連載『織田聡の日本型統合医療“考”』141 「With コロナ」
2020.06.25
そろそろ新型コロナウイルスの話題から抜け出したいところですが、まだ現在進行形の危機であり、他の話に移るのが難しいですね。自粛モードが解除され、街に人が溢れ始めましたが、感染者ゼロにはならず、さらに「専門家」の言うことがバラバラで国民は大いに翻弄されています。健康保険への依存が高い医療経営者にとっては、この6、7月が非常に苦しい時期だと思います。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』141 「With コロナ」
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』141 「With コロナ」
2020.06.25
そろそろ新型コロナウイルスの話題から抜け出したいところですが、まだ現在進行形の危機であり、他の話に移るのが難しいですね。自粛モードが解除され、街に人が溢れ始めましたが、感染者ゼロにはならず、さらに「専門家」の言うことがバラバラで国民は大いに翻弄されています。健康保険への依存が高い医療経営者にとっては、この6、7月が非常に苦しい時期だと思います。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』140 医療は戯言か?
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』140 医療は戯言か?
2020.06.10
全国で緊急事態宣言が解除され、コロナ自粛は継続するものの、飲食店などの営業も再開し、都心でも少しは日常に戻ってきた感じがします。
さて最近、友人の医師らがSNS上で話題にしていた書籍があります。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』139 「非接触」の新規産業の創出
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』139 「非接触」の新規産業の創出
2020.05.25
この原稿を書いている時点で、39県で緊急事態宣言が解除されて、残り8つの都道府県が継続しています。解除された地域の治療院は患者さんの戻りはどうでしょうか。ポストコロナの議論は気が早いと言われるかもしれませんが、既に社会では「ポスト自粛」の変化に気がついている人も多いと思います。もう元の世の中には戻らないだろうと感じている人も多いことでしょう。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』138 ダブルループ学習
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』138 ダブルループ学習
2020.05.10
緊急事態宣言が延長されました。鍼灸院も接骨院も自粛対象から外れていますが、患者数が減っていると思います。医療崩壊を防げと言われますが、発熱を診ないような一般の医療機関も患者数が減っていると聞いています。そもそも医療機関は非営利を求められているので、それほど資金が潤沢なわけではないところも少なくなく、今後は自粛のための医療危機が生じるかもしれません。受診を自粛してもなんとかなるような患者さんで、薬局で薬を自費で買ってセルフメディケーションで事足りるのだと分かると、ある意味、医療機関でのその診療は過剰であったとも言えるわけで、ポストコロナの医療も変わってくるかもしれません。さて、患者さんは医療機関へ戻るでしょうか。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』137 「備え」つつ、「感染・発症防止」を
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』137 「備え」つつ、「感染・発症防止」を
2020.04.24
こんなにも大変な世の中になってくるとは、誰も想像していなかったのではないでしょうか。ただ、日本は幸運なことに、欧米ほどの感染拡大や医療崩壊には至っていません。世の中は自粛ムード一色ですが、これがこのまま景気低迷のムードにのしかかり、非常事態宣言解除後の経済回復の足を引っ張るのではないかと心配しています。日本人らしいとは思いますが、このままではまずい。
治療院経営者は自粛閉院し、資金繰りに奔走されているケースもあるかと思いますが、比較的、今は時間があります。私のクリニックでも、患者さんが通院を不安がって電話再診になったり、予約変更が増えたりしています。発熱者の対応もしていますので最前線には違いありませんが、普段と比べると少し時間的余裕ができました。そのような「空いた時間」を、家で子供と過ごしたり、新しい趣味を始めたりして費やしていませんか。家族と過ごすことも大切ですが、外出自粛で命を守りつつ、これからの経済的混乱を生き残らなければなりません。この時間の使い方で、後々の差が出てくると私は思います。自粛解除になった時に何をすれば生き残れるのか、どのような世の中になるのか先を読んで、今から準備を進めなければなりません。明けてから準備するのでは遅いです。未確定要素が多すぎる未来を、あらゆる想定でシミュレーションしまくって、何が必要かを考えて考えまくる必要があります。そして、シミュレーションするには情報を収集してそれを吟味することが必要です。一辺倒な情報収集では不十分で、他人とは違う視点や視野が求められます。前提をも疑うような大局的な思考回路が生き抜く力につながると思います。
一方で、自分が感染しているようでは元も子もありません。誰もが高い確率で誰もがウイルスに「汚染」される前提で動くべきです。汚染されたからといって、必ず「感染」するわけではありません。体外への「汚染」→体内へ入ることによる 「感染」→ウイルスが増幅して「発症」という流れがあります。「感染」→「発症」しないためには、ウイルスを体内に入れないこと、増殖させないこと。そのためには手指消毒とうがいが重要です。ウイルスが付着して感染の原因となる上気道粘膜は、天然のマスクでもあります。頻回にうがいをしてマスクを洗浄しましょう。また、感染成立には「宿主(健康状態)」「感染経路(接触感染・飛沫感染)」「感染源(感染者の咳痰等の飛沫、便等の排泄物)」の3要素があります。感染経路や感染源ばかりが注目されがちですが、宿主が強ければ発症しないし、発症したとしても重症化しません。暴飲暴食や湯冷め、夜ふかしなど、風邪のきっかけになるような行動を控えることが何より大事です。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』136 新型コロナに「抗体検査」を
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』136 新型コロナに「抗体検査」を
2020.04.10
こんなにも、新型コロナウイルスの話を続けることになるとは思いませんでした。この原稿を書いているのは4月6日。明日には、ついに緊急事態宣言が出されていることでしょう。多くの施術者が治療院を閉めたり、半ば休業状態になったりしているのではないかと想像します。色々な噂が飛び交う中、正確に情報をつかむように努力しましょう。コロナに関しては一日ごとに新しい情報が入ってきて、検証され、廃れていく――。そんな目まぐるしい情報の更新があります。足元の情報に飛びつきたくなりますが、大局的に判断して、少し先を見通すようにすると、冷静に落ち着くこともできます。
さて現在、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の診断に「抗体検査」を行うべきだという言論が飛び交っています。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』135 「医療機器」と「それ以外」を考える
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』135 「医療機器」と「それ以外」を考える
2020.03.25
コロナショックで大変なことになってきていますが、皆さん大丈夫でしょうか? 各地で色々なイベントが中止や延期となり、自粛モードはいつまで続くのか見通しも立ちません。この連載でも数回にわたり取り上げてきましたし、メディアは連日コロナ尽くしで、そろそろ飽きてきているかと思いますが、今まで通り、正確な情報を得るよう批判的吟味を続けながら「正しく恐れて」ください。
さて先日、某ラジオ番組の収録に行ってきました。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』134 コロナショック
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』134 コロナショック
2020.03.10
こんなに新型コロナウイルスの騒動が長引くとは思いませんでしたが、大変な状況になっています。 不正確な情報がメディアやSNSで流布されて、その情報を基にした国民の不適切な行動が問題になっています。マスクが売り切れ、トイレットペーパーや米が買い占められて、薬局の前には日々行列ができています。その一方、自粛モードで消費が落ち込み、デパートは閑散とし、旅館のキャンセルも続出。 鍼灸や柔道整復の治療院の経営も大変ではないでしょうか。 (さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』133 スポーツを切り口に、医療の変革を
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』133 スポーツを切り口に、医療の変革を
2020.02.25
突然ですが、沖縄に来ています。プロ野球各球団の春季キャンプに、私が代表を務める「健康情報連携機構」で帯同訪問をしています。現役選手や監督、元大リーガーやスカウトだった方々とのこれまでのつながりが、今回のご縁となりました。
最近、当機構の多職種連携構築の理念や教育サポートに関心を持っていただけるスポーツ関係者が急増していて、改めてスポーツが医療の変革にとって、非常に良い「切り口」だと実感しています。単に「健康セミナー」や「予防医学講習会」、「多職種連携講習会」では、人は集まってくれません。特に忙しい医師や歯科医師に参加してもらうには、よほどの内容・中身が必要です。
実は当機構も、
(さらに…)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』132 今一度、スタンダードプレコーションを
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』132 今一度、スタンダードプレコーションを
2020.02.10
2月1日、新型コロナウイルスによる肺炎などが『新型コロナウイルス感染症』として、指定感染症及び検疫感染症に指定されました。日本での感染者が拡大する中、「ヒト―ヒト」感染が確定し、非顕性感染(非症候性保有者)も確認され、検査体制や受け入れ態勢もままならない状況下で、行政による指定がなされました。報道も過熱し、薬局やコンビニの陳列棚からマスクが消え、混乱の様相を呈してきました。
また、中国政府の公式発表に加え、SNSなどからうかがい知れる武漢の医療機関の混乱ぶりと疲弊……果たしてこれら中国発の情報が正確なのかという疑問もあります。おまけに、未確認ながらも生物兵器の漏洩による陰謀論まで登場している始末。私たちはより一層、情報の真偽に慎重になり、同時に迅速に取り扱っていく必要があります。
そして、今一度、スタンダードプレコーション(標準感染予防策)を意識してください。
基本は、感染者が同一空間にいるかいないかを問わず、体が直接触れ得る全ての物・場所(机や壁、ドアノブ、さらに自分の衣服も含め)に「絵の具がべったり付いている」と考えてください。そして、絵の具は24時間は乾かないと思ってください。今回のコロナウイルスは皮膚から感染せず、必ず上気道の粘膜を介して感染します。よって「絵の具」が手や体に付いただけでは感染しませんので、口や鼻の粘膜に付かないようにするにはどうしたらよいかを意識してください。
また、マスクは全く無意味だとは言いません。「絵の具の付いた手」で不用意に口に触れないための効果があり、自分が感染源という可能性を考えると、飛沫を飛ばさないためにも有効です。報道後、ホテルや遊園地などのホスピタリティーが求められる業種でも従業員が希望すれば、マスク着用が認められるようになったと聞きます。「健康な非感染者に対する感染予防の効果」は、多くの人が持つイメージとは異なり、非常に限定的です。もちろん、マスクは使い捨てにして口側に触れないことです。
さらに言えば、たとえ口にウイルスが付いたとしても、必ずしも感染するとは限りません。まずは、うがい。水道水で十分で、市販のうがい薬などは正常な粘膜を洗い流してしまい、ウイルスへの免疫機構を阻害することにもなりかねません。ポイントは、口をすすぐのではなく、喉の奥まで洗い流すようにうがいをしましょう。手洗いもアルコールなどの手指消毒より圧倒的に流水のほうが有効です。
医療の臨床現場では、免疫抑制状態の患者さんも少なくないので、スタンダードプレコーションをより意識する必要がありますね。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』131 新型コロナウイルス
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』131 新型コロナウイルス
2020.01.24
昨年末から、新型コロナウイルスの話題がメディアをにぎわせていますね。17~18年以上前のSARS、新型肺炎パンデミックを思い出します。
コロナウイルスは、ヒトや動物の間で感染症を引き起こすウイルスです。風邪症状を引き起こすHCoV-229E・HCoV-OC43・HCoV-NL63・HCoV-HKU1の4種類、深刻な呼吸器疾患SARSを引き起こすSARS-CoVとこれも重篤な呼吸器感染症であるMERS(中東呼吸器症候群)を引き起こすMERS-CoVの2種類と、これまで計6種類が知られていましたが、昨年12月以降、中国湖北省武漢市に居住する者を中心に新型コロナウイルス(nCoV)の患者が断続的に報告されて、7種類目のコロナウイルスとなりました。このウイルスの全塩基配列は既に、中国からWHOに提供されており、検査体制も整備されつつあります。先日、中国より「ヒトからヒトへの感染が確認された」という報告もありましたが、感染ルートの詳細はまだはっきりしていません。テレビのワイドショーなどでもこの話題が扱われていますので、不正確な情報や誤解が広がることも心配されます。鍼灸・柔整の臨床で、もしこのウイルスについて患者さんから聞かれることがあったなら、できるだけ正確な情報の提供に努めていただきたいと思います。国立国際医療研究センター国際感染症センターからのオフィシャルな情報が参考になるでしょう(http://dcc.ncgm.go.jp/)。
ところで、SARSのパンデミックの際には致死率が全体の9・6%、65歳以上で50%以上であったことを考えると、nCoVによる肺炎はこの原稿の執筆時点で3名の死亡者が出ているものの、どうやらSARSほどの致死率ではなさそうです。それでも、日本での流行が懸念されます。予防方法は他の風邪予防と同様で、手洗い、うがい、咳エチケットなど。特に不特定多数の患者さんと接する機会の多い方は、スタンダードプレコーション(標準感染予防策)に努めてください。スタンダードプレコーションとは、全ての人が伝播する病原体を保有していると考えて行動することで、具体的には、①手洗い ②手袋 ③マスク・ゴーグルの着用 ④ガウンの着用 ⑤器具の洗浄等 ⑥リネンの洗浄等が挙げられます。これら全てを実行するのは難しいかもしれませんが、「全ての人が感染源であり得る」という意識は、臨床家として普段から持っていていただきたいものです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』130 2020年の年頭所感
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』130 2020年の年頭所感
2020.01.10
明けましておめでとうございます。
今年は、医科等の診療報酬改定の年です。既に昨年末に、本体部分を0.55%(国費600億円程度)上げ、その一方、薬価を0.99%(国費マイナス1,100億円程度)、材料価格を0.02%(国費マイナス30億円程度)下げることが決まっています。全体では0.46%(国費500億円程度:国民一人当たり420円程度)の引き下げとなります。国民医療費全体が43兆円(国民一人当たり33万円程度)と考えると焼け石に水に感じます。診療報酬の点数を「イジる」ことで医療費をコントロールすることはほとんどできなくなってきています。やはり日本の医療は市場主導で変化していくしかありません。
企業の新規事業参入において「ヘルスケア領域」が注目されているように、ヘルスケア市場は今年もますます拡大していくと思われます。昨年から「医師の働き方改革」が医療業界以外の場でも話題となっているように、医療の持続可能性確保の戦略は「医師」をはじめとした医療従事者という人的リソースの保全に向かっており、あらゆる方面から「人的リソース」への負担軽減を目指した事業が、今後たくさん登場してくるでしょう。多くの人は人工知能などの革新的技術がその中心と思うかもしれませんが、その戦略の結果として医療周辺領域の「人的リソース」へのタスクシフティングが急激に起こることを、私は想像しています。革新的技術に支えられて「病院でしかできなかったことが、病院の外でもできるようになる」「医師にしかできなかったことが、医師でない者にもできるようになる」「薬局でしかできなかったことが、薬局の外でもできるようになる」「薬剤師にしかできなかったことが、薬剤師でない者にもできるようになる」などなど、このようなことが起こり始める年になると思います。
一方、東洋医学には受難の年かもしれません。昨年末より、漢方製剤のような一般用医薬品と同じ有効成分を含む「市販品類似薬」が公的医療保険の対象除外や自己負担引き上げなどの方向で調整に入ったとの情報が流れています。10年前にも論争となった「漢方の保険外し」です。鍼灸マッサージ・柔整も保険診療(療養費利用)がますます難しくなっていくことでしょう。今まで通りのやり方では乗り越えられないように思います。このような展望と予測からやるべきことは「凝り固まった価値観からの脱却」しかありません。
東京オリンピック後の景気衰退が危ぶまれる中、微力ながらも自分に何ができるのか改めて考えてみると、今年も今まで以上に動かなければならないなと、気を引き締められました。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』129 資格に固執しても将来の保証は無い
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』129 資格に固執しても将来の保証は無い
2019.12.25
先日、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師養成施設の新設を規制する法律の合憲性を争う裁判で、「合憲」という判決が出ました。31万人ほどいる視覚障害者の就労に加え、視覚障害者の有資格者を保護するための判決であり、東京地裁の判断に妥当性は感じますが、今後の業界の発展を考えるといろいろ意見もあるだろうなと思います。
私としては、視覚障害者の就労が「あはき業に依存しすぎている」のが問題ではないかと率直に感じています。あはき業全体における視覚障害者の割合が現在20%程度まで減少してきていて、晴眼者との競争が取り沙汰されていますが、今後、療養費による施術が認められにくくなる保険制度の環境変化に加え、リラクゼーション業も市場が拡大しています。このような状況下では新設の規制は現実的でなく、以上の点を鑑みると、視覚障害者の就労先をあはき業以外へと職域拡大する方向に力を入れた方が良いように感じます。 また、人工知能やICTなどの技術革新により、職業そのものの存続さえ危ぶまれている昨今、新規産業の創出を視野に入れながら戦略的・大局的に物事を捉えるべきで、資格にこだわり続けるのもいかがなものかと考えます。技術は制度を変えることが可能で、市場も制度を変えることが可能です。資格は市場と連携しなければ、保有する意義もなくなってしまうでしょう。
以前、視覚障害のある方がスマートフォンを操作するところを見たことがありますが、その速さたるや驚きました。かつて「視覚障害は情報障害である」という言葉を聞いたことがありますが、スマートフォンにはデフォルト(標準装備)で画面に表示された文字を読み上げる『VoiceOver』などのアクセシビリティー向上の機能を搭載していて、視覚障害者を情報障害から救ったとさえ言われます。技術を用いれば視覚障害者の職域をさらに拡大することは可能になってきているのです。
職域拡大という点で考えると、晴眼者の皆さんも同様かもしれません。資格は必ずしも将来の職を保証してくれません。技術によって市場は変わりますし、この医療財政苦難の時代に、今まで通りの考え方では生き残ることはできないでしょう。私の専門とする漢方業界ですら保険から外される可能性があります。今後の日本医療の持続可能性を考えると、医療機関と連携を取りながら、医療機関に患者さんが来院する手前で何かしらの手当や処置をするといった「新しい職業」を生み出すべきではないかと思います。果たして、ここへあはき・柔整業界が新規産業として入り込めるか。可能性はあると思います。温故知新で過去の知恵は重要ですが、根本的な考え方の転換が今求められていると感じます。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』128 市販品類似薬の保険除外は、焼け石に水?
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』128 市販品類似薬の保険除外は、焼け石に水?
2019.12.10
少子高齢化に伴う社会保障費の急増に対応するため、政府は「全世代型社会保障改革」の一環として、市販医薬品と同様の効果があって、代替が可能な薬(市販品類似薬)について、公的医療保険の対象から「除外」する方向で調整を進めているという報道がなされました。
財務省の資料によると、社会保障給付費は、1990年からの27年間で38.4兆円から94.9兆円へと2.5倍に増加しています。国民医療費の年齢階級別の金額(2016年)を見てみると、0~64歳の平均が一人当たり18.4万円に対し、前期高齢者(65歳~74歳)は平均55.3万円と約3倍で、後期高齢者(75歳以上)に至っては平均91万円と約5倍に跳ね上がります。このうち国庫負担金は、64歳以下の一人当たり2.6万円に比べ、後期高齢者は34.9万円と、負担が13倍も違います。2025年にかけて国庫負担が急増するのは明らかで、いかにその負担を軽減するのかに苦心しているのです。
しかし、医療費の急増は、高齢化のほかにも「医療の高度化」がその要因の一つとして挙げられています。有名なのはオプジーボで、年間で約3,500万円の費用がかかります。また、日本で保険収載されている高額医薬品として、ハーボニー(C型慢性肝炎治療薬)は12週間で約670万円、ステミラック(脊髄損傷に伴う機能障害の改善薬)は一回投与で約1,500万円、キムリア(急性リンパ芽球性白血病治療薬)も一回投与で約3,350万円です。今、承認申請されているゾルゲンスマ(脊髄性筋萎縮症治療薬)に至っては、米国価格で一回投与2億2,700万円。驚きの額です。もちろん、患者さんにとっては希望の光なのですが、国内の全ての罹患者に行き渡るには予算が許しません。そうなると、どう適応を考えるのかが難しいところです。こう考えていくと、冒頭で述べた、市販品類似薬を公的医療保険の対象外にしたところで、「焼け石に水」の感があります。
それよりも、私は最近よく聞かれる「医師の働き方改革」に注目しています。医師の時間外労働上限規制は「現実的でない」「医療崩壊だ」との批判の声も聞かれますが、「タスクシフティング」という考え方をもってすれば、全ての人にWin-Winの政策となり得ると思います。今まで医師でなければできなかったことを、医師以外の単価の低い労働力に担ってもらうことで、医師の報酬はあまり変わらず、仕事量を減らすことが可能となります。病院でしかできなかったことが、病院以外でできるようにする「技術」はたくさんあります。技術が制度を変える時期は、もうすぐそこまで来ているように思います。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』127 eスポーツ業界に医学的サポート開始
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』127 eスポーツ業界に医学的サポート開始
2019.11.25
日本ではまだまだ珍しい「eスポーツドクター」になりました。私が代表を務める健康情報連携機構では、12歳以下の少年野球日本代表「若武者NIPPON」だけでなく、今後「eスポーツ」のゲーマーも支援していきます。11月上旬に東京ビッグサイト青海展示会場(東京都江東区)で開催された『Mobile Game Experience 2019』では、オフィシャルパートナーとして運営をサポートしていた株式会社ディー・エヌ・エーと連携し、医療チームとして支援に当たりました。
eスポーツとは、「エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)」の略で、いわゆるビデオゲームを利用した競技です。複数人のプレイヤーで対戦するゲームをスポーツとして解釈したものといえます。指先のコントロールだけで「身体を動かさない」のでスポーツと言えないのではないか、との考えは既に古く、世界的には「プロゲーマー」が「プロスポーツ選手」として活躍しており、その市場規模は日本とは桁違いです。過去の最高賞金金額はなんと1億ドル。さらに、「プロレス」などと同じように「eスポーツ実況」「eスポーツ解説」など、全く新しい職業まで誕生しています。残念ながら、日本は「eスポーツ後進国」と呼ばれており、認知度も関心も高くない状況です。しかし、最近はeスポーツ国体が開催されたり、プロゲーマーを育成するeスポーツ専門学校が生まれたり、全国高等学校eスポーツ連盟が発足し北米教育eスポーツ連盟と連携をしたり、アジア競技大会の正式競技になったり、オリンピック競技にする動きがあったり……徐々にですが、その市場も拡大してきています。
その一方で、WHOの国際疾病分類(ICD-11)にゲーム障害(Gaming Disorder)が新たな疾病として加わり、アルコール依存症と同じように病気として捉えられるようにもなりました。前述のイベントで実際にeスポーツ選手と接すると、「不健康の塊」と自称したり、医学的な支援を全く受けず、昼夜逆転しながら長時間ゲームに没頭したりする者もいました。選手像として「引きこもりの男性10代のオタク系」とのステレオタイプをイメージされることもありますが、実は女性も4割が参加しており、年齢も20~30代が半分以上を占めています。当機構所属のeスポーツドクター、eスポーツトレーナーは、健全で世界と戦えるプロ選手を育成するために、多職種連携しながらeスポーツ業界を支援していきます。来年1月には東京都らが主催で『東京eスポーツフェスタ』(https://esportsfesta.tokyo/)が開かれ、当機構も参加する予定です。お時間のある先生方、eスポーツの現状を査察しにぜひいらしてください。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』126 日医主催の健康スポーツ医学講習会に参加
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』126 日医主催の健康スポーツ医学講習会に参加
2019.11.10
日本医師会(日医)主催の「健康スポーツ医学講習会」に参加しています。スポーツ活動に深く関わるようになってきたため、系統的な学習を目的として、週末4日間で計1,500分を自己投資しています。 スポーツ医学というと、整形外科的な領域がメインと思われがちですが、日医認定の「健康スポーツ医」の約半数は内科医だそうです。講習科目も内科疾患を予防するための運動や、患者さんがより健康になるための運動を処方するための知識が中心となっています。もちろん、競技スポーツという側面から可否判定をするメディカルチェックの話もあります。マラソン大会の最中に心肺停止となった選手の蘇生の様子がビデオで紹介され、スポーツに関わる医師にとっても緊張する内容でした。30代のランナーですら心肺停止の例があると聞き、油断できません。特に今の時代は、趣味・娯楽としてのスポーツを楽しむ人から極限を目指す人まで幅広いです。ふと、山岳診療所で診た登山者に「私、心臓疾患があるのですが……」と言われ、なぜ登ってきたの? と内心思った時のことを懐かしく思い出しました。医師でなくともスポーツ大会でボランティア活動に参加される方は、せめて一次救命処置ぐらいは覚えていてくださいね。
さて、「運動が健康のために良い」というのは、おそらく間違いはないのですが、その種類や強度によっては害にもなり得ます。当然、医学的基礎知識の上に、運動に関するエビデンスを重ねていく必要があります。講習会の中で、「テニスが最も寿命を延ばす」というデンマークの報告が紹介され、最近は野球との関わりが強い私には、少し「盲目的なテニス推し」の講演が鼻につき、バイアスを考えてしまいました。▽ジムでのフィットネス、▽徒手体操、▽ジョギング、▽水泳、▽サイクリング、▽サッカー、▽バドミントン、▽テニスの8種類を行っている8577人の25年分のデータから比較したところ、テニスをしていた人の平均寿命が「運動不足」の人たちよりも平均9.7年間も長くなったといいます。次いで延命効果が高かったのはバドミントンで平均6.2年、以下順に、サッカー4.7年、サイクリング3.7年、水泳3.4年、ジョギング3.2年、徒手体操3.1年でした。「ジムでのフィットネス」は最下位で、ジムにお金を払っても1.5年だそうです。年齢や教育レベル、BMI、身体的・精神的疾患の有無、喫煙、飲酒等の背景は調整しているそうですが、そもそもデンマークと日本は人気のスポーツも違えば、経済的背景も異なります。何か交絡因子が隠れているのではないかと疑いました。ご興味のある先生方は、ぜひ原著を当たってみてください(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27895075)。ちなみに、東京五輪ではテニス女子シングルスが最も紫外線を受けるというオーストラリアの研究もありますね。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』125 「公益資本主義」を医療に持ち込むには
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』125 「公益資本主義」を医療に持ち込むには
2019.10.25
先日、東京の日本橋で開催された「ワールド・アライアンス・フォーラム円卓会議」に参加してきました。テーマは『公益資本主義2050年の国家目標―天寿を全うする直前まで健康でいられる社会の実現』。日本医師会の横倉義武会長、甘利明元大臣、石破茂元大臣も参加されていました。 2人に1人は癌になるという日本の現状を踏まえて、癌になっても元気に、事故でけがをしても元気に戻れる社会を、認知症にならず、死ぬ直前まで元気にいられる社会を実現するためには、技術・制度革新、そしてそれを支えるエコシステムの構築が大切である、そしてエコシステム構築には所得が倍増しなければならない、そういう流れで話は進みました。
アライアンス・フォーラム財団代表の原丈人氏の掲げる「公益資本主義」では、会社は株主のものではないといいます。会社が事業を通じて生み出した「公益」を株主だけでなく、会社を支える「社中」(会社、社員、顧客、仕入先、地域社会、地球)各位に公正に分配することが、本来あるべき資本主義の姿であると考えられています。原氏は、経済財政諮問会議に招聘され、今では内閣府本府参与を務めていますので、この考え方は政府への一定の影響力があると考えて良いです。 公益資本主義の考え方を医療へと応用するに当たり、社中として、医療機関、医療従事者、患者、製薬メーカー、地域医療、地球を考えた時、果たして公益は公正に分配されているでしょうか? 公益「資本主義」を考える前に、医療は「計画経済」の側面が強く、現場は非営利であることが求められ、技術革新が起こりにくい土壌であることを踏まえる必要があります。「公益」=「医療サービス」なのか、「利益」なのか(おそらく両方であると原氏は考えていると思いますが)。医療技術の発展には大きな開発資金が必要です。フォーラムで議論された技術革新の多くも、資金が必要なものばかりでした。医療革新が起きたとしても、その技術は公益であるとして価格が固定されます。利益を生むことを非難される医療経済の現状では、メーカーは開発費用を思い切って拠出しづらく、既に公益性の高い医療では公益資本主義は成立しないように思います。そもそも、現状では持続可能なエコシステムは構築できません。
公益資本主義を医療に持ち込むのならば、「タスクシフト」と「サービスの適正な分配」が必要だと私は考えます。タスクシフトとは、今まで医師しかできなかったことを医師でない人が担当できるようにすること。病院でしかできなかったことを病院外でできるようにすること。そういう技術革新こそ必要なのです。サービスの適正な分配とは、オーバースペックとなっている医療の現場で、適正なサービスが受けられるように制限することです。この流れは必ずやって来ると私は考えています。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』124 公立病院の再編から考える医療サービスの今後
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』124 公立病院の再編から考える医療サービスの今後
2019.10.10
9月末に厚労省は、市町村などが運営する公立病院と、日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超に当たる全国424病院に関して「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、病院名を公表しました。私の友人が勤める病院も少なくなく、戸惑いの声も聞こえています。
これらの病院は手術件数や分娩件数、救急車の受け入れ件数などの診療実績が少なく、近隣の民間病院で代替できる可能性があるなどとして、再編や縮小を求められています。厚労省に強制力はありませんが、来年9月までを期限とし、自治体などに対応方針を迫ったのは、大きな社会的インパクトでした。このような厚労省の動きの背景には、医療費の高騰が止まらないことがあります。公的病院には赤字の補填に年間8,000億円の税金が投じられており、地方の反発を覚悟の上で、病院運用の効率化を求めたのは、このままでは日本の医療が持たないという危機感を表しています。
これまでも厚労省は、診療報酬が高い急性期病床を回復期病床に転換し、高齢患者を在宅へ復帰させることが必要だと、3年前に全国の急性期病床を3割減らす計画をまとめました。しかし、地方自治体の計画では5%も減っていません。医療費抑制の抜本的な改革は政治家主導では不可能だと私は考えていましたが、官僚主導の下でやれることをやった感です。政治家主導で医療費改革が進められないのは、投票率の高い高齢者の反発を招きやすいからです。これに市場(民間病院)がどう反応するでしょうか。今のところ医師会は厚労省に同調しているようです。公的病院と民間病院は患者さんの取り合いになりますので。
医療というライフラインを維持させるために医療費削減は急務です。環境問題についてスウェーデンの高校生のグレタ・トゥーンベリさんが訴えたように、医療費の「ツケ」もこのままでは今の子どもたちの肩にのしかかります。医療費削減には3つの方法しかないと言われています。①質を下げる、②価格を上げる、③アクセサビリティーを下げる、です。質を下げるのは一人当たりの診療時間を減らすことです。価格を上げるのは、窓口での自己負担を上げることです。紹介状が無いと余計に支払わなければならない選定療養費もこれに当たります。既に高齢者や軽症の負担率を上げる議論も始まっています。アクセサビリティーを下げるというのは、気軽に病院にかかれなくすることで、外来や病床を減らすことです。前述の再編を厚労省が求めたのはこれに当たります。
急性期病床を減らし、在宅診療を増やす方針ですが、在宅診療は極めて効率の悪い医療です。おそらく次は在宅医療の見直しが議題に上ると想像します。そして、保険外サービスの活用や自費診療へのシフトは逃れられない流れだと私は認識しています。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』123 業界でなく、個人を生かした「新規産業創出」
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』123 業界でなく、個人を生かした「新規産業創出」
2019.09.25
富山から東京へ出てきて「日本統合医療支援センター」を設立した私は、かつて、日本で「真の統合医療」を実現するために、あらゆるヘルスケアに関わる「業界」をつなぐことを目標に、その足がかりとして「鍼灸業界」を「医療業界」とつなぐことに力を入れて活動してきました。しかし、この「業界」という単位で捉える活動は間違っていたかもしれません。
どの「業界」も、その規模が大きくなればなるほど、変えることは難しくなります。私がご縁を作った、北海道・函館の家庭医や薬剤師等の多職種連携の活動への鍼灸師の参画については、鍼灸師が医療連携に深く参加できるようになったと聞いています。しかし、「業界をつなぐ」という点で見れば、大した成果もないまま5年以上が過ぎてしまいました。業界内の政治的折衝など、大局的に見れば不毛なことに気を取られすぎたのかもしれません。
現在、神戸大学名誉教授の平井みどり先生(医師、薬剤師)と島根大学臨床研究センター教授の大野智先生(医師)と設立した「健康情報連携機構」へ活動の場を移してからは、「業界をつなぐ」のをやめて、「個人のつながり」を作る活動にシフトしています。
具体的には、既に存在するコミュニティーを「つなぐ」のではなく、つながりを持ったコミュニティーそのものをゼロから構築することにしたのです。あらゆる職種の「個人」がフラットな関係を保ち、それぞれの持ち味を発揮できる役割分担により、連携はうまく動きます。業界の政治的意向は必要ありません。最近、ありがたいことに当機構に「個人」として医師や歯科医師の参画が増えています。特に、外科医や整形外科医の賛同を頂いています。業界をつなごうとしていた時にはあり得なかったことです。
考えてみれば、業界団体としては、その業界の利益が全体の利益に優先されるのは当たり前のことですし、他との連携がゆくゆくは業界の利につながったとしても、この先、経済的に厳しくなる医療情勢の中で、業界としても個としても動く余裕が無いことも薄々気が付いてはいました。
この紙面でもよく「破壊的イノベーション」については紹介していますが、鍼灸マッサージ業界も柔整業界も、「持続的イノベーション」の線上にあります。「鍼灸業界」ではなく「鍼灸師個人」を生かした「新規産業創出」をすることが、この厳しい情勢を生き抜く方法ではないかと考えています。私は温故知新の精神で伝統を生かしながら新しい産業を創る活動を開始しています。皆さんも一度、業界としてではなく、個人として生き抜く方法を考えてみてください。もちろん個人としての健康情報連携機構への参画はウエルカムです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』122 『カル・リプケンワールドシリーズ』に帯同して(続報)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』122 『カル・リプケンワールドシリーズ』に帯同して(続報)
2019.09.10
私が代表を務める健康情報連携機構による12歳以下の野球日本代表の支援は、5月のトライアウトの時から始まりました。12歳とは思えない、卓越したプレーを連発する子どもたち。彼らの肘を診ると、驚いたことにこれまた12歳とは思えない肘でした。
スポーツのケガは特有で、野球肘、テニス肘などと競技名が冠につく場合もあり、野球肘とは尺側側副靭帯の損傷や離断性骨軟骨炎による肘の障害です。今夏の高校野球では、岩手大会決勝戦で大船渡高校が「故障を防ぐため」という理由でエース・佐々木朗希選手の登板回避を決めたことが賛否両論を巻き起こしました。実は高校時代のケガの90%は「再発」であり、球数制限は当然求められますが、小学校・中学校時代にケガをしないことが一番の対策なのです。少年野球の実態として、5年前の調査では4人に1人が肩や肘に痛みを抱えていました。また、今年2月に全日本軟式野球連盟が発表した調査結果では、野球肘の発生は11~12歳がピークで、小・中で傷めると高校でも傷めてしまう確率が4.6倍になるとされています。海外では小学生から球数制限があり、もちろん「若武者NIPPON」が参加したカル・リプケン大会でも球数制限がありました。
日本代表ほどの選手になると12歳以下でもしっかりした筋肉をしていますが、肘を診ると尺側側の橈側手根屈筋や尺側手根屈筋などの屈筋群に異常緊張(しこり)を触れる選手が、特に投手に多く見られました(ちなみに彼らの多くは、「内野手だけどピッチャーもできる」など、投手も務められる子が選ばれやすいようです。大会で球数制限が設けられているため、できるだけ投手の数を揃えたいとの背景があります)。手関節の背屈の可動域が狭くなっている子も多く、屈筋群をしっかりストレッチすることが重要だと思われました。ただ子供の筋肉は素直で、大人に比べて短時間で屈筋群を緩めることは容易でした。ちょっとしたケアによって、子どものケガを予防できる可能性を感じます。トライアウトの時から、他に気になる点もありました。多くの選手の下半身が固く見えるのです。当初は緊張しているためかと思ったのですが、股関節が固く、深くしゃがめない子が多いことが分かりました。ゴロの捕球の際は、腰を柔軟に、上体を低く構えることが重要ですが、これができていないのです。試合前にストレッチをしていても、四股を踏むような動きに弱いようです。和式トイレが減ったからだと誰かが言っていましたが、真偽のほどは分かりません。いずれにしても試合後に股関節を緩めてあげることは重要で、実際、試合後に股関節の違和感を訴える選手は少なくありませんでした。
なお大会中は、選手は会場に併設された選手村に寝泊まりしていましたが、硬いベッドで枕も合わない劣悪な環境でした。朝、試合前に頚・肩がひどく緊張をしていたのも可哀想で、「来年はマットレスや枕対策も必要だ」と思ったものです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。