連載『食養生の物語』62 トウガラシはほどほどに
2018.07.25
「薬局でトウガラシエキスの湿布を買わないようにしてね」。患者さんに「次の来院までの間に患部を温めて」と伝える時、私が必ず付け加えることです。「温めるのに温湿布がダメなの?」と聞き返されることもありますが、全くの誤解。あれは、温湿布ではなく『温感』湿布。温かく感じても実際には冷えており、皮膚の敏感な人だとかぶれることもあります。なので、コンニャク湿布など物理的に温かいものを使うように念押しします。
うどん・そばなどに振りかけることで旨味を引き立てるトウガラシ。プランター菜園でも失敗が少なく色もきれいな育てやすい香味野菜で、春に種蒔きし、夏に収穫するナス科の作物です。ピーマン、シシトウ、パプリカなども、同じトウガラシ属の甘味種です。ごく少量使うことで食欲を増進させてくれますが、多量に使うと過剰な発汗を促し身体を冷やしてしまいます。陰陽の視点では、陽性環境の夏場に育つものは陰性の身体を冷やす性質を持っていると考えられます。激辛ブームの火付け役となったハラペーニョやハバネロといった種類のトウガラシはメキシコなど中南米、さらに辛いとされるブート・ジョロキアはインドなど南アジアと、暑い地域ほど辛味の強いトウガラシの産地となっています。辛味が食欲を増進し、発汗を促して、暑さ負けを防ぐことから、理に適っていますね。
トウガラシの辛み成分カプサイシンは刺激が強く、口内で味覚だけでなく痛覚も刺激するということが分かっています。テレビのグルメ番組などで激辛料理にチャレンジした芸人さんが「痛い、痛い」と表現しているのは大げさではないようです。多量に摂取すればこの刺激が胃粘膜を傷つけることから、トウガラシを多く摂る地域では胃ガンや食道ガンの発ガン率が高いという報告もあるほどですが、カプサイシンそのものに発ガン性があるわけではないとされています。
激辛ブームという言葉があるように、日本で多く使われるようになったのは比較的最近で、以前は薬味や香り付けにごく少量使われる程度でした。乾燥させたトウガラシの実をすり潰したものが一味唐辛子。これに山椒や、陳皮(ミカンの皮)、黒胡麻、白胡麻、紫蘇、生姜、青海苔などの副原料(地域や製造元によって違いがある)で風味をつけ辛みを抑えたものが七味唐辛子として広く知られています。製造元によっては麻(あさ)の実がブレンドされたものがありますが、海外に持ち出す際には注意が必要でしょう。ちなみに、ただ“からし”という時の和ガラシは芥子菜(からしな)の種子を粉末にした粉カラシを水で練ったもの。これを酢や糖類、ほかの香辛料などで調整したものが洋ガラシ(いわゆるマスタード)ですが、トウガラシは含まれていません。料理の素材を引き立てるのが香辛料。主張させ過ぎない程度に上手に使いたいものですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。