『医療は国民のために』254 償還払いの請求を施術者団体が支援するかどうか
2018.08.25
1079号(2018年8月25日号)、医療は国民のために、
来年1月から、あはき療養費にも受領委任の取り扱いが導入される。当初、多くの業界関係者が、「柔整療養費と同様に受領委任となれば、かなりの数に上る健保組合の代理受領を認めないことに終止符が打たれ、償還払いも無くなる」と考えていた。しかし、あはき療養費に導入される受領委任は、導入するもしないも「保険者の勝手」であり、保険者の自由裁量権が認められたことから、今後も償還払いは存続することになった。
あはきの施術者団体では、従来の「代理受領」の保険申請に当たっては、柔整療養費と同様に対応しているが、償還払いには団体として対応していない。その主な理由としては、
①保険者ごとに療養費支給申請書がばらばらであり、施術者団体で統一的に使用している様式を認めない保険者が多い。それにより、電算的な機械処理や電気的管理方策としてのシステム化を図ることが困難
②あはき師が保険分と同じ額で患者から費用を徴収していれば問題が無いが、償還払いの保険者の患者(被保険者等)には自費施術ということで、療養費の支給基準額よりも高い施術費を受け取っているケースがある(例えば、1回5,000円の施術料を患者に支払ってもらった場合、後日償還払いで患者に支給される療養費の額との差額が生じて、「これは何なのか」と保険者に問われることになる。2術併用(1,580円+30円)×0.7=1,127円であれば、5,000円との差額である3,873円について保険者から聞かれる)
③施術者団体としては、所属会員が治療した患者に手数料を徴求することが困難
などが挙げられるだろう。
また、保険者である健保組合が、なぜ代理受領から償還払いへと積極的に移行してきたのかといえば、償還払いにした途端、明らかに支給申請が減少するからだ。患者は健保組合独自の療養費支給申請書に施術証明を書いてもらい、申請書を提出することは面倒くさくてやらないし、また施術者の側も自分の収入につながらないものだから、償還払いの請求方法を患者に教えることもしない。だからといって、施術者団体が償還払いの患者に対して積極的に申請行為の支援を行うべきなのか、そもそも償還払いを行う患者への指導は問題ないのか、疑問が残る。さらに、これを推し進めた結果、保険の金額よりもはるかに高額な施術料で治療を行っている施術者にメリットがあるのか等、検討すべき点が多くあるように思える。
今となっては後の祭りだが、全ては受領委任への参加を保険者の裁量に委ねてしまったことが諸悪の根源だ。本来なら、償還払いは無くなっていたはずだ。「保険者の(自由)裁量」が柔整療養費にも飛び火しようものなら、柔整療養費も瓦解してしまうだろう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。