『医療は国民のために』295 柔整療養費の受領委任における「復委任」に思う
2020.05.25
1121号(2020年5月25日号)、医療は国民のために、紙面記事、
昨年末、大阪の整骨院グループが、事実と異なる柔整療養費の請求を組織的に行っていたとの疑惑が報じられ、業界外でも大きな話題となった。このグループ内の整骨院の請求が関連の請求代行会社で一括提出されていたことから、2月に開かれた厚労省の柔整療養費検討専門委員会で「復委任」が俎上に載せられ、今後議論が展開される見通しだ。
そもそも、この「復委任問題」とは何なのか。まず確認したいのが、受領委任の取り扱いとは、療養費の申請権者である被保険者(国保の場合は世帯主)に支給される療養費を柔整師(協定及び契約上では「施術管理者」)が受け取ることを認めた事務処理である。そして、被保険者等が柔整師に療養費の受け取りを委任し、これを受けてさらに施術管理者が自分の属する団体の長に委任することを「復委任」と言っている。
ここで留意すべきなのは、被保険者が窓口では3割しか支払っていない事実と、一部負担金相当額である3割を控除した7割が保険者から支払われることから、柔整師にしてみれば患者に残りの7割の施術料を請求できる債権(残金請求権)がある一方、支給された療養費はあくまで被保険者に帰属するものだから患者に返さなければならない(受領金返還債務)が、この債権と債務が同額であることに鑑みて、柔整師の手元において相殺することで、結果的に療養費が被保険者等に支払われたとする事務取扱いなのである。厚労省の通知によれば、施術管理者の元で相殺処理が完結しているが、実際は、療養費の取り扱いを団体の会長宛てに施術管理者がさらに委任しているのが一般的である。
そんな中、保険者が「団体の長(会長とか理事長とか)が受領することは、国の通知では全く触れていない」ので、冒頭のような不始末が起きたと決め込み、「国の通知どおりに施術管理者の受け取りのみを認め、復委任に基づく組織団体への入金を阻止すべし」と、専門委員会の議論の場で主張し出したのだ。確かに施術管理者が所属団体の長へ受り取りを再度委任することは、厚労省通知のあずかり知らないところで、あくまでも民法の規定に基づくものということになるだろう。協定や契約の当事者として、地方厚生局長や都道府県知事が復委任を認めないと言えるのかどうか、ここは民法上の解釈の問題であることから、法令解釈上許容されるのかどうかが今後議論されることになろう。
とはいえ、「協定」に論拠を置く「包括としての復委任」として、「契約」とは異なることを理由に、協定だけが引き続き各都道府県柔道整復師会(社団)の会長やその傘下に位置付けられる協同組合理事長宛てに療養費の送金を認められるとなれば、同一資格・同一免許にもかかわらず、国が「ダブルスタンダード」を認容することにもなりかねない。このような判断をしないとは思うが、通知に何の規定もない復委任を、この際、明確にしておく必要はあるものと考える。
ちなみに、保険者が「認めない」と豪語しているが、保険者は協定や契約の当事者ではないのだ。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。