連載『食養生の物語』79 餅は餅屋
2019.12.25
いよいよ年の瀬ですね。来年の話をすると鬼が笑うと言いますが、新年の縁起物といえばお餅。お餅のように寿命も長く伸び、切れにくくなるようにとの願いが込められています。もっとも、最近の餅は米粉から生産されるようになり、さほど伸びないものも。かつては、もち米を蒸してからついてできたものが餅、米粉に水を加えて練って作ったものは団子と区別していました。餅は粘りがありくっつきやすいので、きな粉や餡で外側を包むようにし、団子はくっつきにくいので餡を具として内側に包んでいたとも言われます。
新年に神仏に供える「鏡餅」は平安時代から存在していたようですが、現在のように、床の間など玄関から離れた部屋に飾るようになったのは室町時代頃からのようです。鏡餅の名は、昔の鏡の形に似ていることから。また、二段に重ねるのは、陰と陽を意味するとの説が有力です。「医は仁術」という言葉の「仁」の字は、人が陰と陽の二物に寄り添う姿と言われていることと併せて理解しておきたいところです。飾り始める時期に決まりはありませんが、一般に末広がりを意味する「八」の縁起が良く、12月28日が最適といわれます。「苦」を連想する「九」の意味で29日を避けるところがある一方、29を「福」と読んで歓迎する地方もあるようです。
地域差では、西の丸餅と東の角餅(切餅)。境界はちょうど岐阜県の関ケ原辺りのようです。関西では、丸く円満に、カドが立たないようにと縁起を担ぐ一方、角餅は「のし餅」とも呼ばれることから、相手を倒す(のす)という願掛けで関ヶ原の東軍に歓迎されたとの逸話も。ただ、実際のところは、人口が増えた江戸では一つひとつ丸めるよりも大きな餅を切ってしまう方が量産しやすかったというのが真相のようです。最近、角餅が主流になってきていることからもうなずけますね。
餅を平らに伸ばして焼いたものが煎餅(せんべい)の始まりと言われています。現代では「米菓」に分類され、米粉のほかにもデンプン粉が使われ、味付けをしたものが多くなっています。ちなみに「サラダせんべい」とは焼いた後にサラダ油を絡めているもので、生野菜の成分は入っていないので間違わないようにしましょう。
毎年正月には、餅を喉に詰まらせる事故のニュースを聞きます。それでも、こんにゃくゼリーのように警告表示が義務化されたり、流通を規制されたりはしていません。餅の窒息リスクが既に広く認知されていることもありますが、それだけ愛され、伝統食として残されていく餅の偉大さとも言えますね。
来院した患者さんに、「餅は餅屋やからねぇ」なんて言うことがあります。長引く痛みに耐え、自分でなんとかしようとしたけど諦めて来院。あっさりと楽になり、「早く来れば良かった」なんて会話の中で出てきます。どんな分野でもその道の専門家に頼るのが良いという例えですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。




