『医療は国民のために』271 令和新時代の到来に寄せて
2019.05.25
新元号「令和」が始まり、新時代の到来である。柔整・あはき業界が令和の時代でどう変わっていくかを大胆に予測してみたい。
■柔整・あはき業界
まずは柔整業界だ。療養費の取扱い高が今後も大幅に落ち込んでいくだろう。その理由は、施術管理者になるために「実務経験」と「研修受講」の高いハードルが設けられた上、柔整審査会の権限も強化されたため、慢性疼痛対応の自費施術を療養費申請と併せる形でメニューを組み立てることが一般化するからである。本当は保険施術のみで生計を立てられればいいのだが、請求しても返戻され、審査会が実施する「面接確認」に追われ、療養費を避ける傾向が一段と強まる。その結果、自費対応は広がっていく。そのほかに、柔整師の活躍の場となるのは介護保険と地域包括医療だが、現時点でどのように取り組めば参入できるか検討もつかない柔整師も多く、期待を持てる段階には達していない。
次にあはき業界である。何といっても混合診療の解禁に焦点が当たる。既に20を超える大学付属病院において自費による施術料を窓口で支払って鍼灸施術が行われている。保険医療機関でも堂々と鍼灸施術の提供が始まると、治療行為として認知され、広まっていく。そうなると多くの鍼灸師の雇用が生まれ、鍼灸治療の有効性を国民も実感することになるだろう。
■療養費・広告問題
中でも、柔整・あはき療養費の取り扱いに特化して述べれば、平成30年度までに実施された適正化方策が厳しかったことを痛感するだろう。前述した施術管理者の新要件や審査会の面接確認(ともに柔整)のほか、あはきでは施術報告書や往療内訳表といった添付書面の作成、医師の同意書の添付などが次々に設けられた。一度導入されてしまった抑制策を廃止するのは至難の業で、「面倒くさい」と言ってはいられない。これにより、各施術所の療養費の比重は徐々に少なくなっていくと予想され、請求団体に対する依存度が減少し、電子申請の完成によって療養費請求団体はその役目を終える。もちろん業界団体のいくつかは残存するが、業界のシンボル的存在としてだ。
そして、施術者に直接影響があるのが広告問題だ。現在、厚労省による「広告に関する検討会」が開かれているが、看板などの掲示物に規制がかかるのは致し方ないが、ウェブサイトにも広告規制が加わると大きな痛手となろう。これからの時代、他との差別化を図るには何といってもインターネットを駆使した情報発信が効果的だ。昔ながらの口コミによる地道な広報活動も重要だが、効率的とはいえない。スマホを持たない患者は皆無であり、ここは業界が必守すべきである。
■大学・専門学校
最後に、大学や専門学校といった養成施設はどうなるだろうか。保険の取り扱いが厳しくなる上、受領委任を取り扱う施術管理者になるのも難しい状況で、国家試験の合格率も低調が続くとなれば、入学希望者は減少し、定員を満たせないどころか入学希望者激減のため廃校・休校ラッシュとなる。金にならない魅力のない分野に学生が集まらないのは当然だ。現在係争中の裁判「晴眼者のマッサージ課程新設非認定処分取消訴訟」で国が敗訴し、マッサージ課程新設が解禁される……などが打開策となるかもしれない。その証拠に、解禁されればいつでもマッサージ課程設置申請の準備が整っている学校法人がいくつかあるという。
■新時代のターゲット
以上で述べてきたことはあくまでも予測だが、新時代において柔整・あはきともに当面のターゲットとすべきは「慢性疾患患者の症状の緩解」だ。これは対症療法ではあるが立派な医療なのである。慢性病は完治しない。つまり、決して治らないのだ。運動器疾患における慢性疼痛の対症療法の専門家としての柔整師・あはき師は、患者が求める疼痛の緩解と機能回復の実績により重宝がられるはずだ。さらに言えば、認知症対策、機能訓練対策、運動器疾患対策を併せた「4本柱」が今後の柔整師・あはき師の活躍の舞台となるだろう。これらにどうやって入り込んでいくのかを一緒に考えていこう。これが唯一の生き残りの将来像である。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。