Q&A『上田がお答えいたします』 保険者からの嫌がらせのような質問
2019.03.25
Q.
「初検日が負傷してから○日後であり時間が経過しています。普通すぐ治療を受けに来るのではありませんか。また、施術の間隔が空いているのはなぜですか。初検月以降も施術が必要と判断された理由を明らかにしてください。また、施術ごとの各回の施術の効果と術前術後の症状、施術計画、療養中の注意事項をお知らせ願います」として、柔整療養費の支給申請書が返戻されました。
A.
これはもはや嫌がらせとしか言いようがないですね。しかし、たくさんの回答の方策がありそうです。例えば、「初検日が負傷してから時間が経過しているが、普通すぐ治療を受けに来るのではないか」との質問についてですが、患者さんは急性外傷の受傷時の一次痛である鋭い痛みではなく、二次痛として出てくる長く続く鈍い痛みに対してストレスを感じて来院されたのだと思われます。痛み、炎症はすぐに機能障害を起こすものばかりではありません。「まあ、すぐに治るだろう」としばらく様子を見ていたものの、「やはりこのままでは治らない」と通院に至るケースは多々あるはずです。
「施術の間隔が空いている上、初検月以降も施術が必要と判断した理由」についてですが、頸椎捻挫を例に考えてみましょう。頸部は重い頭部を支えているので、QOLを保ちながら生活しようとすれば患部を安静に保つのは困難です。そのため、運動制限や患部安静指導を行っても患者さんが実践できることは少ないでしょう。一方、疼痛には閾値があり、仕事中やスポーツ活動時など集中している時は交感神経優位のため、閾値は上がって痛みに鈍くなります。そして、痛みに鈍くなっている状態で損傷部を不意に動かすと相当の負担がかかり、鋭い痛みが蘇ることになります。そのため、治癒したと錯覚して一時的に足が遠のいていた患者さんが再び来院して来るのです。その繰り返しで、結果的には施術期間も長くなることも往々にしてあり得るでしょう。
「施術ごとの各回の施術の効果と術前術後の症状、施術計画、療養中の注意事項をお知らせ願います」ともありますが、これは問題ありませんね。施術の効果や症状の変化を、口頭による質問や可動域の検査などによってきちんと確認しながら施術計画を進める――これが東洋医学の特徴であり、有効である理由とも言えるからです。
いずれにしても、外傷性の負傷であると施術者が判断したのならば、療養費の支給対象であると堂々と主張すべきです。保険者の嫌がらせに屈してはなりません。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。