『医療は国民のために』267 スポーツ傷害の「回復期の施術」は保険請求できるか?
2019.03.10
スポーツ傷害が柔整施術で回復することを議論するべく、あえて療養費で請求させることを私は推進している。スポーツ傷害においては、「1カ月くらい前から痛かったですよ」と患者が申し出る場合も少なくないが、療養費の支給対象の条件はあくまで「身体の組織の損傷の状態が慢性に至っていないものであること」である。また、昨年発出された厚労省課長通知で「急性又は亜急性の負傷」は削除されたが、柔整業界は亜急性を「時間軸の経過」ではなく、「外力の作用の仕方」として捉えてきた歴史があり、慢性に至っていない「回復期」であるとし、回復期に認められる症状としての疼痛を緩解・緩和していることは療養費の支給対象である、と主張できると当然考えられる。
また、例えば1カ月という時間の経過が慢性症状と判断されるかどうかは、正直分からないのではないか。スポーツ傷害は回復できるものであるから、当然保険適用されるものと考えてもよいだろう。だが、そもそも「回復期」にある負傷の原因がスポーツに起因する傷害である場合、療養費として保険請求を認める範囲や基準はどのようなものが妥当なのかがはっきりしていない。これについては、国も保険者も、柔整業界さえも「どういうものか」考えるに至っておらず、私にも残念ながら医科学的見解が示せない。ただ、仮に不支給となった場合、なぜ慢性に至っていると判断できるのかを争うことは可能で、患者・被保険者の協力を得て、今後審査請求の実績を作るべく方策を採っていこうと思う。
つまるところ、スポーツ傷害・慢性疾患・回復期と療養費支給申請の関係性については、明快な基準が必要だがそんなものはない。しかも、保険請求の現場では、負傷日から初検日までが相当期間空いた場合には、摘要欄にコメントを記入する実態にあるが、2週間とか、1カ月といった時間の経過のみをもって「慢性症状」と決めつける保険者が多い中、実は、認めないと明確に判断しているのではなく、よく分からないので返戻しているケースが大半なのである。だから、このようなケースでの請求について質問されれば、「保険請求せよ!」と私は回答している。
医科の分野では、回復期リハビリテーション・回復期リハビリテーション病棟という概念が既に使われている。柔整の「回復期」は従来までの「亜急性」を言い換えた内容、つまり、スポーツ傷害における1カ月くらい前からの痛みを「回復期」と捉えるのであれば、医科の「回復期」と全く違う概念といえ、療養費支給申請として認められるべきであるというほかない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。




