『医療は国民のために』256 今後「往療料加算のマッサージ療養費」は激減する
2018.09.25
あはき療養費に受領委任が導入されても「申請の件数的にはそんなに影響がない」とか、再同意の際の口頭同意が廃止(再同意書の添付の義務化)されても、「現状とはそんなに変わらない」とか、この手のことを口にする業界関係者はいまだに多い。療養費支給申請時に、「施術報告書」やら、「往療内訳書」やら、「一部負担金明細書」やら、新たな添付書類が設けられた上、同意書の様式も詳細化・細分化された。申請がしにくくなったのだから、申請件数が激減していくのは当たり前で、この期に及んで何を寝ぼけたことを言うのか、と落胆させられる。
その中でも、「往療料加算のあん摩マッサージ療養費」は間違いなく激減するだろうと私は考える。口頭同意が認められず、必ず文書による「再同意書の添付」が求められるのだ。再同意書作成に当たっては、医師の診察を受けたものでなければならないこととされ、今後、医師が診察を行わずに再同意を行う、いわゆる「無診察同意」が行われないことが徹底される。健保組合等の保険者では、保険医が「この疾病について本当に診察の上で同意したかどうか」を確認するようになる。現在、マッサージ療養費の請求において往療料を算定する割合は約90%、かつマッサージ療養費全体に占める往療料の割合は60%を超えている。これらの現状が大きく崩れるどころか、激減していくだろう。
例えば、寝たきりの患者について言えば、申請書記載の疾病の診察を“対面で”受けてから再同意書を書いてもらうのだが、どうやって医師の診察を受けさせるのか。患家に往診してもらうにしても、医師から断られたりしないだろうか。家族らが医療機関に連れて行ける環境であれば問題ないが、そのような家族がいない(一人暮らしなど)場合、寝たきり患者は往療料加算の療養費でのマッサージ施術を事実上受けられない。激減するのは目に見えている。適正化の掛け声の下に進めた一連の不正対策によって、マッサージ施術を必要としてきた患者が自費負担となって療養費から外れていく。家族がいない寝たきりの患者はマッサージ療養費を請求するな、ということか。残念ながら、それでも良いという判断があったのであろう。
あはき療養費に関する今般の厚労省の改正通知により、同意書の撤廃や簡素化の道は無くなった。医師が患者と対面での診察の上で発行された再同意書でなければならないことが、どれだけ大きな申請抑制になるのか。不正対策実施のために患者が犠牲になったと見ても的外れではない。
あはき療養費は極めて使い勝手の悪い請求しづらい療養費となってしまった。特に、出張専門の施術者はどう対応策を講じるのか。今後は、距離加算の廃止や、往療料加算を廃止して施術料に組み込む形で包括化する「訪問施術制度」の策定及び早期導入を強く求めたい。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。