『医療は国民のために』263 厚労省通知で示された「外傷性」は、単に捻挫・打撲の定義を置き換えただけ!?
2019.01.10
平成30年5月24日付の厚労省通知で示された「外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すもの」との定義に、どうも首をかしげたくなる。常識的に考えれば、「外傷性とは何らかの物理的外力が身体に作用して生じた生体の損傷」だが、このようにはならなかった。柔整療養費を抑制したい者の働きが背景にあるからだろう。
では、果たしてこの文言がどこから来たのかといえば、平成7年9月8日付の医療保険審議会柔道整復等療養費部会の意見書内の「打撲・捻挫は、関節等に対する可動域を超えた捻れや外力による外傷性の疾患であり、療養費の対象疾患は、急性又は亜急性の外傷性であることが明白な打撲・捻挫に限るべきである」という記載だ。この記載は、堀利和参院議員の質問主意書に対する「平成15年1月31日付の政府答弁書」で採用され、しかも、「外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものである」と誤った形で出されている。そして、冒頭の厚労省通知が昨年に発出された。国は二度にわたり、誤りを繰り返したことになる。しかも、柔整療養費検討専門委員会で十分議論されての決定だ。専門委員には業団幹部が5人おり、また医師までいる中で、なぜこれを「外傷性の定義」として認めてしまったのだろうか、不思議でならない。
ちなみに、前述の質問主意書を提出した堀氏が、視力障害者が多く所属するあはきの施術者団体の陳情を受けていたことを考えると、柔整に不利になるようなあはき寄りの答弁になっていると推察され、無理やりその時に(打撲・捻挫の定義)→(外傷性の定義)にすり替えられたのだ。
ところで、「打撲・捻挫の定義」が「外傷性の定義」に置き換えられた場合、柔整業界側にどのような不利益があるのか。それは、関節や靭帯、軟部組織の誤った使い方や、その反復・継続による使い過ぎ(オーバーユース)が「外傷性」とは判断されなくなることだ。つまり、従来まで「亜急性」として療養費の支給対象となっていたこれらが全面否定され、認められなくなる。その弊害は既に現実のものとなっていっている。平成30年8月9日付の事務連絡(Q&A)の「問15」で、柔整療養費の支給対象から「亜急性」の文言が削除となっても「療養費の支給対象の範囲の変更はない」との記述が存在していてもだ。健保組合などの保険者からすれば、「後になって、支給対象の範囲は従来と変わらない」といった事務連絡を出されても、通知に書かれていないのだからと突っぱねるだろう。よって、この「外傷性の定義」では、オーバーユース等は支給対象外とするのが「保険者判断」なのである。
これらの保険者に対しては、施術者団体として組織を挙げて闘うほかない。会員を守るための当然の仕事であろう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。