連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』23 新型コロナウイルス騒動
2020.03.10
1116号(2020年3月10日号)、不妊鍼灸は一日にして成らず、新型コロナウイルス関連情報、紙面記事、
3月22日開催予定だった当会、JISRAM公開講座は5月31日に延期になりました。当初、会場のホテルに電話すると、キャンセル料は頂きませんが延期なら早く押さえて下さい、とのこと。確かに騒動が終わったら、それまで中止や延期していた行事が動き始め、早く押さえておかないと会場探しが大変なことになります。そこで5~6月でホテルに空きを聞いてみると5月31日しかないということで、この日程となりました。とりあえず押さえてみたものの、おっと大変、全日本鍼灸学会とかぶっています。でも仕方ないので、このまま実行予定。参加予定者のキャンセルは、今のところ2人だけ。皆さんのご協力に感謝です。
さて、公開講座のテーマは「着床」です。新型コロナウイルスは目に見えない敵として脅威な存在ですが、昔は無菌状態だと思われていた子宮の中も、今や様々な微生物が存在することが分かっています。よく考えたら、子宮の中には各種免疫細胞がいるのですから、感染に対する防御が前提とも言えます。火のないところに煙は立たぬ。同様に、真に無菌なら免疫細胞は不要、です。
ところで、ウイルスは生き物でしょうか。生き物の定義とは何でしょう。外界と隔てられる内部器官を持つこと、自身のコピーを作り出すこと、自活できることなどでしょう。しかしウイルスは自活できません。宿主に入って宿主のDNAに自分のRNAコピーを作らせるのですから、非常に狡猾な増え方です。このように自分だけでは生きていけないものを生き物と呼べるのか、常に議論の的となっています。
ウイルスにもおバカな者、賢い者がいて、おバカな奴は宿主を滅ぼしてしまい、その瞬間、ウイルス自身も全滅です。代表はエイズウイルスです。かたや頭のいい奴はずっと潜んで宿主の中で生き続けます。代表はヘルペスウイルスです。今回の新型コロナウイルスはどちらでしょう?
さて、精子はどうでしょう。精子も、外界と隔てられた器官を持ちますが、自分で増えることはできません。しかし自分で動くことができます。そして卵子に侵入して卵子のDNAと合体し、自分のDNAを後世に伝えようとします。これはウイルスに似ているような。でも自分で泳げる分、ウイルスより生き物らしくないですか?
顕微鏡で精子を観察するとうじゃうじゃと泳いでいて、愛着が湧くというより、ちょっと気持ち悪いです。自分が女性だったら、こんなものが数千万いや一億匹も入ってくることに、違和感すらあります。いずれにしても精子は、子宮から見たら異物です。精子を取り巻く精漿も同様です。精子に対して防御反応が働くと抗精子抗体というものが出来て、精子の動きをブロックしてしまいます。しかしマクロファージは精漿に反応して、妊娠を有利に導きます。この時、子宮のマクロファージは局在的に、または時機的に量的な変動をします。見えないところで色んな連鎖反応が起こっているのです。体外受精や非配偶者間人工授精のように、精漿に暴露されない状態、またはいつも暴露されている精漿と異なる男性からの精子での妊娠では、通常の自然妊娠より妊娠高血圧の発生率が高いことが知られています。
そうすると体外受精では胚移植の数日前に、人工授精はその前後に、避妊をしない性交渉が勧められます。が、医療現場ではなぜか昔からそれを推奨する医師はあまりいません。なぜでしょう。私が思うに、不用意に雑菌が侵入して子宮内に炎症が起こることを避けるためではないかと。炎症は免疫細胞を活性化させるので、体外受精のような一大イベントで、受精卵が攻撃されるリスクを避けるためではないかと思います。ある奥様にこの話をしたら「じゃあ主人のモノを消毒すればいいですか?」と……。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。