連載『医療再考』2 現在の鍼灸をブランディングする ~鍼灸はどのようにみられているのか~
2019.04.10
「『鍼灸』は世の中の人々から、どのように思われているのだろうか?」――そんなことを考えたことはないでしょうか。
相手が自分に対して抱いているイメージのことを、一般に「ブランド」と呼びます。鍼灸と聞いて世間が思うイメージは、第1位が「鍼」、第2位が「痛い」、第3位は「治療」です。世間の鍼灸に対するイメージ、ブランドは「痛みを生じる治療道具」としての存在であり、「病気を治すための一つの治療法」に過ぎません。
一方で、自分がこう思われたいと思うイメージ、「ブランディング」についてはどうでしょうか。鍼灸業界は医療の仲間入りを目指し、鍼灸治療の機序やエビデンスを追い求めてきました。その結果、病気を治すための一つの治療法として認識されるようになってきており、その意味ではブランディングが成功しているようにも見えます。しかし様々な治療の選択肢が存在する今、単なる治療法の一つというだけでは、国民に広く受け入れてもらえるとは限りません。特に「鍼は痛い」というイメージは、他の治療法との比較において大きなマイナス要素であり、受け入れにくいものにしています。そのために、治療法がたくさんある領域では勝負できず、必然的に治療法が少ない領域、いわゆる難治性の疾患に活路を見出すしかなかったという側面も否定できないでしょう。しかし本来、鍼灸師が最も得意としているのは、薬でも治らないような難治性の疾患の治療というよりも、健康の維持や未病状態でのケアだと言えます。そう考えると、「医療の一つ」というブランディングを目指した結果、医療の中の隙間である難治性疾患を守備範囲とすることになったことが、かえって苦戦につながっているようにも感じます。
医療自体が予防へとシフトする流れの中、鍼灸のブランディングは今のままで良いのでしょうか。また、労働人口が減り、仕事の一部が外国人労働者やAIに置き換わろうとしている中、我々はこのまま、鍼と灸を使いこなす技術職としての道を進んでも良いのでしょうか。AIを含めたICT、(Information and Communication Technology)の領域は、情報をキーワードにした一つのコミュニティーです。仕事を「人にしかできないこと」と「AIにできること」に分け、限られた人力をどこに効率的に使うべきかを考える時代なのです。前回も触れましたが、AIはお互いに情報を出し合うことで作られるコミュニティーであると考えた上で、我々が「AIにはできない仕事」を自負し、そのコミュニティーの中に入らない(入れない)ことは、本当に良いことだと言えるのでしょうか。もし良くないとすれば、そのコミュニティーにどのような情報を与えれば、我々は仲間になれるのでしょうか。私は、それを考えることこそが次世代のブランディングであると考えています。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。