連載『柔道整復と超音波画像観察装置』180 前距腓靱帯の一考察
2020.03.25
松本 尚純(筋・骨格画像研究会)
前距腓靱帯(以下、ATFL)は腓骨と距骨とを結ぶ靱帯で、その働きは距骨の前方移動を抑え、足関節を底屈する際は緊張して内がえしを抑制することである。ATFL損傷はスポーツや日常における内がえしや内反強制で起こる、非常に発生頻度の高い損傷だが、近年の超音波画像観察装置の進歩により、非常に描出しやすくなってきている。 (さらに…)
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』180 前距腓靱帯の一考察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』180 前距腓靱帯の一考察
2020.03.25
松本 尚純(筋・骨格画像研究会)
前距腓靱帯(以下、ATFL)は腓骨と距骨とを結ぶ靱帯で、その働きは距骨の前方移動を抑え、足関節を底屈する際は緊張して内がえしを抑制することである。ATFL損傷はスポーツや日常における内がえしや内反強制で起こる、非常に発生頻度の高い損傷だが、近年の超音波画像観察装置の進歩により、非常に描出しやすくなってきている。 (さらに…)
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』179 腰椎分離症の観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』179 腰椎分離症の観察
2020.02.25
田中 正樹(筋・骨格画像研究会)
腰椎は椎体部・椎弓部・突起部の集合体であり、椎骨同士は関節軟骨を挟んで椎間関節で連結している。腰椎分離症は椎弓板の骨の連続が断たれるものであるので、その部位を超音波画像観察装置で観察するが、いくつか注意する点がある。それらの注意点を理解しておかないと、目的の部位にたどり着かず、間違った病態の判断をしてしまうことになる。超音波画像を提示しながら、腰椎を観察する際のポイントを述べる。
伏臥位にて腰部に超音波プローブを長軸で当て、まず棘突起を抽出する。 (さらに…)
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』178 足関節損傷時の超音波画像観察について
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』178 足関節損傷時の超音波画像観察について
2020.01.24
鈴木 孝行(筋・骨格画像研究会)
30代の男性。柔道の練習中、畳に足をとられて右足関節が外返しになり受傷、その直後から足関節内側部に痛みが出現したため来院した。患部を診察したところ、自発痛、運動痛はもちろんのこと、内果部の腫脹や三角靭帯付近の圧痛が確認でき、外返しのストレステストで疼痛が増強、患側での荷重負荷も困難で、跛行が見られた。これらを踏まえると「三角靭帯損傷」と「脛骨下端部骨折」の二つの損傷の可能性が考えられたので、その判断のため、超音波画像観察装置で患部を観察することにした。
まず、健側(左足)画像中の組織の位置を確認する【画像①】。①は「脛骨下端部」、②の高エコーラインは「距骨」、③の帯状のラインが「三角靭帯」である。全体的に組織間の境界が明確になっている。患側(右足)の画像と健側の画像を比較するとまず確認できるのが、患側の脛骨下端部の黄色い線で囲んでいる箇所の不整画像である【画像②】。健側では、脛骨の高エコーラインが鮮明に描出されていたが、患側では骨折があるため、高エコーラインに侵入像が見られ、さらにその周囲には出血や炎症物質が滲出して、低エコー領域が増加しているのが認められた。また、三角靭帯の観察においては、健側と比較すると、高エコーのラインに低エコーが入り込んでいる不整画像が確認できた。これは、骨折における内出血として捉えられるが、靭帯損傷の疑いも考えられるので見極めが難しい所見である。
今回のような足関節周辺の損傷では、下端部骨折や靭帯損傷など判断に迷う症例が多々存在するので、見逃さぬようにしなければならない。多くの情報が得られる超音波画像観察装置を使用して健側と患側とを比較観察し、患者にも画像を確認してもらえれば、患部の客観的な説明が可能になる。これによってインフォームドコンセントをより明確に行うことができるので、骨折および軟部組織損傷に対する超音波画像観察の必要性は今後も高いと考えられる。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』177 ランニング後に認めた下腿内側部の疼痛に対するエラストグラフィー観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』177 ランニング後に認めた下腿内側部の疼痛に対するエラストグラフィー観察
2019.12.25
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
Real-time Tissue Elastography(RTE)とは「生体の硬さ情報」を画像化する技術である。RTEは、体表からの圧迫操作に対する組織の変形率(変位の空間微分)を「歪み画像」として撮像領域内で相対的に表示する方法であり、組織の弾性分布を反映しているとされる。物理的に、歪みは硬い組織ほど少なく、軟らかい組織ほど多くなるが、RTEはこの相対的な硬さを半透明化したカラーの歪み画像としてBモード画像上に重ね合わせることで、生体内の相対的硬度分布をリアルタイムで可視化することができる1)。
今回、急なランニングの翌日、右下腿内側に痛みを認めた後、特に処置もせず2週間経過してもなお運動時疼痛を示す症例に対して、組織の硬さを計測できるRTEで観察を試みた。
【現病歴】
43歳、男性。20XX年1月中旬、普段やっていなかったランニングを行った際、右下腿後面に違和感を認めたが、特に処置しなかったところ、翌日同部位の痛みを強く感じた。内出血や熱感の所見は特に認めず、歩行時痛のみであったため経過観察するも、痛みの改善が無かった。そこで症状出現から2週間後にエコー(HI VISION AVIUS、日立アロカ社製)による検査を試みた。【写真】は疼痛部位とプローブ長軸走査の位置である。検査時は、右下腿内側後面には熱感は無いが圧痛があり、立位時および足関節伸展時に同部位の痛みが増悪した。患側と健側の下腿腓腹筋内側頭の状態を、RTEで比較した【画像①、②】。
【結果】
患側は、健側に比べて赤領域の増加が観察され、疼痛部位では筋膜周囲で特に赤領域が見られた。赤領域の増加は歪み率の上昇を意味し、硬度の低下を示唆するものと思われる。軟部組織損傷時には、筋損傷により筋線維の緊張が低下し、弾性力上昇を示すことが辻村らによって報告されている2)。本症例においてRTEにて観察された赤領域の増加は筋損傷を示唆するものと思われ、特に筋膜周囲に特徴的な筋損傷である可能性が考えられた。
【結語】
軟部組織損傷では筋および筋膜周囲に硬度低下を示すことが示唆された。RTEは内出血を有しない軽度の筋損傷でも観察が可能だと考えられた。
1) 柳澤修:超音波エラストグラフィがもたらす情報. Innervision. 2012; Vol27(3): 45-8
2) 辻村ら:エラストグラフィーを用いた下腿肉離れの診断. 映像情報Medical. 2007; Vol. 39(6): 628-9
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』176 『投球障害とソフトボールの関係を超音波画像観察装置で検証する②』
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』176 『投球障害とソフトボールの関係を超音波画像観察装置で検証する②』
2019.11.25
竹本 晋史(筋・骨格画像研究会)
前回から「投球障害とソフトボールの関係」について検証している。小学5、6年生のソフトボール選手63名のうち21名(33.3%)に肘痛の既往歴があったが(グラフは肘が痛くなった時の「学年」をアンケート調査したもの)、超音波画像観察装置によって肘部に変形が認められたのは8名(画像はそのうち2名のもの)にとどまり、12.6%だった。変形のある選手のうち肘痛の既往歴があるのは7名で、1名は若干の変形が観察できるものの痛みは訴えていない。ソフトボールを始めたのは「1年生から」が24名と最も多く、次いで「3年生」18名、「4年生」10名、「2年生」9名、「5年生」2名となっている。
【考 察】
ソフトボールは軟式ボールや硬式ボールに比べると15.3㎜~22.6㎜大きく、14.2g~36.8g重たい。m(質量)、a(加速度)、F(力)とするとma=Fの運動方程式が成り立ち、軟式、硬式は握りやすく腕が振りやすいことからソフトボールに比べるとFは大きくなる。また、手に保持したボールを加速させる時にボールが軽いと手からの作用は腕を加速させるために働き、ボールが重いと手首で作用させてボールの加速に使われる。重いボールは腕を強く振らないので、肘への負担は軽減されると推察される。硬式、軟式、ソフトボール、それぞれの練習の頻度、時間、強度等、環境が統一されていないので一概には言えないが、ソフトボールが肘に与える影響は軟式ボールや硬式ボールに比べると少ないと考えられる。
【まとめ】
平成29年の検証では、変形が見られたのは9名中1名で11.1%だった。母数が変わっても同様の結果(12.6%)になり、「ソフトボールから始めた選手には肘内側部の変形が少ないのでは」との当時の推測通りとなった。ただ、練習方法に違いがあるので、統一した練習方法で検証する必要と、それぞれのボールで肘に掛かる外反力を測定する必要があると思われる。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』175 投球障害とソフトボールの関係を超音波画像観察装置で検証する①
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』175 投球障害とソフトボールの関係を超音波画像観察装置で検証する①
2019.10.25
竹本 晋史(筋・骨格画像研究会)
今春、日本高等学校野球連盟で開かれた第1回の「投手の障害予防に関する有識者会議」では、一定の日数の中で投げられる数を制限することと1試合での投球数制限は、試合を実施する上で様々な制約がかかるなどの理由から、答申には盛り込まないことが決まった。会議では整形外科医が実態調査のデータから目安投球数を提示しており、「一定の制限をかけることは必要」との認識で一致したが、現状では全国大会のみを対象にしている。この障害に対する認識不足は否めないが、社会全体で投球障害の予防への意識は高まっているだろう。投球障害については、平成29年8月に開催された第59回全国柔道整復学校協会教員研修会のポスターセッションにおいて『野球肘内側障害はポジションによる差があるのか超音波観察装置を使い検証する』と題して発表した。その中に、ソフトボールから始めた野球の選手に肘の変形が少なかったというデータがあるが、全被験者56名のうち変形が見られたのが半数の28名で、ソフトボール経験者は9名であったがそのうち8名は変形が無かった、というものだった。今回は、より信憑性を高めるため被験者を増やし、「投球障害とソフトボールの関係」を超音波画像観察装置で検証することにした。この検証でソフトボール選手に投球障害が少ないことが分かれば、ソフトボールを利用した練習法が投球障害予防につながることが期待できる。
【方 法】
超音波画像観察装置(FUJIFILM製FC1)を使用して内側型野球肘の病態について検証する。被験者は小学5、6年生のソフトボール選手63名で、画像の描出とアンケート調査を行った。被験者を座位とし、肘関節軽度屈曲位で内側上顆と尺骨鈎状突起結節をランドマークとして左右の肘部を描出。変形が認められたのは63名中8名で、画像はそのうち4名のもの(円で囲っているのが、変形が見られる箇所。参考までに健側も掲載)。詳細な結果や考察、まとめは次回11月25日号(1109号)に掲載する。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』174 半腱様筋および半膜様筋部の一考察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』174 半腱様筋および半膜様筋部の一考察
2019.09.25
松本 尚純(筋・骨格画像研究会)
42歳女性。3週間前、ヨガで過度な開脚ストレッチをした際に左大腿部後面で何かが切れたような感覚を覚える。それ以後、膝関節伸展位にて体幹を前屈させると左大腿部坐骨結節付近の患部から膝窩にかけてピリッと痛みが走り、また、大きく開脚し股関節を外旋しようとしても患部への痛みで外旋ができない状態である。それ以外の日常生活動作には影響がなかったため「ストレッチを繰り返していれば治る」と考えて自宅でストレッチをしながら療養していたが、全く改善しないので来院した。
超音波画像観察装置で、腹臥位にて患側と健側を描出した。【画像①】(左:患側、右:健側。以下同様)は圧痛部位に短軸でプローブを当てたものである。大腿部後面の坐骨結節からは半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭と起始し、その上層には大殿筋、また下層には大内転筋が確認できる。圧痛部位に一致するところに白く肥厚した半腱様筋と半膜様筋の筋膜様の組織が描出されたことから、その部位を長軸にて描出したのが【画像②】である。半腱様筋と半膜様筋の境目がはっきり描出されていると考え、腹臥位のまま膝関節90度屈曲位から更に屈曲するよう指示を出し、それに対して抵抗を加え描出したものが【画像③】である。患側は健側と比較して、半腱様筋と半膜様筋並びに大腿二頭筋長頭の境目が滑らかな高エコー像では描出されず、やや乱れたラインで確認できる。【画像④】はプローブにて圧痛を出すように強く押さえた状態である。健側では滑らかな筋膜のラインが患側では真っ直ぐの高エコーで描出されたためここが患部であると推察し、半腱様筋と半膜様筋の境界へアプローチする施術を行うことにした。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』173 成長期における上腕骨外顆部損傷の超音波観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』173 成長期における上腕骨外顆部損傷の超音波観察
2019.08.25
後藤 陽正(筋・骨格画像研究会)
成長段階にある小児の骨端軟骨部の損傷は治療家にとって苦慮するところである。解剖学上、小児の骨は柔軟性に富み、より大きな変形に耐えることができ、骨膜も厚く強靭である。そして最大の特徴は骨端軟骨が存在することで、これが特有の軟骨性構造体となって骨の成長に寄与する。軟骨性構造体は骨幹端部にあり、単純X線像では透亮像を呈する。成人では捻挫を生じるような受傷機転でも小児では骨折を生じやすく、関節周辺のびまん性腫脹がある場合は靭帯損傷より先に骨折や骨端線損傷を疑わなければならない。超音波画像観察における軟骨構造体は低エコー像として描出され、前述した単純X線像における透亮像と同様に画像上、黒く映し出される。一方、骨端核は低エコーを呈する軟骨構造体内に高エコー像として描出される。今回は上腕骨外顆部を損傷した2例を紹介する。
症例1は10歳男子。柔道の練習中に手をつき、左肘関節外側部を負傷する。触診では外顆部に限局性の圧痛及び局所のびまん性腫脹を触知。上腕骨外側部の長軸走査で観察した。健側【画像①】では線状高エコーの上腕骨外顆とその遠位に低エコー域の骨端軟骨があり、下層に高エコーの上腕骨小頭核が確認できる(外側上顆核は未出現の状態)。患側【画像②】では、骨端軟骨に移行する上腕骨外顆部の線状高エコーに骨損傷を示唆する乱れ(不整像)が確認されたので、整形外科にてX線検査。骨折所見が見当たらないということで骨折なしと診断される。症例2は12歳男子。柔道の試合中に技を掛けた際に右肘関節外側部を負傷する。触診では外側上顆部を中心に限局性の圧痛があり、局所がびまん性に腫脹していた。上腕骨外側部を長軸走査で観察。健側【画像③】では線状高エコーの上腕骨外顆から自然な流れで高エコーの上腕骨外側上顆核に移行している。しかし患側【画像④】では健側に比べ、上腕骨外顆と上腕骨外側上顆核の距離が離れているのが確認され、骨損傷が示唆された。そのため、整形外科にてX線検査。上腕骨外側上顆核の若干の偏位がみられるということで骨折と診断される。
最近、都内の整形外科が続々と超音波検査を導入している。これは軟部組織損傷だけでなく、小児の骨端軟骨損傷にも対応するためではないだろうか。超音波検査を導入している整形外科では症例1にどのような診断を下すのか――興味が湧く事例である。超音波で骨損傷を示唆する所見が確認された場合、整形外科にて「骨折なし」と診断されたとしても、骨折に準じた対応を行うことが、成長段階にある患者のためであると考える。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』172 コーレス骨折の超音波で観察した画像イメージの構築と骨膜を考えた整復
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』172 コーレス骨折の超音波で観察した画像イメージの構築と骨膜を考えた整復
2019.07.25
小野 博道(筋・骨格画像研究会)
骨折部の超音波画像観察装置(エコー)を用いた画像観察では、患部を一方向だけでなく二方向以上から描写することが重要である。またそれらの画像を基に、頭の中で骨片転移のイメージを構築しなければならない。その方法とともに、「コーレス骨折を解剖学的肢位に整復するために、損傷されていない背側骨膜を利用した整復」を紹介する。
37歳女性。スノーボードで転倒して右手を突き受傷、翌日接骨院に来院する。特に応急処置等はされていなかった(外観写真)。右前腕遠位部の変形、腫脹、限局性圧痛、機能障害、軋轢音が認められ、エコーで観察したところコーレス骨折が疑われた(超音波画像①②)。掌側画像を上下反転させ、背側画像に合わせて骨折イメージを作る(イメージ構築画像③④)。この作業を頭の中で行うことで、遠位骨片の短縮・背側転位を正確に把握でき、整復する際の重要な情報となり得る。柔道整復理論通りの牽引直圧法では背側転位が十分に整復できないことがあるが、これは背側の損傷されていない骨膜が存在しているためだと考えられる。背側からエコーで観察した際、背側骨膜を描写することができる。コーレス骨折では、掌側の骨膜は損傷して血腫の広がりが認められ、一方、背側の骨膜は損傷していないため、血腫が骨膜内にとどまっているのが確認できる。そのため、背側の骨膜が遠位骨片から近位骨片にかけてドーム状に存在している。骨膜組織は伸張しにくい性質を持ったコラーゲンtype1なので、背側の骨膜は遠位骨片を末梢牽引したところでこれ以上伸張しない。よって、遠位骨片を近位骨片に合わせるだけの距離を確保することができず、短縮転位・背側転位は整復されないものと考える。
そこでこのような症例の場合、屈曲整復法を施行し、遠位骨片を背屈させ背側の骨膜を緩めてみる。そうすると遠位骨片端を近位骨折端まで牽引することが可能となるため、短縮・背側転位が除去され、遠位骨片を解剖学的肢位に整復することができる。
エコーで骨折の有無を評価することも重要だが、その観察から骨片転位のイメージを構築して正確な骨片転位を確認した上で骨膜の損傷も視野に入れれば、適切な整復方法を選択できるだろう。
【外観写真】明らかな銃剣状変形を呈している
【超音波画像】
①背側長軸像・②掌側長軸像
【イメージ構築画像】
③背側長軸像・④掌側長軸像
掌側長軸像は画像上下反転させ背側像に合わせる
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』171 半月板損傷の陳旧例の超音波観察の一考察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』171 半月板損傷の陳旧例の超音波観察の一考察
2019.06.25
田中正樹(筋・骨格画像研究会)
半月板は、膝関節の回旋と内外反に加えて、過度の圧迫力がかかると損傷される。半月板損傷の種類は、縦断裂・横断裂・水平断裂・バケツ柄断裂・複合断裂など損傷形態によって多様であり、前十字靭帯損傷を合併していることが多い。半月板断裂は、三角形高エコー像内部の線状低エコーとして観察できる。今回、半月板断裂の陳旧例を観察できたので報告する。
19歳男子、陸上競技の三段跳びの選手。1年前、跳躍練習中にステップ(二歩目)の着地時に右膝に激痛が走る。医科にて、MRI検査で内側半月板断裂と診断された。保存療法により痛みは軽減して可動性も回復したが、競技を再開すると再発。再発と寛解を繰り返しながら、3カ月間競技を続けた。その後、半年間練習を休み、体動時痛も軽快であったので競技に復帰。すると、練習中に痛みは無いが、跳躍練習後に膝を中心に痛みを訴えるようになった。徒手検査では急性な半月板損傷に対する反応は確認できなかったが、軽度ながら前方への関節動揺を認めた。US(超音波画像観察装置)で内側半月板中節の長軸検査を行うと、正常な内側半月板の場合、中央から後方で内側側副靭帯の深部線維と連続して両者がひと塊となった三角形高エコー像を示す。半月板を挟む低エコーは関節軟骨である【画像①】。【画像②】は患部の画像である。半月板中心部の三角形頂点は縦状に断裂され、大腿部・脛骨部・軟骨に接する面もいびつな凹部を確認できる。また、関節軟骨が減少し、半月板の端が骨関節面に接しているように見える。関節裂隙に短軸でエコー走査を行ってみると、正常な半月板は滑らかな線維軟骨が表層から深層に見てとれるが【画像③】、患部の半月板は、外側周縁部(およそ1/3)は正常な像であるものの、中・内部は高エコー部と低エコー部がまだらな像が認められた【画像④】。
今回観察した半月板断裂では、血液が供給される外側周縁部は再生能力があるため正常なエコー像であったが、中・内部は、血液供給がないことと繰り返しの関節可動のストレスによって1年経過していても組織の再生が行われていないことが確認できた。今後も追って経過観察を行う。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』170 前距腓靭帯損傷の観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』170 前距腓靭帯損傷の観察
2019.05.25
鈴木 孝行(筋・骨格画像研究会)
20代の男性。柔道の練習中に畳に足をとられて足関節が内返しになり受傷、その直後から足関節外側部に痛みが出現したため来院した。
患部を診察したところ、自発痛、運動痛はもちろんのこと、外果部の腫脹や前距腓靭帯付近の圧痛が確認でき、内返しのストレステストで疼痛が増強、患側での荷重負荷も困難で跛行がみられた。そのことを踏まえて「前距腓靭帯損傷」と判断したが、念のため腓骨下端部の骨折の有無を確認するため、超音波画像観察装置で患部を観察することにした。
まず健側画像中の組織の位置を確認する。①は「腓骨下端部」、②の高エコーラインは「距骨」、③の帯状のラインが「前距腓靭帯」である。全体的に組織間の境界が明確になっている。患側の画像は健側の画像と比較すると、まず確認できるのが前距腓靭帯部の黄色い実線の円で囲んでいる所の不整画像である。健側では靭帯組織の帯状のラインが鮮明に描出されていたが、患側では靭帯に損傷があるため出血や炎症物質が滲出、低エコー領域が増加して不整になっているのが認められた。また、点線の円で囲んでいる腓骨下端部の観察では、健側と変わらず鮮明な高エコーラインが描出されていたので、骨折は無いと判断できた。
今回のような足関節周辺の損傷では、靭帯組織の損傷だけではなく、腓骨下端部骨折を伴うこともあるので、見逃さぬように観察して判断を行わなければならない。超音波観察装置を使用して健側と患側とを比較観察することで多くの情報が得られ、患者にも実際に画像を確認してもらえば客観的な説明が可能になり、インフォームドコンセントをより明確に行うことができる。軟部組織損傷及び骨折に対する超音波画像観察の必要性は今後も高いと考えられる。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』169 肩関節脱臼に対するPOCUSによる評価について
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』169 肩関節脱臼に対するPOCUSによる評価について
2019.04.25
宮嵜潤二(筋・骨格画像研究会)
学術雑誌『New England Journal of Medicine』にMooreらによる総説“Point-of-Care Ultrasonography”が2011年に掲載され1)、「POCUS」が世界的なブームとなっている。POCUSとは「Point-of-Care Ultrasound」の略で、身体診察の延長としてのエコーのことを指す。近年のエコー機器の小型化によりベッドサイドだけではなくどんな場面においても、関心領域に対するエコー検査が可能となったことから広がったものである。今やポケットエコーはスマホ程度の大きさとなっており、国内の内科系雑誌で多くの特集が組まれるなど、様々な領域で関心が広がりつつある2,3)。筋骨格系の障害において、今年の4月に肩関節脱臼の評価に対するPOCUSの有用性に関するレビュー及びメタアナリシスの論文4)が掲載されたので紹介したい。
肩関節脱臼に対するPOCUSの正確性を単純X線撮影と比較して評価するために、前向き無作為化対照試験の論文7文献を「PubMed」「Scopus」「CINAHL」「LILACS」「Cochraneデータベース」「Google Scholar」の検索エンジンから選択基準に基づいて抽出し、739件の評価のうち306件の脱臼が検討された。POCUSは、肩関節脱臼の診断に99.1%(95%confidence interval;CI 84.9-100%)の感度と 99.9%(95%CI 88.9-100%)の特異度で、陽性尤度比796.2 (95%CI 8.0-79,086.0)、陰性尤度比0.01 (95%CI 0-0.17)が認められるというものであった。また、関連する骨折に対しての感度と特異度はそれぞれ97.9% (95%CI 10.5-100%)、 99.8% (95%CI 28.0-100%)であった。単純X線撮影との間には有意な差は認められず、POCUSが肩関節脱臼と関連する骨折に対して高い感度と特異度を持つことが、本論文において明らかにされた。
エコーは骨折や脱臼に対して被爆のリスクが無く、治療までの時間を短縮させることで医療費の削減にも寄与する可能性が示されている。ポケットエコーの普及によるPOCUSの広がりは、筋骨格系の障害においても例外ではないだろう。柔整師や鍼灸師には臨床の特性上、POCUSが向いているのではないだろうか。その業務範囲とルールに則ったPOCUSが望まれるかもしれない。
参考文献
1)Moore CL, Copel JA. Point-of-care ultrasonography. N Engl J Med. 2011 Feb 24;364(8):749-57.
2)聴診・触診×エコーで診断推論!Point-of-Care超音波(POCUS)の底力. 総合診療. 2018年6月号. 医学書院
3)内科医のための「ちょいあて」エコーPOCUSのススメ. Medicine. 2018年11月号. 医学書院
4)Gottlieb M, Holladay D, Peksa GD. Point-of-care ultrasound for the diagnosis of shoulder dislocation: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med. 2019 Apr;37(4):757-761.
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』168 膝関節損傷と超音波観察装置
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』168 膝関節損傷と超音波観察装置
2019.03.25
竹本晋史(筋・骨格画像研究会)
膝関節は外傷を受けやすい部位であり、スポーツや交通事故などで日常でも多く損傷が発生する。そのうち側副靭帯損傷は高頻度で発生し、十字靭帯や半月板の損傷を合併する可能性も高い。また、半月板損傷は膝関節の屈伸運動時に下腿の回旋が加わった時に発生するもので、スポーツ活動時に受傷することが多い。今回は内側側副靭帯を損傷後に無理をして嵌頓症状になり、半月板損傷を起こした症例を紹介する。
【症例】
患者:22歳 女性
職業:スタントマン
舞台稽古で大縄跳びをしていたところ、着地時に右膝に激痛が走り受傷した。症状は膝関節の脱力感、歩行困難と腫脹。外反、内反テスト陽性。患側の画像が【画像①】で、健側の【画像②】と比較すると内側側副靭帯の腫脹が顕著に見られる。テーピング固定して免荷で経過観察とし、翌日より電療、罨法、柔道整復術を施す。1週間後、舞台の本番が近いため、テーピングをしながら疼痛が起こらない範囲での稽古への参加を許可する。しかし、本番に入ると動きがよりハードになり悪化傾向で腫脹、運動時痛が出現。超音波画像観察装置(以下:US)で確認しながら治療への協力を求めた。10日間の連続公演の9日目に、嵌頓症状とともに半月板損傷が起こった。その際のUS画像が【画像③】と【画像④】である。内側側副靭帯の深層線維と連続している半月板に、線状低エコー像が観察される。不安定感も訴えるようになり、テーピングの固定力を強化して残りの2日間の公演を乗り切った。日々の治療でUS画像を見せながら経過観察を行い、内側側副靭帯が充分に治癒していないこと、膝関節の支持力が低い状態での復帰は症状の悪化が考えられ、最悪の場合、舞台に立てないかもしれないということを伝えながら稽古の負荷をコントロールした。しかし、本番ではより高い負荷が膝関節を襲ったため負傷に至ったと考えられる。
今回、ポータブルUSを楽屋に持ち込み、外傷時に患部の観察に利用した。患者から治療に対する協力を得るためには口頭やイラストだけでは充分に伝わらない。USがあったことで患部の状態を理解してもらえ、治療に対する協力が得られた。今後、柔整師が診察を行っていく上でUSは必要不可欠なものである。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』167 肩こり症状の一考察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』167 肩こり症状の一考察
2019.02.25
松本尚純(筋・骨格画像研究会)
近年ではデスクワークに加え、長時間にわたるスマートフォンなどの操作の影響で肩こり症状を訴える患者が増えている。頚椎は前弯を保てないと、椎間での軽微な捻挫や、僧帽筋や肩甲挙筋などにおける挫傷を繰り返し、筋硬結や疼痛、凝り感といった症状を呈する。また、冬の寒い時期は防寒着やマフラーなどで頚部や肩甲帯などの動きが制限され、寒冷刺激による体熱の放散を防ぐために体表の血管が収縮、自然と骨格筋にも収縮が起こってくる。そのような状況下では、急な体の動作によって軽微な筋損傷が起こることも考えられるだろう。
今回は、右僧帽筋部に肩こり感を訴える42歳男性の患部を描出し、筋の硬度を画像表示できるエラストグラフィーを用いて、患者と共有した。【画像①】は施術前の右僧帽筋及び肩甲挙筋の状態で、ランドマークを第二肋骨にして描出した。表層から僧帽筋、肩甲挙筋、第二肋骨の順に観察できる。【画像②】は同じく施術前の、症状の無い同部位の状態である。エラストグラフィーでは、赤で表示されるものは柔らかく、青で表示されるものは硬い状態を表している。健側である【画像②】は全体のコントラストが均一で赤と緑が多かったのに対し、患側の【画像①】は青と緑と赤が混在する、やや硬度のある状態だった。【画像③】は、僧帽筋と肩甲挙筋のストレッチングをはじめとした運動療法並びに上肢、下肢、体幹の筋力トレーニング約45分間、約30分間のウオーキングを行った後の状態である。青で表示されるエリアが狭まり、硬さがかなり軽減されたことがうかがえたが、患者がなおも肩こり感を訴えたため、右患部に刺鍼。深さは肩甲挙筋までで、鍼通電1Hzで10分間行い、患者の肩こり感が消失した状態が【画像④】である。
エラストグラフィーを使用すれば画像の色によって患部の硬軟を示せるので、エコー画像を読影できない患者にも症状の状態を把握させることができ、改善までのモチベーションの維持にもつながるだろう。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』166 柔道整復師と外傷
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』166 柔道整復師と外傷
2019.01.25
後藤陽正(筋・骨格画像研究会)
私が子どもの頃は、学校でけがをすれば近くの接骨院受診を勧められることが多かったが、近年は整形外科を勧める時代である。X線などでけがや疾患の原因を視覚化・数値化して判断することが当たり前の現在、学校側も「なぜ整形外科を受診させなかったのか? レントゲンは撮ったのか?」などと保護者から責められるのを避けたいという心理が働くのだろう。接骨院にも画像検査設備があれば、また違った現在になっていたと予想される。
スポーツ安全協会が公表している「スポーツ安全協会要覧2018-2019」によると、スポーツ傷害の保険支払い対象者のけがの内訳は捻挫が全体の35.8%で骨折30.6%、打撲・挫傷13.7%となっており、全体の8割を占める。部位別では手指が17.7%、足関節14.9%、膝10.6%と続く。学校内でのけがはドッジボールやバスケットボール、バレーボール、野球などの球技によるものが多く、これらの種目でよくあるけがとして、ボールを捕球する際に誤って指に当たることによる「突き指」、「指を捻った」、「指が反られた」などが挙がっている。
手指部や足趾部は狭い範囲に骨や関節が隣接し合い、さらに関節付近に骨端軟骨板もあるので骨折を判断するには経験則が非常に大切になる。そのうえ子供は痛みに対して非常に敏感であり、なおさら経験則が武器になる。疼痛を強く訴える例では骨折か靱帯損傷か判断が付かず、X線所見に委ねるケースが多く、整形外科を受診することが一般化していると言えるだろう。X線画像を基に骨折箇所を示して説明すれば非常に説得力があり、さらに経験則がプラスされればなおさらである。
近年では、超音波検査を積極的に導入して外傷を診る柔整師が増えている。さらに「超音波検査をする接骨院」と地域住民に認知されている接骨院も多くある。学校教育でもカリキュラムに画像検査が追加され、一度は超音波検査に触れたことのある学生が世に出る時代である。「接骨院=超音波検査」というイメージが定着し、柔整師が超音波検査でけがを視覚的に判断できる環境が整備されれば、昔のように「けがをしたら近くの接骨院へ」という流れになるのではないか。今も昔も柔整師は外傷のスペシャリストであり、社会生活やスポーツ競技で発生するけがに寄与している。参考までに、当院で診たけがの超音波画像を掲載しておく。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』165 超音波画像とAIについて
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』165 超音波画像とAIについて
2018.12.25
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
今、人工知能(Artificial Intelligence : AI)は医療においても徐々に実用化の範囲を広げつつある。膨大なデータからディープラーニングにより機械学習されたアルゴリズムを使用、その診断精度は非常に高いものとなっており、特にゲノム医療と画像診断の分野で目覚ましい。2016年には、2000万件のがん関連論文を学習させたIBMのAI「ワトソン」によって特殊な白血病をスクリーニングした、東京大学の事例が大きな話題となった(東條,臨床血液, 2017)。画像診断においては、Enlitic社がディープラーニングの技術を用いて、X線やCT、MRIなどの画像診断結果から悪性腫瘍を検出するサービスを4年前から提供している。日本では、CTやMRIによるがん解析や脳動脈瘤の検知を行う東大発のベンチャーが2014年に立ち上がっている。2015年のILS-VRC201(画像認識コンテスト)では、ディープラーニングと強化学習による画像認識精度が人間のそれを超えたとの報告がインパクトを与えた。また2016年9月に米医用画像情報学会(SIIM)が開催したカンファレンスでは、「乳腺マンモグラフィーと胸部X線単純撮影では5年以内、CT、MRI、超音波診断のある部分は10年以内、ほとんどの画像診断は15~20年以内にAIによる診断に置き換わる」との主張もなされた。今後、医用画像を考える上でAIがなくてはならないものとなることは確かだろう。日本超音波医学会では2018年6月に開催された第91回学術集会の特別プログラムにおいて、超音波検査のAI応用の実用化についてのシンポジウムが行われた。既に、超音波画像とAI応用に関する論文も報告されており(Correa M, PloS One. 2018)、今後は超音波画像へのAIの応用の研究も進められるだろう。
超音波画像は近年、飛躍的に解像度が高まり、筋骨格系への応用を容易にしてきた。しかし、軟部組織の硬度、緊張度といった機能的な変化については、エラストグラフィーの開発により研究がなされているものの、判断が難しいのが現状である。実はこうした視覚的な変化では判断できない機能的な変化にこそ、AIの応用が有効ではないかと思われる(GATOS I, Ultrasound Med Biol. 2017)。近年、筋骨格系に関する検討も行われつつある(Christopher T. Musculoskeletal Science and Practice. 2018)。しかしながら、より高精度なディープラーニングを行うために必要な、いわゆる「教師あり学習」のためのデータの準備が難しいという問題がある。例えば、肩こりや腰痛の教師あり学習用の超音波画像と解答を数万点集めることができれば、こうした取り組みが可能となり、さらには、将来の腰痛や器質的疾患の発症予測もできるようになるかもしれない。また、不定愁訴の分野においてもAIの応用が課題となってくるだろう。これら機能的な症状や愁訴に注目できるのは、柔整師や鍼灸師である。これからは、柔整や鍼灸においてもAI研究を進めていくことが望まれる。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』164 アキレス腱の脂肪性結合組織の超音波画像観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』164 アキレス腱の脂肪性結合組織の超音波画像観察
2018.11.25
竹本 晋史(筋・骨格画像研究会)
日常診療でよく遭遇するテニス肘やジャンパー膝、アキレス腱炎、足底腱膜炎などの使い過ぎからくるスポーツ障害は、機械的なストレスが繰り返しかかったことによる退行変性が基盤となっているケースが多い。そのため、筋・腱付着部での障害を理解する上で病態を筋・腱付着部のみに限局して観察すると、本来の病態を見逃すことになる。例えばアキレス腱の場合、アキレス腱付着部だけでなく踵骨後部滑液包や踵骨骨髄内、脂肪結合組織など、アキレス腱周囲の組織に起こる変化を含めて病態を把握することが重要である。
筋・腱付着部は筋及び関節運動の力学的ストレスを伝達するために、線維軟骨で形成された特殊な構造をしている。また、筋・腱付着部の周囲の組織も、力学的ストレスを分散・緩衝させる役割を有している。このように、筋・腱付着部と周囲組織が一つの器官のように機能していることをEnthesis organ conceptという。アキレス腱のEnthesis organには筋・腱付着部以外に脂肪性結合組織、踵骨後部滑液包、骨膜性線維軟骨、種子状線維軟骨、踵骨後上隆起があり、これらを合わせてWrap around構造という。この構造は付着部に凸凹が存在し、腱、靭帯がこの凸凹に接触することでその走行が変わり、上から伝わってきたストレスを分散させている。また、アキレス腱にはkager’s fat padという果後部脂肪体が存在する。これは滑液包と共に主に腱、靭帯と骨の間にあり、筋、関節の運動に応じて形状を変化させて骨との衝突や摩擦を防いでいる。fat padは血管と神経を豊富に備えているので重要な組織だと言える。
今回は超音波画像観察装置(エコー)でアキレス腱部の脂肪性結合組織(kager’s fat pad)の観察を行った。【画像①】~【画像④】は、アキレス腱と踵骨をランドマークに足関節0°【画像①】、背屈20°【画像②】、底屈20°【画像③】、底屈45°【画像④】で観察したものである。また、可動性の無いkager’s fat padも描出した【画像⑤】。背屈20°では踵骨とアキレス腱との間には何も観察できず、アキレス腱のテンションが上がっていることが踵骨部で確認できる。底屈20°では、足関節0°では見られない、踵骨とアキレス腱との間にkager’s fat padが入り込んでいるのが認められる。底屈45°では、踵骨とアキレス腱との間に更に大きく入り込んでいるのが分かる。
筋・腱付着部で観察できるfat padは関節運動時の力学的ストレスの分散、関節運動の潤滑液的な役割を果たしているため、可動域制限や疼痛を引き起こす要因となることが十分に考えられる。可動域の改善不足や疼痛が残存しているような時、エコーで患部の病態を正確に把握して正しい施術を行えば、治癒に導くことが期待できる。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』163 前脛骨筋の筋硬度の視覚化について
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』163 前脛骨筋の筋硬度の視覚化について
2018.10.25
松本 尚純(筋・骨格画像研究会)
42歳男性。左右の前脛骨筋(以後TA)部の緊張感、張りを訴え来院する。TA膨隆部に特に症状を訴えたため圧痛を確認するも、痛みより「心地良い」との反応があった。足関節を底屈させてもストレッチがかかり、こちらも心地良いとの反応。一方、足関節を背屈させた際はTA部の詰まり感、軽度の疼痛を訴えた。
超音波画像観察装置(エコー)のエラストグラフィー機能を用いて筋の硬さを視覚化し、施術前後の筋の緊張の度合いを患者と共有することにした。【画像①】、【画像②】は、TA膨隆部の特に症状を訴えている部位をエラストグラフィーで描出したものである。赤で表示されている部分が組織の柔らかさを、青で表示されている部分が硬さを表している。TA中心部の約1.5cmの深さに高輝度で見える、筋内腱である停止腱を境に筋の硬度が大きく変わっているのを確認。停止腱より深い位置へのアプローチが必要であることが分かった。
そこで、振動系治療器の「ZERO PRO MASSAR」で右TA患部に10分間施術した。左TAに対しては寸6-3番鍼を1.5cm以上の深さに刺鍼。鍼通電器で10分間、1Hzで施術した。施術終了後、5分間のインターバルを置いて描出したのが【画像③】、【画像④】である。【画像③】からは深部までの施術効果があまり波及しなかったことが見て取れる。一方、【画像④】を見ると、刺鍼した筋内腱下部への施術の効果により筋の硬度が変化したことがうかがえる。
TA部を触診した際に感じる硬さのようなものは表層の筋ではそれほど硬度が無いことから、筋内腱である停止腱の可能性が高いことが分かった。また、刺鍼時の深度の確認のため左TA【画像④】に対してはエコーガイド下で刺入していったが、鍼先が停止腱に接触した時に得気が得られた。停止腱がTAの緊張感や張りなどを感じやすくしていることを示唆しているのではないだろうか。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』162 外脛骨の超音波観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』162 外脛骨の超音波観察
2018.09.25
後藤 陽正(筋・骨格画像研究会)
外脛骨は舟状骨の内側に骨性の隆起として認められる過剰骨で、約10~15%の人に存在する。後脛骨筋腱内に種子骨のように存在するものは無症状であることが多いが、大きく突出し舟状骨と線維性に結合しているものは、成長過程における体重増加やスポーツ活動などによる運動量の増加に伴い、徐々に症状が出現してくる。好発年齢は活動量と関係しており、10~15歳頃。スポーツと無縁であっても、日常生活における捻挫や打撲などの外傷を契機に症状が出現することもある。外脛骨の形態分類「Veitch分類」では、「Ⅰ型は後脛骨筋腱内に種子骨として存在するもの、Ⅱ型は舟状骨粗面部と線維性に結合しているもの、Ⅲ型は舟状骨と骨性癒合しているもの」となっており、症状を呈する外脛骨障害のほとんどはⅡ型に属している。また、後脛骨筋は内側縦アーチの維持に関与しているが、腱の多くが過剰骨に付着することで後脛骨筋本来の働きが阻害され、扁平足を作り出す。つまり、外脛骨が扁平足の原因であるとも考えられる。今回は、正常な舟状骨と外脛骨の超音波画像観察装置(エコー)による描出画像を紹介する。
【画像①】(20歳男性)、【画像②】(40歳男性)は舟状骨の参考画像で、足部内側部を長軸走査でエコー観察したもの。【画像③】、【画像④】は19歳男性の外脛骨の画像である。舟状骨の突出が強いため遠位側(舟状骨より画像右)に内側楔状骨が描出されていない【画像③】では、舟状骨の左側(近位)に過剰骨と考えられる高エコーラインが確認でき、舟状骨と過剰骨の間には線維性の組織とみられる低エコー像が映し出されている。【画像④】は【画像③】ほどではないが、舟状骨と過剰骨の間に低エコー像が認められる。【画像③】、【画像④】ともに、全体的に正常画像に比べて半円状の形態を示している。一見すると【画像④】よりも【画像③】の方が状態が悪く症状がありそうに思えるが、症状が出現しているのは【画像④】の方である。患者はサッカー経験者で利き足は右。インサイドキックを行うと右の足内側部に疼痛が出現する。右側を多用した結果だと考えられるが、左側を多用すれば左側にも同様の症状が出ると推測される。
柔道整復師や鍼灸師は、足部を視診あるいは触診すれば容易に外脛骨であるかどうかを判断できるだろう。そして、Veitch分類を判断するにはX線を用いなければならないが、外脛骨障害の多くはⅡ型であり、エコーによる観察でも判断ができるはずである。外脛骨障害を発症させる前にエコー観察を行い、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型のどのタイプに属するのか把握できれば、対処もできるだろう。扁平足で舟状骨内側が突出している患者がいたら、一度エコーで外脛骨の有無を確認してみてはいかがだろうか。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』161 外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)の超音波画像観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』161 外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)の超音波画像観察
2018.08.25
小野 博道(筋・骨格画像研究会)
外側型野球肘の代表的な疾患に、離断性骨軟骨炎がある。これは、投球動作時の肘関節外反ストレスにより上腕骨小頭と橈骨頭の衝突が起こって発生する、上腕骨小頭の骨軟骨障害と考えられている。病期は初期・進行期・終末期に分けられ、レントゲン画像上では透亮期・分離期・遊離期に分類される。初期から進行期にかけては無症状のケースが多く、可動域制限や疼痛などの症状が出現する時には既に終末期になっている。終末期には、遊離した骨軟骨骨片が関節に挟まれてロッキングが起き、日常生活に支障をきたすようになるため、野球をやめるという選択をする子供が少なくない。最近の調査では、障害発生に関与するのは10~11歳の年齢のみで、野球開始年齢・経験年数・週間練習時間・ポジションや肘関節痛の既往との関連性はみられず、単なる肘関節外反ストレスによる障害だけではないとも考えられている。
離断性骨軟骨炎は、初期から進行期の間に投球を禁止させることでそのほとんどが修復されるため、治療は早期発見が鍵となる。今回は、小学校4~6年生の学童野球の選手200名を対象に超音波画像観察装置(エコー)で野球肘検診を行った際の結果を報告する。方法としては、プローブを腕橈関節に対して長軸に当てがい【画像①】、小頭の骨ライン・関節軟骨を描出する。【画像②】は11歳男子の正常な上腕骨小頭の長軸画像である。検診の結果、200名中2名の選手に離断性骨軟骨炎の疑いがあった。一人は捕手(11歳)で、無症状だったが小頭の骨頭部にわずかな不正像を確認【画像③】。整形外科に紹介したところ、MRIによる検査で初期の離断性骨軟骨炎と診断された。現在、投球が少ないポジションに転向して4カ月で、修復傾向にある。もう一人は投手(11歳)で、これも無症状だったが、エコー画像では小頭の骨層部が乱れていたため【画像④】、整形外科に紹介。レントゲン画像から進行期(分離期)と診断され、投球禁止となった。
離断性骨軟骨炎は無症状であることが多い上に、進行していく疾患である。野球に打ち込む子供たちの将来のためにも、簡易的で侵襲性が無いエコーを使った定期的な野球肘検診の実施が必要かつ有効であると考える。
(参考文献)臨床スポーツ医学:Vol.34,No10「少年野球選手に生じる障害への対応と予防」松浦哲也