連載『食養生の物語』66 自炊は活躍の種
2018.11.25
「カチカチッ」。テレビの中継でアスリートの勝利者インタビューを聞いていると、新しいペットボトルの開封音が聞こえることがありますね。選手にとって、自分が口にするものが誰も手をつけていないものであることを確認するのは大事な習慣。それは、ドーピングから身を守る最善の方法だからです。
前回まで、ドーピングに関するリスクの話として、サプリメント・風邪薬・漢方薬に触れてきました。正直なところ、何が安全とは言い切れなくなってきている面があり、こうなってくると自炊・自家製に勝るものはないと言えそうです。年始には学生スポーツの花形・箱根駅伝がありますが、強豪チームの多くは寮生活を送っています。規則正しい生活を送り、特に食事面では寮で出されるものが基本。外食やコンビニなど、外部で調理されたものを極力減らすためです。また、差し入れや届け物についても、チームの方針として全て寮宛てで送ってもらうこととなっているのが一般的だそうです。チームの公式SNSなどでお礼をするためといった事情もありますが、最大の理由は監督やスタッフの目が届くようにするためでしょう。いくら善意の頂き物であっても、口にしてドーピング検査に引っかかれば選手本人の責任、ひいてはチームの責任となるのですから、当然と言えます。
実は、中高生からトップレベルまで、「試合当日には『おにぎり』が欠かせない」という選手が多いのはご存知でしょうか。自分の出場する時間から逆算し、何時間前に何個食べるといった調整がしやすいこともあり、海外遠征では炊飯器を持参する選手もいるほどです。中高生であれば親に用意してもらうのが良いでしょうが、大学を出た社会人であれば自分で握って持参する自炊が基本です。添加物の心配のあるコンビニのおにぎりなどは避けた方が良いでしょう。自炊についても徹底している選手もいます。だしの素や化学調味料は使わず、サラダにしても殺菌剤や漂白剤の心配があるカット野菜は使わず、自分で野菜に包丁を入れる。自炊ならぬ〝他炊〟や〝外注品〟に頼るかぎり、ミネラル不足・添加物の不安は拭えないのです。
サプリメントとは、栄養補助食品。そもそもなぜ栄養分を補助する必要があるのかを考えれば、日々の食事で不足しがちだから。自炊を徹底し、食事できちんと栄養を摂取すれば必要ないはずのものです。〝外〟のものに頼れば頼るほど、万全とは言えなくなる。自衛のための自炊だということを、トップアスリートはよく知っています。
「活躍したから自炊を始めた」のではなく、「自炊するから活躍できるようになる」。その姿勢を見習うことで、私たちも活躍できる場があるかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。




