連載『汗とウンコとオシッコと…』188 臨機応変
2020.04.10
春が早く過ぎ、夏の脉の弛緩する姿が現れている。血圧に関係なく脉が弛緩するのだ。それにより血圧が高めの人は、腫脹するまではいかないものの組織の深部が痛むことが多く、血圧が低い人には弛緩性の関節痛やめまいなどが多くみられる。季節の移り変わりの早さは、小中学校の卒業式や幼稚園や保育園の卒園式に桜が咲くほどだ。しかも薄桃色のソメイヨシノに加えて濃い桃色の山ツツジが咲いたなんて、筆者も初めて見た。また、新型コロナの蔓延も早い。事前の想定は難しく、その時々で対策を立て臨機応変に対応しないと難しいところである。人は未知なるものを恐れる傾向が強く感情論に走りがちだから、冷静な対応が望まれる。ただ、ウイルスと菌の違いが分からず、若い人が「コロナ菌」と称した姿を見て、かつての教育改革の弊害を垣間見たことは残念でならない……。
白川女史が40代半ばの上杉某という女性を治療していた。結婚しているものの子宝に恵まれず、悠々自適な生活を送っている女性だ。元々貧血で低体温、低血圧で更年期に差し掛かる不定愁訴を白川女史が調整していた。スイーツを控えさせ、いわゆるGIの値が高い食事を改善してもらい、適度な運動を勧めてきた結果、全体的には改善してきたものの、性周期の乱れがまだまだ残る状態だ。
「先生、先日から頭が重かったり、急にふらついたりして……なんだか右の肩が凝ってるのかしらね、首の動きも悪いんです……」
と、症状を訴えていた。
脉を確認した白川は、
「これは高温期が終わりかけて月経前の状態に近づいているのと、気温差、暖かいといえまだ寒いですからね……冷え逆のぼせみたいなのが重なって出てるだけですよ。あと、尿が減っているのもそれを助長させますね」
と、説明しながら治療を終えた。
だが、上杉某さんが会計をしている時、鷹の目の横転先生は彼女が、左手でこめかみを押さえて撫でながら、ややうつむき加減で、白川と世間話をしている姿を見逃さない。白川は何も気付いていないようだ……。 彼女が帰った後、横転先生はたしなめる。
「白川、緩めすぎたな……。川端ならいざ知らず、鍼後、マッサージしているとき女同士の会話に気を取られて緩めすぎたの分からんかったやろ。鍼後はシャキッとしとったのに……」
「えっ、どういうことなんでしょう? 分かりません」
表情を引き締める白川。
「会計の時、こんな感じでこめかみを手の平で押さえとったやろ。楽になりましたなんて言いながらでも……。あれ、後でくるぞ。あれは患者が無意識に胆経を押さえて外頚動脈を按圧して調整してるんや、緩めすぎた圧を上げるためにな……患者の何気ない動作を意識下に置かんとあかん。最後まで気を抜くな。そうすれば、失敗の対策がすぐ打てる」
「あ~、あの時の……」
と、思い出した様子の白川が驚いている。この話には後日談があり、やっぱり、何時間か後にふらつきがひどくなったとのことだった……。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。