連載『織田聡の日本型統合医療“考”』110 利益追求をしづらい医療介護業界の変わり目
2019.02.25
1091号(2019年2月25日号)、介護、織田聡の日本型統合医療"考"、
私が代表理事を務める一般社団法人健康情報連携機構で、2月27日から開催の第2回スポーツビジネス産業展に出展します。それに先立って、先日ビッグサイトであった医療介護関連の展示会、その一週間前には日本医師会ORCA管理機構株式会社の「ORCAカンファレンス」で展示を行いました。限られた関係者しか来ない医師会の展示はさておき、ビッグサイトでの賑わいの無さに改めて医療介護業界全体の問題の深刻さを感じました。ICT関連の仕事をしている関係で、ICT関連の展示会や学会はもちろん、最近では美容系の展示会にも足を運ぶ機会が増えているのですが、明らかに医療介護の展示会の熱が低いことに気が付きます。これは周りのスタッフや関係者も同様に感じているところです。
それはなぜなのか。医療や介護は、「利益追求をしづらい業界=やりづらい業界」だからです。「B to B to C」(※)というバリューチェーンを考えた時に、営利型法人メーカーの営業する先が非営利団体の医療機関で、その医療機関がサービスを提供する患者さんは皆保険制度に守られています。歪んだ関係が形成され、さらにそこへ医療・介護独特の法律や制度が存在します。一般のマーケティングや商取引が通用しない職域なのです。最近では、医師と製薬メーカーの金銭の取引が公開されるサイトが出現するなど、利益相反関係を嫌って一般のメーカーとの連携をはばかる傾向にあります。また、かつては開業さえすれば利益の上がっていた医療機関が、公的病院を中心に赤字と破綻の危機にさらされる社会状況となり、簡単にお金を貸せない状況にもなってきています。私自身が医師免許を持つため、気が付きにくかったのですが、企業、メーカーの皆さんは医師と話をするのも恐る恐る顔色をうかがいながらという側面もあり、「全てがやりにくい」というのが、医療介護業界における一般企業の経営だと思います。
本欄でも散々書いてきたことですが、医師の職域に踏み込めなくて、多職種連携が構築しにくいという課題を何とかしなければなりません。医師は業務独占資格です。しかし、医師の仕事を細かく小タスクに切り分けていくと、医師でなくてもできる部分も多いです。今までは医師と他の医療従事者や介護関係者との連携を進めていましたが、今後は自費サービスを提供する営利企業や各種メーカーなど、医師と連携したいけどできなかった領域の法人との連携もうまく進めることも考えていかなければなりません。つまりは混合診療が一部解禁されるのは時間の問題だということです。クリニックですら自費サービスの拡充が進んでいるわけですから、鍼灸院や接骨院も保険から外れていくのは避けられない流れだと思います。
(※)企業が他の企業へ商品やサービスを提供し、提供を受けた企業がさらに一般消費者へ提供するという商取引の形態
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。