『医療は国民のために』286 柔整・あはきが生き残るには「助産師にならえ」
2020.01.10
私の周囲には「治せる柔整師・あはき師」が大勢いるが、その施術者の療養費申請でさえなかなか支給されなかったり、整形外科からもバッシングを受けたりと、療養費に対する風当たりが一層厳しくなってきている。食べていけないから、業界を去る者も当然続出する。一方、治療技能に本当に秀でた者は、保険医療機関にその活躍の場を広げていけるのではと私は考えている。なぜなら、助産師がそのような過去を通ってきたからだ。
かつて、戦前はもちろん、戦後の一時期まで大いに活躍したのが「産婆さん」だ。独立開業で院を構え、出産時の取り上げや出産前後における妊産婦のあらゆるお世話をした。ただ、産科婦人科学の発展とともに戦後はその姿が消え、代わって助産師が国家資格として誕生した。産科において、プロフェッショナルの専門職として助産師は生まれ、現在では開業もできるが、その多くは保険医療機関における助産行為に限局したパラメディカルスタッフとして、産科医の信頼に応えながら業務に就いている。看護師よりも上級の資格と位置付けられていることから、看護師が併せて助産師の資格を取得するのもうなずける。そもそも、柔整師やあはき師が行う施術が治療行為というのであれば、医療機関で行われてはいけないはずがない。むしろ、積極的に医療機関内で行われるべきだと考える。かつて、鍼灸施術は医療機関で行われるものではないとされ、もし行われたなら罰するとか、治療費を有料で徴収したなら罰するとか言われてきた。しかし、時代は既に大学病院の付属医療機関で、医師の指示の下、何のおとがめもなく施術することができ、しかも混合診療禁止の概念に捉われることなく、有料で施術を行える医療機関が20以上も存在しているのだ。
そう考えると、今後、保険医療機関内で柔整師とあはき師は正々堂々と自らの免許資格をもって、医師の指示の下に施術を行い、その対価として病院から給与をもらうことを目指すべきだ。さらには、保険医療機関が柔整・あはきの施術メニューで診療報酬明細書を請求する。言い換えれば、使い勝手の悪い療養費からの脱却であり、診療報酬に正当に組み込まれた柔整・あはきの施術料の獲得である。これが新たな保険請求枠の拡大ということになろう。
今やコンビニよりも多いと揶揄される鍼灸整骨院だが、養成施設の定員問題も含め、やがて常識の範囲内の数に落ち着く日がやって来る。療養費でまだ何とか食いつないでいける現状において、いち早く助産師のたどった道に学び、医療機関内で堂々と働ける環境づくりに着手すべきである。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。