連載『織田聡の日本型統合医療“考”』101 医療情報のリテラシーや情報漏えいリスクを学ぼう
2018.10.10
近年、鍼灸マッサージ・柔整の保険診療である療養費の枠組みの維持が困難になってきています。医療機関でさえ、その維持が今後生易しいものではなくなっている今、50兆円を超える医療・介護にかかるコストと業界の市場を比較し、国民の健康への寄与を訴えることすら、もう間に合わないのではないかと思っています。本連載では当初より、医療機関との連携、医療保険からの自立・非依存化を訴えるなど、このような主張が多かったのですが、100回を超えた今回から少し趣向を変え、患者さんとの会話に役立つトピックスといった臨床現場に近い情報をお伝えしていこうと思います。
初回のお話は「医療情報」。先日、早稲田大学にてIoTサイバーセキュリティーシンポジウムが開催されました。主催者の一人が遠縁であり、私も招待されました。IoTとは、Internet of Things (モノのインターネット)、あらゆるものがインターネットを通じて接続されて情報交換ができるような制御の仕組みです。総合討論では、医療における情報セキュリティーを話題に、大手キャリアや暗号化、人工知能を専門とする大学教授の重鎮の皆さんと討論をしました。会場では、日本が医療分野の情報戦略で世界に遅れを取っているというのは周知の事実でした。その原因の一つはセキュリティーに対するリテラシーの低さ、もっと言えば、中途半端な知識のためブレーキがかかっているということです。例えば、マイナンバーカード。普及率はたったの11.5%(平成30年7月総務省公表)です。漏えいのリスクを盲目的に恐れている方が多い。セキュリティーの専門家に言わせると、これは多大なリスクのほんの一部に過ぎないようで、ちょっと考えてみると、マイナンバーカードを恐れている人がなぜ保険証を恐れて反対しないのか。そもそも顔写真が無い保険証は、現時点で他人の利用を防止できません。現在でも保険証切れのレセプトの返戻は少なくありません。
今回のシンポジウムでは、生体認証における顔認証はやめたほうが良いという話が出ていました。リアルタイムでのCG動画/画像が認証システムの対応できるレベルを超えています。多くの方が恐れているマイナンバーなどの漏えいリスクは、5GとIoTの普及を背景としたハッキングによるリスク規模の大きさと比較すると小さく感じてしまいます。ただ恐れるのではなく、自分のデータがどうやって守られどのように保存されているのかを知っておくことが重要です。知らず知らずのうちにデータは取られてしまいますよ。100%安全な治療が無いように、100%安全なシステムもありません。治療院内のICT化を考えている方もそうでない方も、情報漏えいリスクについて一度学んでみたらいかがでしょうか。そういう情報リテラシーについて「健康情報連携機構」では教育プログラムを提供していきます。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。