寄稿 「亜急性」への柔整業界からの提言
2017.02.10
現在、柔整療養費検討専門委員会で「亜急性の外傷」の解釈を巡って、柔整側委員と有識者委員の整形外科医との間で意見の対立がみられ、議論は平行線をたどっている。そんな中、柔道整復学科を設置する宝塚医療大学(兵庫県宝塚市)から、医科学的視点からの論考を加えた亜急性に対する提言が本紙に寄せられた。
柔道整復師の亜急性の範疇について「日本と世界のオーバーユースの位置付けの違いから」
社会保障審議会医療保険部会の柔道整復療養費検討専門委員会で、療養費に係る柔道整復師業務について議論が繰り広げられている、特にオーバーユースoveruse(以下「overuse」という)についての議論がなされた。柔整師が日常取り扱う外傷にはスポーツによるものも多く、その症例はシンスプリントや野球肘、アキレス腱炎、Osgood-Schlatter病等、多くを取り扱う。しかし、一般的な日本の整形外科書では、スポーツ外傷sports injuryとスポーツ障害sports disturbance(overuse酷使も含まれる)の分類が示されている。
これらの分類によると、スポーツ外傷(骨折・脱臼・靭帯損傷・肉離れ等)は急性期に起こる柔整師の業務範囲内であり、スポーツ障害(肩関節亜脱臼症候群・肩インピンジメント症候群・野球肘・ジャンパー膝・シンスプリント等)は時間の経過とともに症状が現れる亜急性とされ、原因も急性期のように明確ではない。また、疾患名が記載されているため業務範囲外と位置付けられている。しかし、柔整師の業務範囲は所謂「外傷(傷害)」であるが、従前より「障害」も「overuse」も業務の範疇である。そこで、日本の整形外科書に示されているこれらの分類は世界的基準によるものなのかを検証した。
整形外科先進国である英国のオックスフォード大学が出版している「The Oxford Dictionary of Science and Medicine」では、『運動、動作の過剰な負荷や頻度の増加、あるいは低負荷ではあるが長時間の強制により身体に過度の負荷がかかることに起因する損傷は、「使い過ぎ損傷overuse injury」』と位置付けられている。また、『身体ストレスの多い状況で繰り返し運動をすることによって生じた病理的徴候が、「痛み」となって症状に現れるものを「使い過ぎ症候群overuse syndrome」』と紹介されている。これらはoveruse injuryであり、「ある程度の運動が許容される場合」と「安静が必要とされる場合」の二つに分類されているのみで、障害disturbanceという分類は示されていない。
米国では、「メルクマニュアルMSD MANUAL(医学事典)」がスポーツ損傷sports injuryの中にoveruseを位置付けている。ただし、スポーツ外傷とスポーツ障害のような分類は無く、overuseによる症状は全て外傷(傷害)overuse injuryによるものであるとしている。その治療内容は局所を安静にし、「痛み」が無くなるまでとしている。
同じく米国Rochester医科大学(URMC)の見解でも「overuse injury」と位置付けられ、多くのスポーツ損傷やoveruseは、軟部組織損傷が含まれていて、微小な外傷によるものと説明されている。これらは、日本の分類とは異なっている。したがって英・米国が位置付けているsports injuryのカテゴリーは、スポーツ障害(肩関節亜脱臼症候群・肩インピンジメント症候群・野球肘・テニス肘・ジャンパー膝・シンスプリント・足底筋膜炎等overuse「酷使」)も含め、柔整師が取り扱い、施術できるものと解釈できる。
わが国の一般的な整形外科書では、overuseをスポーツ障害の分類に位置付けている。しかし、その治療法は日本においても米国のメルク マニュアルと同様で、外傷に対する安静を主体とした除痛処置を優先的に行っている。そのことは、overuseが外傷により生じるinjuryであることを証明している。日本の医師は障害という分類を盾に取り、敢えて疾患名を付け、柔整師がoveruseの施術を扱えないように働きかけている。
しかし、実際の国民目線はというと、安静と痛み止めの投薬という整形外科の治療に対して満足できない患者が、1日80万人程度、接骨院を訪れ治療を受けている。接骨院では、局所の固定、手技による除痛及び電気治療を行い補完している。柔整師によるoveruseの治療を制限することは、このような、国民の治療を受ける権利を阻害しているのではないかと考える。
柔整師の支給対象である亜急性は、歴史的に、負傷の時期ではなく、発症の起点に着目した問題として柔整師の業務範囲とされてきた。反復性の外的圧力要因や微小の外力による負傷といえるスポーツ障害、特にその代表的な例であるoveruseはその範疇に属し、柔整師が古く、整形外科医師が不足していた時代から治療対象としてきたものと考える。
■国別の「スポーツ外傷sports injury」と「スポーツ障害sports disturbance」の取り扱い状況