Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
2020.02.25
Q.
往療専門のあマ指師です。今後、往療料が距離に関係なく定額化されるとか、施術料と統合して新たに「訪問施術料」が設定されると聞きました。
A.
近々、あはき療養費検討専門委員会の議論が再開されますね。6月には2年に1回の料金改定が実施予定なので、 (さらに…)
Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
Q&A『上田がお答えいたします』 「訪問施術料」新設の構築に期待
2020.02.25
Q.
往療専門のあマ指師です。今後、往療料が距離に関係なく定額化されるとか、施術料と統合して新たに「訪問施術料」が設定されると聞きました。
A.
近々、あはき療養費検討専門委員会の議論が再開されますね。6月には2年に1回の料金改定が実施予定なので、 (さらに…)
Q&A『上田がお答えいたします』 これまでの「整骨院」は認めるがこれからの「整骨院」は認めない
Q&A『上田がお答えいたします』 これまでの「整骨院」は認めるがこれからの「整骨院」は認めない
2020.02.10
Q.
広告規制のガイドラインはいつまでたっても出ませんね。広告の検討会での議論のポイントだけでも教えてください。
A.
厚労省が事務局となって議論を進めてきた広告の検討会も8回目でほぼ問題点が出尽くした感があります。今後は早急にガイドラインのとりまとめに着手していくでしょう。私が着目しているのは以下の4点です。
まず、「『治療院』という表記を認めない」。私たち治療家は患者さんの疼痛を取り除き治癒に導く施術を提供しています。これは治療ですが、広告検討会では「治療」の表記を認めないといいます。だから「治療院」は広告できなくなります。
次に「『鍼灸整骨院』を認めない」。鍼灸と柔整は法律が異なり専用の施術室も異なるのだから、併記してはダメだというのです。
3点目は「『整骨院』も認めない」。厚労大臣告示によれば「ほねつぎ又は接骨」とあるのだから接骨院はよいが整骨院はいけないというのです。
そして、「ガイドライン発出後から適用して従前の届出済みの施術所には遡及しない」ということになっているのですが、そうなると将来長きにわたって整骨院と接骨院が混在し続けることになり、ダブルスタンダードができてしまいます。法令用語で「当分の間」とは実質的に永久を指すようにも思われますが、それなら全て認めるということでいいではありませんか。こんな表記にこだわって認めないなどと何の意味があるのでしょうか。患者さんが医師と施術者を間違えたり、治療院と医療機関を混同したりすることなどあるでしょうか。表記や広告の問題は全て、あはき・柔整が医業ではなく医業類似行為とされてしまったことが原因です。あはき法の規定の解釈どおり、あはき・柔整が医業の一部であると認識できれば、議論の問題点はおおむね解決できるのに、そうはなっていません。
広告のガイドラインは3月までに策定され、1年間の周知期間を設けて、令和3年度の実施となるようタイムスケジュールが組まれそうですが、詳細はまさにこれからというところです。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 支給済み療養費の返納事務について思うこと
Q&A『上田がお答えいたします』 支給済み療養費の返納事務について思うこと
2020.01.24
Q.
療養費の請求業務も行う施術者団体の者です。先日、支給済みの療養費について、保険者から返納を求める文書が届きました。これには応じなければならないのでしょうか。
A.
最近、支給されてから相当の時間が経過した後になって「療養費を返納してほしい」と求められるケースが多くなってきましたね。まずは、その理由が正当なのかを確認する必要があります。それが妥当であるならば、求めに応じなければならないでしょう。不正請求が判明したのであれば、単に返納に応じるだけでは済まされません。個別指導や監査に発展し、最悪の場合、療養費の受領委任取扱いの中止措置を受けることになります。例えば自主返納を含めた監査の結果によっては、当局から施術管理者に直接返納の指導があるでしょう。また、単なる事務処理の誤りや勘違いの場合であれば、「実際に振り込んだ先が貴団体の口座なのだからそちらに返納を求める」と保険者が言うのは筋が通っています。一方で、保険者が「支給すべきではなかった」とした理由に会員及び施術者団体が納得できないのであれば、被保険者に相談した上で審査請求をすることができます。審査請求書の提出先は、協会けんぽや健保組合ならば管轄の地方厚生局に置かれる社会保険審査官、国保の場合は都道府県国民健康保険審査会、後期高齢者医療広域連合であれば都道府県後期高齢者医療審査会が審査請求担当窓口となります。
保険者は支給決定を行っており、これを「原処分」といいます。これを取り消すには、不支給決定通知書を発出する場合と同様に、その理由を明らかにした「支給済療養費取消決定通知書」を発出し、被保険者に対し、その旨を通知するべきです。またこの通知書では、これも不支給決定通知書と同じように、処分に不服がある場合には3カ月以内に審査請求ができる旨の「教示」をしなければならないでしょう。単なる返納を求める「ご案内」だけでは原処分に対する取消決定がなされていないことから、応じることは法的にできないと主張できるでしょう。そもそも、支給済療養費取消決定がなされたということは、療養費不支給決定という処分が必要となるのではないかとも思われますが、受領委任の取扱規程には支給済みの療養費の返納に係る具体的事務処理方法は明記されていません。また、求められた金額の全てを返納しなければならないのかどうかは、保険者と議論や交渉を重ねた方がよい場合があります。例えば、「保険者が長期間にわたり何の調査も確認も行わずただ支給を続けていた場合、本来支給すべきではなかったものを支払い続けてきたことに落ち度はないのか」「問題を放置した責任による按分負担や返納額の減額措置及び分割納付の考えはないのか」といった観点から、当然のことながら交渉の余地があると言えます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 業界の近い将来を予測してください
Q&A『上田がお答えいたします』 業界の近い将来を予測してください
2020.01.10
Q.
最近の上田さんは「療養費は絶滅だ」と言われますが、もう少し丁寧に業界の直近の未来を予測してください。
A.
確かに私は、一昨年の療養費の大改正を柔整・あはき療養費の「絶滅の始まり」と位置付けています。柔整療養費では、「亜急性」の削除により亜急性の発生機序が外傷性と認められず、かつ慢性が支給対象外とされたことから、「関節可動域を超える外力」「捻った事実」の明確な負傷原因を徹底的に求められています。そして今後2部位、1部位にも負傷原因を求められれば、たちまち療養費請求は困難となり、現在70団体程度あるだろう療養費請求代行団体は壊滅に追い込まれること必至です。なぜなら会員が負傷原因を書けないため請求をしなくなり、手数料収入が無くなるからです。今年の料金改正に向けた議論のポイントは、①料金単価は相変わらず5円、10円アップ程度だが、一方、骨折・脱臼は引き上げが見込まれる、②2部位・1部位にも負傷原因を求められる、③毎回署名を求められる、④特定の患者には受領委任払い⇒償還払いへの移行を保険者判断で実施できる、の4点で、何のメリットも無く期待できません。
そんな中でのチャンスといえば、団塊の世代が75歳以上となる“超超”高齢化社会です。運動器の慢性疼痛患者の激増で保険医療機関は大パニックになり整形外科でも患者さんへの診察対応が困難となることが想定されます。これをどうするかです。
これら想定される環境下から見いだされる業界の直近の未来像は、開業施術所の場合、「運動器の慢性疼痛疾患患者への『自費メニュー』を主な収入源とするが、患者保護の見地から急性期は療養費を取り扱う(全部を自費にするのは施術者のエゴです)」というやり方。一方、開業以外の立場では、新たな医療提供の体制下における保険医療機関内での勤務ということで「医科の診療報酬体系での点数化の獲得(療養費から診療報酬への転換)」。具体的には「保険医療機関内でパラメディカルスタッフとの位置付けで、チーム医療の体制に組み込まれる」というものが考えられます。その最終的な在り方は、助産師のようなものかもしれません。助産師は昭和30年代には「産婆さん」という名で親しまれ、独立開業資格として活躍していました。産婦人科学の学術的な発展や産婦人科医師の充実により産科の現場も変容し、現在では、助産師は産婦人科の保険医療機関に勤務して分娩に当たっての主導的地位を確立しています。助産師と医師が一致協力して、それぞれの担当持ち分をきちんと住み分けて業務を行っているのです。柔整師もあはき師も同様に、保険医療機関においてそれぞれの担当持ち分を得て、医師等の他のスタッフと一緒になってチーム医療体制の一翼を担う形になっていくものと考えます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 1部位目からの負傷原因記載が義務化されると請求代行団体は潰れる?
Q&A『上田がお答えいたします』 1部位目からの負傷原因記載が義務化されると請求代行団体は潰れる?
2019.12.25
Q.
今後の柔整療養費検討専門委員会での議論で1部位目からの負傷原因の記載が義務化されたら、療養費の請求代行団体は少なからず潰れていくのではないでしょうか。
A.
昨年の療養費検討専門委員会での議論を経て「亜急性の負傷」としての捻挫は一掃されてしまいました。亜急性が削除されたことから、これをもって捻挫の定義は柔道整復と外科・整形外科との認識が同一とされましたから、3部位以上請求する場合には、支給申請書に関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態であるということを明記しなければなりません。従来まで発生機序としての亜急性の負傷が原因と認知されていたからこそ、反復継続した微々たる外力によるものやオーバーユースも全て支給対象となっていたところを、健保組合等の保険者は「通知にこれらを支給してよいと書いていない」と不備返戻してきています。亜急性を削除した当時の厚労省の担当室長が「支給対象は今まで通り変わらない」と言っていても、「療養費の支給対象の範囲の変更はない」との事務連絡があっても意味をなさず、審査会からも大量に返戻されています。
インフラや国民の栄養状態、自動車の安全性向上などから、明確な急性で新鮮性の捻挫は減っているはずです。保険者に言わせれば「そんなに皆さんあちこち捻挫などしない」のです。一方で、不正請求をしていた一部の柔整師にも自粛の動きが見られます。ただ、患者さんの保護の見地から、実際に急性の外傷性であれば療養費で取り扱うべきですから、「全部が全部自費施術」というのは施術者側の身勝手であるとは言えますが。いずれにせよ、今後は2部位でも1部位だけでも患者照会が実施され、患者さんの回答に「自然に痛くなった」「1年以上前から調子が悪い」「ちょっと揉んでもらった」との記載があれば、これを理由に不備返戻されます。さらに部位数に関係なく負傷原因の記載を義務付けられたなら、多くの柔整師は療養費の請求を諦めることになるでしょう。そうすると、会員からの療養費支給申請の大幅減に耐えられなくなる団体が出てきます。あくまでも私見ですが、最終的には「2部位目から」で議論は決着するでしょう。それでも療養費の申請は激減し、そしていずれは本当に1部位目からとなってしまい、申請そのものの「消滅」に至るということになるとすれば、あなたのご指摘通りですね。
今後を見据えて、各施術者団体には、開業から店舗展開・物品販売に至るまで施術所をトータルパックで支援する、自費メニューの指導と導入を手がける、フランチャイズ事業展開のノウハウを提供するなどして、単なる「療養費請求代行団体」からいち早く脱却していくことが求められるでしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 広告ガイドラインの案が出たって本当ですか?
Q&A『上田がお答えいたします』 広告ガイドラインの案が出たって本当ですか?
2019.12.10
Q.
あはき・柔整の施術所広告について厚労省が検討会を開かれているようで、最近、ガイドラインの案が出たと聞きました。ポイントを教えてください。
A.
広告検討会も8回を数え、今までの議論を基にようやく広告ガイドラインの案が11月中旬に提示されました。これは案なのでまだ紆余曲折がありそうですが、私が気になった点は9つ。下記に列挙しますので、参考にしてください。
①新たに「非医業類似行為」が定義付けられた。「医業類似行為に非ず」だから本来の医業行為を指すと思ったら、何と「整体・カイロプラクティック・リラクゼーション他」を指すという。これには二つの狙いがあると考えられる。まず、無資格者も「ガイドラインに適用される」との宣言。もう一つは、あはき・柔整こそが「本来の医業類似行為」だと喧伝したいというものだろう。
②「治療」「診」の文字を使わせない。よって「治療院」もダメ。
③「整骨院」の文字は、患者代表と保険者が反対したものの、医師会と事務局が容認しており、おそらく認められる。
④有資格者が無資格者を装い、広告規制を逃れる実態を改善するため、保健所への「届出名称」しか広告表示を認めない。
⑤あはきと柔整の両方の資格者は看板表記を「〇〇接骨院」「〇〇鍼灸院」と分けさせ、従来の「〇〇鍼灸整骨院」は認めない。
⑥ウェブサイト上の広告は原則規制されない。
⑦保健所が広告違反者に処罰を求めやすくするための警察への告発のマニュアル化・簡素化の提案は無し。
⑧広告を是正しない施術者に対する療養費の受領委任の取扱い5年の中止相当処分の導入も見送り。
⑨保険取扱いについては、何らかの表記を認める(医療保険取扱い、健康保険取扱い、各種保険取扱いなど)。
以上、結局は広告規制の実効性が何ら期待できない内容ですね。
しかも、法令上から見て、本来、整体・カイロプラクティックは「指圧」だから、あん摩マッサージ指圧師の免許を取得せず施術している者は「無免許施術」であり、その上、あはきと柔整は医師法上、医業として限定解除されている「医業の一部」であるとの原則を、今回も行政は完全に無視し、「非医業類似行為」という造語を作り出す始末です。もはやコメントする気も起きません。
広告ガイドライン案自体も、看板表記を改めるというのであれば、既得権はあるのか、また、経過措置はあるのかを併せて明らかにしなければ現場は混乱します。せっかくなのだから、実効性が伴う形で臨床の場に提示されることを切に望みます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 裁判費用は勝てば一切払わなくてもいいの?
Q&A『上田がお答えいたします』 裁判費用は勝てば一切払わなくてもいいの?
2019.11.25
Q.
健保組合に対し、裁判を起こそうと考えています。もし勝訴したら、裁判費用は被告の健保組合が全て負担するのですよね?
A.
まず、「療養費支払請求事件」として提訴するのであれば、柔整師や整骨院側は当事者とは認められません。つまり患者さん側が訴えることになります。療養費の支払請求ではなく、他の原因でご自身が被害を受けているのであれば、原告として裁判を提訴することができます。
では、お尋ねの裁判費用について解説いたしましょう。「裁判に負けた方が全ての費用を負担するのだから、勝ったなら負担は一切無い」と思われがちですが、そうではありません。裁判の費用は正式には「訴訟費用」と言い、この訴訟費用には訴状に貼る収入印紙、裁判所に納める切手代金や訴訟代理人・証人の旅費や日当などが含まれ、これらは「民事訴訟費用等に関する規則」で決まっています。この訴訟費用は、確かに負けた側の負担になります。ただ、あなたが聞きたいのは訴訟費用ではなく、「原告・被告の弁護士費用」、つまり、原告と被告双方に発生している弁護士に支払う着手金や弁護士報酬についてですね。驚かれるとは思いますが、弁護士から請求されるこれらの費用は訴訟費用に含まれません。ちなみに、交通事故の場合では弁護士特約が保険に付いており、弁護士に払うべき費用は保険で支給されることがあります。
訴訟費用は裁判で負けた方が負担するということで問題ないのですが、先にも説明した通り「チマチマしたもの程度」であって、「弁護士に支払う弁護士費用は訴訟費用に含まれない」のです。だから、あなたが原告としてお願いした裁判の弁護士への報酬は、裁判に勝訴してもあなたが支払うものであって、敗訴した被告側にその費用を支払わせることはできません。この点は多くの人が勘違いしていることなので、参考にして下さい。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 右殿部挫傷(上部)と右大腿部挫傷(上部)は近接部位?
Q&A『上田がお答えいたします』 右殿部挫傷(上部)と右大腿部挫傷(上部)は近接部位?
2019.11.10
Q.
右殿部挫傷(上部)と右大腿部挫傷(上部)を施術したところ、殿部挫傷のみ柔整療養費が支給され、右大腿部挫傷(上部)については近接部位を理由に一部不支給とされました。
A.
秋田県でご質問と全く同様の事例があったので、紹介します。殿部(上部)は中殿筋、大腿部(上部)は大腿後面内側の筋で、大腿後面内側の筋はハムストリングス筋の内側で半腱様筋・半膜様筋になります(外側は大腿二頭筋)。中殿筋は殿部の外側、半腱様筋・半膜様筋(上部)は鼡径部となり、股関節の外と内になることから、後療法(手技)や電療、罨法も一度の行為では完結できません。2筋に対してそれぞれの施術が必要となることから近接ではないと主張し、だから右大腿部挫傷も支給されるべきであると、それぞれ再審査・審査請求を行ったものです。しかし、国保連の柔整審査会は「原審どおり」とし、原処分庁である保険者の減額処分が正しいと判断。「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項(平成9年4月17日保険発第57号厚生労働省保険局医療課長通知)の第5の4(1)カ『①算定できない近接部位の負傷例(骨折・不全骨折の場合)』の10により、大腿骨骨折(上部)に対して殿部打撲は算定できないとされており、それに準じて、2部位の算定を不可と判断したものである」として、決定が覆ることはありませんでした。
県の国保審査会に対しては、「半腱様筋膜に圧痛、坐骨結節付着部に圧痛、大腿部挙上にて可動痛、中殿筋圧痛、腸骨稜付着部に圧痛、股関節内転で可動痛があったものであり、大腿部と殿部の全く異なる筋肉である旨」などを詳細に解説した審査請求を行いました。ところが、「本件の負傷名は挫傷であり、右大腿部挫傷(上部)の負傷箇所は股関節周辺となることから、同通知の第5の4(1)カ『②算定できない近接部位の負傷例(脱臼・打撲・捻挫・挫傷の場合)』の8により、股関節脱臼・捻挫に対して大腿上部又は幹部の打撲又は挫傷、同側の殿部打撲は算定できないとされており、こちらの例を準用すべきと考えられる」として、残念ながら棄却されました。国保連の柔整審査会と国保審査会とで課長通知の準用する箇所が異なることなど不満が残りますが、国保審査会の裁決は行政不服審査法による正規の決定であるため、これを無視することはできません。
この秋田国保連の柔整審査会の再審査での決定と国保審査会の審査請求に係る裁決は、今後全国に共通する取り扱いとなるでしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 どうしてカイロなど柔整に関係のない講習を行うのか?
Q&A『上田がお答えいたします』 どうしてカイロなど柔整に関係のない講習を行うのか?
2019.10.25
Q.
施術者団体では、カイロプラクティックやアロマテラピー、リフレクソロジーなど、柔整施術に関係の無い講習ばかりやっていますよね。そもそも、「専用の施術室」の問題で柔整施術しか行ってはいけないのではありませんか。
A.
ご指摘はごもっとも。では、なぜこのようなていたらくになってしまうのでしょうか。一つには、これらの講習会の開催の要望が実際に多いからだということです。急性の外傷患者の来院数が減っているため、柔整施術以外のメニューで顧客を獲得したいからでしょう。また、治療技術など持ち合わせていない者にとっては、客寄せのために必要だということです。そもそも、誰が柔整施術に係る講習をやってくれるというのでしょう。「門外不出」の伝来の手技をたかだか数万円の講師料で教えてくれる人がいるでしょうか。更に言えば、徒弟制度が崩壊している現代において、伝承技能としての手技療法が本当に残っているのでしょうか。
柔道整復師法では「専用の施術室」が規定されていますので、法令上、柔整と鍼灸の治療室でさえ別にしなければなりません(施術者が1人のみで両方の免許を取得している1人特例の場合を除く)。法から逸脱したことを排除しようとすれば、施術室でできるのは柔整施術のみになります。ところが、多くの施術者が自費メニューとして柔整施術に関係の無い行為を提供しているのが実態です。団体が率先して規制したならば、会員はこぞって退会していくでしょう。これは違法広告の問題にも共通することです。厚労省の告示上では、骨折・脱臼・打撲・捻挫・各種保険取扱いとの表示も認められません。しかし、法令から逸脱した広告を団体が正そうとすれば、当然ながらそれを嫌がる会員の多くが退会していくでしょう。会員の大幅な退会はすなわち団体の経営困難に直結します。本来であれば、たとえ将来的に団体が解散することになろうとも真っ当なことを追求していくのが正当な方策であるというのは正論ではありますが、それを望まない会員の退会にどこまで耐えられるかについては、会員の動向によって相違していきます。
このような理由から、当面、カイロなどの講習会は継続されるでしょうし、専用の施術室の取り扱いについても団体としての考えをはっきりさせるのは困難でしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 医療助成費の還付の返還のタイミングは?
Q&A『上田がお答えいたします』 医療助成費の還付の返還のタイミングは?
2019.10.10
Q.
今年から、あはき療養費にも受領委任の取り扱いが開始されましたが、いまだに従来の代理受領や償還払いの保険者も見受けられます。それぞれにおける、医療助成費も含む窓口で徴収した一部負担金を患者さんに返還するタイミングをご教示願います。
A.
療養費は施術費用の10割を患者・被保険者が支払って初めて請求権が発生し、被保険者が請求すると保険者から3割の一部負担金相当額を差し引いて支給されるものです。しかし、柔整療養費においては、協定・契約に基づき、実際には3割しか窓口で徴収しなくとも10割を患者さんが支払ったものと見なして受給権を発生させています。昨年まであはき療養費には受領委任の取り扱いが無かったので、患者さんが窓口でいったん10割を支払っておいて、後日、療養費が支給されたら施術所から7割を返還する、というケースも生じており、このわずらわしさも保険者の償還払いへの移行の理由の一つとされていましたね。さて、今後は受領委任の場合、現物給付として取り扱って良いのですから、窓口では療養費相当額、医療助成費分ともに全額受け取ることはありません(ただし、自治体によっては医療助成費額が一部負担金額に達しない場合がありますので、その際は差額のみを窓口で徴収します)。問題は代理受領の場合で、これは二つのパターンに分かれます。受領委任と代理受領を特段区別せず、「協定・契約の規程があるのが受領委任で、それが無いのが代理受領」程度しか認知していない保険者が大多数で、「受領委任だからこそ、窓口で医療助成費を含めて一部負担金しか払わなくても10割支払ったとみなされ、療養費の受給権が発生する」ことを理解していないのです。つまり代理受領と受領委任を混同している保険者については、最初から現物給付化して窓口徴収しなければ返還する問題も発生しないでしょう。
しかし、保険者の中には「10割の支払いがなければ受給権が発生しない」ことを知っている者もいて、これが通用しません。とはいえ、代理受領も償還払いも、窓口で医療助成費分をも含めて徴収しているのだから、これをどのタイミングで患者さんに返還するべきなのか、対応に迫られます。実は、明文化された決まりなどはありません。現実的には、①保険者や自治体から支給される前に適宜返還する、②支給を確認してから返還する、のいずれかになるでしょう。支給前に返還したほうが実務処理上簡便ですが、何らかの事情で支給されなかった場合はトラブルに巻き込まれる可能性もあります。支給後に返還した方がよろしいかもしれませんね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 柔整師が「チーム医療」に参画するには?
Q&A『上田がお答えいたします』 柔整師が「チーム医療」に参画するには?
2019.09.25
Q.
柔整師として地域包括ケアシステムに参画するにはどうすればよいでしょうか。
A.
在宅医療における地域包括ケアシステムは、多職種連携が前提となる「チーム医療」です。そうすると、何といっても彼ら医療スタッフの信頼と医療人としての認知を得ることが先決となります。そのためには、常日頃より医師や他の医療スタッフとの議論のための勉強を怠ってはいけません。さらに、医科学的な学会に積極的に参加して医療関係者の知己を得るのはもちろんのこと、施術の信頼性が高く学術的な理論構築ができる医療人になっていることが、チーム医療に参画するための条件となります。いずれにしても、今後は高齢者の更なる増加に伴って、医療はますますチーム医療へとシフトしていくことと思われます。そうなると、一部の臨床に秀でた柔整師が急性期の外傷に対する施術を行えるのは当然のこととして、他に訪問リハビリ、在宅リハビリの名称にとらわれず医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの医療スタッフとともに医療人として同じ土壌で競い合える能力が自ずと必要とされるようになっていきます。柔整師が生き残れるかどうかは、医師を頂点としたピラミッド体制の下、医療の共通言語で議論、打ち合わせをし、患者さんを治すための一定の方向性を皆と一緒になって見いだせるかどうかにかかってきます。
しかしながら、現在の柔整師は本当に医療人と呼ばれる存在なのでしょうか。昨今では、患者さんの衣服を脱がさずに、服の上からの施術を行う施術所が急増しています。患者さんの皮膚に現れる発赤・熱感・腫脹を見ずして、触れずして、いったい何を施術するというのでしょうか。こんなことでは、いつまで経っても他職種の信頼を得られません。そして、相変わらず介護保険には参入せず、絶滅の可能性が極めて濃厚な療養費にしがみ付いている現状では、チーム医療スタッフとしてお声掛けいただけるわけがありません。
近い将来、高齢者に係る慢性疼痛疾患の膨大な患者数が確実に見込まれているにもかかわらず、地域包括ケアシステムに参画できないのはあまりにも情けないことです。この流れに乗り遅れ、そもそも乗せてもらえないというのであれば、思いのほか早く柔整業界は消え去る運命にあります。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 行政は医師の「同意拒否」に何の指導もしてくれない
Q&A『上田がお答えいたします』 行政は医師の「同意拒否」に何の指導もしてくれない
2019.09.10
Q.
私が開業した地域では、「外科や整形外科医でなければあはき療養費の同意書を交付できないことになっている」と聞きました。
A.
数年前に日本医師会から全国の開業医へ地元医師会を通じて「はり・きゅう施術への同意書の交付は専門医に限る」との通達がなされたことによって、「同意に当たっては外科医又は整形外科医でなければならない」との誤った認識が広まり、同意書交付が敬遠されています。内科医が湿布薬を山のように患者さんに渡しているような実態にあるにもかかわらず、です。彼らは、こんな文書連絡をまるで「葵の御紋」のように重宝がり、同意書交付を断るための言い訳に利用しているのです。本来、同意書の交付は医師であれば標榜する診療科に制限されないため、歯科医師は認められませんが、内科医でも皮膚科医でも小児科医でも何ら問題ありません。しかし、厚労省保険局医療課長通知によって施術に同意する者が「主治の医師」とされたことをもって、「主治の医師=外科医・整形外科医」と誤解されたままになっているのです。厚労省保険局医療課にこの点を問い合わせたところ、「『主治の医師とは外科・整形外科に限らない』という認識はその通りではあるものの、地方の医師会が発出している文書の中で『外科・整形外科を原則とする』とされていることについては、医師会に対する指導権限がないため指導は行わない」と何の足しにもならない回答でした。ましてや厚労省本省だけでなく、地方厚生局本局・県事務所、都道府県庁衛生担当部局、管轄保健所の行政部局のいずれも指導はしません。そもそも、「あはき施術に同意書を書くか書かないかは医師の判断であるから、行政が口出しをすることではない」というスタンスなのです。
仮に、「主治の医師」として外科や整形外科に同意を依頼したものの全て拒否され、行政に指導をお願いしたとしましょう。厚労省は「地方の担当部局が指導する」と言い、地方厚生局本局・県事務所は「都道府県庁衛生担当部局、管轄保健所が指導する」と言い、そして都道府県庁衛生担当部局、管轄保健所は「地方厚生局本局・県事務所が指導する」と言うでしょう。そうやってたらい回しにするのは、医師から「行政の不当介入だ! 国家賠償請求訴訟だ!」などと「逆ギレ」されるのを恐れているからであり、また行政も医師に対する「お願い事」が多い中で、うかつに指導などできないという本音があるからです。残念ながら、行政は医師の同意拒否に関しては何も指導してくれないというのが通例です。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 「判断に迷った事例」の収集の意味するところ
Q&A『上田がお答えいたします』 「判断に迷った事例」の収集の意味するところ
2019.08.25
Q.
厚労省が柔整療養費の支給基準の明確化に向けて、取り組みを始めたということを聞いたのですが、私たち施術者に与える影響について教えてください。
A.
8月5日付で発出された「柔道整復療養費の支給対象の明確化に向けた個別事例の収集について」と題した事務連絡のことですね。厚労省保険局医療課の依頼により、全国の柔整審査会や健保連が審査・支払の際に判断が困難であったり、支給の可否に迷ったりした事例を取りまとめ、厚労省に回答することとなりました。想定される回答としては、やはり「近接部位の算定方法」に関する内容がメインになるでしょう。事実、今回の事務連絡の中で、近接部位に該当するか否かの判断に迷うことが多いと指摘されています。そして何より、厚労省通知で示された「算定基準の実施上の留意事項」の近接部位の算定方法が必ずしも明確になっていないことが大きい。留意事項には、算定できない近接部位の負傷や算定可能な部位の負傷の例が表でまとめられていますが、表に掲載されていない負傷の場合には、“これと似た組み合わせに準じて”支給の可否が決定されています。しかも柔整審査会や保険者は、自らで判断できない場合、なんと支給も不支給もせず、柔整師に「近接部位と思われることから確認してください」と不備返戻をする始末です。
また、柔整審査会や保険者によって、同じ負傷名の組み合せでも判断が異なり、支給される場合もあれば減額となることもあり、私の関わったケースでいえば、“手根中手関節捻挫と前腕部挫傷”、“足根中足関節捻挫と下腿部挫傷”がそれぞれ近接部位であると主張する三重審査会や広島審査会の判断を撤回させ、近接部位には当たらないと認めさせました。その一方で、殿部挫傷(上部)と大腿部挫傷(上部)が近接部位であるとして譲らない秋田審査会の減額は改めさせることができませんでした。留意事項に示されていない組み合せにおいて(上部)あるいは(下部)を明記すれば、支給が認められた(近接部位とされない)場合も過去にあり、この点も含め明解な基準の策定を求めたいところです。今回の厚労省の動きは、このための情報収集であって、少なくとも近接部位の算定方法が今よりもクリアな内容で改訂される契機となればよいですね。
ほかにも、留意事項では胸部・背部・上腕部・前腕部・大腿部・下腿部の6部位しか挫傷を認めていないにもかかわらず、Q&Aの疑義解釈資料(事務連絡)では殿部挫傷や足底部挫傷を認めた上で、「筋肉のあるところに挫傷あり」としているのなら、肩部・腰部・腹部の挫傷についてもその可否をきちんと整理し、近接部位の算定方法に明記する必要性もありますね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 マッサージ療養費は病名によらず症状で支給されるもの
Q&A『上田がお答えいたします』 マッサージ療養費は病名によらず症状で支給されるもの
2019.08.10
Q.
療養費審査委員会や保険者から「病名から考えてマッサージの必要性が無いと思われる」として不備返戻されてしまいます。
A.
マッサージの適応は診断名によるのではなく、筋麻痺・関節拘縮等の「症状」です。返戻してきた審査委員会や保険者は明らかに間違っていますね。ご承知の通り、医療上マッサージを必要とする症例については療養費の支給対象とされるため、医師の同意書により確認をすることになっており、現行の同意書では、筋麻痺や筋萎縮の該当局所や関節拘縮の部位を特定した上で、施術の部位まで表示する仕様になっています。しかし、これらの該当箇所を明示して同意書を交付してもらっても、あなたのケースのように「傷病名より見て躯幹や両上肢の施術不可」とか「病名から考えて全身マッサージは認められない」とか、意味不明な理由で返戻してくる審査委員会や保険者が後を絶ちません。病名で判断するものではないにもかかわらず病名から考えていることも愚かですが、そもそも、たかだか審査委員会が療養費の支給を「不可」と決めつけているのが誤りです。療養費の支給決定は保険者の権限であって、不可かどうかを決めるのは審査委員会ではありません。にもかかわらず、「『胸部大動脈瘤』ならば全身マッサージは必要ないだろう」とか、「『変形性膝関節症』なら躯幹や上肢のマッサージは必要ないだろう」という風に、病名から想像して施術局所を限定してくるのです。
傷病名はあくまでも患者さんが抱えている主疾患の記載であって、その傷病名において全身へのマッサージや往療を要するのもよくあること。だからこそ医師の同意書により確認を行っているのに、その内容を無視して「算定不可」などと何を言っているのでしょうか。このような愚かな審査委員会や保険者に対しては、患者の申立書と施術者意見書を作成して、必ず再請求しましょう。返戻を繰り返す審査委員会等には正々堂々と不支給処分にしてもらい、被保険者の協力を得て都道府県の国民健康保険審査会や後期高齢者医療審査会宛てに審査請求をしましょう。医師の同意書に明記された症状に対して医師が丸印を付けた部位に施術をしたのだから、審査請求では必ず被保険者側の言い分が認められます。
勝手な想像で支給を認めないとする暴挙には、徹底的に反論していく必要がありますね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 医師の診断をもって柔整師の判断を全否定し不支給処分
Q&A『上田がお答えいたします』 医師の診断をもって柔整師の判断を全否定し不支給処分
2019.07.25
Q.
私が3月に腰椎捻挫の施術を行った患者さんが、4月に医師から「腰椎椎間板ヘルニア」との診断を受けたのですが、5月から7月までは病院には行かずに私の施術だけを受けていました。すると、「腰椎椎間板ヘルニアは医師が治療するもので柔整師が施術するものではないから捻挫とは認められない」との理由で療養費が不支給になってしまいました。
A.
腰椎捻挫と腰椎椎間板ヘルニアがともに「腰部」であることから、単に「別物である」と主張するのはなかなか難しいですね。そこで、まずは腰椎捻挫と腰椎椎間板ヘルニアは症状が異なるということから攻めてみましょう。腰椎捻挫は腰椎の運動に関わる筋や靭帯、関節部に限局される疼痛が主症状であり、一方、腰椎椎間板ヘルニアは時間の経過とともに出てくる神経根症状である下肢放散痛が主症状です。腰椎捻挫には下肢放散痛の症状は無いので、4月から7月までの間、症状が腰部に限局されていたのであれば、仮に保険医療機関における画像診断で椎間板ヘルニアが認められていたとしても、柔整師が腰椎捻挫と判断することは問題ありません。
痺れ感が著明だったり、椅子からの立ち上がり動作やベッドからの起き上がり動作による疼痛が著明であれば、腰椎椎間板ヘルニアが疑われますが、SLR testを行った結果が(-)ならば腰椎捻挫、腰部に疼痛と熱感があったのであれば急性期の腰椎捻挫と判断でき、「言い分」を構築することができます。また、腸腰筋や腰方形筋を中心に痛みが現出していたので手技療法・電気療法を中心に行ったというのであれば、それはまさに腰椎捻挫に対する施術であり、「神経根症状は無く、限局した部位に対する施術であって、腰椎椎間板ヘルニアに対するものではない」といった主張ができるでしょう。問題は、「素人の事務職」に過ぎない保険者がこれらを理解できるかどうかですね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 今後の療養費検討専門委員会の開催予定や議論の内容について
Q&A『上田がお答えいたします』 今後の療養費検討専門委員会の開催予定や議論の内容について
2019.07.10
Q.
柔整、あはきともに療養費検討専門委員会がしばらく開催されていませんね。今後の開催予定と予想される議論の内容について解説してください。
A.
今後、療養費検討専門委員会は8月頃に開催される予定で、消費増税分の対応をどうするのかという議論が主体になることが想定されます。仮に消費税引き上げが見送られたならば、専門委員会も開催されません。引き上げについては、「従来通り医科の半分」という低次元な取り扱いだけは御免こうむりたいところですね。
その後のスケジュールは全く見えていませんが、専門委員会は療養費の適正化、簡単に言えば抑制策・目減り策・嫌がらせの方策作りを主眼とすることから、開催されない方が業界にとってはよろしいのです。事実、今までの専門委員会の議論を経て実施された方策は全て、療養費の圧縮・抑制につながっています。それが顕著に表れたのが2018年度の諸通知・事務連絡でしょう。これにより、療養費は今後も伸びることはなく、衰退、絶滅する方向性が構築されてしまったのです。いずれにしても、消費税に関する議論以外には緊急性のあるテーマがありませんから、その次は来年6月の料金改定に向けた開催を待つことになります。2018年度までに実施された諸施策の実績報告を行い、若干の積み残しを議論した上で料金の改定率を決めていくことになるのでしょうが、それは来年の話。議論の積み残しといっても、あはき療養費ではほとんどの抑制策が実行されていますから、強いて言えば都道府県あはき療養費審査会の設置とその運用、また、施術管理者を柔整と同様に仕切る、公益財団法人東洋療法研修試験財団における研修の受講のための根回しの議論が想定されます。柔整の研修は希望者がまともに受講できないほどのていたらくですが、あはきもこれに倣って行うというのであれば、あまりにも無策過ぎるでしょう。柔整の専門委員会での今後の論点は明確で、①患者の毎日署名、②1部位目からの負傷原因の記載、です。
「高額医療は共助により保険対応、一方、低廉・安価な医療は自助としてポケットマネーで!」というのがこれからの社会保障の基本姿勢であることは、財政制度等審議会の議論を待つまでもなく周知の事実です。専門委員会の議論に明るい材料はありません。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 施術管理者が「飛んで」しまったら
Q&A『上田がお答えいたします』 施術管理者が「飛んで」しまったら
2019.06.25
Q.
整骨院の開設者です。施術管理者が無断欠勤しており連絡がつきません。別のスタッフにはメールで「俺、辞める!」と連絡があったようです。
A.
今すぐ連絡をとり、勤務継続の意思を確認すべきでしょう。全く連絡がつかないなら、早急に施術管理者を変更しなければなりません。新たに施術管理者になる柔整師を探すのか、他に勤務している柔整師を施術管理者にするのか、色々と考えがあると思いますが、重要なのは施術管理者になるための二つの要件、「1年以上の実務経験」と公益財団法人柔道整復研修試験財団が実施している「2日間の研修」を満たした者がすぐに見つかるかどうかです。
昨年4月から実施されているこの新要件ですが、当初「これは養成施設の新卒者にとっては打撃かもしれないが、既に開業している者は問題ない」などと言う開業柔整師がたくさんいました。私は「そうではない。開業柔整師こそが大打撃を被ることになる。なぜなら新たに施術管理者を任命できなくなるからだ」と声を上げ、反対すべきだと業界に訴えかけましたが、結局実施されてしまいました。「1年の実務経験」は結構クリアしている者も多いと思われ、新人柔整師も1年勤めるだけでよいのですからそれほど問題ではありません。しかし「2日間の研修」が難題です。開催回数が少ない上、インターネットでの受講受け付けもすぐ定員に達して打ち切られるという実態にあります。今頃になって「これでは療養費が請求できない」「保険を取り扱えない」という柔整師の悲鳴が聞こえてくるようになりました。
柔整療養費検討専門委員会でこの仕組みの導入を図った委員たちは、施術管理者になることが困難となった今、競合する同業者がどんどん廃業していき、その様を喜んでいることでしょう。保険者も、柔整師が療養費を取り扱えずに自費に移行していく実態を見てこれまた喜んでいるはず。「全て計画通り!」といった感じでしょうか。試験財団も、これだけ受講希望者が不平不満を漏らして改善を訴えても、抜本的解決策を検討しません。なぜならばこれでよいと思っているからです。全ては、国が音頭を取っている組織による施術管理者数抑制策であり、狙いはもちろん療養費削減です。今更騒いでも時すでに遅し。今後も改善はされないでしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 施術管理者は「年5日間の有給休暇」をどうやって消化すればいいのか
Q&A『上田がお答えいたします』 施術管理者は「年5日間の有給休暇」をどうやって消化すればいいのか
2019.06.10
Q.
「働き方改革」のおかげで、法人の場合は年5日間の有給休暇の消化が必要だと聞いています。ただ、施術管理者は簡単に休むことができません。
A.
働き方改革関連法により本年4月から全ての企業において10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、雇用者は時季を指定して年5日間の年次有給休暇を取得させることが義務化されました(年次有給休暇の時季指定)。労働基準法で、年次有給休暇は勤続年数に応じてその付与が義務付けられています。しかし、従来は年次有給休暇を取るも取らないも労働者の裁量に任せている企業がほとんどであったため、「周りの皆が働いている中で自分だけ休むのは申し訳ないから」と、有給を取りたくても取れない労働者も多くいました。これからは「自由に取っていい」から「必ず取らなくてはならない」ものに変わり、労働者の心身の疲労の回復、そして生産性の向上など労働者・会社双方にとってメリットがあるとされています。
施術管理者は「常駐して専ら施術に当たる者」であるという基本的な考えにより、厚労省から「一人の柔道整復師が複数の施術所の施術管理者となることは原則として認められない。例外的に複数の施術所の施術管理者となる場合については、同時に複数の施術所の管理はできないことから、各施術所における管理を行う日時(曜日)を明確にさせる必要があること」という通知が発出されています。それでは、複数の施術所ではなく1カ所の施術所において施術管理者が有給休暇の日は全額自費にしなければならないのかといえば、そんなことはありません。
深夜営業や土日も営業している整骨院の保険請求の是非を議論した際、24時間・365日営業しているところもあるという話がありました。そのようなところでは現実問題として施術管理者が常駐できないのは明白です。そこで2011年4月に近畿厚生局に確認したところ、「勤務する柔整師がいるのであれば特段問題はない」「施術管理者に常に連絡がつく状態にあるのであれば問題ない」との回答がありました。そのような環境が確保できているのであれば療養費の取り扱いは認められる、ということになりますね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 「医師による適当な治療手段のないもの」とは?
Q&A『上田がお答えいたします』 「医師による適当な治療手段のないもの」とは?
2019.05.25
Q.
鍼灸療養費の支給対象は「医師による適当な治療手段のないもの」として「6疾病」に限定されていますが、そもそも医師による適当な治療手段のないものとはどういうことなのでしょうか。
A.
確かに、現行の厚労省通知には「療養費の支給対象となる疾病は、慢性病であって医師による適当な治療手段のないものであり、主として神経痛・リウマチなどであって類症疾患については、これら疾病と同一範ちゅうと認められる疾病(頸腕症候群、五十肩、腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患)に限り支給の対象とすること」とあり、これは昭和42年9月18日付の保険局長通知をほぼそのまま引き継いだものです(昭和42年の通知には頸椎捻挫後遺症はありませんでした)。
ただ、通知にある6疾病には医師による適当な対症療法としての治療手段はありますし、一方で6疾病ではないけれども医師には治せない疾病もあり、それらには鍼灸が適用されていません。実は、「医師による適当な治療手段のないもの」とは「慢性病とは何か」を説明した表現なのです。慢性病は医師では「治す=完治させる」ことができないから、常に対症療法で症状を和らげるとか痛みを抑えるとか、「緩解」を目的にした医療しか行えません。ならば、「同じく症状の緩解になる鍼灸もよろしいだろう」ということになったのでしょう。ではなぜ、症状に疼痛が現出している慢性病の全てが鍼灸治療の対象とならなかったのでしょうか。私は鍼灸業界の古参の方から「業界側が療養費の支給対象について、行政にこまごまと聞きに行ってしまった結果、昭和42年の保険局長通知での疾病特定に至ったのだ」というお話をうかがったことがあります。慢性病とは何かを業界側から問われたので、行政は「医師でも結局は治せないのが慢性病だから医師による治療を施しても治癒しないもの=医師による適当な治療手段のないもの」と答え、さらに業界側が「それでは、慢性病にはどんなものがありますか」と聞いたから、「まあ、リウマチとか神経痛は治らないよね」などと回答。またさらに「他には何がありますか」と尋ねられたものだから、行政は「頸腕症候群、五十肩、腰痛症」を挙げた――という具合だったようです。
「医師による適当な~」という表現は鍼灸療養費の支給決定に当たっては極めてよろしくない、運用を限定してしまいかねないものです。例えば、同意をした医師が保険者から「医師による適当な治療手段が本当になかったのですか?」と聞かれれば、医師は「いや、何らかの手立てはあることはあるが、患者に頼まれたから同意書を書いただけ」と答えるかもしれません。そうすると、同意書を添付しても「医師の医科学的判断が認められない」として不支給となってしまうのです。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
Q&A『上田がお答えいたします』 地方公務員の公務災害料金は労災保険に準拠するのでは?
Q&A『上田がお答えいたします』 地方公務員の公務災害料金は労災保険に準拠するのでは?
2019.04.10
Q.
公立学校の教員として働いている人が来院しました。地方公務員とのことなので、柔整施術料金を労災保険の額で算出して地方公務員災害補償基金の支部に提出したところ、「健康保険の料金で申請して下さい」と返戻されてしまいました。
A.
地方公務員の公務災害の治療を行った場合には、患者さんが勤務する役所・学校等の勤務先を管轄する地方公務員災害補償基金の各都道府県支部に療養補償請求書を提出することになります。
請求に際して、各支部では都道府県知事との申し合わせにより、労災料金に準拠するか健康保険料金に準拠するかを地元医師会の意向を尊重して決めています。あなたの患者さんが該当する支部では、知事との契約により健康保険の規定に基づいて算定するものとしているのでしょう。施術者としてはどうも納得できませんね。医科・歯科・薬価・調剤ですらそのようにして決められているのだから、柔整療養費ともなれば、明確な準拠規定さえ無いところが多いと考えられます。県によっては公益社団法人である地元の柔道整復師会との契約や協定があるかもしれませんが、よく分からないのが実情です。ただ、「健保に準じるべき」というのもあくまでも支払者側からの「お願い」レベルの話です。公務災害を健康保険に準拠することの非合理さについて支部に説明し、了解が得られれば労災料金での請求が可能となる場合もあるということです。実際、私が担当した案件の中にも、当初は健康保険に準じた請求を求められたものの、結果として労災料金で請求できることになったケースがありました。どの支部も「支払う料金は安い方がいい」と、施術者側が受け入れさえすれば健康保険料金で支払っているということでしょうが、これはおかしいですよね。いずれにせよ、施術者が安易に支払側の言いなりになっている実態が公務災害においても存在するのでしょう。徹底的に議論する姿勢が必要です。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。