連載『汗とウンコとオシッコと…』172 リミット限界
2018.12.10
既に年の瀬だが、「今年は秋があったのか?」と感じてしまう。暖冬で12月初頭は20度……昭和ではあり得なかった気候だ。今までなら早ければ北風が吹いて小雪がちらついてもおかしくないのに、妙に暖かい。もう「今までなら~」のような表現は通用しないのかもしれない。振り返れば、一兆円を超える災害続きでまれに見る変化の激しい年だった……。
これで身体はどうなるのかというと、秋と夏の混在した病が増える。例年ならば仙腸関節痛がトレンドだが、暖かさで緩みを伴い深部が収縮する肩関節痛、股関節痛がやたらと多い。暖かさによって上焦部の血管が弛緩すれば、眩暈や動悸を伴い、女性ならば疑似月経前症候群が現れたりすることが多いようだ。
「先生、またお願いします。今日は娘なんです」
そう話す母親が連れてきたのは、西山楓香ちゃんという10歳の女子だった。なんでも、バドミントンで今年の夏に全国上位ランクの好成績を残したという。家族を挙げての応援で年末の大会に出場するのに、右肩が痛いということだ。整形外科の受診では問題なく、一週間物療を行ってはみたが変化がないということで来院した。肩のどの辺りが痛むのかと聞くと、右魄戸を指で押さえていた。
「なんや、その年で目の下にクマなんか作って……楓香ちゃんは今、何キロなんや?」
「今、29キロ」
横転先生の問いに、可愛らしい声で答える楓香ちゃん。
「春から何センチくらい伸びたんや?」
「う~ん。分からへん……」
「春からは5センチくらい伸びました」
代わりに答えたのは母親だ。
「まあ、平均より小柄なんやな……」
珍しく時計を見て確認をしながら脉を診つつ、母親に質問を続ける横転先生。
「バドミントンの練習は毎日あるんか?帰宅時間は?」
「週に4回です。大会が近いと毎日かな……帰宅時間は夜9時を少し回ります」
「練習時間は?」
「そうですね……大体4時間で、実質は3時間くらいかしら」
「寝るのは何時?」
「宿題があるから、11時くらい……」
と、これは本人が申告した。
「胸が重く感じたり、右の下腹が痛くなるやろ?」
「よくなる……」
うなずく少女。
「これな……睡眠不足で出てくる神経反射的な痛みや。筋肉性の疲労じゃないし、バドのやり過ぎでもない。30代女性のOLさんや看護師さんが、眼精疲労や寝不足で自律神経が乱れた時に出てくるようなところに反応がある。胸の重たさは疲労で心臓の拍出圧力にバラつきが出てるせいやな……。お母さん、10歳の時は何時に寝てた?」
「……9時には……」
「そうやろ、頑張り過ぎで寝不足なんだわ。それが目の下のクマ。限界ギリギリや。これ以上やると、喘息系になるか心臓が苦しくなるぞ」
「本当ですか」
「時間配分を考えんと本末転倒になるぞ。……ええか、楓香ちゃん。適当に手を抜かんと大人につぶされるぞ。大人の都合にな……」
諭すように話す横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。