トランス健保の不支給処分、取消 「柔整施術を整形外科で相談せず」問題なし
2017.02.10
患者・柔整師側の不服申立て、認める
整骨院で治療中の疾患(捻挫)を、同時期に受診した整形外科で診断されなかったことが柔整療養費申請の要件を満たしていないとして、トランスコスモス健康保険組合(以下、トランス健保)が昨年8月に行った不支給処分が、審査請求で覆った。関東信越厚生局社会保険審査官が、平成28年12月21日付の審査請求の「決定書」で処分の取り消しを命じた。
本件の患者はトランス健保の被保険者である組合員で、平成28年3月分と4月分の柔整療養費申請が不支給処分されたことを受け、代理人を介し、不服申立ての審査請求を同年10月に行った。代理人は、施術を行った柔整師が所属する全国柔整鍼灸協同組合(全柔協)の専務理事・上田孝之氏が務めている。
本件で問題点となったのは、トランス健保の不支給理由だ。患者は平成28年3月と4月に整骨院へ計4回来院し、「右肩関節捻挫」「左膝関節捻挫」の治療を受け、施術費用を療養費として申請した。また、3月中旬の同時期に整形外科にも来院しており、「頚椎椎間板症」等の治療を受けた。これに対し、トランス健保は、整形外科では「右肩関節捻挫」「左膝関節捻挫」の診断がされていない上、患者が捻挫について医師に訴えず、また医師も「右肩関節捻挫」「左膝関節捻挫」を認識していないことから、健康保険法第87条第1項の規定する「保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる」との条件を満たしていないとして不支給処分を行った。
決定書では、不支給処分の取り消しについて、「頚椎椎間板症のため整形外科で受診しているが、右肩関節捻挫、左膝関節捻挫についての診断が下されていないことに、申請とは矛盾がある旨の理由によって、療養費の支給対象外とする項目は見当たらないと言わざるを得ない」「健保法第87条第1項の規定に該当していないとまでは言えない」との理由を挙げ、トランス健保の主張を退けた。
解説
今回の審査請求で、仮にトランス健保の主張が認められ、まかり通るようなことになれば、話が「医科との併給・併用の禁止」にも飛び火し、患者が保険で柔整施術を受ける権利は大きく制限される事態になりかねない。決定書の中に、「医師が整骨院の治療を認識していないと整骨院の保険が利かないというのはおかしいのではないかと思います」との請求人(患者)の言葉を目にした。本事例は明らかに保険者の行き過ぎた判断といえ、今後、類似の不支給処分には必ず声を上げなければならない。(編集局・倉和行)