『医療は国民のために』262 医科等の「運動器疾患」参入で柔整分野への侵食が進む中、対応策は自費だ!
2018.12.25
近年、介護が必要になった原因として、3割以上が「運動器の機能低下」に起因している実態にあることが分かった。厚労省の「平成28年国民生活基礎調査」によれば、「介護が必要になった主な原因」のうち、13.3%が「高齢による衰弱」、12.1%が「骨折・転倒」、10.2%が「関節疾患」だったという。なんと35.6%が、筋肉・関節・骨といった運動器の機能低下に関するものが占めているのだ。しかも、認知症(18.0%)や脳血管疾患(16.6%)よりもはるかに多い。今さら言うまでもないが、この分野は柔整師が得意としてきた。
「高齢による衰弱」は、老化現象によって身体の機能や能力が低下し、結果として何らかの障害を誘発する危険性をはらんでいる。運動器の機能低下に強く関係するのが筋肉量の減少で、これを抑制することがポイントとなる。ここに狙いをつけ、市場展開されているのが高齢者の筋肉トレーニングというものだ。筋肉・骨・関節・椎間板等の運動器の加齢による退行性の障害が生じ、立ったり、座ったり、歩いたりといった日常的な基本動作に関する機能低下が「要介護に至る入口」である。筋肉量をこれ以上減少させない対応が重要であるから、筋肉細胞への適度な刺激を与える。そのためには軽めのトレーニングで筋肉を鍛えるということになる。また、トレーニングにより筋肉量を増加させ太くすることができれば、転倒防止や転倒に伴って発生する骨折も防止できる。寝たきり予防の最たる対応策であるといえる。
ここまで説明すれば「整骨院の分野」であるとはっきり言えるだろう。事実、柔整業界ではロコモティブシンドローム(ロコモ)をいかに業務へ取り入れるのか、議論してきたではないか。また、高齢化が加速する日本において、高齢者の筋トレによる運動器疾患に陥らないための対応は不可欠となる。高齢者の運動器疾患の特徴としては、腰・膝・肩と部位が連鎖的に複合して悪化していくことから、柔整師はあくまで運動器全体を俯瞰して診ていくことになる。それが、たとえ「療養費支給対象外」であってもだ。ただ、変形性膝関節症の悪化や大腿骨骨頭壊死などによる人工関節の適応といった重篤な患者との見極めや、整形外科との連携が取れるかを考えると、対応は容易ではないだろう。柔整師が本来、得意とする運動器疾患で、「何もやらない」「何もできない」ということがないよう手を打つ必要があろう。
患者は運動器の不調について、「腰痛」や「肩こり」という自覚症状で具体的に訴える場合もある。明確な負傷原因もなければ急性期のものでもないことから療養費の対象外で、だからこそ「自費メニュー」として取り込むのである。他方、整体院では既に取り入れられており、施術も理学療法士が担当しているという。手技・物療・筋トレのセットメニューによる自費施術が今後加速する中、無資格者や理学療法士に負けてはいられないではないか。このような現状からも、柔整師が腰痛・肩こりを自費メニューで堂々と手掛けていかねばならない論拠は見いだせる。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。