連載『織田聡の日本型統合医療“考”』105 「リテールクリニック」という市場
2018.12.10
1086号(2018年12月10日号)、織田聡の日本型統合医療"考"、
年の瀬です。今年も気候が異常で、急に寒くなったり、暖かくなったりして体調を崩される方も少なくないですね。私が今年、仲間と設立したMedQuery(メドクエリ)株式会社は、こういった、ちょっと体調不良になった方々を診られる「リテールクリニック」を開発しています。柔整師の適用は本来急性軽症の疾患であるはずで、鍼灸は慢性疾患も適用するかもしれませんが、実際には「筋骨格系の慢性的な症状」が、顧客のイメージする治療院像ではないかと感じます。例えば、風邪を引いた時に鍼灸院に行きますか? 私の周りは鍼灸に親和性の高い友人が多いので、感冒初期でも鍼灸を選択する人もいますが、一般的には風邪で鍼灸院に行くということが頭に浮かぶ人は少ないと思います。
実は、風邪の初期に医療機関を受診する患者さんは13.3%しかいません。それ以外の人はどうしているかというと、12%が薬局に行き、50%が手持ちの薬で何とかする人、そして、何もしないという人が23.7%です。風邪薬の売上は年間1,300億円で、薬局に行く人が12%、風邪症状で医療機関を受診する人が毎日1万人当たり28人いることを考えると、風邪の症状がある人は210人/1万人/日ということになり、1兆円/年ほどの市場になります。 そのうち、病院にも薬局にも行かない人の市場は7,000億円/年ほどにもなり、この市場は誰も手付かずなのです。
風邪に限らず、その他の咽頭痛や腹痛、下痢などの急性軽症で病院に行くまでもない市場に、自費で「やすくて、はやくて、あんしん」を提供する「場所」を作ろうという計画ですが、そうなるといったい誰が実際のオペレーションをするかが問題になります。
一方、アメリカではリテールクリニック市場が成長しています。最近10年で1,500億円程度の市場となり、クリニック数も2500を超えています。私は以前から、治療院がそういう「場所」になりうると言い続けてきましたが、なかなかそのような方向に向かっていないようです。アメリカのリテールクリニックでは医師が診察するわけではなく、「ナースプラクティショナー」という一部の医療行為を自らの判断で行える看護師が対応します。ターゲットも急性軽症疾患で、高い医療機関へ行くまでもない患者さんです。日本では皆保険制度のために、なかなかリテールクリニックが育ちませんでしたが、コンビニ受診が非難される時代とあってそろそろ登場しても良いはずです。
日本においてもそのオペレーターは、看護師や薬剤師が想定されます。また、同じ国家資格者のあはき師や柔整師も活躍できるかもしれません。そこで皆さん、急性軽症疾患を診ることはできますか? 国民医療費の高騰を抑えるために、この活動に私は今後も注力していく予定です。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。