『医療は国民のために』276 申請後に医師に病名確認して柔整療養費を支給しない動きが始まる?
2019.08.10
柔整療養費の「負傷名」に対する保険者の疑念がいよいよ強まっている。療養費申請の「負傷原因欄」には急性期の外傷性の理由としての「捻れ」や「外力」について施術者の記載があるが、その7割以上が捻挫で、打撲も2割強という実態から、「人はそんなに捻挫や打撲をするものなのか」との疑念を深めているようだ。仮に、柔整療養費に医師の同意書を義務付けたら、ほとんどの捻挫・打撲の申請が無くなるだろうと保険者側は見ているという。
このような状況の中、今後、健保組合がこれらの点をチェックする動きを始めることは想像に難くない。被保険者から柔整療養費の申請を受け付けたのち、徹底的な文書照会に加え、事業主を通じた保健事業としての患者指導により、必ず一度は医療機関の診察を受けさせる。そして、保険医療機関から請求のあったレセプトを確認し、柔整請求と部位が同じと思われる傷病名を見つけたら、その療養費申請を不支給処分とするだろう。その際の不支給理由は、整骨院での負傷名の「○○捻挫」が医療機関での診断の「○○○(傷病名)」に該当するので捻挫では無いとし、「当然、医師が治療すべき傷病となり、療養費の支給対象外」とするものだ。つまり、柔整師が捻挫や打撲と判断して施術したとしても、医師の診察では捻挫や打撲ではないのだから、「療養費の支給要件を満たしていない」との考え方だ。
もっとも医科学的な病名を柔整師が付けると、それは診断権の問題に波及する。例えば、柔整師が診断行為を行い、「腰椎椎間板ヘルニア」と判断の上、対症療法としての施術を行ってもそもそも療養費請求できないのだから、その請求自体が不正請求に当たると保険者は切り捨てるだろうし、さらに療養費は療養の給付の「補完的位置付け」であるから、実際に療養の給付が行われている以上、「医科との併給・併用の禁止」の点でいずれにしても支給は認められないというものである。
保険者からして見れば、療養費の支給を適正化する観点から、患者に医療機関の受診を勧め、実際に医療機関から請求のあったレセプトの傷病名欄をチェックすることにより、目的が図られ、疑念もいくぶん解消できる。しかも、偶然にも「医科の請求も打撲・捻挫」であれば、今度は「医科との併給・併用」を理由に不支給にできるのだ。
恐ろしいのは、これらの保険者の取り組みによる不支給処分が妥当な処分であるとなれば、柔整師の判断や見立てはその後の医師の診断で常に覆される恐れがあるということになり、これを保険者が認容していることだ。このような実務処理がまかり通ってしまっているのが、残念ながら柔整療養費の実態なのである。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。




