『医療は国民のために』272 療養費抑制に続き、広告規制も厳しくなり、「せめて自費だけでも食べれる環境を!」
2019.06.10
1098号(2019年6月10日号)、医療は国民のために、
2019年は近年まれに見る療養費の暗黒の年となってしまっている。柔整では、保険取扱いを抑制するため、昨春より「施術管理者」になる際に実務経験と研修受講が義務付けられており、実務経験を積みたい柔整師を受け入れる施術所に対して補助金の支援など一切ないまま実施されている。おまけに、研修(柔道整復研修試験財団主催)では、申込みの殺到で受講希望者が研修を受けられない事態が起こっている。また、あはきでは、▽口頭同意廃止と医師の同意書の全件添付、▽施術報告書、往療内訳表、一部負担金明細書、1年以上・月16回以上施術継続理由・状態記入書など、多くの添付書面の作成、▽保険者の自由裁量による受領委任払いの導入に係る事務処理の煩雑さ、などの影響で療養費申請が落ち込んでいる。
これら一度実施された取り組みは、いくら愚策であっても、その後撤廃させるのは至難の業だ。例えば、口頭同意はあはき業界が長年努力を重ねて認めさせたものだが、いとも簡単に廃止となってしまった。今後、同意書撤廃など到底できるはずもない。柔整もあはきも療養費では食べていけないほどの大打撃を受けていると言っていい。
ただ、それでも生活のため業として行っていかねばならない。そこで「自費」の導入となるのが自明の理だ。とはいっても、鍼灸では従来から自費が施術メニューの大半を占めており、斯界の大御所らも自費である。そんな中で、今度は広告規制という悪魔が忍び寄っている。昨年5月から、厚労省医政局医事課所管の「あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会」が既に7回も開かれ、療養費という保険取扱いの部分だけではなく、自費メニューにまでも息苦しくなるような議論が展開されている。私が特に危機感を覚えるのは、ウェブサイトに対しても規制を加えようしている点だ。今の時代、ウェブサイトでの広告は、写真や動画等を用いて、他の治療院との差別化を図れる最強の手段といえる。つまり、インターネット広告に対する抑制は最も有効な広告を打ち出せなくなることを意味する。「丁寧で優れた治療院は必ず口コミで広がります」などは既に時代遅れで、寝ぼけたことを言っている間に淘汰されてしまうではないか。
ここは、「広告に関する検討会」に出席している施術者代表に、適正な広告を大いに表示できるよう尽力していただきたい。保険者代表や公益代表が患者保護の見地から「基本的には広告許さず。あれもダメこれもダメ」と主張してくるのは立場上当たり前のことだが、必要以上に広告活動を抑制することは決して患者保護につながらない。せめて自費の部分だけでも「食べられる環境」を構築できる広告を表示できる環境にしてもらいたいものだ。これ以上の「ジリ貧策」にはもう耐えられないと、現場から悲鳴が聞こえてきそうだ。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。