連載『医療再考』1 医療は必ず変わる~未来の医療のカタチを想像する~
2019.03.10
今、インターネットやAIの普及により、人の暮らしや働き方が大きく変化しようとしています。特に、人口減少が著しい本邦では、AIの活用は急務です。近い未来、AIを積極的に活用した社会システムが構築されていくことは間違いないでしょう。メディアは「AIの進歩によって無くなる仕事」として事務職や受付などを挙げる一方で、「無くならない仕事」として外科医や鍼灸師、柔整師を含む、専門技術を身に付けた職種を挙げています。実際、鍼灸師や柔整師の中にも、「自分たちの仕事は安泰だ」と思っている人は少なくないでしょう。ですが、それは本当なのでしょうか?
AIの技術は日々進歩しています。特にディープラーニングというシステムの開発以来、単純な作業しか行えなかったコンピューターは急速に人間のように自分で考える力を備えるようになっており、将棋では「Ponanza」、囲碁では「アルファ碁」が、プロに勝る能力を証明しました。2045年には、AIは人間の知能を超えるとも言われています。これから、AIの力を利用した自動車(自動運転)や商店(無人コンビニ)などが次々と社会に実装されていくでしょう。これは医療の世界でも同じことだと言えます。既に遺伝子や画像解析など診断サポート、総合診療の支援、さらには健康管理などでは、AIの活用が加速しており、今後、医療はAIの力なしで行うことが難しくなっていくでしょう。我々は、何をAIに任せ、何を自分で行うのかを選択することになるのです。
また、AIが人間の代わりに様々な仕事をしてくれるということは、言い換えれば、AIがお金を稼いでくれるということになります。そのお金を国民に還元し、最低限の生活保障をサポートしようという制度、ベーシックインカム(BI)の社会実験が、フィンランドなどで行われています。こうした取り組みが実現すれば、嫌な仕事をわざわざ人間がやる必要はなくなります。働くことの意味や価値も大きく変化することから、疾病構造さえも変化していくことが予想されますね。
ですがそもそも、AIは人の脳に近付いているわけですから、「AIに奪われない仕事」とは、「AIにはできない高度な仕事」というより、「奪う必要のない、魅力のない仕事」と解釈すべきなのかもしれません。柔整師や鍼灸師の仕事はどうでしょうか。また、さらに深刻な問題があります。AIが社会実装された時、AIが描く世界の社会構造が鍼灸師や柔整師を必要としていなければ、AIが我々を導いてくれることもないということです。
そこで、今回からは新たに「医療再考」というタイトルを掲げ、これからの社会、特に医療はどのように変化していくのか、そしてそのために我々は何を準備しないといけないのかを、国内外のモデルを紹介しながら再考していきたいと思います。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。



