連載『柔道整復と超音波画像観察装置』163 前脛骨筋の筋硬度の視覚化について
2018.10.25
松本 尚純(筋・骨格画像研究会)
42歳男性。左右の前脛骨筋(以後TA)部の緊張感、張りを訴え来院する。TA膨隆部に特に症状を訴えたため圧痛を確認するも、痛みより「心地良い」との反応があった。足関節を底屈させてもストレッチがかかり、こちらも心地良いとの反応。一方、足関節を背屈させた際はTA部の詰まり感、軽度の疼痛を訴えた。
超音波画像観察装置(エコー)のエラストグラフィー機能を用いて筋の硬さを視覚化し、施術前後の筋の緊張の度合いを患者と共有することにした。【画像①】、【画像②】は、TA膨隆部の特に症状を訴えている部位をエラストグラフィーで描出したものである。赤で表示されている部分が組織の柔らかさを、青で表示されている部分が硬さを表している。TA中心部の約1.5cmの深さに高輝度で見える、筋内腱である停止腱を境に筋の硬度が大きく変わっているのを確認。停止腱より深い位置へのアプローチが必要であることが分かった。
そこで、振動系治療器の「ZERO PRO MASSAR」で右TA患部に10分間施術した。左TAに対しては寸6-3番鍼を1.5cm以上の深さに刺鍼。鍼通電器で10分間、1Hzで施術した。施術終了後、5分間のインターバルを置いて描出したのが【画像③】、【画像④】である。【画像③】からは深部までの施術効果があまり波及しなかったことが見て取れる。一方、【画像④】を見ると、刺鍼した筋内腱下部への施術の効果により筋の硬度が変化したことがうかがえる。
TA部を触診した際に感じる硬さのようなものは表層の筋ではそれほど硬度が無いことから、筋内腱である停止腱の可能性が高いことが分かった。また、刺鍼時の深度の確認のため左TA【画像④】に対してはエコーガイド下で刺入していったが、鍼先が停止腱に接触した時に得気が得られた。停止腱がTAの緊張感や張りなどを感じやすくしていることを示唆しているのではないだろうか。