連載『汗とウンコとオシッコと…』167 揺れと膨れ
2018.07.10
関東甲信越地方で梅雨明けが6月にあったのは初めてだ。イワシが獲れないような海流の蛇行が太平洋高気圧を西に張り出させ、南側からは北にせり上がらせていない変な気圧配置だ。故に梅雨前線も西日本を中心に活動し、各地で局地的な豪雨を作り出している。
こうなると、上空の空気が冷た過ぎて地熱の対流が起こりにくく、夕方から夜にかけて天候が乱れる。また、大阪では突然の地震があり、阪神淡路大震災の嫌な記憶を思い起こした人も多いだろう。身体の状態としてはどうなるのかというと、夏の血管の弛緩と気圧が低くなることで、弛緩性脱力からの痛み、眩暈や循環器系の反応が多くみられる……つまり、気候と同じく対流が上手くいかないので、血液が下に降りにくい状態になり、夕方から夜半にかけて症状が悪化するわけだ。
人工関節を入れてから膝の内側が痛むといい、横転先生の所に通っている高齢の女性患者がいる。手術は上手くいったものの、縫工筋を引っ張って膝内側痛を形成した傷の引きつり、旦那が他界して一人になってから食べてばかりで体重が一気に増加したこと、肝数値の上昇で常に体幹部に血が集まりやすくなったことなどが重なり、痛みを出していた。食べ過ぎを抑えつつの三度の治療で、階段の昇降が上手くできるようになり、喜んでいたところで大阪北部地震を経験することになった。ケガも家屋への被害も無く、無事を喜んではいたが、膝の痛みが再発してしまったのだという。痛みのあまり自力では来院できなくなったほどで、娘に連れられて足を引きずるように訪れ、「先生……膝がまた痛くなって」と訴えている。
「分かっとる、分かっとる。膝の痛みと、足の脱力、夕方からの胸の苦しさ。それと、そうやな、夜間の異常……小西の婆さんやったらそんなもんやろ。特に足に力が入らんって感じが強いわな」
と、早々に言い当てる横転先生。
「なんで分かるの?」
「地震の影響だわ。磁場の狂いとか、強烈な静電気の放出があると、人の血管は膨張しよる。地面の上で自然の電子レンジにかけたような感じになってな……血管が熱膨張して、地震後、三日から一週間の間にこんな症状ばっかり出てきてるわ。それと眩暈も多いな……」
「地震でそんなん出るんですか?」
「鳩も落ちるって言われとるくらいやろ、磁場の乱れは三半規管とかにも影響する。それに、被災後にはエコノミークラス症候群も多く出る……婆さんの場合は人工関節入れた所が緩んで、自分の体重が支えられんで痛んでるだけや。梅雨時期でもあるし、原因は複合的やな」
「痛みは取れますか?」
「まあ、何とかするよ……」
腕を組んで話を聞いていた川端が、不意に口を開く。
「じっ、地震の前の夜、カラスがいっぱいいました。いっ、家帰ったらゴキブリもたくさん死んでて……」
「それはお前の部屋がやたらに汚いだけやろ。ゴキも住めんくらい」
ばっさり切り捨てる横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。