏(筑波技術大学名誉教授)は、日本鍼灸の特色について概説。明治期は、近代化の波の中で西洋科学的な実証を基礎とした鍼灸に傾きざるを得ず、戦後になって、その西洋医学の問題点を指摘し、相対的優位性を強調した経絡治療などの古典的鍼灸が台頭したと説明。ただ、現在の鍼灸学校教育ではこれらを折衷した鍼灸師を養成している実態にあり、また江戸期にも各流派の折衷(漢蘭折衷)が見られた歴史を鑑みて、西洋医学との融合か、独自性を追求か、で常に模索していると述べた。
このほか、オーストラリア人鍼灸師のベンジャミン・チャント氏の講演『The Characteristics of Japanese Acupuncture』などが行われた。