連載『汗とウンコとオシッコと…』179 Rolling
2019.07.10
ようやく梅雨が訪れた。夏至より遅い梅雨入りはさすがの筆者も経験がない。梅雨入りまでは秋のような気候で、すじ雲が上空の高い所にあり、日中の気温に比べて、朝の冷え込みが強かった。故に就寝時に体表が冷えて就寝発汗を阻害されて、熱がこもる魔法瓶のような循環になる状態が多かったわけだ。そうなるとぎっくり腰様の痛みや寝違い様の痛みが多発する。次から次へと、流行り病かと思うくらいの状態だった。そこで梅雨に至り、蒸し暑さの到来だ。今度は急激に発汗し、身体の細動脈は拡張して、古傷が痛んだり、ホットフラッシュ的な身熱、動悸などが現れやすい。冷房で表面を冷やされると下痢にもなる。身体が調整すれば痛みはないが、そうでなければ腰や肩から腕への問題が多発する……。
「先生、歩くようになってしばらくは大丈夫だったんですけど、また右膝が痛みだして……」
という60代前半のやせ型の女性が来院していた。元々、低体温、低血圧で、閉経とともに浮遊性のめまいなどが緩和した。つまり、出ていく経血が無くなり貧血が改善されたという、副交感神経優位の病を有する人だった。治療しながら運動して血圧を上げるようにすることで諸々の症状が改善されたわけだ。
「半年ぶりやな……。やることやってへんかったら、寒暖差でやられてか、クーラーでやられたか」
「しっかり歩いてましたよ」
言いながら脉を取り出す横転先生に、軽く抗議するような口調で返す婦人。
「あれ? 全体的にはマシやないか、何でや? ちょっと靴下を脱いで膝を出してくれるかな」
脉を確認し終えた横転先生は、そう促した。すると、婦人の足の指に巻かれた小さな紐に気付き、ぎょっとした顔。
「なんやこれ? 宗教的な儀式か? それとも趣味か?」
「また、そのような毒舌を……」
横からたしなめたのは白川女史。
「それは、シルクストリングって言いましてね。巻くと冷えが改善されるというアイテムで、最近流行ってるんですよ。足だけでなく身体にも巻きつける人がいるくらいで……」
と、助言をくれた。
「ほ~、色んなものがあるんやな。うまいこと考えたな、理にはかなってるわ。ただ、これは副交感神経のうっ血性冷えを訴える人にはええけど、貴女の場合は改善されたところにこれを巻いて、足が虚血性になって足の裏の筋肉の動きを阻害してる。要するに、わざわざ筋力低下を作り出して先祖返りしてるわけやな」
「えっ? 私には合わないんですか?」
「前は良かったやろな。足が弱かった、血が動きにくかったから補ってくれる力が加わって……今は要らん。かえって悪くなる」
と言いながら施術を終わった。
「ほれ、膝の痛みは無いやろ」
「あれ。ほんとだ、無くなってます」
「ボディースーツがしんどい人と楽な人の違いやな。こういうものは状況に合わせて使わなあかん」
注意する横転先生だが、白川女史は、「それが難しいんですよ」とボソリ。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。




