『医療は国民のために』264 柔整・あはき業界は慢性疼痛に対する治療環境をどう整備するのか
2019.01.25
団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」が迫ってきた。医療業界はその対応に追われており、医師は専攻医(後期研修医)を設けたり、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の業界もどうやって「チーム医療」に参入していくのかを考え、実行に移し始めたりしている。2014年10月時点でPTは10万5千人、OTは5万8千人とその数を大きく増やし、保険医療機関内での勤務からリハビリを行う通所施設や訪問リハビリへの移行も進んでいる。今後この分野へ柔整師・あはき師も積極的に参入していかなければ、「チーム医療(多職種連携)」の蚊帳の外に置かれてしまう。なぜなら、先見性のある医師が保険医療財源において「慢性期を金にする動き」を加速させているのだ。料金改定の引き上げなど今後は見込めないことを先取りし、特に「慢性の痛み」に悩む後期高齢者に対する診療行為の請求に目を向けている。
慢性の痛みに対する需要は当然のごとく急速に増加する中、あはきはそもそも慢性が療養費の支給対象であるから、療養費も手掛けていき、患者を抱え込んでいきたい。柔整については、慢性に至っているものは療養費の支給対象外なので、あくまで「自費扱い」となるが、筋肉や骨、神経が要因となる慢性の痛みは柔整施術で対応可能な疾患であろう。また、最近では心因性の痛みもストレス症候群として知られている。痛みの軽減に資する運動・訓練や、ストレスに対する心理療法などは医師を中心に医療系職種が一堂に会する地域内の「チーム医療」で今後は展開されることになり、できれば行政を巻き込んで働きかけていくことが望ましい。
繰り返しになってしまうが、これからは慢性的な痛みの治療と緩和をチーム医療の形態の中で展開し、診療報酬でどのように評価してもらうのか、もしくは保険で評価されない場合、自費メニューでどう展開していくかが医療業界全般にある考えだ。そこでは、患者が自分で良くなっている、効果が上がっていると認識できるよう症状緩和・疼痛緩解の「見える化」も求められる。これをうまく事業展開に結び付けることのできる者が「先見の明がある人」といえる。
しかし、柔整業界やあはき業界は全くと言っていいほど興味を示さず、この「金の生る木」を枯らしてしまうのではないかと心配になる。少なくとも医師会や整形外科学会などと一緒になって慢性的な痛みの治療環境を整備していく、といった気概を示してほしいものだ。そういう意味で、PTの業界は一歩も二歩も先を行っており、特に柔整業界はもう少し慢性の運動器疼痛に対する関心を持つ必要があるだろう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。