連載『柔道整復と超音波画像観察装置』158 小胸筋に対するエコーガイド下による鍼の試み
2018.05.25
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
小胸筋は呼吸補助筋として機能することから、呼吸困難に対する鍼治療の対象としてしばしば用いられる。しかし、小胸筋周囲には神経、血管、肺胸膜など、刺鍼に注意を要する組織が多くリスクを伴う。そこで、超音波画像観察装置(エコー)ガイド下による小胸筋刺鍼を試みた。
同意の得られた健康な男性3名に対して、中府(LU1)内下方でプローブ外方より、平行法でのエコーガイド下による鍼刺入を行った【図】。エコー画像上で解剖構造を確認した後、安全な刺鍼を行うための刺入位置、方向、角度及び深度を考慮。刺鍼時のプローブは滅菌カバーで覆った。カバーとプローブの間には空気が入らないよう、エコー用ゼリーを入れた。観察部位は十分なアルコール消毒をし、刺鍼部位にかからないよう滅菌ゼリーを使用。刺鍼手技やプローブ操作は滅菌グローブを着用して行った。鍼は直径0.24mm、長さ50mmのディスポーザブル鍼「ユニコ」(日進医療器社製)を用い、エコーは「HI VISION Avius」(日立アロカメディカル社製)及び18-5MHzリニア型プローブEUP-L75を使った。
エコー画像上で鍼体を捉えながら血管を回避し、小胸筋に達することができた【画像①】。また、小胸筋に達した際に鍼尖が小胸筋の筋膜を捉え、筋膜の牽引及び変形を起こす状態をエコー画像下で確認しながら手技を加えることが可能であった【画像②】。響きや得気と言われる、鍼治療時に独特の感覚が得られたのは3例中1例のみで、それらが生じたのは小胸筋筋膜到達時だった。
エコーにより、鍼が小胸筋筋膜に到達した時の鍼尖の位置を推定することができた。しかし、響きや得気が必ずしも筋膜や組織への到達の指標にはならないということが分かり、これらの刺入感覚のみを指標とした手技では深刺や組織穿刺の恐れがあることが示唆された。エコーガイド下による刺鍼は、血管や神経のある部位や深層組織に対する過誤を回避できる可能性があると考えられる。