連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』12 リプロ学会報告
2019.04.10
去る3月17日、福岡市で「第14回日本レーザーリプロダクション学会」が開催され、医師、胚培養士、看護師、鍼灸師など約250人が集う中、私は3回目となる招請講演を行いました。医師の学会では次の事柄に注意して発表します。①全て共通言語で話す②データを明確に示す③瑕疵の無い理論構築を展開する④データと理論に矛盾が無い。これらは我々鍼灸師が西洋医学の世界で認められるために踏まねばならない手順だと思います。一昨年、東京で開かれた第12回の同学会でも、胚盤胞到達率の向上などを上記の点に注意しながら話しました(本稿第9回参照)。以来、3年連続で招請を受け、今回は『生殖鍼灸と一般鍼灸』という題で研究成果の発表と講演をしました。「生殖鍼灸」に対して、なぜ「一般鍼灸」なのか――。
御存知のように巷には「不妊専門」を標榜する鍼灸院があふれています。一つの愁訴だけを取り上げて「専門」と称する院がこれほど多い領域は他に無いでしょう。治療費は一般に比して大抵高額で、料金表には万単位の治療代が当然のように書かれています。当院には不妊専門鍼灸院から転院して来た患者さんが100人以上おられますが、共通して言えるのは不妊以外の愁訴が置き去りにされていたことです。昨年、妊活中の30代後半から40代の女性8人が肩関節痛を訴えられ、うち6人は当院に通院中に発症しました。残り2人は不妊専門院から転院して来られた際には既に症状がこじれており、関節可動域はかなり狭く疼痛期から拘縮期に移行しようとしていました。当院よりはるかに高額な治療費でありながら、肩の痛みを訴えても全く取り合ってもらえなかったそうです。当然、前者の6人はそれなりに速やかに改善しましたが、後者2人は長い加療期間を必要とし、1人は今も拘縮期が続いています。長い間、洗濯物も干せないお二方が本当に気の毒でした。鍼灸は様々な愁訴に広く対応できる治療法ですが、運動器疾患への対応がその基本であることは今も昔も変わりません。妊活の方々のストレスはただでさえ多種多様なのに、私たちで対応可能なものをなぜ放置していたのか今もって釈然としません。有痛弧、ドロップ、スピード、ヤーガソン、ストレッチといった各種徒手検査と圧痛の検索でかなりの状況把握ができるのに。懇意の整形外科医も「ほとんどは病歴聴取と徒手検査で分かる。画像診断はその決め手にするだけ」と言われていました。不妊を扱う鍼灸師は不妊以外のものに蓋をするのではなく、患者さんのQOLの向上を様々な面からサポートして頂きたいと思います。学会でも医師らを前に、妊活に鍼灸を利用する際には注意が必要だと解説しました。
さて、主なテーマの生殖鍼灸の領域での新しい発表としては①鍼灸・近赤外線併用療法下における胚盤胞の着床前診断クリア率を年齢別に分析したデータ②既にクリアした胚を移植する時の同療法下における妊娠率を、それぞれグラフ化して提示しました。胚盤胞の着床前診断はこれから広がる可能性が大きく、治療効果を検証するためのバイアスを除去するには①②の観察は、現段階で意味あることだと考えています。①については割愛しますが、着床前診断クリア胚移植における鍼灸・近赤外線併用療法下での胎嚢確認以上の妊娠率は現段階で80%(40人中32人)となっています。これは胚の様々なグレードを含むのでやはり同併用療法が着床に有益であることが示唆されますが、分母が大きくなるのを待ちたいと思います。学会では理化学研究所の研究者の講演もあり、医療レーザーの開発秘話だけではなく鍼についても触れられました。この方の共同研究者は先般ノーベル賞を受賞した人で、このような最高峰の研究者の口から「鍼治療」という言葉が、しかも西洋医学の学会で出て来たことに驚きと喜びを禁じ得ませんでした。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。




