連載『柔道整復と超音波画像観察装置』165 超音波画像とAIについて
2018.12.25
1087号(2018年12月25日号)、柔道整復と超音波画像観察装置、紙面記事、
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
今、人工知能(Artificial Intelligence : AI)は医療においても徐々に実用化の範囲を広げつつある。膨大なデータからディープラーニングにより機械学習されたアルゴリズムを使用、その診断精度は非常に高いものとなっており、特にゲノム医療と画像診断の分野で目覚ましい。2016年には、2000万件のがん関連論文を学習させたIBMのAI「ワトソン」によって特殊な白血病をスクリーニングした、東京大学の事例が大きな話題となった(東條,臨床血液, 2017)。画像診断においては、Enlitic社がディープラーニングの技術を用いて、X線やCT、MRIなどの画像診断結果から悪性腫瘍を検出するサービスを4年前から提供している。日本では、CTやMRIによるがん解析や脳動脈瘤の検知を行う東大発のベンチャーが2014年に立ち上がっている。2015年のILS-VRC201(画像認識コンテスト)では、ディープラーニングと強化学習による画像認識精度が人間のそれを超えたとの報告がインパクトを与えた。また2016年9月に米医用画像情報学会(SIIM)が開催したカンファレンスでは、「乳腺マンモグラフィーと胸部X線単純撮影では5年以内、CT、MRI、超音波診断のある部分は10年以内、ほとんどの画像診断は15~20年以内にAIによる診断に置き換わる」との主張もなされた。今後、医用画像を考える上でAIがなくてはならないものとなることは確かだろう。日本超音波医学会では2018年6月に開催された第91回学術集会の特別プログラムにおいて、超音波検査のAI応用の実用化についてのシンポジウムが行われた。既に、超音波画像とAI応用に関する論文も報告されており(Correa M, PloS One. 2018)、今後は超音波画像へのAIの応用の研究も進められるだろう。
超音波画像は近年、飛躍的に解像度が高まり、筋骨格系への応用を容易にしてきた。しかし、軟部組織の硬度、緊張度といった機能的な変化については、エラストグラフィーの開発により研究がなされているものの、判断が難しいのが現状である。実はこうした視覚的な変化では判断できない機能的な変化にこそ、AIの応用が有効ではないかと思われる(GATOS I, Ultrasound Med Biol. 2017)。近年、筋骨格系に関する検討も行われつつある(Christopher T. Musculoskeletal Science and Practice. 2018)。しかしながら、より高精度なディープラーニングを行うために必要な、いわゆる「教師あり学習」のためのデータの準備が難しいという問題がある。例えば、肩こりや腰痛の教師あり学習用の超音波画像と解答を数万点集めることができれば、こうした取り組みが可能となり、さらには、将来の腰痛や器質的疾患の発症予測もできるようになるかもしれない。また、不定愁訴の分野においてもAIの応用が課題となってくるだろう。これら機能的な症状や愁訴に注目できるのは、柔整師や鍼灸師である。これからは、柔整や鍼灸においてもAI研究を進めていくことが望まれる。