連載『織田聡の日本型統合医療“考”』99 保険診療の限界とメドクエリ株式会社の設立
2018.09.10
少し前に「国民健康保険のジレンマ」というテーマで本欄に記事を書きました。医療を効率化すると、医療は利用しやすくなり、国民には恩恵がありますが、国の負担は増大。逆に効率を下げると、国民は待合室に待たされ、不便に我慢させられることになりますが、医療費は下がる――このような大きなジレンマの話でした。「効率化」と「アクセサビリティー」のトレードオフをどのように進めながら、国民健康保険の持続可能性を確保するのか。医療行政に関わる誰もが、この不都合な事実と、なんとかしなければならない大きな課題を意識はしていますが、どうすることもできない状態です。また、医療界では「医療費削減」を掲げることははばかられます。医師会や医療機関は当然削減に反対ですし、製薬メーカーにとっては市場の縮小と直結します。そのような中、鍼灸マッサージや柔整の保険診療の縮小が推し進められています。いかに保険診療から脱却していくのかが重要となります。
私は、このいわばタブー視された「医療費削減」を実現するために、「統合医療」を軸に健康情報を共有する多職種連携基盤を構築すること、臨床の現場の業務の効率化、そして様々な医療ツールを医療機関から医療機関でない所へと下していく破壊的イノベーションを引き起こすことを試みてきました。当然その対象に含まれている鍼灸マッサージや柔整の領域は重要な業界です。そして、鍼灸マッサージや柔整の職域の拡大や、保険診療からの非依存化を進めようと努めてきました。
そして今回、私たちは「医療費削減」を大きく掲げる新法人を設立し、小手先ではなく根底から医療の構造を変えることを進めることとなりました。
キーワードは「自由診療で標準治療」「医療の不動産証券化」です。以前から私は鍼灸院とか接骨院という看板を降ろしたらどうかとご提案してきましたが、今回は医療機関を細分・破壊・再構築するようなことの実現を目指します。レンタルオフィスをイメージしてください。オフィス家具や受付などのサービス付きのシェアオフィスです。同様に受付、医療機器、医薬品付きレンタルクリニック物件を作ろうとしています。そして、疾患ドメインは狭くなりますが、自由診療で、安価で、時短で、医療サービスを提供できる環境を構築します。コンビニやファストフードの知財を応用しながら、いわば医療を圧倒的に効率化するロジスティックスを提供する会社を設立しました。レンタルクリニック物件を証券化しますので、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔整師がオーナーのクリニックも可能となります。既に海外の大学や企業とも連携することになり、想像以上のスピードで進んでいます。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。