連載『食養生の物語』63 梅肉エキスとドーピング
2018.08.25
記録的な猛暑の続く今年の夏、私を支えてくれているものの一つが「梅肉エキス」。梅肉エキスとは、青梅を濃縮したエキスのこと。梅干に向くほど黄色く熟する前に収穫した青梅の果肉を磨り潰し、絞った果汁を、元の青梅1kgから20gほどになるまで煮詰めたものです。非常に酸味が強く、クエン酸・リンゴ酸・コハク酸などの有機酸が豊富。疲労回復や血流改善、下痢・便秘、免疫細胞の活性化、静菌作用、食中毒予防・インフルエンザの予防、抗酸化作用など、効能を挙げればキリがありません。夏バテに対しても、クエン酸の作用が体内で生じる疲労物質の乳酸を分解し、基礎代謝を活性化することから、疲労からの早期回復が見込めます。梅肉エキスが知られるようになったのは、平成11年に特有の成分ムメフラールが発見されてから。ムメフラールは梅肉エキスの製造過程で生成されるもので、生梅や梅干には含まれません。テレビの健康番組で「血液サラサラ」が話題となったこともあって、一躍有名になりました。一時はドラッグストアや自然食品店の棚から梅肉エキスがなくなるほどでした。
ところで最近、某メーカーの梅肉エキスから、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める禁止物質「ボルジオン」(たんぱく同化ステロイド)が検出されるということがありました。これは自然界にも普通に存在するもので、含有量も極微量。実際にドーピングで効果を上げるほど摂取するには1日当たり2トン以上の梅肉エキスを飲まないといけない計算で、現実的ではありません。しかし、ドーピング検査の焦点は効果の有無ではなく、あくまでも「陽性反応の有無」。当該メーカーも「梅肉エキス中のボルジオンからの副作用、健康被害は存在しないと考えています」としつつ、「アスリート(競技者)の方は、ご使用を中止してください」とのコメントを発表しました。ドーピング検査の検体である尿から検出されれば引っかかってしまう可能性があるので、注意が必要だということです。
平成16年に国際オリンピック委員会(IOC)が実施した調査では、欧米で販売されているサプリメントのうち14.8%にたんぱく同化ホルモンが含まれていることが判明しています。こうしたことから、世界アンチ・ドーピング機構や国際陸上競技連盟(IAAF)は、 サプリメントの安易な使用はしないようにという声明を出しています。また、日本陸上競技連盟(JAAF)からは、「日ごろからバランスのよい食事を摂取するように心がけ、 良好な食習慣を身につけてください。そうすれば、必要な栄養素は食事から安全に摂取することができるのです」との見解を出しています。
治療者としてトップ・アスリートの治療・サポートにも関わることを考えるのであれば、日頃からこうした情報にも気を配っておきたいところです。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。