「やわらぎ」商標権、無効に
2022.07.10
特許庁、「独占使用は公益上適当で無い」
昨夏、「やわらぎ」の名称を使用する施術所(やわらぎ治療院等)に対し、商標権の侵害に当たるとして、「やわらぎ」の使用中止や対価を求める警告書が送り付けられた件で、一応の決着がついた。警告を受けた施術者のグループが特許庁に訴えていた異議申立てが、6月16日付で認められた。特許庁が「やわらぎの商標権は無効」と判断したことで、今回の施術所名称をめぐる商標トラブルは解決が図られたといえる。
今回、問題となった商標は「やわらぎ」(商標登録番号6374562号)で、この役務・サービスが属する区分は「第44類」という「医療、美容、介護」関連サービスであり、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧・柔道整復もその範囲に含まれている。
事の発端は、昨年7月下旬、施術所名称に「やわらぎ」を使う全国の施術所宛てに送り付けられた商標権利者側からの警告書だ。代理人の弁理士を通じて送付され、看板やウェブサイト等での「やわらぎ」の使用中止を求めてきたほか、商標使用代として金銭35万円も要求。しかも、わずか1週間足らずで、どのような対応をするかを回答するよう迫ってもきた。なお、複数の業界関係者によると、この商標権利者は同業者でもある柔整師で、他にも治療に関連する用語をいくつか商標登録している。
警告書が届いた当初は、商標登録というその専門性の高さから泣き寝入りしてしまう施術者も出かねない状況にあったが、事の重大さを認識した業界関係者がSNSを通じて情報を呼びかけたり、一部の施術者団体も対応に乗り出したりと当事者を含む施術者間で連携が生まれた。その後、昨年9月下旬には、東京都墨田区でやわらぎ接骨院を運営する相澤明敏氏を代表とする計21名からなる「やわらぎの会」などの二つのグループが、特許庁に対して無効審判請求を提起した。
「やわらぎの会」は主張書面の中で、「鍼灸、あん摩マッサージ、柔整だけでなく、整形外科などの隣接領域でも、『やわらぎ(和らぎ)』という語は普通に使用され、商標としての識別力はないと考えるのが合理的だ」や「接骨院、鍼灸院などの名称にこの言葉を用いる者は、少なくとも日本全国171施設に及ぶ」、「独占不適応な言葉と評価すべきことは明らかである」といった点を強調し、無効を求めた。
審理は、商標権利者側から何ら答弁がないまま6月1日に終結。特許庁は6月16日付で商標法3条1項6号(識別力を欠く商標)に該当するとして、「やわらぎ」の商標登録を無効とすべきと審決した。
記者の視点
業界自らが「再発防止」に向けて対策を
今回の特許庁が下した「無効」の判断を「おかしい」と言う人などおそらくいないだろう。ただ、「やわらぎの会」が異議申し立てで追及したのは、商標権の取り消しだけではない。商標を出願した経緯にも深く疑念を示し、商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)に該当している点も併せて判断を求めていた。つまり、金銭を要求した警告書を送ることを見越して商標権が取得されたのでは、と指摘したのだ。これについては、特許庁が証拠不十分として採用しなかったため、「悪事」への抑止効果が薄れたのは残念だが、今後は特許庁に頼るのではなく、業界全体で「再発防止」に向けて周知徹底等の対策を考えていくべきだ。(編集局・倉和行)