Q&A『上田がお答えいたします』 理学療法士がマッサージ業界を席巻する
2019.02.25
Q.
理学療法士(PT)が、あん摩マッサージ指圧師の免許が無いのにマッサージの自費施術所を開設していると聞きました。しかもPTの名札を胸に付けて施術者として患者に対応しているようです。
A.
医療保険分野での独立開業権を有しないPT・作業療法士(OT)ですが、介護保険では一部ですが医師から独立して開業が許されている分野がありますし、保険を全く使わない自費では何の規制も受けないのが実情です。
PTとOTは年間に合わせて約1万4千人が免許を取得し、その大半は、外科・整形外科・理学療法科・物療科などを標榜する保険医療機関に勤務します。しかし、近年では保険医療機関においても人材がダブついてきました。そこで、保険医療機関に収まりきらない者たちが、手技を主体とした消炎鎮痛効果が期待できる「医療マッサージ」を提供することを謳い文句に患者・顧客を集めているのです。その上「慰安・疲労回復の気持ち良いマッサージ」も行いますから、これが大流行になりつつあります。手技療法と併せて電療も行い、かつ疲労回復ができて気持ちが良いものだから顧客満足度は極めて高く、3千円程度の自費でも「好況」のようです。
厚労省の「平成28年 国民生活基礎調査」によると、「介護が必要になった主な原因」の1位が認知症、2位が脳卒中、3位が高齢による衰弱、4位が骨折・転倒、5位が関節疾患、となっており、運動器の機能低下が全体の30%をゆうに超えています。運動器の機能低下を防ぐには筋肉量の減少を抑えること、すなわち筋肉トレーニングを行うなどしてロコモティブシンドローム(運動器症候群)に適切に取り組むことが求められます。それには的確な運動指導、筋トレ、筋肉細胞への適度な刺激、マッサージ、関節可動域の拡大、メタボ解消策などが必要で、いずれもPT・OTの得意分野です。
PT・OTの自費マッサージはいずれ、マッサージ業界を席巻するかもしれません。無資格のマッサージ店も少なからず顧客を奪われますが、その時、あマ指師は更なる大打撃を被ること必至です。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。