『医療は国民のために』280 「可変給付率」の導入は、療養費はおろか、国民皆保険の崩壊も招く
2019.10.10
健康保険等の公的医療保険の財源対策として、今後、議論の目玉になるのは「可変給付率」の導入だ。毎年1兆円ずつ増え続け、団塊の世代が75歳以上になる2025年までに膨大に膨れ上がる医療費に対し、国は今、新薬やAIロボット治療といった高度先進医療、いわゆるハイリスク・ハイコストの医療に保険を手厚くし、一方で、風邪薬・ビタミン剤・うがい薬・目薬などといったローリスク・ローコストの医療はその対象を外すとする方策を、財務省主導の将来設計の下に厚労省が引き受けて実行している。ちなみに、健保組合の財政は「高齢者に係る拠出金」で大半を持っていかれることから解散が加速することは間違いない。
ただ、そんな中で、いきなり「軽微な医療は全額自費」に切り替えるとなると、国民感情を無視した運用だと非難されることだろう。そこで、国が考えているのが「可変給付率」である。
当然のことながら、現在、保険給付の対象には100%の保険が利き、対象外は0%である。が、これを「可変」させる、すなわち保険給付率を自由に変更できるようにするというものだ。一部負担金に関しては、高齢者の自己負担を1割から2割に変更し、最終的には若い人と同様に全ての被保険者を3割で統一する考えのようだが、法令上、これを4割などと負担割合を強化することはできない。ところがこのような状況下で、保険給付率を変更可能にできれば、以後、保険でまかなう範囲がいくらでも縮小していける。医療保険の財源的見地からは極めて有効な財政対策となり得る。具体的には、前述の新薬の給付率を100%とし、ビタミン剤は0%とするといった形で給付率を変動させることにより、抗がん剤や白血病新薬の自己負担はゼロであるが、風邪薬やビタミン剤は全額自己負担にすることが可能となる。治療方策ごとに、あるいは薬剤の適応ごとに、あらかじめ保険給付率を変動させることができれば、保険財源などいくらでも縮小できることとなる。
例えば、これを柔整業界に置き換えてみると、いきなり柔整療養費を全額保険外にするのではなく、骨折と脱臼は療養費が100%使えるが、打撲や捻挫、挫傷については30%しか保険が利かない……というようなものであろうか。考えただけで恐ろしい。今後、可変給付率の議論が交わされないことを祈るばかりだが、そうは言ってはいられず、中央社会保険医療協議会や社会保障審議会医療保険部会での主要テーマになるだろう。
ともかく、まずは医科本体で議論されるであろうが、どう考えても「国民皆保険崩壊」への第一歩となるのは明らかだ。可変給付率の導入よりも「混合診療の解禁」が先だと私としては考えているが、保険給付の減少につながることを狙った制度設計であり、日本医師会としてもやすやすと賛成に回ることは考えられない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。