連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』13 リプロ学会報告2
2019.05.25
前回お話しした「日本レーザーリプロダクション学会」では3回にわたって、鍼灸・レーザー(近赤外線直線偏光)の生殖領域におけるデータを発表してきました。そのうちの一つが、昨今認定施設が増えてきた着床前診断をクリアした胚移植時の、同療法下での妊娠率です。
着床前診断は、受精卵が胚盤胞に育った時に外側(栄養外胚葉)の一部を切除し、その細胞のDNAを増幅して量を調べ、染色体の数的異常を見つけ出す検査です。流産は長らく母体に原因があると言われてきましたが、昨今では、受精卵に何らかの異常があった場合、受精卵または胎児が成長を止めてしまうか、子宮が受精卵を放擲することが多いと言われています。着床前診断をクリアした胚盤胞の着床率は未検査胚盤胞より高くなりますが、子宮には受精卵の異常を感知して良いものを引き受け、悪いものを拒絶する能力が一定程度備わっているからです。現段階で、着床前診断をクリアした胚盤胞は最も妊娠しやすい受精卵だと言えるでしょう。それでも、必ず妊娠するわけではありません。ならば妊娠しない理由とは何でしょう。それを解明するための様々な研究があります。例えば、ERA(子宮内膜着床能)検査は子宮内膜の脱落膜化がいつ起こっているのかを調べる検査。昔から言われている「着床の窓」は、通常月経開始から14日目(d14)に排卵が起こったとして、受精卵が卵管膨大部から卵割を経て子宮に降りてくるのが5、6日目ですから、d19~20頃が「着床の窓」が開いている時期だと言えますが、これが時としてずれる場合があります。それを実際に検査で調べるのです。そしてそのずれを確かめてから移植日を決定すると、着床率が上がるというわけです。この他にEMMA(子宮内膜マイクロバイオーム)検査というものがあり、これは子宮内の細菌叢の組成を調べる検査です。簡単に言えば、悪玉菌がたくさんあると内膜が炎症状態となり、免疫が不用意に活性化され、受精卵が攻撃されて妊娠の阻害要因になるので、細菌叢を調べるわけです。こういった研究は他にもあるのですが主に着床率を上げるために行われており、なぜ妊娠しないのかを解明するのに「これが絶対的」というものはありません。妊娠が、多種多様な要素が複雑に入り組んだ事象であることを物語っていますね。
さて、私達が使用する「近赤外線直線偏光治療機」についてお話しします。これには、星状神経節ブロック(SGB)を薬剤ではなく安全な手技で行うために開発された経緯があります。薬剤によるSGBは手技が難しくかつ副作用があるため、それを無くすために様々な光線機器が医療機関でも使用されています。ある日、某大学病院で膠原病の治療を受けていた初老の御婦人が来院されました。外来担当の医師から「スーパーライザーという機械がある所を探して、星状神経節に照射してもらいなさい」と言われたとのことでした。円形脱毛症治療で同機を使っている病院もあり、また継続的に使用すると花粉症を抑制する効果も一定程度確認できます。これらは全て免疫疾患ですね。つまり星状神経節という交感神経節に特殊な光を照射すると、免疫系統に影響が及ぶのです。着床障害の原因に免疫の過剰反応があると説明しましたが、現在、レーザー光を星状神経節に照射して胚移植を行うのが有効だと言われています。では、いつ、どれくらいの頻度で行えば良いのか。先日の学会では理化学研究所研究員から、週に一度、できれば数日ごとが適正間隔であるといったお話がありました。当院では、過去の免疫系疾患の治療実績から胚移植に対する照射間隔を決めていますが、研究員の見解と一致していました。経験則と理論が合致したわけで、ここでも理論的根拠が得られたのです。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。