『医療は国民のために』273 軽症者への保険給付縮小が柔整・あはき療養費抑制に拍車をかける
2019.06.25
1099号(2019年6月25日号)、医療は国民のために、
医療費の抑制を進めたいのは厚労省ではなく、財務省――私は過去に何度もこう発言してきた。医療保険の基本的運用を牛耳っているのは紛れもなく財務省であり、財務省がまとめた中長期的な社会保障改革案などでは、医療保険の抑制策として、
①都道府県別に診療報酬を策定
②費用価格に見合った治療効果がある医療行為かどうかの確認作業を強化
③安価で簡易なもの(市販薬、湿布薬、ビタミン剤、目薬、胃腸薬など)を保険適用外とする
④窓口で一定額の負担金を求める制度の導入
の四つが柱であり、これらは全て柔整・あはきの保険取扱いに打撃を与えるだろう。また、5月には被用者保険である健保連と協会けんぽが「保険給付範囲の見直しに向けた意見」を公表した。前記①~④のうち、③に関する言及であり、軽症者への保険給付範囲を縮小するというものだ。公的医療保険を支える2団体が表立って意見書を発表したのだから、社会保障審議会医療保険部会や中央社会保険医療協議会の議論に大きく影響を与えることは間違いない。
この背景にあるのは、一人当たり何千万円もする新薬やITロボットによる最先端の術式への支出だ。もちろん新薬やITロボットの効能・効果は絶大で素晴らしいが、なんせ金がかかる。そこで、高額な医療を保険で認める代わりに、思い切って低廉・安価で簡易な医療などは保険取扱いから切り捨てる方向に動き始めている。つまり、市販薬で手に入るレベルの目薬や湿布薬、ビタミン剤、うがい薬、整腸薬などの簡易なものは自費扱いとなり、患者自身のポケットマネーで買ってくださいということだ。少数の重篤者のために軽傷な治療行為が切り捨てられる点に反論もあるだろうし、はたして市販薬などを保険外にして医療財源抑制にどれほどの影響があるのかと疑問もあろう。しかし、重傷者が新薬や最新先端技術の高額負担に耐えられないのだから、その面倒を見ることこそが公的医療保険の使命だと言われれば、結局負けしてしまう。このような被用者保険の判断を、今後国保や後期高齢者医療も受け入れて足並みを揃えることになる。
当然、この流れは柔整・あはき療養費の抑制に拍車をかけることになるのは簡単に理解できるだろう。柔整もあはきも施術料金は安く、そのくらいの治療費ならポケットマネーの自費扱いだろう、となってしまいかねない。極端に言えば、保険は生きるか死ぬかの重傷者のための救済策であって、柔整・あはきの患者は軽症者なので完全自費でいいだろうとの考えの下に保険給付範囲の見直しがどんどん進められるということだ。今後、施術料金の大幅引き上げなど期待できないし、ある時期をもって保険対象から除外……ということもあり得ると私は見ている。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。