連載『汗とウンコとオシッコと…』170 Beyond…
2018.10.10
9月の台風ラッシュが、経験したことないような猛威を列島に振るい各地に傷跡を残した。さぞかし、保険屋は大変なことだろう……。高齢者は室戸台風や伊勢湾台風を思い出したそうだが、過去の写真と見比べても、今回の台風群はこれらに負けない猛烈な勢いだったようだ。秋雨前線が停滞し、夏の少雨を解消するかのような長雨……。日照量の減少は野菜の価格をじわじわと引き上げ、気圧が下がりっぱなしなので、運動不足で貧血・低血圧・低体温の人は、地上にいながらエコノミー症候群のようになり、疑似高張性脱水を形成して、循環器に影響し、浮腫んだり、だるさを訴えたり、傾眠したり様々な症状を訴えることが多かった……。
70代の貧血・低体温・低血圧のやせ型で小柄な女性が、2年ぶりに来院した。旦那の長患いを介護していたが、今はそれから解放されて、残り時間を悠々自適に楽しんでいるはずだったが……。
「なんや婆さん、久しぶりやな。また例の不安感が出てきたんか?」
と、横転先生が相変わらずの口調で話しかける。
「先生、私だるくてしんどくて……怖くなって、それで病院に行って……。血液検査は、これと言って異常はないんですが、中性脂肪の数値だけが高くて……。でも、そんなに食べてもいてませんし……私、太りたくても無理で、痩せてるくらいなのに……」
と、か細い声でつらつらと訴える。東洋医学で言う五声の「哭」の範疇に当たるわけだが……。
「ほう……医者は甲状腺の機能低下を疑ったか?」
と、横転先生。
「さっ、さすが、先生……。甲状腺の機能が落ちているのが分かって、その薬を飲んでます」
「でも、チラーヂン飲んでてだるいってなんや? お前さんの言うような症状は緩和するはずやけど……」
と、首を傾げながらも脉を取り出した横転先生だ。
「あん? 便秘? いや……違うな。なんか、少量で高カロリーのものが入ってないか……。ピーナツとかチーズ……いや、そういうのでもないぞ。コラーゲンたっぷり系のサプリ?」
「ええと……補中益気湯なら、出されて飲んでますよ」
「それや。チラージンで代謝を上げてるのに、必要以上のエネルギー体が入ってきて、関上が処理できんから疲れてるんだわ。エナジードリンクを飲み過ぎて心拍数が上がって、不安感と易疲労感が出てるんと同じ状態や」
「えっ、っていうと、つまり、薬が効きすぎて……」
「そういうことやな……。今の症状を言って、減らせるようにドクターに相談してみ。多分止めるはずや。その血液検査で甲状腺を疑ったくらいの気の利いた人やったらな」
「そうなんですか……」
納得している患者をよそに、横転先生は様子をうかがっていた川端をじろりと見据える。
「ここには食いすぎて、心拍数が上がって落ち着きのない奴もおるけどな……」
バツの悪そうな川端は、逃げるようにトイレに駆け込むのだった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。