連載『食養生の物語』116 『つながる勝負メシ』
2023.01.25
昨年は、サッカーW杯で盛り上がりました。日本代表選手たちの活躍を支えてきた「勝負メシ」として、試合の前々日の夕食は銀ダラの西京焼き、前日はウナギの蒲焼きが用意されたと話題になりました。 (さらに…)
連載『食養生の物語』116 『つながる勝負メシ』
連載『食養生の物語』116 『つながる勝負メシ』
2023.01.25
昨年は、サッカーW杯で盛り上がりました。日本代表選手たちの活躍を支えてきた「勝負メシ」として、試合の前々日の夕食は銀ダラの西京焼き、前日はウナギの蒲焼きが用意されたと話題になりました。 (さらに…)
連載『食養生の物語』115 『おでんのふるさと』
連載『食養生の物語』115 『おでんのふるさと』
2022.12.23
寒い冬の定番料理、おでん。かつては、夜になると街中におでん屋の屋台が並んだ時代もありました。1980年代から冬季限定商品として販売されているコンビニのおでんも冬の風物詩です。兵庫県の播州地方で育った私にとっては、生姜醤油をつけて食べるのが成人するまで当たり前でした。ご当地グルメブームで「姫路おでん」と呼ばれているのを知り、地域特有のものであったと認識を改めたものです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』114 『鍋の菜っ葉』
連載『食養生の物語』114 『鍋の菜っ葉』
2022.11.25
寒い日が続くと、温かいお鍋が食べたくなってきますね。鍋料理はたくさんの食材を一度に食べられるので、効率よく栄養素を摂り入れられるうえに、冷えた体を内側から温め、さらに心まで満たしてくれる気がします。 (さらに…)
連載『食養生の物語』113 『貧乏さんま』
連載『食養生の物語』113 『貧乏さんま』
2022.10.25
食欲の秋を代表する食材の一つ、サンマは9月から11月に旬を迎えます。
「貧乏秋刀魚に福鰯(びんぼうさんまにふくいわし)」という諺があります。サンマは寒流に乗ってやってくるので、豊漁ということは冷夏で、お米や農産物が不作になります。
これに対し、5月から9月が旬の鰯が豊漁だと暖流に勢いがあるため、夏は暑く実り豊かな秋がやってくるといわれています。
ここ数年はサンマの不漁が続き、価格が上昇し続けています。需要と漁獲量の問題だけでなく、海水温の変化がサンマの生息数に影響しているのではと考える説もあるようです。
また、サンマは寿命が1年から2年と短いうえに、神経質でパニックを起こしやすく、ぶつかり合って鱗が剥がれてしまうなど養殖も難しいようです。
とはいえ、サンマにとっては思わぬ評価のされ方で貧乏くじを引かされたといえそうですね。 (さらに…)
連載『食養生の物語』112 『大きな栗の木の下で』
連載『食養生の物語』112 『大きな栗の木の下で』
2022.09.26
食欲の秋といえば「いもくりなんきん」。サツマイモ・栗・南瓜は、九月下旬から旬を迎える食材で、甘みがあり料理にもスイーツにも楽しめるという共通点があります。江戸時代に井原西鶴が著した浮世草子の一節には「とかく女の好むもの、芝居、浄瑠璃、芋蛸南瓜」とありますが、現代ではタコがクリに入れ替わり定着したようです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』111 『おかしな話』
連載『食養生の物語』111 『おかしな話』
2022.08.25
「まさかとは思いますが……」と、夏の後半から口にすることが増えます。特に中高生のお子さんを持つお母さんから「子供の元気がなくて」という相談が続き、多くなっているのです。
「まさかとは思いますが、減塩していませんか?」と質問すると「なぜ分かるんですか?」と返ってくる。ご両親の血圧を尋ねると、正常の範囲内。それでも先々で血圧が高くなるのではと心配で減塩食を心掛けているとか。対してお子さんは、夏休みも学校まで自転車で往復して部活動。大量に発汗し、水分摂取はできても塩分補給が不十分な場合が多いです。そして、本来なら食事で摂るはずの塩分が、減塩食のために補えず、力が入らない無気力な状態になってしまいます。そもそも血圧が正常であれば、減塩は必要ありません。起こるかもしれない未来を不安がるあまり、現在のお子さんが塩不足による無気力になるのでは本末転倒。食事が味気ないというのも不満につながりそうです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』110 『ころがるダイズ』
連載『食養生の物語』110 『ころがるダイズ』
2022.07.25
このところ「大豆ミート」の人気が高まっています。料理に合わせてミンチ状・ブロック状・フィレ状などさまざまな形状から選べるのも人気のようです。以前からヴィーガンやベジタリアンのための代用肉として存在していましたが、ここにきて体や環境にやさしいというイメージが広まったようです。
菜食主義になる理由は、主に宗教・健康・環境の三つです。日本でも仏教に精進料理があるように、菜食をすすめている宗派が少なからず存在します。健康面で大豆ミートは、低カロリー、低コレステロール、高タンパクで食物繊維も豊富です。環境面では地球温暖化対策があります。畜産業などによる温室効果ガス(主に牛のゲップに含まれるメタンガス)の排出は、世界の温室効果ガスの総排出量のうち14%で、全世界の交通手段から排出される量に匹敵するとも言われています。食糧問題としても、世界で生産される穀物の三分の一が家畜のエサになっています。昨今のSDGsの取り組みも、大豆ミートの支持を後押ししているといえるでしょう。 (さらに…)
連載『食養生の物語』109 『今できる、食育』
連載『食養生の物語』109 『今できる、食育』
2022.06.24
天候不順に世界情勢が重なって原材料が高騰し、食料品の値上げが続いています。燃料費や物流コストも上昇し、どこまで値上げが続くか分からない状況です。「困った」と言う人がおられる一方、さほど影響なさそうな人も見受けられます。食品を購入する際に価格を重視する人が前者で、後者はどちらかというと価格よりも中身・品質を重視しているように映ります。原材料表示を見て、余計な添加物が入っていないか、原料は国内産かオーガニックか、などをチェックする習慣の人ほど値上げへの反応が小さいようです。
こうした購買行動も、食を通した教育、すなわち「食育」に通じるのではないでしょうか。食育という言葉が最初に使われたのは明治時代の医師・石塚左玄が記した『化学的食養長寿論』だとされています。左玄は「子どもの教育で一番大事で基礎となるものは食育であり、しっかりとした家訓が重要である」としています。教育の基礎となるのが食育。食事を作ってくれる人に感謝し、「いただきます」「ごちそうさま」と手を合わせ、食事の役割分担をしていくことが躾となり、家訓となっていくのでしょう。 (さらに…)
連載『食養生の物語』108 『食欲との向き合い方』
連載『食養生の物語』108 『食欲との向き合い方』
2022.05.25
本連載も今回でまる九年、第一〇八回を迎えました。一〇八というと人の煩悩の数、大晦日の除夜の鐘の回数としても知られます。人の悩みや苦しみの中でも、健康や寿命に関するものは尽きないでしょう。そこで食を控えることができれば病は遠ざかり、若々しくいられて、さらには……と、良いことづくし。「腹八分目で医者いらず」ということわざは、実は「腹六分目で老いを忘れる、腹四分目で神に近づく」と続きます。ただ、分かっていてもなかなか出来ないのが人間ということでしょう。食べ過ぎからくる生活習慣病が多いのが現実です。
食欲のコントロールに当たって「断食」で胃腸を浄化するのに勝ることはありません。体内に取り入れることを止めれば胃腸は休まり、身体全体で余分なものを排泄しようとします。体臭が強くなることもありますが、デトックスが進んでいる証拠。やがて肌のくすみが消え、透明感が出てきます。また、何よりも体が軽く、心まで晴れ晴れとしてきます。私も何度か経験していますが、思考もクリアになって判断力の高まりも感じられます。イスラム教の「ラマダン」に代表されるように、多くの宗教が教えの中で「祈り」と「断食」を重要なものとして説いています。「腹四分目で神に近づく」のは万国共通の理想の姿なのかもしれませんね。 (さらに…)
連載『食養生の物語』107 『新種より新酒』
連載『食養生の物語』107 『新種より新酒』
2022.04.25
「ボジョレーヌーボー」というワインはご存知でしょう。ヌーボーとは秋に収穫されたもので造られるしぼりたてのワイン。フランスのボジョレー地区で夏に収穫したブドウで醸造された初物のワインで、11月の第3木曜日に全世界で一斉に解禁されます。ワインと同じように日本酒にも「新酒」があります。秋に収穫されたお米で造られたしぼりたてのもので、11月から出荷が始まりますが、解禁日が定められているわけではないようです。また、秋に収穫された米で醸造し、10月から3月の寒い時期に造られ、しぼりたてで火入れをせず「生酒」として春に出荷するお酒も同じく「新酒」。いずれも爽快感のあるフレッシュな味わいが特徴です。
外食が控えられるようになり、新酒を家飲みで楽しむ人が増えているようです。「酒は百薬の長」と言われる通り、お酒を飲むことで血液の循環がよくなり、ストレスの解消にもなり、ちょっとした不調であれば治ってしまうという人もいるでしょう。一方、『徒然草』には「百薬の長とはいえど、万の病は酒よりこそ起これり」とあり、健康を害する万病の元となりえるとも言われます。適量を楽しむことを外れ、量が過ぎてしまうのがいけないと言えそうです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』106 「重宝される塩麹」
連載『食養生の物語』106 「重宝される塩麹」
2022.03.25
コロナ禍で、テイクアウト弁当を目にする機会が増えました。中でも塩麹漬け・塩麹焼き・塩麹唐揚げなど、「塩麹」を使ったメニューが増えているようです。肉や魚を柔らかくしつつ、まろやかな塩味と甘みのつく調味料として重宝されているようです。ここ十年ほどですっかり定番となった塩麹ですが、実は江戸時代の本草書『本朝食鑑』にも記載があるほど調味料としての長い歴史があります。そのルーツは、東北地方の三五八漬けとされており、塩・米麹・米を三・五・八の割合で混ぜて野菜や魚の漬物床としていたものを、米を抜いて塩と米麹と水で発酵させ、調味料として用いるようになっていったようです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』105 シンプルで繊細な、湯豆腐
連載『食養生の物語』105 シンプルで繊細な、湯豆腐
2022.02.25
春も近いとはいえ夜は寒く、温かい湯豆腐を味わいたくなりますね。江戸時代に書かれた『豆腐百珍』には「湯やっこ」という、煮る湯に葛湯を使って豆腐が浮き上がってきたところを掬い上げて食べる方法の記述があり、今の湯豆腐の原型と考えられています。
湯豆腐は、土鍋にたっぷり目の水をはって、昆布を敷いて、塩をひとつまみ。湯が沸いてきたところに、豆腐を (さらに…)
連載『食養生の物語』104 御御御付(おみおつけ)の三礎
連載『食養生の物語』104 御御御付(おみおつけ)の三礎
2022.01.25
おすましか、それとも白味噌か――。年が明けてしばらくは「お雑煮」が話題になります。元々、関東では澄まし汁に焼いた切り餅、関西では白味噌仕立てに丸餅が主流。結婚や転勤、人の流動と時代の変遷とともに多様化し、各家庭で異なってきているようです。また、白味噌といえば関西では甘い米味噌ですが、同じ米味噌でも関東では赤い色になり、北陸・東北では辛い赤味噌になるなど、地域によって異なります。中・四国や九州で味噌といえば、米の代わりに麦を原料とした麦麹と大豆からできる麦味噌が中心。また、東海地方だけは大豆を麹にしたものと塩だけで作る豆味噌が有名です。気候や風土によって味噌の種類も様々ですね。
ことわざには「味噌汁一杯三里の力」とあり、一杯飲むだけで三里くらいは平気で歩けるようになるほど、味噌汁は活力の源と考えられてきました。 (さらに…)
連載『食養生の物語』103 共存できる文化に
連載『食養生の物語』103 共存できる文化に
2021.12.24
「いぶりがっこがピンチ!?」。12月の初旬、そんなニュースが目に入ってきました。いぶりがっことは秋田県内陸部を中心とした地方に伝わる、主に大根を燻煙乾燥させてつくる漬物のこと。通常の「たくあん」は大根を天日干しして水分を抜いてから漬け込みますが、降雪の早い山間地では大根を戸外で干すことができないため、室内に吊るして囲炉裏火の熱と煙で燻してから漬け込むようになったのが始まりとされています。ところが今年、食品衛生法が改正され、漬物製造業に保健所の営業許可が必要になったのです。いぶりがっこ生産者の多くは小規模で、農作業小屋で昔ながらの方法で製造されてきました。新たな設備が必要になる上に生産者の高齢化もあり、今年の製造から断念するところが出てきそうというのです。 (さらに…)
連載『食養生の物語』102 良いものを、少し
連載『食養生の物語』102 良いものを、少し
2021.11.25
デパ地下や高級店のものだったら、少しくらい食べてもいいかな――。「節制すべき時に食べてもいいもの」について、特に甘いものが止められないという人に対しては、以前からこう答えてきました。「これなら大丈夫?」「あれは?」と一つ一つ答えていくとキリがありません。かといって、何でもかんでもダメというのも考えもの。そうして考え抜いたのが、先の言葉になります。スーパーやコンビニのものはやめて、デパ地下ならOKというのは、きちんとした原材料を使って丁寧に作られているものが多いことが理由。少し食べるならば良いものを、ということですね。また、価格が高めなこともあり、頻繁に、たくさん食べるわけにはいかないということもあります。そして何よりも、美味しいものが多い。楽しむ時には楽しみ、我慢する時には我慢するということでメリハリがついて、良い結果につながりやすいようです。
ただ最近「これなら大丈夫?」の内容が変わってきました。低糖質のお菓子、カロリーオフのデザート、プリン体カットのビール系飲料など、消費者が気にするポイントをウリにした商品が増えてきています。 (さらに…)
連載『食養生の物語』101 健康の七大条件
連載『食養生の物語』101 健康の七大条件
2021.10.25
健康でいるために、どうすればいいか――生きていく上で永遠の課題かもしれません。連載も百回を超えて三桁に踏み出す節目の今回は、改めて食養生の原点を振り返り、健康について考えてみようと思います。マクロビオティック(食養)の創始者ともいわれる桜沢如一氏は健康の定義を分かりやすく「健康の七大条件」として説かれました。①疲れない、②ご飯がおいしい、③よく眠る、④もの忘れをしない、⑤ゆかいでたまらない、⑥思考も行動も万事スマート、⑦ウソをつかない、の七項目です。①から③までは生理的条件。すぐに「疲れた」と言うことなく元気に動ける、ご飯は質素なものでもおいしく食べられる、枕に頭を置いて数分で眠れて時間がくればパッと目覚められること……いわば動物として生きていくのに必要なことと言えるでしょう。④から⑥は心理的条件。記憶力と判断力に優れ、怒りや怖れや不安がなくいつもにこやかで、敏速な行動力を備えていることです。人間社会で生きていく上での必要な条件と言えそうです。最後の⑦は正義のための絶対条件とされています。それぞれの項目を単純に考えてみれば、純粋無垢な子どものありのままの姿とも言えます。今という時間を生きていることで、過去に引きずられることなく、未来を心配することもなく、不安のない状態と考えられます。 (さらに…)
連載『食養生の物語』100 心と食の養い
連載『食養生の物語』100 心と食の養い
2021.09.24
「何を食べればいいの?」と尋ねられても、即答できるものではありません。また、日々どんなものを食べているかを聞かせてもらうと、「何をやめるか」を先に考えるべき、食べ過ぎの人のほうが多いようにも感じます。健康のために「何を食べればいいか」「何をすればいいか」というような、「これさえやっておけば」という分かりやすい〝正解〟はないのでしょう。とは言っても、ウイルスに負けない体づくりにも、生活習慣病の予防にも、健康な身体づくりにも共通することはあります。それは心のあり方です。 (さらに…)
連載『食養生の物語』99 飽きない食欲の秋
連載『食養生の物語』99 飽きない食欲の秋
2021.08.25
「秋には辛いものが良いの?」と尋ねられることがあります。東洋医学を学び始めると直面しがちな問題ですね。五行論でいう「五味」で、秋には「辛」となっていることから、辛いものを食べると良いと解釈されることがあるようです。ですが、こうした時にいわゆる辛いものとしてイメージされがちなスパイスや香辛料の類は、発汗を促して毛穴を開かせます。真夏には向いているものですが、気温が下がって空気が乾燥してくる秋からの季節になっても毛穴を開かせていることで風邪にダメージを受けて、風邪を引きやすくなってしまうのです。
秋は五味では「辛」、五色では「白」ですので、白くて辛いものと考えてみましょう、大根・生姜・白ネギなどが該当します。発汗まではさせない程度に、気・血を巡りやすくさせる発散作用はあるものと理解します。
中でも「白くて辛い」の代表格といえば、大根おろし。 (さらに…)
連載『食養生の物語』98 働かざるもの食うべからず
連載『食養生の物語』98 働かざるもの食うべからず
2021.07.25
「子どもの頃の誕生日の食事の想い出は?」と聞かれたら何と答えますか。「団塊ジュニア」とも呼ばれる第二次ベビーブーム世代が、今年から50歳代になっていきます。これよりも上の世代は、先の質問に「この日に母親が炊いたカレーが美味かった」とか「ハンバーグが忘れられない」などと即答するそうです。ところが、これよりも下の世代になると「ケーキ」以外には思い出せない人がほとんどになる。特別な日のメニューが特別なものではなくなったのです。高度経済成長期を経て、ご馳走が日常になり、外食の機会が一気に増えたことが伺えます。
この稿が読まれるのは、ちょうど「夏の土用」の頃。土用とは夏だけにあるわけでなく、春夏秋冬のそれぞれの季節の変わり目に存在し、次の季節に備えての滋養強壮の時季とされてきました。 (さらに…)
連載『食養生の物語』97 目の覚めるワサビ
連載『食養生の物語』97 目の覚めるワサビ
2021.06.25
「目の覚める臭い」と聞いてどんな香りを想像するでしょうか。実はその代表格として認められているのが、ワサビの臭い。ワサビ臭は深い眠りからでも目が覚める可能性が高いことから、ワサビ臭がする気体を噴射することで聴覚障害者に火災を知らせる警報装置が日本で開発され、海外メディアでも話題になっています。
ワサビの辛味成分を加工した抗菌シートが、テイクアウト弁当などで品質保持のために使われているのを見かけたこともあるかもしれません。これはワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート(イソチオシアン酸アリル)による抗菌作用を活用したもの。東京都立衛生研究所での実験(1988年)では、サバやタラなどの魚に繁殖して食中毒の原因となる寄生虫アニサキスの活動がワサビで鈍ることが観察されています。塩水にワサビを溶かしたものの中にアニサキスを入れると、15分ほどで明らかに動きが弱まったのです。この実験でのワサビの量はヒトの胃袋に換算すると100㌘に相当するので、現実的に摂取するのは難しいものの、特筆に値する結果でしょう。
この他にもワサビの成分が大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑濃菌などに対して増殖を阻止する作用があることや、ワサビにはカビの繁殖を抑える防カビ作用や防臭効果があることも分かっています。これらのことから、生の魚を食べるときにワサビをつけることは食味にはもちろん、衛生面からも良いことの裏付けとなるでしょう。生魚にワサビ、抗菌力が知られていたかは定かではありませんが、古人の知恵には驚かされますね。
ワサビ(山葵)は、日本原産のアブラナ科ワサビ属の植物。食する歴史は古く、現存する最古の薬物辞典とされる『本草和名』(923年)では、菜の部に「和佐比」の記述があります。また、江戸時代後期の類書(百科事典)といわれる『守貞漫稿』(1837年)には、マグロの刺身とコハダの間にワサビを挟んで食べることが普及していったとの記載があり、魚の刺身と共に口にすることで胃がスッキリするところが好まれたようで、生臭さを消し食欲を増進させる効果や抗菌作用についても、この頃から知られていたのではと考えられています。
ただ、抗菌作用があるといっても、あくまで味を引き立てる薬味であって、薬剤ではありません。防カビ作用や、雑菌の繁殖を抑える抗菌作用があっても、殺菌作用はありません。寄せ付けないようにする忌避剤としての役割はあっても殺虫剤ではありません。より美味しくいただくためのものであり、食生活に悪影響を起こさないよう予防してくれるものなのです。何事も過信は禁物。食材自体が新鮮なものを食べることが大切なのは言うまでもありません。カビや雑菌などは消してしまうのではなく、テーブルに寄ってこないように避け、私たちの身体に悪影響のないようにさえすれば良いはず。ワサビの抗菌作用をこれからの季節に食中毒の予防に上手に役立てながら、ウィズコロナ時代の“共存”の意味を考えていきたいものですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。