連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』20 日本生殖医学会
2019.12.10
1110号(2019年12月10日号)、不妊鍼灸は一日にして成らず、紙面記事、
11月7日と8日に神戸国際会議場で第64回日本生殖医学会学術講演会が開かれました。生殖関連の演題数600弱、参加者2,500人以上という国内最大級の学会です。私が座長を務めた統合医療のシンポジウムには一体どれほどの人が集まるのか心配でしたが、二つ目に大きな会場の8割程度が埋まって一安心。有名な医師もたくさん来られました。このシンポジウムの大きな目的に、代替療法の評価や適応をどうするか、という課題がありました。福島県立医大の太田邦明先生がヨガについて、ストレス軽減、体調管理などの全身的に良い効果は期待できても、生殖に対して現段階では直接的に評価し得る効果は乏しいと結論されました。ハーバード大学のチャヴァロ先生は、生殖において女性のみならず男性にも食事が重要であることを強調され、福岡の古賀文敏先生は、コレステロールやBMIと妊孕性の関連を述べられました。我がJISRAMの徐大兼先生は、ボストンIVFセンターなど海外での鍼の導入状況や、私が胚の進捗について有意差を証明した「育卵鍼灸」を解説されました。また「鍼の効果を検証するのに、いわゆる二重盲検のような検証は困難。なぜなら偽鍼を使っても皮膚に刺激が与えられるのは避けられず、DBTのような検証は困難である」と言われました。するとフロアから「では指圧のような刺激でも効果があると言えるのか」との質問が。私は「偽鍼は本物の鍼と判別できないレベルの刺激を与えなくては偽鍼にはならないから検証が困難なのであって、指圧のように明らかに鍼と異なる感覚のものを俎上に載せているわけではない」と伝えました。もし「指圧でも効果があるかもしれない」などとこの格式ある学会で言ってしまうと大変なことになりかねません。
スタイナーがラットを使って卵巣血流量を測定した実験では鍼、指圧、熱、ピンチといった刺激を与えた場合、熱については火傷を起こすレベルの強い熱刺激ではじめて効果が確認されており、これは直接灸のレベルです。一方、弱い心地良い温熱では効果は確認されていません。鍼はと言えば、正しい場所に鍼をして、強く一定の頻度で電気刺激を与えることが必須とされ、それ以外の、刺さない鍼、置鍼のみ、弱い電気刺激は無効であり、電気刺激の頻度すらも正しくなければその効果は無い、または乏しいことが分かっています。つまり鍼灸は、手技が違えば効果は全く異なるわけです。確かに様々な鍼法が健康に役立つかもしれません。また「しょせん動物実験じゃないか」という批判的意見もあるでしょう。しかし鍼による様々な刺激方法で卵巣への直接的な効果を計測したわけですから、逆にあえて効果が乏しかった方法を取る理由もないでしょう。育卵鍼灸は、この実験同様の方法で採卵成績向上の有意差を確認できているのです。まずはセオリーに沿って行うべきではないでしょうか。
妊娠は医療介入が無くても一定割合成立しやすいので、手技手法は特に慎重に採用されなくてはなりません。鍼灸が妊娠の何に対して効果を及ぼし得るのか、またどういった検証が可能なのか、それを模索するには色んな知識を備えておくことが必要です。また日々変化する生殖医療を知っておくのは、患者さんに間違った情報を伝えないようにするためにも、とても大切なことです。
さて、今回は二十人近くのJISRAMの仲間が来場していました。更に長年お会いしたかった医師が「中村先生」と声をかけて下さりしばし歓談、再会を約して別れました。年末年始は当院にお二人の医師が見学に来られる予定で、また医師の学会から三つ講演依頼が来ていて楽しみです。そういえば、もうすぐ締め切りの講演抄録を書かないと。皆様、今年はどんな年でしたか? 来年が一層良い一年になりますように。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。