Q&A『上田がお答えいたします』 保健所が行う広告規制の指導に従わないとどうなるの?
2018.07.25
Q.
保健所の広告規制の指導に従わないと、療養費支給申請書が大量に返戻されたり保険取扱い中止処分を受けたりするといった書き込みをインターネットで見かけました。本当なのでしょうか?
A.
かつて厚労省保険局で関係法令を学び尽くした私には、明快に回答できます。まず、保健所に命令権限はありません。指導のみです。看板を外せとか、ガラスに書いた表記を消せとかいった命令をする権限は無いのです。看板等に記載のある「骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷・各種保険取扱い・機能訓練指導」を消去せよとか看板を外せと施術者に命令するには、裁判所の命令書面が必要となります。その取得を面倒がり、そこまでする保健所は少ないのが現状です。柔整業界はその指導をまともに受け、多くが従っているようですが、保健所はあくまでも指導という形で「お願い」を繰り返しているだけなのです。
保健所は少ない人員で大量の業務を担っており、接骨院の広告の問題などに対応するだけの時間的・陣容的な余裕はありません。しかし、整形外科医院や柔整・あはきの同業者とおぼしき者から情報提供・調査依頼という形で大量の「タレこみ」があり、放置しているとクレームを受けてしまうので、指導に赴かざるを得ないということになるのです。ただ、保健所も犯罪捜査のためではなく、あくまでもお願いに来ています。立入検査を拒むことはできますが、まずはその言い分をよく聞いて、対応できるところは対応し、納得できないと拒否するところはきっぱりと拒否することが大切です。
また、保健所は衛生担当部局であって保険部局ではないため、広告問題と療養費支給申請は何の関連性もありません。ご質問にある情報は完全に誤りであり、広告指導に従わなくても療養費の支給申請の取り扱いには全く影響がありません。指導に従わなければ開設届を認めないとか、開設届を受理しないといった嫌がらせが行われているらしいという話も聞きますが、「届出」は施術者側からの一方的な意思表示であって、許認可制の事案ではありません。「申出」の場合は「承認・承諾」が必要となりますが、単なる届出にはそのようなものは不要です。保健所が届出を受理しないというのであれば、不受理を理由とした訴訟を提起すれば事足りるでしょう。
これらのデマは、一部の者が意図的に喧伝しているのでしょう。保健所の職員は公務員であり、自身の仕事を精一杯頑張っているだけなのです。柔整師が指導に従わないからといって嫌がらせをすることなどあり得ません。もし嫌がらせを受けたのなら、市長などに対し徹底的に責任を追及していけばよいのであって、私たち柔整師が下手に出ることはないのです。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。