連載『柔道整復と超音波画像観察装置』177 ランニング後に認めた下腿内側部の疼痛に対するエラストグラフィー観察
2019.12.25
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
Real-time Tissue Elastography(RTE)とは「生体の硬さ情報」を画像化する技術である。RTEは、体表からの圧迫操作に対する組織の変形率(変位の空間微分)を「歪み画像」として撮像領域内で相対的に表示する方法であり、組織の弾性分布を反映しているとされる。物理的に、歪みは硬い組織ほど少なく、軟らかい組織ほど多くなるが、RTEはこの相対的な硬さを半透明化したカラーの歪み画像としてBモード画像上に重ね合わせることで、生体内の相対的硬度分布をリアルタイムで可視化することができる1)。
今回、急なランニングの翌日、右下腿内側に痛みを認めた後、特に処置もせず2週間経過してもなお運動時疼痛を示す症例に対して、組織の硬さを計測できるRTEで観察を試みた。
【現病歴】
43歳、男性。20XX年1月中旬、普段やっていなかったランニングを行った際、右下腿後面に違和感を認めたが、特に処置しなかったところ、翌日同部位の痛みを強く感じた。内出血や熱感の所見は特に認めず、歩行時痛のみであったため経過観察するも、痛みの改善が無かった。そこで症状出現から2週間後にエコー(HI VISION AVIUS、日立アロカ社製)による検査を試みた。【写真】は疼痛部位とプローブ長軸走査の位置である。検査時は、右下腿内側後面には熱感は無いが圧痛があり、立位時および足関節伸展時に同部位の痛みが増悪した。患側と健側の下腿腓腹筋内側頭の状態を、RTEで比較した【画像①、②】。
【結果】
患側は、健側に比べて赤領域の増加が観察され、疼痛部位では筋膜周囲で特に赤領域が見られた。赤領域の増加は歪み率の上昇を意味し、硬度の低下を示唆するものと思われる。軟部組織損傷時には、筋損傷により筋線維の緊張が低下し、弾性力上昇を示すことが辻村らによって報告されている2)。本症例においてRTEにて観察された赤領域の増加は筋損傷を示唆するものと思われ、特に筋膜周囲に特徴的な筋損傷である可能性が考えられた。
【結語】
軟部組織損傷では筋および筋膜周囲に硬度低下を示すことが示唆された。RTEは内出血を有しない軽度の筋損傷でも観察が可能だと考えられた。
1) 柳澤修:超音波エラストグラフィがもたらす情報. Innervision. 2012; Vol27(3): 45-8
2) 辻村ら:エラストグラフィーを用いた下腿肉離れの診断. 映像情報Medical. 2007; Vol. 39(6): 628-9