連載『食養生の物語』65 なにも足さない、なにも引かない
2018.10.25
 ドーピングはインターハイなど高い競技レベルでの問題かと言えば、実はそうではありません。陸上や水泳といった記録を争う競技の場合、市民大会レベルでも条件が揃って日本記録に相当する記録が出る可能性はあります。その場合、24時間以内にドーピング検査を受ける義務があり、それをクリアして初めて日本新記録として公認されます。その意味では、全ての競技者が対象となり得ると言えるでしょう。
 前回までは、サプリメント、市販の風邪薬、漢方薬について触れてきました。これから風邪がはやる季節になってくると、のど飴の出番が増えることでしょう。のど飴にも、禁止物質ヒゲナミンを含む生薬・南天実(ナンテンジツ)を配合したものがあり、注意が必要です。ヒゲナミンは、漢方では他に附子(ブシ)、丁子(チョウジ)、細辛(サイシン)、呉茱萸(ゴシュユ)といった生薬に含まれており、ハーブから抽出される物質です。気管支を拡げる作用があり、呼吸を楽にすることからドーピング禁止物質に指定されています。医薬品としては喘息や心不全などの治療に用いられるβ(ベータ)2作用薬に分類されています。選手が喘息の治療のためにβ2作用薬を服用していても、ドーピング違反になる可能性があります。
 違反とならないためには、TUE申請が必要となります。TUEとは、Therapeutic Use Exemption の略で、治療使用特例と訳されます。治療をする上で、使用しないと健康に重大な影響を及ぼすことが予想される場合に限り、事前に申請した内容が適切であると認められれば特例として禁止物質の使用が可能となる制度です。TUE事前申請が必要な競技大会は競技団体ごとに発表されているので参考にするといいでしょう。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のホームページからでも確認することができます。
 選手たちには、医療機関を受診する際に「自分はアスリートである」ことを伝えるようアドバイスしています。ルールは毎年のように少しずつ変わるもので、全ての医師がその情報をアップデートできているわけではありません。最終的に自分を守れるのは自分しかいません。疑問があれば、安易なクスリの処方に「待った」をかける勇気も必要です。スポーツファーマシストという、JADAからアンチ・ドーピングの知識を持っていると認定された薬剤師を頼るという方法もあります。
 食養生の観点からは、季節の旬の食べ物を食べ、季節に沿った体づくりをしていくことが大切です。特定の成分だけを抽出して用いる方法にはリスクが伴うことを知っておくべきでしょう。また、治療家としては身体の外から摂り入れるものより、身体の内側を活性化させることに注力するのも大事。ウイスキーのCMではありませんが「なにも足さない、なにも引かない」という気持ちも忘れてはいけませんね。
 
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
 
					 
                                                             
             
             
                 
                




