Q&A『上田がお答えいたします』 「判断に迷った事例」の収集の意味するところ
2019.08.25
Q.
厚労省が柔整療養費の支給基準の明確化に向けて、取り組みを始めたということを聞いたのですが、私たち施術者に与える影響について教えてください。
A.
8月5日付で発出された「柔道整復療養費の支給対象の明確化に向けた個別事例の収集について」と題した事務連絡のことですね。厚労省保険局医療課の依頼により、全国の柔整審査会や健保連が審査・支払の際に判断が困難であったり、支給の可否に迷ったりした事例を取りまとめ、厚労省に回答することとなりました。想定される回答としては、やはり「近接部位の算定方法」に関する内容がメインになるでしょう。事実、今回の事務連絡の中で、近接部位に該当するか否かの判断に迷うことが多いと指摘されています。そして何より、厚労省通知で示された「算定基準の実施上の留意事項」の近接部位の算定方法が必ずしも明確になっていないことが大きい。留意事項には、算定できない近接部位の負傷や算定可能な部位の負傷の例が表でまとめられていますが、表に掲載されていない負傷の場合には、“これと似た組み合わせに準じて”支給の可否が決定されています。しかも柔整審査会や保険者は、自らで判断できない場合、なんと支給も不支給もせず、柔整師に「近接部位と思われることから確認してください」と不備返戻をする始末です。
また、柔整審査会や保険者によって、同じ負傷名の組み合せでも判断が異なり、支給される場合もあれば減額となることもあり、私の関わったケースでいえば、“手根中手関節捻挫と前腕部挫傷”、“足根中足関節捻挫と下腿部挫傷”がそれぞれ近接部位であると主張する三重審査会や広島審査会の判断を撤回させ、近接部位には当たらないと認めさせました。その一方で、殿部挫傷(上部)と大腿部挫傷(上部)が近接部位であるとして譲らない秋田審査会の減額は改めさせることができませんでした。留意事項に示されていない組み合せにおいて(上部)あるいは(下部)を明記すれば、支給が認められた(近接部位とされない)場合も過去にあり、この点も含め明解な基準の策定を求めたいところです。今回の厚労省の動きは、このための情報収集であって、少なくとも近接部位の算定方法が今よりもクリアな内容で改訂される契機となればよいですね。
ほかにも、留意事項では胸部・背部・上腕部・前腕部・大腿部・下腿部の6部位しか挫傷を認めていないにもかかわらず、Q&Aの疑義解釈資料(事務連絡)では殿部挫傷や足底部挫傷を認めた上で、「筋肉のあるところに挫傷あり」としているのなら、肩部・腰部・腹部の挫傷についてもその可否をきちんと整理し、近接部位の算定方法に明記する必要性もありますね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。