『医療は国民のために』218 柔整・あはきへの電子カルテ導入の必要性
2017.02.25
医科での診療録(カルテ)の電子化が確実に進んできている。社会保険診療報酬明細書(レセプト)の電子申請化はほぼ完了し、カルテとレセプトとの作成が連動するシステムの普及が背景にあるようだ。ただ意外なことに、レセプトの電子申請化が90%を超える中、電子カルテの普及率は400床以上の一般病棟で82.5%であり、一般診療所においては36.2%(平成27年度調査実績)だという。とはいえ、今後も大いに進捗していくことは期待される。その電子カルテの有用・有益さとしては、
①患者への病状説明に当たり貴重な説明ツールとして武器となることから、患者の信頼獲得に直結する
②見やすい画面構成により他院との差別化が図れる
③医療スタッフのカルテ整備に係る事務処理作業の軽減につながる
の3点が挙げられる。そして、カルテとは、まさに「治療行為の事実の根拠」であり、治療を行う者はその整備をしなければならない。これをこの業界に置き換えて考えてみよう。
療養費という医療保険はもちろん、労災、生活保護、また交通事故に対する自賠責でも、当然カルテの整備は求められている。具体的に、柔整療養費では「受領委任の取扱規程20」や「算定基準の実施上の留意事項第6」によって、カルテの作成と5年間の保存期間を求めている。あはき療養費でも、柔整ほど明確な規定はないが、課長通知による留意事項に施術録の記載事例が示されている。
ただ、柔整師や鍼灸マッサージ師には文書作成が苦手な者も少なくないであろう。だからこそ、電子カルテの導入だ。「文書が書けない、書きたくない」という施術者にとっては、カルテ作成に当たっての必須のアイテムになることは間違いない。さらに今後、確実に普及が見込まれる理由が、柔整・あはきの両療養費検討専門委員会での議論の中に明快に見いだせる。昨秋に示された「療養費検討専門委員会における議論の整理に係る対応スケジュール」によれば、柔整審査会の権限を強化し、不正請求の疑いが強い施術所に資料の提出や説明を求める仕組みを、早ければ平成29年度から実施を目指したいとされていることに着目すべきだ。ここでいう「資料の提出」の「資料」とは、具体的には「カルテ」と「問診票」であることは言うまでもない。すなわち、カルテを作成していない者は、今後、保険請求から「撤退」させられるといった環境が整いつつあると見るべきだ。
医科では既にe―文書法により、一定の評価を得ているが、療養費ではまだまだ認知されてはおらず、あくまで保険請求の証拠・証明は「紙媒体」で保管となっているのが現状だ。しかし、医科・歯科・調剤と同様に、今後必ず電子カルテの認知が進んでいくことになるだろう。柔整とあはきの業界は、療養費の取扱い高の拡大を目指すのであれば、早急に電子カルテを導入し、事業展開すべきであり、このことを行政・保険者に対して積極的にアピールしていかねばならない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。




