Q&A『上田がお答えいたします』 支給済み療養費の返納事務について思うこと
2020.01.24
Q.
療養費の請求業務も行う施術者団体の者です。先日、支給済みの療養費について、保険者から返納を求める文書が届きました。これには応じなければならないのでしょうか。
A.
最近、支給されてから相当の時間が経過した後になって「療養費を返納してほしい」と求められるケースが多くなってきましたね。まずは、その理由が正当なのかを確認する必要があります。それが妥当であるならば、求めに応じなければならないでしょう。不正請求が判明したのであれば、単に返納に応じるだけでは済まされません。個別指導や監査に発展し、最悪の場合、療養費の受領委任取扱いの中止措置を受けることになります。例えば自主返納を含めた監査の結果によっては、当局から施術管理者に直接返納の指導があるでしょう。また、単なる事務処理の誤りや勘違いの場合であれば、「実際に振り込んだ先が貴団体の口座なのだからそちらに返納を求める」と保険者が言うのは筋が通っています。一方で、保険者が「支給すべきではなかった」とした理由に会員及び施術者団体が納得できないのであれば、被保険者に相談した上で審査請求をすることができます。審査請求書の提出先は、協会けんぽや健保組合ならば管轄の地方厚生局に置かれる社会保険審査官、国保の場合は都道府県国民健康保険審査会、後期高齢者医療広域連合であれば都道府県後期高齢者医療審査会が審査請求担当窓口となります。
保険者は支給決定を行っており、これを「原処分」といいます。これを取り消すには、不支給決定通知書を発出する場合と同様に、その理由を明らかにした「支給済療養費取消決定通知書」を発出し、被保険者に対し、その旨を通知するべきです。またこの通知書では、これも不支給決定通知書と同じように、処分に不服がある場合には3カ月以内に審査請求ができる旨の「教示」をしなければならないでしょう。単なる返納を求める「ご案内」だけでは原処分に対する取消決定がなされていないことから、応じることは法的にできないと主張できるでしょう。そもそも、支給済療養費取消決定がなされたということは、療養費不支給決定という処分が必要となるのではないかとも思われますが、受領委任の取扱規程には支給済みの療養費の返納に係る具体的事務処理方法は明記されていません。また、求められた金額の全てを返納しなければならないのかどうかは、保険者と議論や交渉を重ねた方がよい場合があります。例えば、「保険者が長期間にわたり何の調査も確認も行わずただ支給を続けていた場合、本来支給すべきではなかったものを支払い続けてきたことに落ち度はないのか」「問題を放置した責任による按分負担や返納額の減額措置及び分割納付の考えはないのか」といった観点から、当然のことながら交渉の余地があると言えます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。