連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』18 せとうちART研究会
2019.10.10
「せとうちART」と聞いて「瀬戸内国際芸術祭」を想起する方も多いと思いますが、生殖医療の世界でARTと言う場合は、Assisted Reproductive Technology(生殖補助医療技術)を指します。これは大きく四つ。①体外受精、②顕微授精、③胚移植、④ヒト卵子・胚の凍結保存並びに凍結胚移植等の技術の総称です。そしてこの研究会は、瀬戸内海を囲む地域のART施設の研究会で、去る9月1日、私は同研究会の『妊娠の成立維持におけるNK細胞の関わり』という講演を聴きに行きました。子宮の中にある免疫細胞の70%はNK細胞ですが、外敵を容赦なく殺戮するNK細胞がこんなにたくさんあって、なぜ「半自己」である受精卵を攻撃しないのか。実は、免疫細胞の表面には多種多様のCD(Cluster of Differentiation)やリガンドが存在し、それらによってその働きが大きく異なります。例えば同じT細胞でも、CDが違えば全く別物のように振る舞うというわけです。さて、こんな話が何の役に立つのでしょう。私たちが使用する近赤外線直線偏向照射機を星状神経節に当てると、末梢血におけるNK細胞が変動することが分かっています。本機を使用するからには、当然知っておくべきでしょう。この機器はもともと星状神経節ブロックを目的に開発されたのですが、色んな角度から研究がなされており、こういった光線が副次的に様々な効果をもたらすことが分かってきました。昨今、自律神経と免疫機能の密接な関わりが明らかになってきましたが、交感神経優位な状態と副交感神経優位な状態とでは、体を駆け巡る免疫細胞の所在が全く異なっているらしいのです。ならば自律神経に作用する鍼灸やこのような光線が体の中で何を引き起こしているのか、知れば知るほどその後に期待すべき効果が想定されやすくなります。科学的根拠をもって、適応疾患に対する改善の可能性が判断しやすくなるというわけです。当院では特に不眠症や過敏性腸症候群、起立性調節障害などの自律神経失調症に対して、クロノセラピーという手法を用いることがあります。交感神経の抑制を一日の中のどのタイミングで行うと最も効果的であるのかを考えて、施術時間を決定するのです。
さて私達が運営する一般社団法人JISRAMでは、年に1回公開講座というものを開催します。各会員が色んな講演会や学会に行った際、「これは生殖領域を学ぶのに鍼灸師にも知っておいて欲しい」と思う内容に出会ったら、演者をこの公開講座に招請します。前回の公開講座には複数の医療機関から医師、さらには胚培養士も来聴されました。鍼灸師の一団体が開催する講座では、とても意味あることだと思います。次回は来年の3月22日(日)に京都で開催しますが、既に『生殖免疫の基礎と抗精子抗体』『子宮NK細胞』(いずれも仮題)の2題が決定しています。NHKで特集が組まれるほど免疫は熱い領域ですが、免疫という言葉は、きちんと理解されずに軽々しく使われているように感じます。全ての疾患、外傷にとどまらず健康維持にも免疫機能は大きく関与しており、知れば知るほど病気への見方がガラリと変わります。免疫に、一度がっぷり四つに取り組んでみてはいかがでしょう。一生の財産になること、請け合いです。個人的には、自律神経と免疫の相関は全ての鍼灸師が知っておくべきであろうと思いますし、そうすることで病気への理解が一層深まると思います。公開講座には毎年100人を超える鍼灸師が日本全国から集まります。生殖に興味がある方も無い方も、ご来聴をお待ちしております。聴講をリピートして本会に入会される先生もたくさんおられます。詳細乞うご期待。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。




