【経絡治療対談――基礎理論の統一化を図ろうとする動きがある今】第1回・岡部系と井上系って治療はどう違うの?

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投稿日:2021.06.10

あはき学術・教育

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 日本で生まれた伝統鍼灸である「経絡治療」。だが、同じ経絡治療のなかでも、施術者により考え方が多岐にわたるため、枠組みが不明確なところがあった。そんななか、経絡治療学会と日本鍼灸研究会が連携して、経絡治療の基礎理論の統一化を図ろうとしている。両学術団体はなぜ今、手を組もうとしているのか。

 そして、どこに向かおうとしているのか。我が国の経絡治療の歴史を振り返りながら、今後の展望について、経絡治療学会会長の岡田明三氏と日本鍼灸研究会代表の篠原孝市氏に話してもらった。(鍼灸ジャーナリスト・山口智史)

経絡治療学会会長 岡田明三氏(写真右)
おかだあきぞう/1971年、東洋鍼灸専門学校卒業、1975年、國學院大学卒業。経絡治療学会会長、明鍼会会長、東京医療専門学校教員養成科講師、神宮前鍼療所院長。

日本鍼灸研究会代表 篠原孝市氏(写真左)
しのはらこういち/1976年、東京高等鍼灸学校卒業。1978年に篠原鍼灸院を開院。1988年以来、日本鍼灸研究会(關西鍼の會、東京鍼の会)を主宰、代表を務める。

 

「同時に多数」を治療するために 岡部は「置鍼」を考案

――今日は、岡田明三先生の神宮前鍼療所に来ていただきました。何年頃からここで治療されているのですか。

岡田 1971年から、父の岡田明祐について修行し始めました。5年くらいして自分の治療院を開設しましたが、2001年に父が亡くなってからは、ここの院長を務めています。
篠原 原宿の街やこの治療院は懐かしいですね。1984年に岡田明三先生が原宿の駅前で「原塾」という勉強会を開催されたとき、その講師としてお声かけいただきました。
岡田 原塾を開いたのは、私が36歳のときですから、もうずいぶんと月日が経ちましたね。

――経絡治療の成立は、1939(昭和14)年に「弥生会」という新人の会が発足して以来とされています。そこからどう分かれていきますか。

岡田 岡部素道先生と井上恵理先生は協力して経絡治療を作り上げるとともに、それぞれがグループをつくり、父は岡部先生のグループに入りました。それが経絡治療学会として、現在も続いているということです。
篠原 その間、1967年に井上恵理先生が亡くなられ、1969年を最後に井上系が夏期大学を退いたため、経絡治療の両輪である岡部系と井上系はその後半世紀にわたって別の過程を歩むことになりました。井上系経絡治療を正しく継承発展させるという目的で、1988年に日本鍼灸研究会を立ち上げて現在に至っています。

――岡部素道先生と井上恵理先生とでは、どのような治療の違いがあったのでしょうか。

岡田 私が観たのは昭和40年代から50年代にかけてですが、駒沢の治療院はまさに大繁盛でしたね。治療院のベッドの配置に特徴があって、部屋を囲むようにベッドが10台くらい配置されていて、岡部先生はその間を移動するわけです。同時にそれだけの患者さんを治療するために、岡部先生が考案したのが「置鍼」です。治療道具も、使う鍼も大人数の治療に耐えられるように、消耗しにくい寸3の3番に統一したそうです。

「1対1」の井上は「接触鍼」へ

――今では、臨床の現場で当然のように行われている置鍼はそうして生まれたのですね。

岡田 一方、井上恵理先生は「1対1」の治療にこだわりました。朝の9時から昼の2時までの5時間で100人以上の患者さんを治療していたと、息子の井上雅文先生に聞きました。
篠原 井上恵理先生は、1940年代から晩年まで、専ら撚鍼法で一人当たり約3〜6分というわずかな時間で治療されていたようです。時間が長いと患者の〈精気〉を消耗させるとの病態判断があったのでしょう。施術は浅い鍼に移行し、接触鍼となります。

――岡部先生は多くの患者さんを同時に診るために置鍼に、井上恵理先生はスピードをつきつめて、接触鍼にたどり着いたのですね。

篠原 二人とも最初からそのスタイルだったわけではありませんが、実技の外見だけを大づかみにいえば、そうなるでしょう。現在も、日本鍼灸研究会では、患者さんが消耗しているときほど、鍼の時間は短く、ツボの数も少なくするべきだという考えです。
岡田 経絡治療学会はさまざまな会派が集まっていますが、置鍼を重視している治療家は多いですね。岡部系の流れをくんでいるといえるでしょう。(つづく)

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