『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』9 痛覚変調性疼痛とは?
2025.11.12
痛みに対する考え方は日々変化している。痛みはその原因により、①組織の損傷や炎症などの原因で侵害受容器が興奮することで生じた「侵害受容性疼痛」、②神経が障害されたことにより生じた「神経障害性疼痛」、③その他の心理的な問題(ストレス、不安、抑うつなど)が原因で生じた「心因性疼痛」の3つに分類されていた。
しかしながら、 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』9 痛覚変調性疼痛とは?
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』9 痛覚変調性疼痛とは?
2025.11.12
痛みに対する考え方は日々変化している。痛みはその原因により、①組織の損傷や炎症などの原因で侵害受容器が興奮することで生じた「侵害受容性疼痛」、②神経が障害されたことにより生じた「神経障害性疼痛」、③その他の心理的な問題(ストレス、不安、抑うつなど)が原因で生じた「心因性疼痛」の3つに分類されていた。
しかしながら、 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』8 痛みにおける脊髄の役割
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』8 痛みにおける脊髄の役割
2025.10.12
痛みという感覚は原始的な感覚であるが故に、色々な場所で修飾を受けて脳に伝わります。特に近年では前頭前野や扁桃体などの脳が痛覚を修飾していることが注目されていますが、その他に注目されている部位として脊髄があります。
そもそも痛みは受容器が痛み刺激を感じると神経が興奮し、電気的な信号として脊髄に伝わります。この電気的な刺激の伝わりは伝導と表現しています。そして、色々な受容器から生じた電気信号(興奮)は脊髄に集約され、シナプス(化学信号)を介して脳に伝わります。このように伝達物質による情報のやり取りを伝達と表現しています。特に脊髄は、 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』7 痛みにおける前頭前野の役割
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』7 痛みにおける前頭前野の役割
2025.09.12
痛みは原始的な感覚であるがゆえに、様々な修復を受け、その感覚を変化させることが知られています。その中で、近年注目されているのが前頭前野です。
前頭前野は脳の「司令塔」ともいわれる部位で、考える・計画する・気持ちをコントロールするなど、人間らしい高度な働きを担っています。例えば、勉強や仕事で目標を立てて実行する、感情に流されず冷静に判断する、相手の気持ちを想像して行動するなどに欠かせません。前頭前野がうまく働くことで私たちは社会生活をスムーズに送り、創造的なアイデアを生み出すことができます。一方、前頭前野の機能が低下すると、注意力や記憶力の低下、計画や判断をする力に障害が起こり、仕事や日常生活に支障をきたします。感情を抑えにくくなり、怒りっぽさや無気力、うつ状態がみられることもあります。特にアルツハイマー病や前頭側頭型認知症では前頭前野の障害が大きく関わり、性格の変化や社会性の低下につながることがあります。
他方、 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』6 痛みにおける扁桃体の役割
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』6 痛みにおける扁桃体の役割
2025.08.12
ここまでは痛みに関する基本的な診療を解説してきました。
ただ、痛みは複雑であり、同じような疾患名で状況(グレード)であっても同じ痛みになるとは限りません。そして、鍼灸治療で報告されているエビデンスに関しても、正常な鎮痛機構が働くことが前提であり、鎮痛機構が正常に働かないとガイドライン通りのエビデンスは得られないのです。そのため、「エビデンスが存在する=鍼灸治療に効果がある」とはならず、患者さんの置かれている状況が効果を決めていると言っても過言ではありません。そこで、今回からは、鎮痛機構に影響する因子について考えてみたいと思います。
そもそも、痛みは (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』5 エビデンスに伴う治療と電子カルテ
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』5 エビデンスに伴う治療と電子カルテ
2025.07.12
痛みの診察では、問診によって大まかな原因を探り、どの組織に問題があるのかを、感度・特異度・尤度の高い検査によって絞り込みます。そのうえで、痛みの中心が末梢・脊髄・脳のいずれのレベルにあるのかを調べます。この一連の流れは、適切な治療を行うために不可欠な過程です。
治療の成果は正確な病態把握の上に成り立っており、病態把握こそが最も重要です。実際に「診療ガイドライン」では、診断と治療がセットで記載されています。そのため、ガイドラインに示されたエビデンスは、その中に記載された診療基準を満たした場合にのみ有効です。 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』4 痛みの中心レベル
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』4 痛みの中心レベル
2025.06.12
痛みの観察では、大まかな原因を問診で探り、どの組織の問題かを感度・特異度・尤度の高い検査で絞り込みます。一般的には、ここまでで病態把握は終わりとなりますが、症状が複数ある場合や痛みが長期化している場合は、さらにもう1つ考えなければならないことがあります。それが、「痛みの中心レベル」です。痛みの中心(病態)は、末梢、脊髄、脳の3つのレベルに分かれており、それぞれのレベルに応じて症状の現れ方が異なります。
末梢レベルでは、問題が関節や骨、神経、筋肉といった末梢組織のみに限定しており、痛み以外の症状はほとんど存在しないのが特徴です。ぎっくり腰や変形性膝関節症などと患部は痛いものの、それ以外に症状が存在しない場合は、末梢レベルと考えられます。
一方、脊髄レベルは末梢レベルから少し状態が変化します。 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』3 痛みの検査―疾患の判定に有効な3つの指標
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』3 痛みの検査―疾患の判定に有効な3つの指標
2025.05.12
痛みの診察では原因となる組織がある程度絞り込めたら、最終的にどのような疾患か判定するための検査を行っていきます。
まずは、絞り込まれた組織でどのような疾患が存在するのかを推測し、必要に応じて追加の問診や検査を実施します。ただ、疾患を判定するための問診や検査は、それぞれ症状や部位ごとに多く存在しており、その重みも異なります。そのため、知っている検査をいくつか行っても、その結果がバラバラになることも少なくありません。より正確な結果を導くには、疾患を判定するために確率の高い検査を行う必要があり、そこで役に立つのが、感度・特異度・尤度比という3つの指標です。
感度とは「疾患の判定に有効な指標」とされ、 (さらに…)
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』2 各組織の痛みとは?
『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』2 各組織の痛みとは?
2025.04.12
痛みを診察する際、まず初めに痛みが生じている組織は何かを検討しなければいけません。そこで、まず痛みの質が鋭く、痛みの範囲も明確な皮膚と神経の痛みについて考えてみます。
皮膚の痛みは、障害部に発赤・発疹などが存在していることが多く、アロディニアや痛覚過敏など、感覚異常が生じている場合も多くあります。そのため、視診や触診で皮膚の痛みはおおよそ判断できますが、それを鑑別する検査所見はありません。他方、神経の痛みは、痛みだけでなくしびれが混在していることも多く、異常感覚として捉えられることも少なくありません。また、痛みや異常感覚は障害を受けた神経の支配領域に存在していることがほとんどで、程度によっては筋力低下や麻痺、さらには知覚鈍麻を起こすこともあります。 (さらに…)
新連載『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』1 痛みの原因を探る―4つの問診とは
新連載『鍼灸師・柔整師のための痛み学―UPDATE』1 痛みの原因を探る―4つの問診とは
2025.03.12
痛みの治療は総合診療科です。患者さんは「〇〇が痛い」と痛みの部位は教えてくれますが、その原因は教えてくれません。痛みの診察では、痛みの原因はどこかを明確にすることから始める必要があります。
痛みの原因は末梢・脊髄・脳の3つに分類されます。
末梢とは皮膚や筋肉、関節、骨、神経といった組織のことで、末梢組織に原因がある場合、それらの侵害受容器が興奮して痛みが生じているため、その組織や周辺に治療を行います。
脊髄に原因がある場合、複数の神経で支配されている内臓に障害があったり、脊髄そのものに直接的な障害、もしくは痛みの記憶があるものを指します。ただし、障害への直接的な治療はできないので、関係のある障害高位の分節に治療を行います。
脳の痛みは、痛みをコントロールしている脳の実質的、または機能的な障害(記憶を含む)で、こちらも脳へ直接的な治療ができないことから、脳に影響の強い部位である四肢や顔面部・頭部などに治療を行います。注意点として、脊髄や脳の痛みでも、その痛みは特別に感じるわけではなく、脊髄分節や脳の関連領域に存在する末梢組織の痛みとして感じるということです。
問診では手始めにどこの組織が痛いのかを割り出し、その痛みが予想した組織の痛みで正しいのか、またそのレベルは末梢なのか、それとも脊髄や脳なのかを探ることで原因を特定します。今回は診察の第1段階である、どの組織の痛みかを判断する4つの問診を紹介します。
初めの問診項目は時間的な要因。時間は急性期(3カ月以内)か慢性期(3カ月以上)を判断します。特に慢性期の場合は脊髄や脳に痛みが記憶されている可能性があります。
2番目は痛みの質。痛みの質は鋭いか鈍いかで、鋭い場合は皮膚や神経の、鈍い場合は筋肉や骨、関節などの深部組織の痛みが考えられます。なお、深部組織でも炎症がある場合は、鋭く感じるので注意が必要です。
3番目は痛みの部位(エリア・範囲)。範囲が明確な場合(点で示せる、色で塗りつぶせる)は皮膚や神経、明確でない場合は深部組織の可能性が考えられます。なお、炎症がある場合には、2番目と同様に深部組織でも範囲が明確になります。
4番目は痛みの軽減悪化因子。動きに伴い変化する場合は、筋肉・関節・骨などから来る痛み、常に痛い場合は神経の炎症から来る痛み、食事や生理などで症状が変化する場合は内臓から来る痛み、と考えられます。
最後に4つの問診を総合的に組み合わせることで、どこの組織に痛みがあるのかを予測し、その上でその予測が正しいのか、さらなる問診や検査を行います。まずは、4つの問診を行い、痛みの原因として疑わしい組織を絞り込みましょう。
POINT!
痛みの原因は3分類
①末梢 ②脊髄 ③脳
痛みの原因を特定するための4つの問診
①経過時間を探る ②痛みの質を探る ③痛みの部位を探る ④軽減悪化因子を探る
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長、鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。
専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。