臨スポ第28回学術集会 野球肘検診を少年球児全員に
2017.12.25
一般社団法人日本臨床スポーツ医学会(臨スポ)の第28回学術集会が11月18日、19日、都内で開催された。『文化の成熟を示すスポーツ医学―2020年に向けて』をテーマに、スポーツ庁長官・鈴木大地氏による招待講演など、3年後の東京五輪・パラリンピックを意識したセッションのほか、特別講演や教育講演、シンポジウムなどが多数行われた。
シンポジウム『こどもの肘を守る。少年野球における肘障害予防』は、近年、全国各地で実施されている学童期野球選手を対象とした野球肘検診について報告された。徳島大学運動機能外科学の松浦哲也氏は、症状が進行すれば選手生命が危ぶまれる肘離断性骨軟骨炎(肘OCD)は、初期で発見され保存的に修復した症例の予後は術後例よりも良いと解説。ただ、初期で症状を自覚するケースは少なく、野球歴や練習時間といったオーバーユースに関する因子との関連もみられないとして、肘OCDを確実に早期発見するには小学生高学年の全選手に検診を行うべきだと説いた。徳島での取り組みにも言及し、検診で発見された障害の大半は初期例であり、投球・バッティング中止を主体とした保存療法を行い90%以上が修復していると紹介した。奈良県立医科大学地域医療学講座の江川琢也氏は、平成23年から同県で計7回の検診を実施していると報告した。医師と理学療法士(PT)による一病院の事業として開始したが、マンパワーと経費面の問題に直面したため、NPO法人を立ち上げ、病院関係者以外からスタッフを募集し、企業等からも寄付金を募った結果、検診費用無料で実施できていると説明。回を重ねるごとに規模も拡大し、当初13人だったスタッフが、現在は医師11人、PT78人、臨床検査技師13人、柔整師4人、栄養士4人など計154人に増えたと話した。京都医療センター整形外科の中川泰彰氏は、平成23年から京都軟式野球連盟とタイアップして実施していたが、受診する選手の数が頭打ちとなったため、年に1回は検診を受けないと翌年の連盟主催の野球大会に出場できないとの規定を設け、検診を義務化して球児の障害を守っているとした。宮崎大学医学部付属病院の帖佐悦男氏や新潟リハビリテーション病院の山本智章氏、西別府病院スポーツ医学センターの馬見塚尚孝氏も加わった総合討論では、検診で障害発生を予防するのは難しいので、早期発見し、治療につなげることが主目的である点が確認された。