連載『汗とウンコとオシッコと…』182 Misunderstanding
2019.10.10
1106号(2019年10月10日号)、汗とウンコとオシッコと、
金木犀が咲くのが例年より2週間ほど早い……秋だ。10月に至ったのにもかかわらず、太陽光線は強く、日中は30度を超える日が続き、朝方は例年のごとく涼風が吹く。こうなると身体はどうなるのか。血圧の日動変化で、朝方に血圧が下がり、背面細動脈側が低圧になり体表温度が下がれば、寝違い、急激な肩の痛み、ぎっくり腰様の筋・筋膜性腰痛、仙腸関節痛が引き起こされるのは毎年のことだ。ましてや女性は月経が絡むので腰痛を助長しやすいのは言うまでもない。また、体表温度が下がることで不感蒸散、所謂、陽気の発散が阻害されれば咳嗽寒熱の症状が現れやすい。もちろん、現代医学的には、溶連菌などの感染症に罹患しやすいというわけだ。
松下某という患者が来院した。40代前半で、川端がよく行く飲み屋の大将なのだが、昨日は店を開けることができないくらいの腰痛だったそうだ。高校時代は野球で甲子園出場経験が三回もあり、大学でもそこそこ活躍したがっしりとした体格の持ち主だ。
「先生、えらいことですわ。飲み屋が提灯の火を消すことになるとは……腰が痛くて、どないもこないもならんのです」
と、嘆くのを聞きながら、脉を取るのは横転先生だ。
「いつも川端が世話になってるようで、すんませんな……でも、えらい頑丈な御仁やな」
「大学の時に先輩に腰を蹴られて分離症になったんですわ……。25年前のことです、1カ月は動けませんでした。今そんなことしたら大問題やけど、ええも悪いもない時代で……それからたまに腰痛が出るんですけど、これほどひどいのは初めてで……」
「背中見せてくれるか? ……うーん。確かに分離症はあるけど、この腰痛に関しては分離症が関わっとる可能性は5%以下やな、消費税よりも率が低い。ハハハ……。
味見による食べ過ぎと、クーラーの中で寝てるから筋肉が冷えて攣った感じになってるだけやな。要するに血の流れが悪いだけで生活習慣病みたいなもんやぞ。分離症が関与するんは、アンタの体力やったら70歳超えてからやな……」
「えっ、そうなんですか」
松下さんは怪訝そうに言うが、手足の鍼後には痛みがかなり軽減した。
「先生、人差し指を一カ月前に突き指してあんまり曲がらんのですわ。これも血の流れと関係あるんですか?」
すっかり信用しきった様子で聞く松下さん。
「疑似糖尿病みたいになってるから、指先に行く血が少なくて治す力が無いわけやな。よし、見とけよ」
と、横転先生が背中側から右の胃兪に丁寧に刺入して、
「動かしてごらん」
「先生、曲がりますわ……」
と驚く飲み屋の大将。
「これで分離症はあんまり関与してないのが分かったやろ。生活習慣病やな。疲れた時、チョコレートを爆喰いしてるのをやめろよ。ひどくなる……」
「な、何で分かったんですか?」
「わしの仕事や」
ニヤリと笑う横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。